【連載】地方創生の新たな展開-岸田内閣審議官に聞く[上]人口減を受け止める転換とは。
令和7年6月、地方創生に関し今後10年を見据えた「基本構想」が閣議決定されました。過去10年間の地方創生の検証から、当面の人口減少を受け止めたうえで、地域経済の再生や関係人口の拡大を目指す新たな戦略です。ジチタイワークスでは内閣官房新しい地方経済・生活環境創生本部事務局の岸田 里佳子内閣審議官にインタビュー。「基本構想」の理念や制度設計についてうかがいました。3回連載の初回は、これまでの考え方からの転換の背景などについて詳しくお伝えします。
※インタビュー内容は、取材当時のものです。
強い経済、豊かな生活環境、楽しい日本。

― そもそも「地方創生」が目指すものは何か、あらためてご説明ください。
日本が元気であるためには、やはり地方が元気でなければいけません。日本の良さを強みとして活かしていくうえで、日本の様々なエリアの魅力を結集させる必要があるからです。その動きを進めることが地方創生の大本です。たとえ人口が減少する局面であっても、みんなで地方の力を高めていこう、より良くしていこうという動きだと考えています。
― 「基本構想」の中で目指す姿として3つの柱が掲げられています。
「強い経済」「豊かな生活環境」そして「新しい日本・楽しい日本」です。人口減少がこの10年、さらに顕著に進む見通しの中で、地方経済が自立できないと何も始まらないという考え方から「強い経済」を掲げました。次に、今まで当たり前と思っていた生活環境を維持向上させるため「豊かな生活環境」を挙げています。人手不足によりサービスがどんどん悪くなるのを防ぐためです。そして若者や女性が地方を生活圏域として選びにくい実態をクリアするため「新しい日本・楽しい日本」を掲げました。息苦しさを取り除き、魅力ある職場をつくって、暮らしの場として選んでいただきたいという思いがあります。
― これまでの検証に基づき「基本構想」が策定されたのでしょうか。
平成26年に地方創生担当大臣が設置されて以来10年間、地方創生に取り組んできました。良い動きが全国でいくつも生まれているのですが、それがものすごく広がっているかというと、そうとも言い切れません。どうしても、あの地域は特別だからとか、けん引する人がいたからとか、個別の要素から脱却できない部分がありました。今回の「基本構想」の策定にあたってはその反省のもとで、良い動きをもっと力強く普遍化していきたいという気持ちを十分込めたつもりです。
人口減少を前提とした新たな適応策を。

― 10年間の反省点を具体的にお願いします。
これまでの10年間は人口減少を食い止めるということを旗印にやってきましたが、率直に言って東京一極集中を是正するまでには至っていない部分があります。特に若者や女性が地方を生活の場として選びにくくなっているということがあります。人口の流出要因へのリーチが足りていないことが課題と考えており、そこに一歩踏み込んだのが今回の「基本構想」の特徴のひとつです。
― 人口減少を前提として受け入れるのは大きな転換ですね。
生産年齢人口の割合などを見ても当面、人口が減っていくことは避けられない。そうした事態をしっかり受け止めるということを宣言したのは従来との大きな違いだと考えています。それを前提として社会の適応策を考えていかねばならない。これまでも言ってきましたが民の力を最大限に活かす、官民連携をしっかりとやっていかねばならないということも打ち出しました。
― この転換でどのような効果が期待できるのでしょうか。
各自治体にとって、人が減るということを正面から言うのはなかなか難しい部分があるでしょう。そこに国としてメッセージを発することで、自治体の皆さまにとって心が軽くなるのではないか。国が現状をしかと受け止めると明確に発信することで、自分の地域を見つめ直し、より適切な対策を講じていただく効果が期待できるのではないかと思います。
― 逆にこれまでの成果としては何が挙げられますか。
例えば移住に対する関心がこの10年間でかなり増えているということなどがあります。「地方創生交付金」で様々な取り組みを進めてきて、たくさんの好事例が生まれてきていることも非常に大きいと思っています。地方創生という考え方、地域が自らも頑張ることが大切だという認識も非常に高まったと考えています。組織の横割りの目標としても機能しているのではないでしょうか。

― 10年間の反省点を具体的にお願いします。
これまでの10年間は人口減少を食い止めるということを旗印にやってきましたが、率直に言って東京一極集中を是正するまでには至っていない部分があります。特に若者や女性が地方を生活の場として選びにくくなっているということがあります。人口の流出要因へのリーチが足りていないことが課題と考えており、そこに一歩踏み込んだのが今回の「基本構想」の特徴のひとつです。
― 人口減少を前提として受け入れるのは大きな転換ですね。
生産年齢人口の割合などを見ても当面、人口が減っていくことは避けられない。そうした事態をしっかり受け止めるということを宣言したのは従来との大きな違いだと考えています。それを前提として社会の適応策を考えていかねばならない。これまでも言ってきましたが民の力を最大限に活かす、官民連携をしっかりとやっていかねばならないということも打ち出しました。
― この転換でどのような効果が期待できるのでしょうか。
各自治体にとって、人が減るということを正面から言うのはなかなか難しい部分があるでしょう。そこに国としてメッセージを発することで、自治体の皆さまにとって心が軽くなるのではないか。国が現状をしかと受け止めると明確に発信することで、自分の地域を見つめ直し、より適切な対策を講じていただく効果が期待できるのではないかと思います。
― 逆にこれまでの成果としては何が挙げられますか。
例えば移住に対する関心がこの10年間でかなり増えているということなどがあります。「地方創生交付金」で様々な取り組みを進めてきて、たくさんの好事例が生まれてきていることも非常に大きいと思っています。地方創生という考え方、地域が自らも頑張ることが大切だという認識も非常に高まったと考えています。組織の横割りの目標としても機能しているのではないでしょうか。
若者や女性に選ばれる地方をつくる。
― 地方が若者や女性から選ばれにくくなっているそうですが、その実態は。
景気動向や新型コロナウィルス感染症の流行など社会情勢に左右された部分もありますが、若者や女性に選ばれにくいという状況は一貫して変わっていないと厳しく受け止めています。残念ながらこれまでの10年間では改善があまり見られませんでした。男性に比べて特に女性の方が、都市圏に集中する傾向が顕著に現れています。
進みたい学校がないとか、魅力ある職場がないというのが一番ですが、そこは男女変わりません。都市部の方が各自の能力に合う仕事があり、給料も高いという要素が非常に大きいですね。それに加えて「しがらみが嫌」「人間関係が嫌」「新しい人間関係が欲しいので東京に」という傾向があり、その数値は女性の方が高いのです。地方での暮らしの楽しさをどうつくっていくのか、あるいは濃密な人間関係という課題をどうするのか、こうしたポイントに一つひとつアプローチしていく必要があると思っています。
アンコンシャス・バイアス(※)といったものが、こういった点に現れていると考えています。例えば職場改革の指導として、地元企業の社長さんなどを集めたセミナーですとか、意識改革のきっかけづくりなど、地道な取り組みを重ねていこうと考えています。気持ち良く暮らせる、という点で職場の環境改革は避けて通れない部分です。地域風土を変えていくことが極めて重要です。
― 人口減少を前提とした新たな適応策とはどういったものでしょうか。
コロナ禍を経てDXが急速に進んでいるので、生活サービスの面でもデジタル化、AI化により人手不足を補える部分は拡大しています。従来の定員では賄えないような部分について、できる限り兼務をしたり、業務をミックスできるようになったり、といった機能を発揮させたいと考えています。DX特区を通じて業務に関わる規制緩和や合理化を進めていきたいところです。
※アンコンシャス・バイアス 「無意識の思い込み」「無意識の偏見」のこと。性別や年齢、学歴などに対して知らず知らずのうちに形成される偏った見方を指す。人事評価や人間関係に悪影響を与えると指摘される。
都市と地方の「新たな結びつき」とは。
― 「都市と地方の新たな結びつき」という概念も示されました。
過去10年と大きく違うところだと思います。従来は移住の支援などに力点を置いてきたと思いますが、都市と地方の兼業やテレワークなど、体を動かすのとは違う形で交流を広げられるのではないか、もっと本格的にできる時代になったのではないか、と考えています。従来の方法では、地方同士でパイの奪い合いにしかなってないケースが非常に多いものですから、地方と多様な関わり方ができるように、副業・兼業の推進や二地域居住、そして「ふるさと住民登録制度」(※)を進めていきたいと思っています。
― 新たなつながり方について具体像をお聞かせください。
人の集中が是正されなくても、仕事の集中が是正される、というイメージですね。AI化が進んだおかげで、例えば子育て中の女性とか、時間がフルに活用できないような方々でも、地方のご自宅にいて、東京の企業の発注を受けるといった形態がすごく増えている。逆に、都会の企業人材の方が週末にはオンラインで地域の中小企業の経営指導に入る、もしくは商品開発に携わる、そして時にはカニでも食べに行かれるというような、そんな姿を想定しています。住民票は動かないけれども、経済活動やビジネスが動き、時には観光などを通じて人の動きも増えるというイメージです。
※「ふるさと住民登録制度」 住居地以外の地域に継続的に関わる人が「ふるさと住民」として登録する制度。消費活動による地域経済への貢献、ボランティアや仕事を通じた地域への貢献が想定されている。
連載第2回では、施策の実現を支える「第2世代交付金」について、第3回では具体的な「政策の5本柱」について、詳しくお伝えします。

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