老朽化が進む基幹浄水場である小泉浄水場の機能を新たに移転更新するにあたり、DBM方式(PFI事業)による浄水場整備の実施。
※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2022」の応募事例から作成しており、本記事の内容は全て「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。
背景・目的
既存浄水場の老朽化
既存の小泉浄水場は昭和46年に供用開始しており、経年劣化などによる老朽化が進行するとともに大規模地震への耐震性能も不十分であったことや、近年の集中豪雨時における濁り対策ならびにアルミ成分の漏出など安定した水質の確保にも問題が生じていたこともあり、早急な更新に迫られていました。
そこで、小泉浄水場の施設改修を含め検討を行ったところ、現在地での更新は難しいとの結論に至り、移転更新で進める方針を打ち立て、平成16年3月に浄水場用地として約9haの土地を取得しました。
また、合併後の広域的な水道事業運営の方向性を示す「今治市水道ビジョン」を平成22年に策定し、更に翌平成23年度には「今治市水道事業経営変更認可(第5次拡張事業)」を取得しました。
なお、本浄水場整備事業は「今治市水道ビジョン」における最も大きな事業です。
水道ビジョンにおける送水イメージ
新浄水場の目的
「安全で安心な水道水」「災害に強い強靭な水道」「持続可能な水道」の三つの柱を基軸に、設計・建設・維持管理を一括発注するDBM方式を採用することで、民間事業者の技術・ノウハウを活用した浄水システムの構築とともに、長期にわたり安全・安心な水道が継続可能な施設を整備します。
取り組み事例
「浄水場整備事業におけるPFI手法の導入」
取り組み期間
検討・審議 平成25年度~平成28年度
入札・契約 平成28年度~29年度
設計・建設 平成29年度~令和3年度
取り組みの内容
平成25年度 民間活力の導入について検討実施
平成26年度 「今治市水道施設整備検討審議会」を設置。
検討審議を経て事業手法をDBM方式により進める方針を固める。
平成27年度 検討審議を経て、発注方式を総合評価一般競争入札に決定
平成28年6月 特定事業の選定(PFI事業) 入札公告(入札説明書、要求水準書など)
平成29年2月 事業者選定の答申
平成29年9月~ 選定業者と契約締結。基本設計、詳細設計実施
令和元年11月 現地着工
令和4年3月 供用開始、維持管理(メンテナンス)業務開始
浄水場施設全景
また、本事業に合わせ、以下の関連工事を並行して行いました。
導水管整備
当該浄水場の原水を導水するため、既設導水管(φ1200)より分岐し新設導水管(φ1000)を高橋浄水場まで敷設しました。(1.2km)
高橋配水池築造
当該浄水場にて浄水処理を行った水道水を貯留するため、隣接地に新設配水池(6,250㎥/池×2池(PC造り))の整備を行いました。
遠方監視制御設備整備
当該浄水場にて点在する高橋浄水場ほかの水道施設の集中監視を行うことにより運転管理の効率向上を目的とするもので、当該浄水場の監視室に場外系の監視装置設備を設置しました。
取り組みを進めていく中での課題・問題点(苦労した点)
契約直前の平成29年8月に豪雨災害があり、要求水準書に示す原水水質を大幅に上まわる濁度の原水が見受けられ、原水条件の見直しを余儀なくされました。
提案された浄水フローで対応可能か、確認実験を行い浄水処理の確実性を確認したうえで、基本設計に反映しました。なお、この確認実験にて当時の高濁度原水を再現するため、今治市の土を懸濁物質として実験に用いるなど、再現性を高める工夫を行いました。
その他、当該浄水場のオペレーション(運転管理)を別契約としたため、メンテナンス(維持管理)業務との差別化が困難であったが、JV(共同企業体)と月1技術分科会を開催し問題点を洗い出すことで、より良いメンテナンス(維持管理)の計画が作成できました。
また、事業外ではありますが、当該浄水場の供用開始に伴い、市中の水道水の水圧、流速、流向の変化により濁りの発生が予測されるため、事前準備に労力を要しました。
特徴(独自性・新規性・工夫した点)
3つの「S」
(1)安全で安心な水道水
高濁度時やクリプトスポリジウムなどへの対策を施した水道施設
処理廃水も原水として再利用する「クローズドシステム」を採用し、回収率の向上を図るとともに、返送水ルートに紫外線照射装置を用いるなど、クリプトスポリジウムが循環・蓄積しないよう工夫を行いました。
(2)災害に強い強靭な水道
自家発電設備を備え、災害時の基地となる管理棟や応急給水設備、ならびに応援者受け入れスペースを備えた水道施設
(3)持続可能な水道
将来の大規模更新を考慮した施設計画や見学者ルートを考慮した水道施設
上記三つの柱を基本とした施設整備を行いました。
環境への配慮
今治市の公共施設である、ごみ焼却施設(バリクリーン)のごみ焼却熱により発電される余剰電力を当該浄水場の使用電力として活用することで、エネルギーの地産地消、ならびに脱炭素社会づくりに貢献しています。
DBM方式の採用
高橋浄水場の運転では、膜ろ過設備の総合的な点検整備(メンテナンス)の他、この施設を拠点として市内全域に約200ある施設のオペレーションを含めた運転管理を実施しなければなりませんでした。
整備にあたり遠方監視設備の充実により市内全域の施設データの集約を図り一元管理できるため、 DBO(Design Build Operate)方式ではなく、メーカーに頼る業務はオペレーションを含めず20年間のメンテナンスに特化したDBM(Design Build Maintenance)方式を採用しました。
効果・費用
オペレーション業務を分離したことによる効果
オペレーションは市域全体約200ある施設の監視と巡視点検を高橋浄水場の運転と合わせて行う計画であったためその業務を得意とする業者に別途発注することとし、この結果オペレーション業務については、遠方監視による一元管理が可能になったことに伴い点検頻度の見直しを行い、5年契約で1億円程度の人件費(委託料)削減を達成することができました。
ごみ焼却施設で発電された電力を利用することによる効果
環境負荷を軽減させるとともに、電気代として、年間約48万円の削減となりました。
今後の予定・構想
当該浄水場は一般公募により「バリウオーター」と愛称が付けられました。命名者によると、 バリウオーターには”今治の限りある水資源をみんなで守っていくために、みんなが覚えやすい名前にしました”という、水道にとって大切なメッセージが込められています。
浄水場には小学生が社会見学として毎年来場しており、この愛称を通じて水道に興味を持ち、将来、様々な分野で今治市に関わりたいと思えるような、未来へとつながる運営を行いたいと考えています。
他団体へのアドバイス
本事業において発注仕様書(要求水準書)の内容が大きなポイントです。
計指針などを順守することはもちろん、「〇〇するために△△する」など、要求する目的を明らかにし、発注側の真意を事業者に正確に伝えることが肝要です。