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宮城県東松島市

東松島方式が目指す“物心両面”での復興支援。【防災特集】

東日本大震災のときに実施され、様々な方面から高い評価を得た「東松島方式」。応援職員に聞く【災害廃棄物処理】では東松島市の職員が能登半島地震でこの手法を活かし、被災地支援にあたった様子を紹介した。
そもそも、この東松島方式とは何を目指して誕生し、どのような成果を生んだのか。ここではそうした内容を掘り下げつつ、もし自分のまちで取り組むことになった場合には何が必要とされるのか、同市の知見を共有する。

※掲載情報は公開日時点のものです

鈴木 雄一(すずきゆういち)さん
Interviewee

 

宮城県東松島市
SDGs・脱炭酸社会推進課 課長補佐
鈴木 雄一(すずきゆういち)さん

 

“150年分の廃棄物”という問題を解決するために誕生した手法。

応援職員に聞く【災害廃棄物処理】では、東松島方式がもたらす効果について「経費節減が真の目的ではない」と鈴木さんは語ってくれた。実際、同方式は災害廃棄物処理の迅速化を目指して誕生し、分別によってリサイクル率が大幅に向上して、その副次的効果で経費が節減されたというのが主な経緯だ。しかし、自治体としては、期待できる効果の全てが気になるところだろう。ここではそうした部分にもフォーカスしつつ、災害廃棄物のより効率的な処理方法について考察する。

まず、東松島方式では災害廃棄物を“仮置き場”に持ってきた時点で分別されることが前提。ポイントとなるのは、この総量だ。鈴木さんは「東日本大震災において、当市では150年分以上の災害廃棄物が一度に出ました」と振り返る。これを少しでも早く処理することが課題だった。

「従来であれば、とにかくいったん集積をして、それから分別しようという流れになるのですが、混廃で入ってしまうとそこからの分別に膨大な手間がかかります。人がやるにしても、機械が行うにしても、時間・経費ともにロスが発生してしまうのです」。

そこで、持ち込み時点で分別して集積することをルール化する。この段階では、木材、プラスチック、タイヤなど14品目に分けられるが、こうして初期の分別が済んでいると、これは燃やすしかない、これはリサイクルできる、と素材ごとに分かれているので次の工程がスムーズに進むという。

東松島市方式の処理工程(画像提供:東松島市)

東松島市方式の処理工程(画像提供:東松島市)

持ち込まれた災害廃棄物のうち、混合廃棄物は人の手によってさらに19品目へ分別していく。つまり、扱う量が少なければ分別の作業スピードはおのずと上がる、という素因数分解のような仕組みだ。手法そのものは同市が考案し、事業者からのアドバイスを得た上で成立させたのだという。「できるだけきれいに分別する方法はもちろん、火災、病害虫や害獣被害が発生しづらい工夫なども事業者から案をもらいました」。

被災者が参加することで、取り組みに地域愛が宿る。

手法自体は非常にスマートで分かりやすいものだが、持ち込み時に分別するのは被災した住民、もしくは事業者だ。東日本大震災のとき、東松島市でクレームなどは発生しなかったのか。「一部、『なぜ分けなければならないのか』という意見はありました。しかし根気よく説明してこの取り組みを続けました。

そもそも、分別は普段の生活の中でやっていることです。できるはずだという確信はありました」と鈴木さん。同時に、できるだけ住民に負担をかけないための配慮も忘れない。「仮置き場を開ける前に区分ごとの山をつくって、視覚的に分かりやすくするなど、現場の混乱を避ける工夫もしました」

この東松島方式を取り入れる大前提として、「災害廃棄物は、ごみではありません」と鈴木さんは強調する。

「家屋も家財も、全て住民の生活の痕跡なのです。私たちも、燃やして埋めるのはつらい。だからこそ、リサイクルできるものは再生して、違う形で活かされるほうがいい」。

この考えを出発点に生まれたのが、被災者を雇用するという仕組みだ。

東松島方式では、仮置き場に集積された後の分別工程を、災害廃棄物処理事業を受託する事業者に雇用された被災者が行うことになっている。その理由はなぜか。

「当市では漁業や農業に従事する方が多く、そうした住民は被災後に仕事がなくなってしまいました。

そこに雇用の機会を設けることはモチベーションの向上につながりますし、分別作業も被災者である自身のこととして心をこめて行ってくれます。さらに、災害廃棄物を持ち込む方たちも、それを処理する方たちも同じ被災者なので、『分別は手間がかかる』といったクレームの低減にもつながるのです」。

手作業による分別(画像提供:東松島市)手作業による分別(画像提供:東松島市)
手作業による分別(画像提供:東松島市)
 
ちなみに、同市が被災したときには内陸2km地点まで津波が押し寄せ、農地や養殖漁場の復旧に3年ほどかかるという見込みが出ていた。これに対し、災害廃棄物処理事業は国の方針で3年以内。休業期間とちょうど一致していたのもメリットだったという。「ダメージを受けた農家や漁業者が、経済的な問題でまちから離れてしまうのをつなぎ留める役割も担ってくれます」。

さらに、この仕組みは経済面だけでなく被災者のメンタル面を支えるという役割も果たす。

「家も財産も失った状態で、一通り生活が安定すると、被災者はそこで現実と向き合い『これからどうするのか』と悲観的になってしまうケースが多い。そんなときに住民が一緒に働いて、休憩時間にも今後について話し合うことで、気持ちが前向きになって“復旧”から“復興”へ心が動くという効果が出るのです」。

地域の特性に合わせたカスタマイズで実効性がアップ。

こうした様々な特徴を兼ね備え、複合的な取り組みによって被災地の復興をより早めようとするものが東松島方式だ。この手法はメディアでも多く紹介され、市のコメントとしても「市民の皆さんが分別に協力してくれたからできた」とメッセージした。そんな一連の動きが各方面から称賛を受けたこともあり、地域の誇りにもなっているという。

しかし、多くのメリットを備えた手法だとはいえ、いわゆる万能薬ではない。実際に取り組む場合は、地域や被災状況に合わせた修正を加えることも考える必要があるという。

例えば、鈴木さんが能登町に支援に入った際には、「津波堆積物の処理についてアレンジを加えました」と話す。「津波堆積物にはヘドロなどが混在しているため通常はにおいが発生するのですが、能登町へ支援に入った時点では、そうしたにおいもなくなり、普通の砂になっていました。雨で海に流されていた分も多かった。それを踏まえ、不要な工程をなくして修正していきました」。

これはあくまで一例だが、被災地の現場状況を見ながら、応援側と受け入れ側とで相談しつつ、最適と思われる方法を選択して進める柔軟性も必要なのだという。「大規模災害では、被害状況はもちろん、地理的な特徴や、お金の問題、その土地のルール、所管の問題など自治体によってできること・できないことが異なってきます。私も東日本大震災のときと、つい比較してしまいそうになるのですが、正解は1つではありませんし、それを応援者が押しつけてもいけないのです」。

大切なのは、あくまでも現実的・実践的なシミュレーション。

最後に、この方式を有効に運用するポイントを聞くと、「平時に集積場所を決めておくこと、地元の建設業協会など、事業者と災害協定を結んでおくこと、そして日頃から現実的で実践的な計画をつくっておくことが大切です」という答えが返ってきた。特に“計画”の部分については、鈴木さん自身の体験を通して実感しているのだという。

大規模施設を作らない手作りの処理(画像提供:東松島市)

大規模施設を造らない手作りの処理(画像提供:東松島市)
大曲浜第1ヤード(可燃物、ガラス陶磁器、家電、タイヤ、危険物、手選別作業場)

「例えば私が研修を行う際には、受講者に分別の重要性を伝えた上で、実際に仮置き場の図面を描いてもらいます。すると、木材とか金属とか、きれいにゾーニングされた図面が仕上がります。そこまではいいのですが、図面を描いた後に、粗大ごみ置き場を災害廃棄物の仮置き場に見立てたロールプレーイングを行うと、皆さん動きが止まってしまうのです。なぜかというと、図面には金属、木材などと書かれているが、実際にはタンス1つとっても、全てが木材でできているのではなく、金属やプラスチック等の複合材で作られているので、どのように分別して良いか判断できなくなる。このような現実を目にして行き詰まるのです」。

こうしたことを踏まえて、鈴木さんは以下のようにメッセージする。

「今は災害廃棄物処理について周知も進んでいるし、各自治体とも意欲的になっている。とてもいいことだと感じるのですが、やはり災害廃棄物処理の現実を見ている人は多くありません。シミュレーションが机上のものとなってしまわないよう、あくまでも実践的に、リアルな状況を考えて準備・計画をしておきましょう」。
 

 

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