人口減少の深刻化が喫緊の課題として挙げられる中、地域外に住みながら地域づくりの担い手となる”関係人口“に注目が集まっている。約2,400人が暮らす今別町では、伝統芸能を契機とした地方創生の施策を行っているという。立役者である相内さんに話を聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.20(2022年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
青森県 今別町 総務企画課
相内 峻 さん(入庁7年目)
「荒馬まつり」を活かした地域づくりに取り組む。
荒馬(あらま)は田の神に感謝する伝統行事で、県の無形民俗文化財に指定されている。毎年8月になると太鼓や笛の音に合わせて男女ペアが踊りながら町内を練り歩く。平成12年に伝統芸能サークルに所属する京都の大学生たちが祭りに参加したことで、住民との交流がスタート。それ以来、県外から来る大学生や卒業生が関係人口となり地域へにぎわいをもたらす。相内さんは彼らを巻き込みながら、住民のやる気をともに高めて地域活性化を目指している。
出向の学びをまちに還元。
青森市出身の私は大学から県外に出て、民間企業へ就職。第1子が生まれたのを機に、妻の実家がある今別町の職員試験を受けました。入庁後は民間と異なる環境で戸惑うこともありましたが、少しでも早く力になれるよう、業務効率化など積極的に提案。4年目になると、県庁へ1年間出向し、地域づくりに関する業務に携わりました。今別に還元できる知識を得るチャンスだと考え、経験豊富な職員の方々に質問したり、興味のある勉強会に参加したり、とにかく行動しましたね。私自身、東日本大震災で被災した際に、人とのつながりや助け合いを経験。職員になったからには、人の絆を大切にしたい思いがあったので、地域づくりを学べたのはありがたい機会でした。
5年目からは現在の部署で、地方創生を担当。特に注力しているのが、住民と関係人口を巻き込んだ地域づくりです。今別では400年以上続く荒馬という伝統芸能を通じ、全国各地から学生や卒業生が「ただいま」と訪れ、住民たちが「おかえり」と迎える温かい交流が長年続いています。この絆が行事だけではもったいない、地域づくりに活かせるのではと思い、新しい取り組みを始めました。
住民の思いを見極める。
元々地域課題として、困り事は何でも役場に任せるという行政への依存体質がありました。しかし、荒馬に対しては皆さん主体的に情熱をもって関わっています。そこでまず、毎年訪れてくれる関係人口のコアメンバーへ、協力を依頼。まちの現状と課題、将来への思いを丁寧に説明したところ強い共感を得て、行政のみではなくメンバーからも住民への呼びかけのもと、一緒にまちの未来を考えるワークショップを始めました。そこで「今別でやりたいことはないですか?役場で支援します」と投げかけると予想以上の反応があり、地方創生のプロジェクトとして動き始めています。
新しいことを始める際には、もちろん反対の声もあります。それでも”とにかくやってみる“が大事。そうすると最初はお手伝い程度だった人が、自発的に次のステップを考えるようになるなど、小さな成功体験の積み重ねが積極性を生むことが分かりました。地方創生を進める上で重要なのは”住民が望んでいるか“を見極めること。行政の独りよがりではうまくいきません。まずは目の前の住民と向き合うことが近道です。次世代にもまちの魅力が受け継がれるように、長い目で取り組んでいきます。