公開日:
【連載】地方創生の新たな展開-岸田内閣審議官に聞く[下]新たな政策の「5本柱」とは。
![【連載】地方創生の新たな展開-岸田内閣審議官に聞く[下]新たな政策の「5本柱」とは。](/_next/image?url=https%3A%2F%2Fstatic.jichitai.works%2Fuploads%2Farticles%2F2025-12-10-17-54-13_2510-shingikan-03-737x387.webp&w=3840&q=85)
令和7年6月、地方創生に関し今後10年を見据えた「基本構想」が閣議決定されました。過去10年間の地方創生の検証から、当面の人口減少を受け止めた上で、地域経済の再生や関係人口の拡大を目指す新たな戦略です。ジチタイワークスでは内閣官房地域未来戦略本部事務局の岸田 里佳子内閣審議官にインタビュー。「基本構想」の理念や制度設計についてうかがいました。3回連載の最終回では、新たな地方創生を進める政策の「5本柱」について詳しくお伝えします。
※インタビュー内容は、取材当時のものです。
Interviewee:
内閣官房地域未来戦略本部事務局
岸田 里佳子(きしだ りかこ)内閣審議官

平成5年建設省(現国土交通省)入省。民間活力を活用した都市の再生、歴史的な街並みの保全・再生、PPP等公民連携プロジェクトの創出による地域活性化、防災まちづくりや復興まちづくり等の政策推進に取り組む。京都市都市づくり担当課長、東京都中央区都市整備部長、国土交通省住宅局市街地住宅整備室長、同都市局都市安全課長等を経て、令和6年7月内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局内閣審議官。同10月内閣官房新しい地方経済・生活環境創生本部事務局内閣審議官。令和7年11月より現職。
人口減少下で住みやすい地域と生活を守る。

― 政策の「5本柱」についてご説明ください。
地方創生が目指す「強い経済」「豊かな生活環境」「新しい日本・楽しい日本」という3つの姿を施策として具体化するもので、次の5つになります。
(1) 安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生
(2) 稼ぐ力を高め、付加価値創出型の新しい地方経済の創生~地方イノベーション創生構想~
(3) 人や企業の地方分散~産官学の地方移転、都市と地方の交流等による創生~
(4) 新時代のインフラ整備とAI・デジタルなどの新技術の徹底活用
(5) 広域リージョン連携
1つ目の「安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生」は、住みやすい地域・生活を維持するための政策です。人口減少下でも地域コミュニティを維持し、必要な生活サービスを向上させることを目指しています。若者や女性に選んでいただける、安心して働き暮らせる魅力的な地域をつくっていこうという発想です。
1つの例が「地域暮らしサービス拠点構想」です。これは1カ所で複数のサービスを提供する「小さな拠点」をイメージしています。例えば、コンビニのような機能とドローンによる配送ステーションを組み合わせるといった試みを支援していきます。ほかには交通空白地の解消に向けた地域交通のリ・デザインの全面展開なども支援してまいります。
付加価値と「新結合」で稼ぐ地方経済を実現。

2つ目の柱は「稼ぐ力を高め、付加価値創出型の新しい地方経済の創生」です。“稼ぐ地方経済”を目指すもので、特に新しい価値、付加価値をつくっていくことが今回の政策の核になります。海外展開も視野に入れて「地方イノベーション創生構想」と表現しています。
「新結合」も大きなテーマです。異なる分野のものをかけ合わせることで新たな効果を出そうという考え方です。地域の資源や産業を、まちづくりや観光とつなげていきたいですね。観光以外にもスマート農業や文化・スポーツによる付加価値づくりなど、豊かな自然環境を活かした地域づくりも新結合です。われわれが気づかないような新しいものを生み出していただきたいと考えています。
― 新たな結びつきをどう促進するのでしょうか。
「新結合」による課題解決を目指す意欲ある地方公共団体の皆さまをアイデア段階から支援するため、「新結合」相談窓口を設置しました。また、それぞれの省庁がどんな取り組みを進めていて、地方公共団体がこんなことを頑張っているという一覧表をつくってホームページで公表するなど、関心をもっていただいた自治体との窓口をつくってマッチングを進める点が新たな試みです。
― 海外展開とは地方からの輸出を支援するということでしょうか。
海外展開は高付加価値化と結びついています。付加価値が高いものをつくり、海外に高く販売しよう、という発想です。そのために少しでも新しいものを生み出そう、地域の眠っている価値を掘り起こしていくことが必要不可欠です。
― 民間の進んだ取り組みを地域で共有するイメージですか。
今年度中に全国5カ所で地方創生のフォーラムを実施し、海外展開を積極的に進めている地場企業を招いてのトークセッションも行う予定です。海外展開を積極的に進めている地場企業が都道府県と密接な関わりをもっていたり、県や市が旗振り役を務めて進めていたりという例もあるので、ほかの地域が取り組むヒントや参考になればと考えています。
海外で売れるのにまだ売れていないものや、気づいていない宝が各地域にあるはずです。それを売るためのコツやポイントは、聞かないと分からない部分があります。年間を通して一定のロットで出せるとか、基礎的な知識が共有されていくことが第一歩と思うので、われわれとしても啓発していきたいと思います。
「ふるさと住民登録」で関係人口を見える化。

3つ目の柱は「人や企業の地方分散」です。新しい形での“関係人口の活性化”を考えていて、副業・兼業もテーマです。1つの例として「地方拠点強化税制」というものがすでにあり、企業が東京23区内から本社移転する場合や、地方で工場機能を拡張する場合に税制上の優遇を受けられるなどの特例があります。こうした制度も使いながら、企業の地方分散を図ります。あわせて政府機関の地方移転も考えていきます。
― 「ふるさと住民登録制度」が特に注目されています。
スマートフォンのアプリを使い、「この地域と関係をもちたい」と思ったら、誰でも登録できるような仕組みを考えています。アプリで登録すると人数が分かるので、関係人口を“見える化”するという意味も大きいです。
「アプリの登録ボタンをただ押しました」というだけでは、関係人口とは言えません。登録することでいいことがある、モチベーションが高まるような工夫が必要です。人の移動を促すよう、事業者や業界に国が働きかけ、「ふるさと住民登録」によるメリットが得られる仕組みをつくることも考えられます。
例えば、自治体の認定により航空会社が特別価格で航空券を提供する例がありますね。こういったスキームは非常に参考になります。登録すれば値引きになるような旅行商品を設定していただく、といったアイデアです。個々の自治体で取り組むより、全国共通であればロットが大きくなって事業者側も導入しやすいと考えられるので、国として検討を進めています。

3つ目の柱は「人や企業の地方分散」です。新しい形での“関係人口の活性化”を考えていて、副業・兼業もテーマです。1つの例として「地方拠点強化税制」というものがすでにあり、企業が東京23区内から本社移転する場合や、地方で工場機能を拡張する場合に税制上の優遇を受けられるなどの特例があります。こうした制度も使いながら、企業の地方分散を図ります。あわせて政府機関の地方移転も考えていきます。
― 「ふるさと住民登録制度」が特に注目されています。
スマートフォンのアプリを使い、「この地域と関係をもちたい」と思ったら、誰でも登録できるような仕組みを考えています。アプリで登録すると人数が分かるので、関係人口を“見える化”するという意味も大きいです。
「アプリの登録ボタンをただ押しました」というだけでは、関係人口とは言えません。登録することでいいことがある、モチベーションが高まるような工夫が必要です。人の移動を促すよう、事業者や業界に国が働きかけ、「ふるさと住民登録」によるメリットが得られる仕組みをつくることも考えられます。
例えば、自治体の認定により航空会社が特別価格で航空券を提供する例がありますね。こういったスキームは非常に参考になります。登録すれば値引きになるような旅行商品を設定していただく、といったアイデアです。個々の自治体で取り組むより、全国共通であればロットが大きくなって事業者側も導入しやすいと考えられるので、国として検討を進めています。
暮らしのためのデジタル化を徹底。

4つ目の柱は「AI・デジタルなどの新技術の徹底活用」です。1つ目の柱である生活環境の維持向上をカバーしていく上でも、DXは徹底して活用していただく必要があります。そして今回、新たに盛り込んだのが「ワット・ビット連携」です。これは「電力をたくさん使う施設は、電力が生まれるところに置こう」という考え方です。
― “電力の地産地消”でしょうか。
その通りです。電力を生んでいる地方に、データ産業の立地を促す意味があります。
― 「デジタル田園都市国家構想」の施策は引き継がれるのでしょうか。
施策自体はさほど大きく変わりません。ただ、これまではデジタルを使うこと自体が目的化していた面がありますが、「基本構想」にあらためて盛り込んだことで、地方のためのツールとして活用する狙いや、デジタル化自体が目的ではないということが分かりやすくなったと思います。
例えば、長野県伊那市の買い物支援の事例は、テレビのリモコンでスーパーでの買い物ができ、AIオンデマンドタクシーも使えるといった取り組みです。こういった暮らしのためのサービスをデジタルでやろうよ、という狙いが見えやすくなったと思います。

4つ目の柱は「AI・デジタルなどの新技術の徹底活用」です。1つ目の柱である生活環境の維持向上をカバーしていく上でも、DXは徹底して活用していただく必要があります。そして今回、新たに盛り込んだのが「ワット・ビット連携」です。これは「電力をたくさん使う施設は、電力が生まれるところに置こう」という考え方です。
― “電力の地産地消”でしょうか。
その通りです。電力を生んでいる地方に、データ産業の立地を促す意味があります。
― 「デジタル田園都市国家構想」の施策は引き継がれるのでしょうか。
施策自体はさほど大きく変わりません。ただ、これまではデジタルを使うこと自体が目的化していた面がありますが、「基本構想」にあらためて盛り込んだことで、地方のためのツールとして活用する狙いや、デジタル化自体が目的ではないということが分かりやすくなったと思います。
例えば、長野県伊那市の買い物支援の事例は、テレビのリモコンでスーパーでの買い物ができ、AIオンデマンドタクシーも使えるといった取り組みです。こういった暮らしのためのサービスをデジタルでやろうよ、という狙いが見えやすくなったと思います。
自治体の垣根を越えた連携を支援。

5つ目の柱は「広域リージョン連携」です。都府県や市町村域を超えて、広域の多様な関係者が主体となり連携する取り組みを支援するものです。地方が力を合わせて大きな動きをつくることを応援します。すでに募集を開始しており、応募の中から重点支援先を決めます。
― どのような分野での連携が想定されますか。
例えば、半導体産業などの産業系や観光系の取り組みが想定されますが、始めに自治体の側から広域リージョン連携を宣言していただき、ビジョンを定めて具体のプロジェクトに進む、という流れです。まずは宣言に向けて積極的に取り組んでいただきたいですね。
― 自治体が地方創生を進める上でまず取り組むべきことはなんでしょうか。
地方公務員の皆さんはやはり地域を愛し、その地で生きることを選択されている方々だと思います。そして地方創生とは、皆さんが選択した地域をよくしていく取り組みなので、目指すところは一致しています。何から始めていいのか分からないということであれば、ぜひ相談してください。違う立場からの意見交換や情報共有で一歩進むことも多いと思います。
令和7年4月には「地創塾」(地方創生塾)を始めました。自治体の職員さんを対象に、週1回オンラインで地方創生の事例を発表していただき、先行事例についてゼミ形式で話し合っています。ときには合宿や視察や関心のある企業とのマッチングイベントも行います。来年度の塾生も、令和8年1月頃より募集いたしますので、何をやるべきか悩んでおられたらぜひ参加してみてください。
参加した皆さんからは「ほかの自治体の取り組みを聞いて、早速うちでもやってみました」といった声もお聞きしました。「ちょっといいな」と思うことを地域の人と仲間になってやっていただきたい。そのときはわれわれも後ろに控えています。ぜひ一緒に頑張りましょう。
(聞き手:ジチタイワークス・西田 浩雅)














