住民の「怒り」を「笑顔」に変えるクレーム対応術
「伝えたいことが住民に伝わらない」「仕事を前に進めたいのに上司を説得できない」...伝え方の技術を十分に知らないが故、「住民対応がうまくできない」「上司が話を理解してくれない」といった悩みを抱えている人もいるのではないだろうか。
しかし、住民への説明や上司の説得など、自治体職員が仕事を進める上では「伝える力」が必要不可欠と言える。
そこで本企画では、『コミュ障だった僕を激変させた公務員の「伝え方」の技術』の著者、岡山県倉敷市職員の牧野浩樹さんに、自治体職員に求められる「伝え方」の公式を伝授していただく。
最終回となる3回目は「クレーム対応術」について。「住民の笑顔に変えていくため、クレームを“苦情”として切り捨てるのではなく“貴重な意見”として受け止めることを心がけましょう」と牧野さん。「怒り」を「笑顔」に変えるノウハウとはいったい何か。詳しく見ていこう。
【連載|自治体職員の「伝え方」の公式】
(1)自治体職員がお笑い芸人から学んだ「分かりやすい伝え方」とは?
(2)自治体職員の世界で重要なのは 「何」を伝えるかより「誰」が伝えるか!
(3)住民の「怒り」を「笑顔」に変えるクレーム対応術 ←今回はココ
倉敷市観光課の牧野と申します。『自治体職員の「伝え方」の公式』をテーマにスタートした連載も最後になります。
本日のテーマは「クレーム対応」です。
皆さんに質問です。住民からのクレーム対応は好きですか?好きな人はいないのではないでしょうか。クレームを言われるのは精神的につらい。そして、暴言が怖い。もうコリゴリだと思われていることでしょう。入庁したての僕もクレーム対応が嫌で嫌で、電話や窓口に出ることがおっくうでした。
しかしながら、自治体職員として働いていく以上、住民からのクレームは避けられません。
「クレーム対応が苦手であれば、定年までつらい」
逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。
それからクレーム対応に関する本を読んでノウハウを学び、実践を続けてきました。今ではどんな住民のクレームも「笑顔」に変えられるようになりました。クレーム対応が好きになりました。住民の「怒り」を「笑顔」に変えるノウハウを今回は特別に公開します。
クレームは「苦情」ではなく「意見」にすぎない
クレーム対応が苦手な人に共通していることがあります。それは、クレームを「苦情」と捉えていることです。
「いやいやいや、『苦情』じゃないんですか!?」と思われている方。落ち着いてください。英和辞典で調べてみてください。クレーム(claim)の意味は「主張」するです。つまり、「意見」を言うことであり「苦情」という意味ではありません。クレームは「苦情」ではなく「意見」にすぎないのです。
でも、声を荒げてくる人も多いですよね。それは声量が大きい人の「意見」です。(笑)
住民が意見を言うのは当たり前ですし、その意見によって業務改善のヒントになるかもしれません。クレームとはむしろ、業務改善につながるありがたい話なのです。どうですか!?少し苦手意識がなくなりませんか!?
限定謝罪で相手の怒りを10秒で静める
クレームは「苦情」ではなく「意見」と言いつつ、怒鳴られることってつらいですよね。では、どうやって「怒り」を静めるのか。結論から言います。謝罪してください。こちらは悪くない場合も謝罪していいの!?住民に勘違いさせるのでは!?と読者の皆さんの心の中の声が聞こえます。漏れてますよ。(笑)
もう一度言います。謝罪してください。では、こちらは悪くない場合は何に対して謝罪するのか?住民の方に不快にさせたことのみに「限定」して謝罪するのです。不快にさせたことは事実。謝罪してもいいのです。この伝え方を「限定謝罪」と言います。つまりこんな感じです。
「〇〇さん、不快な思いをさせてしまって申し訳ございませんでした」
この対応で住民の怒りは10秒で静まります。逆に、こちらが悪くない場合は不快にさせたこと以外に謝罪する必要はありません。むしろ絶対に謝罪してはいけません。「住民税の延滞金が高えわ!ぼったくりじゃねえか!?」などと言われても決して「延滞金が高くて申し訳ありません」なんて謝罪してはダメです。延滞金は法律で公平に課されることが決められています。延滞金が高いことを認めることは法律を否定することになりますし、延滞金を安くするという話に発展してしまいます。
では、「限定謝罪」をした後にどのように対応すればよいのでしょうか?
「納得」させるのではなく「満足」させる
公務員である自治体職員が民間企業と比較してクレーム対応で苦労する点があります。それは、特別扱いができないという点です。家電量販店で「お客さんだけ特別に」と言われ安くしてもらった経験がありませんか。逆に税金を安くしますなんて話はありえません。なので、自治体職員は、「住民税の延滞金が高えわ!ぼったくりじゃねえか!?」と言われても「延滞金は法律で決められていて、皆さん公平に負担していただいてます」と正論でしかお伝えできないのです。
その結果、納得させることはできず「そんな当たり前のこと分かっとるわ!」とさらに炎上してしまうのです。では、どのように対応すればいいのでしょうか?住民を「納得」させるのではなく「満足」させることです。自治体職員は特別対応ができないので「納得」させることは至難のワザです。逆に「満足」させることはできます。
具体的には相手の話をひたすら聴き、共感することです。否定することは厳禁です。この職員は自分の話を受け止めてくれる、共感してくれると思ってもらうことで相手は満足し。怒りは自然に静まります。
また、相手の話すスピードや声量を真似することも有効です。怒りが静まったところで「〇〇さんのお気持ちも分かりますが」と前置きした上で説明をすることが重要です。
自治体職員の仕事は、目の前の住民を笑顔にすること
現在、観光課で働いている中で住民や事業者の皆さんからクレームをいただくこともあります。そのときに心がけていることは、「苦情」として切り捨てるのではなく、貴重な「意見」として受け止め、勇気を出して意見を言ってくださった方を「笑顔」に変えていくことです。自治体職員の仕事は、目の前の住民を笑顔にすることです。
もし、「伝える力」を鍛えたいと本気で思っているのであれば、この連載を読んだ後からが本当の勝負です。住民対応がおっくうな方は、窓口や電話に積極的に出てみてください。業務改善したいことがある方は、上司に提案してみてください。部下をやる気にさせたいと思う方は、部下に話しかけてみてください。思った通りに伝わらなくて、大変だと思うこともあるかとも思います。
しかし、「大変」なときにこそ、人は「大」きく「変」われるのです。この連載が皆さんの一歩踏み出すきっかけになれば、幸いです。
昨今の新型コロナウイルスや災害対応で、休みなく働かれている方もいらっしゃるかと思います。自治体職員の皆さま、毎日、本当にお疲れさまです。先日、ネットニュースのコメント欄で見つけた自治体職員への言葉を紹介します。
「こんなときこそ、みんなが頼る場所」
「役所の機能が止まったら、住民全体に影響があるから頑張ってほしい」
「市民のために働いてくださり、ありがとうございます」
皆さまの仕事ぶりに心の中で感謝している住民の方はたくさんいると思います。体に無理はしすぎずにお互いに頑張りましょう。
この3回の連載がタメになったという方は、僕の出版した書籍『コミュ障だった僕を激変させた 公務員の「伝え方」の技術』もぜひ読んでみてください。(笑)
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「伝えたいことが住民に伝わらない」「仕事を前に進めたいのに上司を説得できない」...伝え方の技術を十分に知らないが故、「住民対応がうまくできない」「上司が話を理解してくれない」といった悩みを抱えている人もいるのではないだろうか。
しかし、住民への説明や上司の説得など、自治体職員が仕事を進める上では「伝える力」が必要不可欠と言える。
そこで本企画では、『コミュ障だった僕を激変させた公務員の「伝え方」の技術』の著者、岡山県倉敷市職員の牧野浩樹さんに、自治体職員に求められる「伝え方」の公式を伝授していただく。
プロフィール
牧野 浩樹(まきの こうじ)さん
リクルートグループの事業会社に契約社員として入社後、契約が1件も取れずわずか3カ月で退社。2011年に倉敷市に入庁し、納税課に配属され税金徴収を担当するも、成果は上げられず。2013年には岡山県滞納整理推進機構に出向。倉敷市の処理困難案件の滞納整理に従事し、伝え方について研究と実践を続けた結果、1億7000万円の徴収に貢献する。出向から戻った後は、総務部人事課を経て2020年4月より観光課。2016年に、広島県で活動する落語家のジャンボ衣笠に弟子入りし、「ジャンボ亭小なん」として活動を始めた。2018年西日本豪雨の時は避難所で落語を披露し住民を喜ばせた。2020年地方公務員アワード受賞。同年『コミュ障だった僕を激変させた公務員の「伝え方」の技術』(学陽書房)を出版。
著書
『コミュ障だった僕を激変させた公務員の「伝え方」の技術』(学陽書房)