「伝えたいことが住民に伝わらない」「仕事を前に進めたいのに上司を説得できない」...伝え方の技術を十分に知らないが故、「住民対応がうまくできない」「上司が話を理解してくれない」といった悩みを抱えている人もいるのではないだろうか。
しかし、住民への説明や上司の説得など、自治体職員が仕事を進める上では「伝える力」が必要不可欠と言える。
そこで本企画では、『コミュ障だった僕を激変させた公務員の「伝え方」の技術』の著者、岡山県倉敷市職員の牧野浩樹さんに、自治体職員に求められる「伝え方」の公式を伝授していただく。
第1回のテーマは「分かりやすい伝え方」。牧野さんがお笑い芸人から学んだ「分かりやすい伝え方」とは、一体どんな内容なのだろうか?早速見ていこう。
【連載|自治体職員の「伝え方」の公式】
(1)自治体職員がお笑い芸人から学んだ「分かりやすい伝え方」とは? ←今回はココ
(2)自治体職員の世界で重要なのは 「何」を伝えるかより「誰」が伝えるか!
(3)住民の「怒り」を「笑顔」に変えるクレーム対応術
はじめに
はじめまして。倉敷市観光課の牧野と申します。
「自治体職員の『伝え方』の公式」をテーマに、3回の連載をスタートします。
まず、自己紹介をさせてください。
現在、入庁12年目で、納税課5年、人事課4年、観光課3年目になります。
伝え方の連載をするくらいだから、コミュニケーションが上手と思われるかもしれませんが、むしろ苦手です。
性格は、人見知りで口下手。ひと言で言うと「コミュ障」です。
学生時代はクラスメイトにまともに話しかけられませんでした。
就職活動は30社以上の面接が全滅。就職浪人して拾われた会社では、契約が1件も取れず3カ月でリタイア。
「あんたは公務員が向いとんじゃね?」という両親からの勧めもあり、倉敷市役所を受験し無事に合格。
自治体職員は安定しているし、ノルマもないしラク。
コミュ障な僕でもストレスなくやっていけると思っていました。
しかし、入庁してわずか1週間で、その考えは幻想だったことに気づかされます。
住民からの「何が言いたいの?」
上司からの「分かりにくい」
自治体職員の世界はまさに、コミュニケーションの戦場でした。
話し下手では自治体職員としてやっていけない。
そう思った僕は、「伝え方」について試行錯誤を続けます。
その結果、住民や上司からYESを引き出す「伝え方の公式」を発見し、年間1億7000万円以上の税金徴収に成功しました。
また、職場改善の提案を職場の上司を説得して実現し、市長表彰も受けることができました。
そして、採用説明会のプレゼンターを務めるまでになりました。
お笑い好きが興じて、現在は岡山弁落語家「ジャンボ亭小なん」としても活動しています。
詳しくは「ジャンボ亭小なん」で検索してください。
そして、2020年9月に「伝え方」の公式をまとめた『コミュ障だった僕を激変させた公務員の「伝え方」の技術』を出版。
伝えることが得意だから本を書いたわけではありません。
伝えることが苦手だった僕だからこそ、伝えられることがあると思って本を書きました。
今回の連載では、自治体職員の方に特に効果的な「伝え方」の公式を紹介していきます。
【関連記事】【牧野 浩樹さん】公務員、特技を活かす。
自治体職員には日本一分かりやすい伝え方が求められる
「は?どういうこと?」
この言葉は僕が新人時代、住民に説明をした際に何度も言われた台詞です。
納税課で接する住民の方は老若男女、様々なタイプの方でした。
お客さんが特定の層に絞られることが多い民間企業とは違い、地方自治体のお客さんは住民。つまり、性別も年齢もバラバラ。
また、人事異動があるため、上司が変わることもしばしばあります。
日本一分かりやすい伝え方が求められる職業が自治体職員なのです。
伝わらない理由が分からず、ストレスが溜まる一方だった新人時代、僕のささやかなストレス解消方法は、あるお笑い番組を見ることでした。
その番組とは『人志松本のすべらない話』です。
ダウンタウン松本人志の分かりやすく伝える技術とは
この番組は「人は誰でも1つはすべらない話を持っており、そしてそれは誰が何度聞いても面白いものである」というコンセプトのもと、ダウンダウンの松本人志さんをはじめとするお笑い芸人が「すべらない話」を披露するトーク番組です。
松本さんであれば、「先日見た夢の話なんですけど……」。
千原ジュニアさんであれば、「残念な兄についてなんですが……」。
といった具合に、わかりやすく面白いトークを展開します。
僕は気づくと彼らの話を聴いて爆笑させられました。そして、何より、彼らの話は分かりやすいことに気づかされました。
「は? どういうこと?」と言われた僕の話とは正反対だったのです。
僕は録画した『すべらない話』を見返しました。そして、あることに気づきます。
「彼らの話の冒頭には、タイトルがある」と。
冒頭で何について話すかを予告する
「先日見た夢の話なんですけど」とか、「残念な兄についてなんですが」といったタイトルがあることで、視聴者は何の話かを想定して聞くことができます。
この説明でまだピンと来ない方に、別の例をお伝えします。
Eメールも本文の前にタイトルがありますよね。
タイトルがあることで、何のメールかを想定して読むことができた経験があるのではないでしょうか。
つまり、冒頭に何について話すかを予告することで、聞く準備ができるのです。
この発見をしてから、僕は最初のひと言に命をかけることにしました。
上司に相談したいことがある時 は、「〜について相談があるんですが、」
住民からの質問に折り返し電話する場合は「質問いただいた〜の件ですが、」
冒頭で何について話すかを伝えることで相手も聞く準備ができ、話も理解してもらえるようになりました。
しかし、僕は新たな壁にぶつかります。
自治体職員のお役所言葉は住民には伝わらない
「特別徴収」とは、従業員の住民税を給与から天引きして納税する制度のことです。
僕は、正直、驚きました。特別徴収が専門用語だとは思っていなかったからです。
職場で当たり前のように通じる言葉なので、誰にでも通じると思っていました。
なぜ、「特別徴収」は住民に通じなかったのでしょうか?
住民に伝えた「特別徴収」という言葉は自治体職員であれば知っている人も多いでしょう。
しかし、住民には聞きなじみがなかったために理解できなかったのです。
支出命令、プロポーザル、交付要求、地公法……。
これらのお役所言葉は自治体職員にとっては簡単かもしれません。
しかし、それ以外の人にとっては、伝わらないことを肝に銘じなければなりません
それでは、どうすれば伝わるのか?それは、相手の頭の中にある言葉に翻訳することです。
一流の漫才師はそれを実践しています。
漫才師キングコング西野の言い換え術とは
キングコングの西野さんが、なんばグランド花月で漫才するときに、オンラインサロンについて話す機会があったそうです。
オンラインサロンとはインターネットやSNS上で展開される月額会員制のコミュニティのことです。
なんばグランド花月は大阪の一大観光地でもあり全国から老若男女、様々なタイプのお客さんがお越しになります。
まさに地方自治体のお客さんと同じ状況です。
そんな人たちに「オンラインサロン」と言っても伝わりません。
それでは彼は何と言い換えたか。「ファンクラブ」です。
ファンクラブであれば、高齢の方にも一発で分かりやすく伝わったことでしょう。
この考え方を自治体職員の仕事に応用すると、どうなるでしょうか?
ある日、住民から電話がありました。
僕は自信満々で答えました。
いかがでしょうか?言い換え術の具体的な使い方がイメージできたのではないでしょうか?
第1回はここまでです。
第2回・第3回でも、役立つ「伝え方」の公式をお話できればと思いますので、ぜひお楽しみに!
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「伝えたいことが住民に伝わらない」「仕事を前に進めたいのに上司を説得できない」...伝え方の技術を十分に知らないが故、「住民対応がうまくできない」「上司が話を理解してくれない」といった悩みを抱えている人もいるのではないだろうか。
しかし、住民への説明や上司の説得など、自治体職員が仕事を進める上では「伝える力」が必要不可欠と言える。
そこで本企画では、『コミュ障だった僕を激変させた公務員の「伝え方」の技術』の著者、岡山県倉敷市職員の牧野浩樹さんに、自治体職員に求められる「伝え方」の公式を伝授していただく。
プロフィール
牧野 浩樹(まきの こうじ)さん
リクルートグループの事業会社に契約社員として入社後、契約が1件も取れずわずか3カ月で退社。2011年に倉敷市に入庁し、納税課に配属され税金徴収を担当するも、成果は上げられず。2013年には岡山県滞納整理推進機構に出向。倉敷市の処理困難案件の滞納整理に従事し、伝え方について研究と実践を続けた結果、1億7000万円の徴収に貢献する。出向から戻った後は、総務部人事課を経て2020年4月より観光課。2016年に、広島県で活動する落語家のジャンボ衣笠に弟子入りし、「ジャンボ亭小なん」として活動を始めた。2018年西日本豪雨の時は避難所で落語を披露し住民を喜ばせた。2020年地方公務員アワード受賞。同年『コミュ障だった僕を激変させた公務員の「伝え方」の技術』(学陽書房)を出版。
著書
『コミュ障だった僕を激変させた公務員の「伝え方」の技術』(学陽書房)