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「議会答弁書 良い書き方 悪い書き方」元公務員から公務員へ、現場を学べる一冊

運輸省(現・国土交通省)入省後、葛飾区をはじめとする自治体で、道路・都市整備や庁舎整備など幅広い実務を担ってきた工藤 勝己さん。
本書『議会答弁書 良い書き方 悪い書き方』は、多くの職員が突然任されることになる議会答弁書作成への不安を解消するための実践書である。良い例・悪い例をビフォー&アフター形式で示し、なぜ伝わらないのか、どう直せばいいのかを明快に解説している。
元公務員だからこそ語れるリアルな失敗談と具体的な「型」を学び、初任者から経験者まで、現場で頼れる指針としてほしい。
なぜ本を書こうと思ったのか、どういう人に読んでもらいたいのか、本書に込めた思いを聞いた。
※記事の掲載情報は公開日時点のものです。
【著者プロフィール】

工藤 勝己(くどう かつみ)さん
文章よくなる株式会社 代表取締役
1985年 運輸省(現・国土交通省)入省、1989年 葛飾区入庁、東京都庁派遣、特別区人事委員会事務局主査、区画整理課長、道路建設課長、道路管理課長、都市整備部参事、総務部参事、総合庁舎整備担当部長などを歴任し、2024年4月 文章よくなる株式会社を設立。
技術士(建設部門)、技術士(総合技術監理部門)、土地区画整理士。
著書に、『一発OK!誰もが納得!公務員の伝わる文章教室』、『住民・上司・議会に響く!公務員の心をつかむ文章講座』『一発で受かる!最短で書ける!昇任試験 合格論文の極意』『一発で受かる!昇任試験 面接合格完全攻略』(いずれも学陽書房)がある。
1.備えあれば憂いなし
「書いてくれないか」。上司からのシンプルな一言が、議会答弁書作成者という“大役”へとあなたを導くことになります。その機会は、ある日突然めぐってきます。「まさか自分が?」「どうしよう… … 」「どう書けばいいの?」という状況に陥らないようにするために、今のうちに心の準備を整え、スキルアップを図っておきましょう。
しかし、議会答弁書の作成について学べる実務研修は、ほとんどの自治体で実施されていません。かといって、手取り足取り親身になって教えてくれる上司や先輩職員がいる職場も限られます。だからこそ、議会答弁書の作成は誰にとってもハードルが高い領域なのです。
でも大丈夫です。そんな皆さんのご不安の声にお応えするために、本書は生まれました。職場の同僚や先輩職員、才能あふれる部下たちが犯したミスを大いに参考にしながら、私自身の実体験をもとに書き上げました。作成者が抱きがちなジレンマの解消に役立つように、今が旬のトピックを挙げて解説しましたので、“備えあれば憂いなし”のスタンスで読んでいただけると、たくさんの気づきが得られるはずです。
2.ビフォー&アフター形式だから分かりやすい
本書は、議会答弁書の“良い例”と“悪い例”を、ビフォー&アフターの見開き形式で紹介しており、答弁書の作成経験がない人にとっても理解しやすい構成になっています。また、行政分野全般を網羅する形で、豊富なテーマの例文を紹介しながら、「なぜNGなのか」「なぜOKなのか」「どうすれば改善するのか」というポイントを押さえて、明快に解説しています。
議会答弁書の作成スキルを向上させるためには、“良い例”と“悪い例”を見比べるのが近道です。しかし、貴重な教材であるべきはずの“悪い例”は、職場のどこを探しても出てこないはずです。なぜなら、議会答弁書の作成には厳しい期限が設定されており、極めて短時間で効率的に仕上げなければならず、“悪い例”を保存する慣例がないからです。したがって、上司からダメ出しをされて「ボツ」となった原稿は、裏面利用やリサイクルの用紙ボックスに放り込まれて、誰の目にもふれることはありません。“悪い例”がそのような宿命にあるからこそ、私はビフォー&アフター形式の執筆にとことんこだわりました。
3.悪い例こそ反面教師にしよう
本書は、まず“悪い例”をご覧いただき、「転ばぬ先の杖」として活用していただけるように配慮しています。他人の失敗例は、誰でも興味があるものです。そこから生まれる疑問や気づきこそが、スキルアップにつながり自信を生み出します。
実は、“悪い例”であっても、試行錯誤を重ねながら仕上げた力作なので、完成度としては決して低くありません。このため、“悪い例”だけを読んでも、「どこがダメなのか」「これでいいんじゃないか」という印象をもつはずです。しかし、部長や首長のダメ出しを受けてブラッシュアップした“良い例”と見比べてみると、その違いは一目瞭然です。
さらに、「なぜダメなのか」「どうすればいいのか」という着眼点を明確にできるように、各項目のタイトルが道標となるように配慮していますので、ノウハウやコツを効率よく身につけていただけるはずです。この貴重な“悪い例”を、ぜひ反面教師のように有効にご活用いただきたいと思います。
4.順不同で読める“辞書”のような構成
第1章「議会答弁書作成の勘所」では、作成プロセスの基礎知識として、実際に書き始める前に押さえておきたい心構えについてお伝えしています。議会答弁書は、初動の早さが完成度を左右しますが、特に質問通告を受ける前の1週間が重要です。どのような流れで質問通告日を迎えたらいいか、あるベテラン管理職の1週間を追ってみました。
第2章「わかりやすい答弁を書く」では、議員・住民に伝わる表現のコツとして、文章表現で犯しがちなミスを紹介しながら、なぜ伝わらないのか、その原因にズバリと切り込んでいます。例えば、「させていただく」を連発しない、「ございます」を適切に使うなど、丁寧さを重んじたことによりそれが裏目に出た事例などを取り上げました。
第3章「間違いのない答弁を書く」では、信頼される答弁の鉄則として、答弁書の構成上の問題点を指摘しながら、議会だけでなく住民からも信頼される答弁とするための鉄則を惜しみなく披露しています。例えば、YESかNOかを明確にせず煮え切らない答弁をしている事例を取り上げ、その原因や改善法をわかりやすく解説しました。
第4章「説得力のある答弁を書く」では、“なるほど”を引き出す構成として、私自身が長年の経験から培った答弁書の「型」を5つご紹介し、自分なりの「型」をもつことの大切さをお伝えしています。
議会答弁書の作成に苦手意識を抱く職員には、一定の共通点があります。その共通点とは、「型」を持っていないということです。質問議員が属する会派や質問の趣旨などに応じて、ケースバイケースで使い分けができるような「型」が存在しなければ、思いつく内容を思いつくままに綴るしかありません。これでは、議会に対して的確に伝わらないため、上司の確認も首長の最終チェックも通りません。
本書では、質問の内容や上司の好みによって臨機応変にセレクトできる5つの「型」を示していますので、慣れるまではこの5パターンを使い分けていただき、経験を積みながら自分オリジナルの「型」を見つけていただくといいでしょう。
第5章「印象に残る答弁を書く」では、訴求力アップの秘訣として、メッセージ性の高い答弁とするために工夫すべき点を紹介しています。心に残る味わい深い答弁とするためには、駆使すべきテクニックが存在します。例えば、事業の波及効果もアピールする、他自治体をうまく引き合いに出すなど、ちょっとした工夫を添えるだけで平板な答弁が奥深い答弁へと変身を遂げることになります。
第6章「場面に応じた答弁を書く」では、状況別の書き分けテクニックとして、理不尽な要求や非現実的な提案を断る方法をパターン別に紹介しています。例えば、できないことはキッパリと断る、やんわりと先送りさせてもらう、反論せずにうまくかわすなど、いざという時に活用したい上手な断り方を解説しました。
議会答弁書の作成には、様々なリスクがつきまといます。「言質をとられる」「再質問される」「議会議事録に残ってしまう」など、そのリスクは実に多種多様です。このようなリスクと上手に付き合っていくためのリスクマネジメントの一環として、第6章を有効にご活用いただきたいと思います。皆さんの不安を少しでも解消できるように、現役時代の私自身の経験をもとに、リスクとして思い浮かぶものは漏れなく記載したつもりです。
5.元公務員から公務員の皆さんにエール
議会答弁書の作成現場でも“青天の霹靂(へきれき)”という言葉をよく聞きます。まさしく議会答弁書の作成という“大役”は、いつ回ってくるかわからないのです。「立場上しょうがない」と割り切って受け入れることができればいいのですが、「できれば避けたい」「自分にできるかな?」など、ネガティブな感情が先に立つという人も少なくありません。
そんな不安や迷いを解消するために、早めに答弁作成スキルを身に付けておきたいと思いながらも、その機会を見いだせないでいる人もいるのではないかと思います。さぁ、思い立ったが吉日です!ぜひ、今すぐに準備を始めましょう。議会答弁書の作成という厳かな領域に一歩足を踏み入れて、さらなるスキルアップを図り、揺るぎない自信を手に入れましょう。
今でこそ、議会答弁書の作成を難なくこなしている職員にも、大役を担うプレッシャーや不安と対峙しながら悪戦苦闘していた時期がきっとあったはずです。実は、私もそうでした。そのプレッシャーや不安と上手に付き合っていくためには、場数を踏んで経験を積み、「慣れる」しかないのです。そのための入口として本書を活用していただき、ぜひ使い倒してください。
自ら書いた議会答弁が議場に響き渡り、住民へのメッセージとして発信されていくのは、とても光栄なことで感動的でさえあります。この醍醐味を存分に味わっていただきたいと思います。これからの皆さんのご活躍を陰ながら応援しています。











