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愛知県豊根村

【行革甲子園2024】最終選考事例!採用試験に「ご当地検定」。応募者大幅増に成功!

全国の市区町村の創意工夫あふれる取り組みを表彰する、愛媛県主催の「行革甲子園2024」が令和6年11月8日、松山市で開かれた。全国から寄せられた97事例の中から、7件の最終選考事例の1つに選ばれたのが、愛知県豊根村の「村職員採用方法を奇抜に見直し~試験に『ご当地検定』導入」の取り組みだ。地方公務員のなり手不足が叫ばれる中、職員採用試験に村についての知識を問う検定を取り入れることで、応募者増と即戦力化の成果を生んだという。導入のきっかけと成功の秘訣を担当者に聞いた。

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。

愛知県豊根村 総務課 主幹 坂本 健太郎 (さかもと けんたろう) さん

 

 

 

Interviewee

愛知県豊根村 総務課 主幹
坂本 健太郎 (さかもと けんたろう) さん

Iターン職員が急増。エンゲージメントが課題に。

「豊根村の役場は全職員数が51人(令和6年5月時点)で、村の人口も愛知県で最少です。このような小さな自治体の取り組みが決勝に進んだことで、同じような境遇にある全国の小さな自治体でも行政改革ができる可能性を示せたのではないかと思います」。

坂本さんは最終選考事例に選ばれた喜びをこう話す。表彰式では個別賞として「おらが村の創意工夫あふれるで賞」も贈られた。

ご当地検定による職員選考を発想したのは、坂本さんが職員採用を兼務し始めた令和5年の4月のことだという。

「近年、Iターンで入る職員が大幅に増加しました。これに伴い、地域を知らないまま役場に入ってくるため、育成が負担になるという課題がありました」と坂本さんは話す。

現状、村職員の過半数にあたる61%がIターン組で、特に20代では90%を超えているという。ただ、豊根村を受験した理由を尋ねると「公務員になりたくて。小さな豊根村役場なら受かるかな、と思った」。そんな言葉が返ってくることもあるそうだ。

職員のエンゲージメント向上のためには「採用ターゲットを明確にする必要がある」。それが取り組みの原点だった。

坂本さん自身は民間企業のエンジニアとして、プロフェッショナルな仕事を追求してきた経験がある。「行政職員にとってプロフェッショナルとは何なのか考えた時に、地域のことを知っているのが1つのプロフェッショナリティなのかなと思いました。それをどうやって鍛えてもらうか。採用試験というハードルに対して勉強してもらうのがもっとも身に付くんじゃないかと考えました」。風呂に入っていた時、ふと思い立ったという。

豊根村の職員試験の受験者に事前に配布した村勢要覧などの資料

受験者に事前に配布した村勢要覧などの資料。試験に向けて地域についての知識を鍛えてもらうねらいだ。

過去に前例のない試みだが、村役場には「しっかりと理屈が通っていて説明できるのであれば積極的にやってみる雰囲気」があり、すぐにゴーサインが出た。令和5年4月から導入への検討を始め、総務省や県、労働局などに適法性を確認。7月から試験の実施を周知した。

「村内全戸に配布しているチラシとともに新たに作成した募集パンフレットを配ったほか、採用実績の有無に関係なく愛知県内、静岡県西部、長野県南部の大学と専門学校に郵送。役場のホームページ上でもPRしました」。

令和5年9月にはご当地検定による初の採用試験が実現。発案から5カ月という民間並みのスピード感での導入となった。このスピード感も豊根村役場が持つ、なんでもやってみるという雰囲気によるところが大きいという。

“村の基礎知識”で選考。募集案内も新たに作成。

受験者へ事前送付した例題の一部。本番は選択式6問、記述式2問を出題した「ご当地検定」の正式名称は「豊根村基礎知識検定」。従来の職員採用試験のうち、従来の論文・作文試験と入れ替える形で取り入れた。

設問は計8問。「次の中から村内に2つある日帰り温泉を選択してください」「次の中から村内に1本だけ通る国道の路線番号を選択してください」といった選択問題6問と、「豊根村の宿泊施設を思いつく限り挙げてください」「豊根村の魅力をSNSでPRすると想定して、140文字以内で示してください」などの記述問題2問で構成した。

公平を期すため、出題範囲は村勢要覧と村の観光パンフレット、村のホームページに限定。受験者には試験勉強のため、これらの資料と例題を事前に送付した。

併せて、受験者募集のパンフレット「豊根村職員募集案内」を新たに作成した。

若手職員をライターの中心に据え、一般的な職員募集の内容にとどまらず、仕事のやりがいや山村暮らしの楽しみ方を盛り込んだ冊子を作成した。「村の子育て支援施策などの情報も記載しました。村職員が村を紹介する冊子とも言えます」と坂本さん。

例えば「同じ苗字の方が多いので、親近感を込めてファーストネームで呼ぶ習慣がある」「静岡方面も長野方面も名古屋も気軽にドライブに行ける」など、職員の独自視点による情報も取り入れ、“職員の声が聞こえる職員募集案内”を目指したという。

この結果、受験者の7割が、豊根村を受けた動機として「ご当地検定」や「職員募集案内」への関心を挙げたそうだ。

即戦力の職員採用を実現。「ぜひ全国で導入を」。

初の「ご当地検定」を経て合格した職員は、令和6年春に着任した。

坂本さんは「静岡県から採用したある職員は『大学の学務課でパンフレットを目にとめ、ご当地検定が面白いと思って受けました』 と言ってくれました。取り組んでいなかったら、この子は採用されていなかったんだな、という感慨がありました」。新入職員の育成を担当した職員からも「けっこう道路のことを知っているね」などの指摘が聞かれるという。

「豊根村のことを時間をかけて勉強したので、ほかの自治体ではなく豊根村を受けたい、という意識を持ってくれたと感じます」と坂本さん。村の地名など、従来ならばゼロから指導する必要があった知識を試験勉強ですでに習得しているので「採用した直後から、村の地理感覚や特徴を理解した上で業務遂行できる」と強調する。

新たに作成した「豊根村職員募集案内」。山村暮らしの楽しみ方など職員の声も盛り込んだ

新たに作成した「豊根村職員募集案内」。山村暮らしの楽しみ方など職員の声も盛り込んだ。

ご当地検定の問題作成や、職員募集パンフレットの原稿作成・編集は職員が担当するため、かかる経費は事前提供する資料の送料やデザイン料程度。財政面の負担が軽いのも特徴だ。新年度の採用担当者からは、以前のように論文の問題を考えることや、主観的な採点になりがちな論文採点がなくなったことで「事務的な負荷が減った」と歓迎する声も出ているという。

ユニークな取り組みは、新聞、ラジオなどの報道機関にも取り上げられ、令和6年秋の新卒採用職員の募集では、前年度当初募集で3人だった受験者数が10人に増加した。

「これまでは応募が少ないことで悩んでいましたが、応募者が増えてくれたので、人選する悩みへと変わりました」と坂本さん。新年度の採用試験ではご当地検定を2次試験で実施し、豊根村に対する本気度を測る目安と位置付けているという。

ともすれば優秀な人材の取り合いにもなりかねない職員採用だが、坂本さんはご当地検定の導入を、ほかの自治体にも呼びかけている。

「この取り組みは、全国で導入されることでより効果を発揮すると考えています。受験者が自治体ごとに試験勉強しないといけないので、本気じゃないと受けられなくなってくる。どこも同じ公務員試験だから、日程の合うところを次々に受けていこうという考え方がなくなるのではないか」。ひいては内定辞退や早期離職の防止にもつながるのではないかと期待する。

「経費はさほどかからず、導入も難しくないので、ぜひやってみてほしい。もし全国でご当地検定を導入する動きが広がれば、試験対策本が出るのではと考えています。読み物としても面白いものが出来上がるのではないでしょうか」と夢を広げた。

愛知県最高峰・茶臼山の山頂付近に位置する「芝桜の丘」。ご当地検定では豊根村の観光資源についての知識も求めた

愛知県最高峰・茶臼山の山頂付近に位置する「芝桜の丘」。ご当地検定では豊根村の観光資源についての知識も求めた。

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