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現場の学びが組織を動かす!キントーンが導いた“最適解”とは?

サイボウズが年に一度開催する総合イベント「Cybozu Days(サイボウズデイズ)」は、「kintone(キントーン)」をはじめとするクラウドサービスの活用法や、DXの最新事例を紹介する同社最大のイベントだ。また、自治体業務に特化した同社の別イベント「kintone hive government(キントーンハイブガバメント)」では、全国の自治体職員が、自らの現場で培ったキントーン活用事例を発表。投票で選ばれた取り組みには「kintone hive government AWARD」が授与された。今回のサイボウズデイズには、同アワードを受賞した2自治体が登壇。それぞれの挑戦を発表した当日の様子を、現地取材の内容も交えてお届けする。
※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。
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危機と閉塞を越えて。成果へつなげるそれぞれの歩み。
登壇したのは、京都府舞鶴市消防本部の飯尾さんと、福島県会津美里町の秋山さん。一方は突発的な“システム喪失”という危機に、もう一方は職員の離職を招く“庁内の閉塞感”という課題に直面していたという。性質の異なる困難に対して、両自治体はどのようにkintone(以下、キントーン)を活用し、前進の糸口を見出したのか。
編集室が現地取材を通して、それぞれの「キントーン導入の歩み」と「学び方」のプロセスに迫った。

【トップダウン型|舞鶴市消防本部】危機が導いた、“現場を守る”DX。
interviewee

京都府舞鶴市消防本部
西消防署警備課警備1係
飯尾 健太 (いいお けんた)さん
システム切り替えに伴い、業務継続が危うい状況に。
舞鶴市消防本部では、市民の生命、身体および財産を災害から守るため、日々訓練を行っています。「災害がないときや訓練時以外は何をしているのか」と聞かれることがありますが、実は膨大な事務作業があるんです。主に報告書の作成などで、傷病者の情報や、バイタルサイン、救急隊の活動内容などを細かく記録しなくてはなりません。救急車の走行記録も必要です。火災でも、救急出動でも、予防検査でもこうした事務作業が発生します。


そうした中、国の方針を受け、119の受信や出動指令等を、当市含む複数自治体で1カ所に集約しようという動きが始まりました。予算の効率化や迅速な出動につながる大切な取り組みですが、広域連携によるベンダー変更が問題を引き起こします。これまで当市で使用していた業務管理システムが利用できなくなり、新ベンダーは業務管理システムを取り扱っていないことが判明……。
そのため、前述のような報告書作成や、年間を通した国への報告などの事務作業が、これまでのようにできなくなってしまいました。慌ててExcelでの運用を試したのですが現場にフィットせず、市が導入している別のシステムを活用しようとしても、契約期間の終了が目前で、全てアウト。これまで進めてきたデジタル化が白紙に戻る危機に直面し、私たちは業務継続の崖っぷちに立たされたのです。

そうした中、国の方針を受け、119の受信や出動指令等を、当市含む複数自治体で1カ所に集約しようという動きが始まりました。予算の効率化や迅速な出動につながる大切な取り組みですが、広域連携によるベンダー変更が問題を引き起こします。これまで当市で使用していた業務管理システムが利用できなくなり、新ベンダーは業務管理システムを取り扱っていないことが判明……。
そのため、前述のような報告書作成や、年間を通した国への報告などの事務作業が、これまでのようにできなくなってしまいました。慌ててExcelでの運用を試したのですが現場にフィットせず、市が導入している別のシステムを活用しようとしても、契約期間の終了が目前で、全てアウト。これまで進めてきたデジタル化が白紙に戻る危機に直面し、私たちは業務継続の崖っぷちに立たされたのです。
署長の即断!トップダウンによる迅速な導入。
そんな状況の中、危機をいち早く察知したのが署長でした。消防本部の全部門で経験があり、ITにも詳しい署長が「これはまずいことになる」と……。対策を考える中、絶妙なタイミングで市役所のデジタル推進課から、キントーンの1年間無料キャンペーンについて紹介がありました。
舞鶴市は“日本一働きやすい市役所”を目指して様々な取り組みを進めており、その一環がキャンペーンへの参加でした。まさに渡りに船だと思い、市の誘いに飛び乗ったのですが、肝心なまわりの職員からはあまり芳しい反応が得られなかったのです。「なんでそんなことせなあかんの?」「ただでさえ電子決裁とかペーパーレスとかやらんとあかんのに」といった声が聞かれました。
職員は、今まで膨大な事務作業に追われ、多大な業務負担を強いられていたので、新しいことに取り組む余裕がなかったのです。それでも署長のリーダーシップによって、現場に前向きな空気が生まれていきました。

まずは触ってもらう、小さく始める成功体験。
キントーンのアプリは、私と署長が机を並べてつくっていきました。こうした取り組みは、最初の一歩が肝心です。そこで選んだのが「アルコールチェック」の記録アプリでした。
消防本部では、出勤したらまずアルコール測定をして、パソコンを開いてデータベースにログインし、数値を入力して上司に報告する、というフローでアルコールチェックを行っていました。手数が多いので、ミスや入力忘れも起きていたのですが、大事なことなので毎日実施しないといけません。そこに目を付けたのです。
このアプリは、必要性を訴えるというより、“キントーンを触ってもらう”ということを念頭に作成しています。画面は入力しやすいように、操作もシンプルにつくっていきました。そうした工夫もあって、実装後は「これ、ええやないの!」といった声が出て、以降のアプリ導入につながっていきました。車両運行データ、訓練日誌など、日々の身近な入力作業をアプリ化。いずれも直感的操作で利便性を向上しつつ、ミスも減らすことを目的としています。
最初につくったアルコールチェックアプリは、「どうせならもっと打つところを減らして」という職員の要望に応え、最終的に4タップで終了できるよう改修を加えていきました。こうした工夫と、小さな成功体験の積み重ねで、職員の“心の壁”が突破できたと考えています。

そして、次に目指したのは、従来使っていた業務管理システムと同等のものをつくる、ということです。
削減した550時間を“命を守る時間”に変える。
キントーンでデジタル化できたデータを統合し、業務同士を連携させることでさらなる導入効果を目指しました。その核となる仕組みが「業務管理データアプリ」です。これは様々な業務のキーとなるデータを入力するアプリで、複数アプリへコピー転送できるため、何度も同じことを入力する手間が省け、作業の簡素化とミス防止につながります。同時に、上司の決裁も一本化でき、業務全体の流れを最適化しました。
こうして、効率化の点と点をつなげていくことで、事務作業の削減効果は1日あたり90分、年間で換算すると550時間にも及びます。削減できたその時間は、火災・救助訓練、風水害時の連携訓練など、これまで後まわしになりがちだった実践訓練に充てられるようになりました。現場力の底上げに直結する、大きな成果です。

こうして得た成功体験を踏まえ、今後は日々の業務管理データが自動的に月報へ連携し、さらに国への報告へと発展させられる総合管理システム構築を目標としています。
すでにキントーン活用は日常業務に定着し、アプリ数は約70個にまで増加。業務全体を支える基盤となりました。
運用が広がるにつれて見えてきた改善点もあります。各部署で活用が進んだことで、より効果的な連携や情報共有の重要性が明らかになりました。今後は庁内全体で知見を共有しながら、より使いやすい形へ育てていきたいと考えています。
システムの専門家ではない私たちでも、業務継続の危機を乗り越え、効率化と訓練時間の確保を実現できた。この取り組みを継続し、市民の生命・身体および財産を守る力をさらに高めていきます。

【ボトムアップ型|会津美里町】小さく静かに広げる “現場が学ぶ”DX。
interviewee

福島県会津美里町
デジログ推進室
秋山 拓也(あきやま たくや)さん
職員の心を覆っていた“閉塞感”。
かつて私は、この大好きなまちから逃げようとしていました。原因は、地方の役場を覆う謎の“閉塞感”です。
住民ニーズの多様化と業務の複雑化は止まりません。その半面、前例踏襲で非効率なのに、人員は増えない。そこに地方特有の濃い人間関係が拍車をかけます。年々仲間が一人、また一人と辞めていき、近隣自治体では大量離職も発生していました。私自身もその閉塞感を強く感じながら、「このままではまずい。早く逃げなければ」と思っていたのです。

そんなとき、突然の人事異動があり、私は、デジログ推進室へいくことに。ちなみに“デジログ”とは、デジタルとアナログのいいとこ取りをしていこう、という意味の造語です。そこには、私と同年代の2人の職員がいて、私たちが上司から伝えられたミッションは「これから3人でDXを進めること」というものでした。
私たちはDXのことなど知らないので、本を読むなどして勉強しました。そして、学びの中で「DXで組織の文化や風土を変革できる」ということが分かったのです。だとすると、謎の閉塞感もぶっ壊せるのではないか。そう考えた私たちは、「DXで頑張っていこう」と決意を固めたのです。
“地獄の研修”から生まれた気づき。
さて、やるぞと気勢を上げたものの、DXをどう進めたらいいのか分かりません。そこで最初に着手したのが、全職員への研修でした。現場がDXを理解していなくては取り組みが進みませんから。
まずはBPR※をテーマに選び、全職員に自分の仕事を見つめ直してもらおうと研修を企画。肩書のあるコンサルを東京から講師に招き、いざBPR研修を実施しました。その結果、どうなったか。
研修は、地獄のような時間になりました。講師は聞き慣れない横文字を駆使して、流ちょうに話す。それに対し、職員席は静まり返り、表情も凍り付いています。終わった後にこっそり感想を聞いたのですが、どれもこれも手応えなし。完全に失敗でした。
私はこの時にようやく「知識は使ってこそ初めて身につく」ということに気づきました。そこで目を付けたのが、ノーコードツールです。
デジタルツールを業務に組み込むとき、私たちは必ず業務の見直しを行います。つまり、便利なデジタルツールを庁内に普及させれば、多くの業務が見直されていくはず。特に、ノーコードツールであれば工夫次第で様々な業務で使えるので、それを導入することが結果としてBPRの実践につながっていくのではないか。そう考え、リサーチの結果たどりついたのがキントーンだったのです。
※BPR= Business Process Re-engineering(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の略称。 業務プロセスを抜本的に見直して、組織や制度、システムなどを再構築すること

“静かに導入する”反発を生まない4つの方針。
キントーンは、この種のツールの中でも操作が非常に簡単なものだと評価されています。自治体での導入事例も多く、ナレッジも豊富に蓄積されている。しかも当時、全職員が1年間無料で使えるというキャンペーンが実施されていました。導入にあたり、通常なら予算要求や入札の壁がありますが、キャンペーンを利用することで、予算をかけずに、スムーズな形で導入までもっていける。これは挑戦するしかないと、すぐにキャンペーン申し込みを決定したのです。
問題は、キントーンを庁内にどう普及させていくかという点です。そこで私たちは作戦を練り、以下の“4つの方針”を打ち立てました。
この4つの方針を決めた後、私たちは次の行動に移りました。仲間づくりです。
若手の実践に中堅が寄り添う“学びの場”。
当町では、キントーンを普及する組織「会津美里町 業務改善ラボ(以下、ラボ)」を立ち上げました。メンバーは、庁内でスカウトした人も含めて12人。20代~30代の若手たちです。
ラボでは、メンバーを2チームに分け、デジログ推進室の2人をそれぞれのメンターに付けました。チームを分けたのは、ゆるい競争関係を生み出したかったことと、DXマインドをしっかり浸透させたかったことが理由です。役所の仕事は基本的に、全て台帳管理ですよね。キントーンに触れながら、「データはどう連携すべきか」といった“データベース思考”を自然と身に付けていきました。
また、アプリはつくるだけではダメで、現場への導入交渉が活用へのカギになります。
ベテラン職員への交渉が得意ではない若手を、私たち“ゴールデンエイジ”が全力でバックアップ。思惑通り、導入交渉はうまく進みました。ゴールデンエイジがベテランと若手を橋渡しして、よいあんばいで調整が進められたのです。

閉塞感の打破へ!小さな成功が学びの文化を醸成。
このような流れで、ラボのメンバーはどんどんアプリをつくっていきました。そして1本目のアプリを導入することになります。広く使ってもらうためには、全職員が関わるもので、便利だと感じやすいものを選ぶのが一番。そこで選んだのが「公用車運転日報」です。
運転日報は初期導入のド定番です。結果はもちろん大成功。「こういうのを待っていた!」と職員から喜ばれ、私たちの株も爆上がりです。そこからラボは絶好調で、アプリを次々に実装していくことになります。

一方で課題も経験しました。大雪災害時、防災課向けアプリを急ぎ実装したものの、従来ツールとの混在が現場の混乱を招き、調整の負担が生じてしまったのです。
この出来事は「なるべくアプリをつくらない」「静かに導入する」といった4つの方針の再徹底とともに、「現場と並走して進めることの重要性」を学ぶきっかけになりました。
その後も、粗大ごみ収集受付、体育施設管理、日報、国保人間ドック申し込みなどへ活用が広がり、気づけば、庁内ほぼ全課でキントーンが使われるようになりました。
このタイミングを見計らって、ラボの成果を冊子に集約し、全職員へ配布すると「若い人たちがこんなに頑張っていたのか」「この仕事でも使えないかな」と大きな反響が寄せられ、さらなる広がりにつながりました。

現在、当町にはキントーンが根付いています。そして、キントーンが仕事で使われるたびに業務が見直され、職員は前向きな話をします。謎の閉塞感が、少し壊せたかもしれません。これだけの変化を、たった1年で起こすことができたのです。私自身、このまちがさらに好きになりました。今後も色々、しかけていきたいと思っています。
仕組みを超え、“人の意識”を変えるDXへ。
トップダウン型で進めた舞鶴市消防本部と、ボトムアップ型で進めた会津美里町。進め方は違っても、根底にある“人の意識を変えよう”という思想は共通している。また、両事例を見ると、DXの成果は単なる業務の効率化にとどまらないことが分かる。
たとえ業務量が減ったとしても、新しいシステムに順応する際のストレスもあって、職員がすぐに「ラクになった」と実感できないケースもあるだろう。特に、キャリアが長ければ長いほど、変化そのものが負担になりがちだ。だからこそ、旗振り役が“変化の意味”を丁寧に伝えることが重要になる。
「業務がラクになった」「便利になった」といった小さな実感を積み重ねながら、前向きな空気を庁内に広げていくことが、DXを継続的に根付かせるための一歩になるのだろう。今回紹介した2つの取り組みからは、“人の意識をどう動かすか”という考え方こそが、DXを前に進めるカギになりうることが見えてきた。
自治体まるごとDXボックス導入自治体の事例はコチラ
【事例1】神奈川県茅ヶ崎市
【事例2】静岡県焼津市
【事例3】佐賀県小城市
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