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地域ブランディングの進め方とは?成功事例から読み解く自治体の実践ポイント

人口減少や高齢化が進む中、「地域ブランディング」が注目されている。これは、単なる観光PRではなく、地域の独自価値を見つけ出し、磨き、戦略的に発信する取り組みだ。地域の将来像を描き、持続可能なまちづくりにつなげる重要な手法といえる。本記事では、地域ブランディングの基礎から進め方、国内外の事例までを、自治体実務で役立つ形で解説する。
※掲載情報は公開日時点のものです。
地域ブランディングとは?

地域ブランディングは、地域の活性化を図る上で欠かせない考え方である。まずは、その基本的な定義と、なぜ今多くの自治体で重視されているのかを確認したい。
地域ブランディングの定義と目的
地域ブランディングとは、地域がもつ歴史や文化、自然、産業、人材などの多様な資源を総合的に活用し、ほかにはない独自の価値(=らしさ)を創り出して発信する取り組みである。
その目的は、観光客の増加に加え、地域産品の販売促進、企業誘致、移住・定住の促進、そして地域住民の誇りや愛着(シビックプライド)の醸成など、多方面に広がっている。これらを通じて地域のイメージを戦略的に構築し、その価値を高めることで、持続可能な地域の発展を目指す点に特徴がある。
なぜ今、地域ブランディングが重要なのか
インターネットやSNSの普及により、誰もが容易に情報を発信・取得できるようになった。その一方で、地域からの情報が大量に流通し、他地域との差別化が難しくなっている。
こうした環境下で、自らの地域を選んでもらうためには、独自の魅力を明確にし、一貫性のあるメッセージとして発信し続ける「地域ブランディング」が不可欠である。人口減少社会の中で地域の活力を保ち、将来にわたって“選ばれる地域”であり続けるためにも、その重要性はますます高まっている。
地域ブランディングがもたらすメリット
地域ブランディングに成功すると、地域にはどのようなよい変化が生まれるのだろうか。ここでは、代表的な3つのメリットについて解説する。
メリット | 効果 |
地域経済の活性化 | 観光客の増加、特産品の売り上げ向上、新規雇用の創出 |
交流・関係人口の創出 | 移住・定住者の増加、ワーケーションなどの新しい人の流れの創出 |
住民のシビックプライド醸成 | 地域への愛着と誇りの向上、住民参加の促進、地域の魅力の再発見 |
地域経済の活性化
地域ブランドが確立されると、地域ならではの魅力に惹かれて人の流れが生まれ、観光や飲食、土産物店などに直接的な経済効果が広がる。「〇〇(地域名)の 〇〇(商品・サービス) 」といったブランド産品も、地域名と商品が結びつくことで付加価値が高まり、価格向上や販路拡大につながる。
また、ブランド化は、商品・サービスだけでなく地域そのものの価値を高める取り組みであり、大規模なインフラ整備とは異なり、地域主体で小回りよく進められる点も強みだ。こうした自立的な取り組みを積み重ねることで、産業の活性化や雇用創出など、地域経済に好循環を生み出すことが期待できる。
出典:内閣府「第1章 第2節 2.(2) 地域ブランドの確立による地域経済の活性化」
交流・関係人口の創出
地域ブランディングは、地域の独自性や価値を明確に発信することで「行ってみたい」という関心を生み、訪問者(交流人口)を増やす役割を果たす。地域のストーリーや魅力的なライフスタイルに触れた人々の中から、「関わってみたい」「住んでみたい」と感じる層が生まれ、移住・定住へと発展していく。
すぐに移住・定住に結び付かなくても、ワーケーションでの滞在や、ふるさと納税による応援、地域プロジェクトへの参加など、地域との関わり方は多様である。こうした関係人口の増加は、地域の新たな担い手・応援者を生み、持続可能な地域づくりを支える重要な基盤となる。
住民のシビックプライド醸成
地域ブランディングのプロセスで地域の魅力を再発見するのは、外部の人だけではない。住民自身が、自分たちの地域の価値に改めて気づくきっかけにもなる。
地域がメディアで紹介されたり、多くの人が訪れたりする様子を見ることで、「この地域に住んでいて良かった」という誇りや愛着が育まれる。このシビックプライドの高まりは、住民が地域活動に主体的に参加する原動力となり、結果として地域全体の活力向上につながる。
自治体が抱える地域ブランディングの課題
多くのメリットがある一方で、地域ブランディングの道のりは決して平坦ではない。ここでは、多くの地域が直面しやすい3つの課題について解説する。
人口減少による担い手不足と推進体制の弱体化
人口減少や高齢化は、地域ブランディングを担う人材の確保を難しくし、魅力発信や価値創出の基盤を弱めている。また、消費人口の縮小はブランド産品の販路や観光サービスの維持にも影響し、取り組みの持続性を揺るがす要因となる。
人口構造の変化は「つくり手」と「受け手」の双方に影響する構造的な課題であり、行政・観光協会・民間企業・住民を束ねる推進体制の構築にも波及する。利害調整や進行管理を担う人材が不足しやすいため、外部専門家を活用しつつ、地域内で実行力を育てる視点が重要となる。
地域住民との合意形成
地域ブランディングは、行政や一部企業だけが主導しても成果を上げにくい。主役となるのは、あくまで地域住民である。しかし、ブランディングの方向性について住民の理解や協力を得るプロセスには、多くの時間と労力を要する。
説明会やワークショップなどを通じて、なぜブランディングが必要なのか、実施することで地域がどう変わるのかを丁寧に伝え、地域全体で共通の目標をもつための合意形成を図ることが不可欠だ。これは、プロジェクトの成否を左右する重要なカギとなる。
継続的な予算の確保
地域ブランディングは、単年度のイベントのように短期間で完結するものではなく、中長期的な視点で継続して取り組む必要がある。ブランドイメージを確立し、社会に浸透させるためには時間がかかるため、プロモーションや人材育成など息の長い投資が求められる。
そのため、単発の補助金だけに頼るのではなく、事業の成果を可視化し、次年度以降も継続的に予算を確保できるよう計画的に取り組むことが重要である。
地域ブランディングの具体的な進め方5ステップ

では、地域ブランディングは具体的にどのように進めればよいのか。基本的な5つのステップに分けて解説する。
ステップ1:地域の価値・魅力の発見と定義
まずは、自分たちの地域がもつ「宝物」は何かを徹底的に洗い出すことから始める。歴史的建造物や自然景観といった観光資源だけでなく、食文化、伝統行事、人々の気質、独特の景観なども重要な資源である。
住民アンケートやワークショップで内部の視点を集めつつ、外部専門家や観光客の意見も取り入れ、客観的に整理することが重要であり、その際にはSWOT分析を活用すると効果的である。
▼SWOT分析とは
- Strength:客観的に地域の強み
- Weakness:弱み
- Opportunity:機会
- Threat:脅威
ステップ2:ターゲット(ペルソナ)の設定
地域の魅力を「誰に」届けるのかを明確にする。ターゲットを「全ての人」にしてしまうと、メッセージは希薄になり、誰にも響かなくなる。年齢、性別、居住地、趣味嗜好、価値観、ライフスタイルといった要素から具体的な人物像(ペルソナ)を描くことで、適切なアプローチが設定できる。
例として、「都会の暮らしに負担を感じ、自然豊かな地域で子育てを望む30代夫婦」といった具体像を設定すると、施策の方向性がより明確になる。
ステップ3:ブランドコンセプトの設計
地域の価値とターゲットを結びつける中心的な考え方がブランドコンセプトである。「私たちの地域は、〇〇な人に、△△という価値を提供します」という約束を、分かりやすく言語化する。
このコンセプトはキャッチコピー、ロゴマーク、WEBサイトのデザインなど、あらゆる情報発信の軸となる。地域ならではのストーリーを盛り込み、ターゲットの共感を得られるコンセプトに仕上げることが重要だ。
ステップ4:プロモーション戦略の立案と実行
設計したブランドコンセプトをターゲットに届けるため、具体的なプロモーションを展開する。WEBサイトやSNSでの情報発信、動画制作、メディアへのプレスリリース、体験イベントの開催など、活用できる手法は多い。
重要なのは、コンセプトの一貫性を保ちつつ、ターゲットが日常的に触れるメディアを通じて継続的に届けることだ。デジタルとリアルを組み合わせた多面的なコミュニケーションにより、より高い効果が期待できる。
ステップ5:効果測定と改善
プロモーションは実行して終わりではない。各施策の成果を測定し、分析することが欠かせない。WEBサイトのアクセス数、SNSでの反応、イベント参加者数、観光客数の推移といった定量データに加え、アンケートなど定性的なフィードバックも参考にする。
これらを踏まえて次の戦略を改善し、PDCAサイクルを継続的にまわすことが、地域ブランディングを成功に導くカギとなる。
地域ブランディングの成功事例
理論だけでなく、実際の成功事例から学ぶことは非常に有益である。ここでは、特色ある3つの事例を紹介する。
香川県直島|アートを核とした地域ブランディング
かつて製錬所の煙害問題を抱えていた瀬戸内海の小さな島・直島は、「アート」を軸にしたブランディングにより、世界中から観光客が訪れる島へと生まれ変わった。
島全体に現代アート作品を配置し、古民家を改修したアートプロジェクトを展開することで、「アートの聖地」という唯一無二のブランドを確立した。地域に存在しなかった新たな価値を創造し、それを核にブランディングを行った好例である。
愛媛県|エンタメ活用の地域ブランディング
愛媛県は、地域特性や商材に合わせてエンタメの力を活用したブランディングを展開している。その一例が、令和3年6月に「銀座ロフト」で開催された「SuperMarkit!EHIME」である。
地域商社「楽農研究所」による旬のかんきつ加工食品、「ロフトフードラボ」とのコラボメニュー、県出身の芸人・友近さんがプロデュースしたジュースなどが販売され、大きなにぎわいを見せた。都市部の消費者がリアルに愛媛の魅力を体感できるよう企画されており、地方の価値と都市視点の双方から魅力を掘り起こした事例といえる。
静岡県島田市|“緑茶愛”を軸にしたシティプロモーション
静岡県島田市は、市民生活に深く根付く「緑茶」を核とした「島田市緑茶化計画」を推進している。住民ワークショップで「緑茶のことなら誰もが語れる」という文化が共有されたことが背景にある。
市は「地球上で最も緑茶を愛するまち」をコンセプトに、コンセプトブックの全戸配布、専用WEBサイトの開設、JR島田駅でのPRなどを展開。多言語動画の配信やオリジナル緑茶の製造・販売を行い、国内外へ魅力を発信している。職員自らも“緑茶化”に取り組むなど、市を挙げてブランド形成を推進している。
出典:島田市「島田市緑茶化計画/SHIMADA GREEN Ci-TEA JAPAN」
効果を高める地域ブランディング成功のポイント
最後に、紹介した成功事例にも共通する、地域ブランディングを成功させるための重要なポイントを3つ紹介する。
地域の特性やアイデンティティを活かす
他地域の成功事例をそのまま模倣しても、独自性のない施策になり、成果にはつながりにくい。最も重要なのは、その地域ならではの歴史、文化、自然などの特性やアイデンティティを深く理解し、ブランディングの核に据えることである。
自分たちの地域の「らしさ」を突き詰めて考えることが、他地域には真似できない魅力の源泉となる。
地域住民を巻き込み当事者意識を高める
地域ブランディングを推進するには、地域住民の協力が不可欠である。住民が「自分たちの取り組みだ」と感じることで、プロジェクトは力強く前進する。
計画段階から住民参加型ワークショップを開催したり、地域イベントで進捗を共有したりするなど、積極的なコミュニケーションが有効だ。住民一人ひとりが地域の魅力を語る「伝道師」となることが、ブランディング成功のカギとなる。
長期的な視点で継続的に取り組む
地域ブランドの価値は、一朝一夕では築けない。短期的なブームで終わらせず、ブランドイメージを定着させ、リピーターやファンを育てていくためには、長期的な視点が欠かせない。
少なくとも5年、10年といったスパンで、一貫したメッセージを継続的に発信し続ける地道な取り組みが求められる。
まとめ
地域ブランディングは、地域の未来をつくるための強力な手法である。それは単なるイメージ戦略ではなく、地域住民が自らの地域の価値を再発見し、誇りを持って内外に発信していくプロセスそのものだ。
この記事で紹介した進め方やポイントを参考に、地域ならではの魅力を活かした持続的なブランディングに取り組んでほしい。
















