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宿泊税はなぜ必要?導入目的や使い道、制度の仕組みを整理

観光・商工
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宿泊税はなぜ必要?導入目的や使い道、制度の仕組みを整理

観光需要の回復やインバウンドの増加により、清掃や混雑対策などの行政コストは恒常的に発生するようになっている。こうした費用を一般財源だけで賄うことが難しくなり、観光の受益者である宿泊者にも一部負担を求める仕組みとして、宿泊税を導入・見直す自治体が増えている。

一方で、宿泊税は「なぜ必要なのか」「何のために使われるのか」を丁寧に説明することが求められる制度である。本記事では、宿泊税の背景や目的、制度の仕組みを整理し、自治体事例を交えながら実務上のポイントを解説する。

  ※掲載情報は公開日時点のものです。

宿泊税とは?

宿泊税は、観光に伴って生じる清掃や混雑対策などの行政コストを、宿泊者にも一部負担してもらうために設けられた税である。特定の地域にあるホテルや旅館、民泊などに宿泊する際に課され、自治体が条例にもとづいて導入している。

税収は、観光振興や受入環境の整備など、地域の観光施策を支える財源として活用されている。

宿泊税は誰のための税なのか?

宿泊税は、観光施策を進めるための財源として自治体が活用する税である一方、その負担は観光の受益者である宿泊者に求める仕組みとなっている。住民向けサービスの一般財源とは異なり、観光に伴って生じる行政コストを、宿泊者・自治体・地域全体で分かち合う考え方にもとづく制度である。

宿泊税はなぜ導入されているのか?背景にある3つの理由

宿泊税は、観光客の増加に伴って生じる行政コストを、観光施策の受益者である宿泊者にも一部負担してもらうために導入された税である。

観光対応が恒常化する一方、従来の一般財源や地方交付税だけでは十分な対応が難しくなり、観光施策と財源を結びつけやすい仕組みとして宿泊税が選択肢となってきた。以下では、宿泊税が導入されている背景を3つの観点から整理する。

理由1:観光対応が恒常化し、自治体の負担が増している

インバウンドの回復や国内旅行の活発化により、自治体が担う観光対応は多様化している。 具体的には多言語案内、交通・動線整理、観光マナーの周知、混雑時の安全確保など、日常的な行政業務として定着しつつある。

特に人気観光地では、ごみ対策や混雑緩和といったオーバーツーリズムへの対応が継続的な課題となっており、自治体の負担は年々増している。

理由2:観光施策を、従来の財源だけで支えにくくなっている

観光施策には、施設整備や情報発信に加え、維持管理や運営といった継続的なコストが伴う。しかし、こうした費用を一般財源や国の補助金だけで安定的に賄うことは難しくなっている。

多くの自治体では、  住民税や固定資産税、地方交付税は主に住民向けサービスを前提とした制度であり、観光客が増えても財政規模が直接拡大するわけではない。そのため、観光振興を進めるほど、恒常的な財源確保の必要性が高まっている。

理由3:観光施策と財源を結びつけて考えやすい

宿泊税は、宿泊という行為に着目して課税する仕組みであり、観光施策と財源の関係を整理しやすい制度である。課税対象が明確で、宿泊者という受益者に一定の負担を求めやすく、徴収も宿泊料金の精算に組み込みやすい。

また、海外では宿泊税が広く導入されていることから、外国人観光客にも理解されやすい。観光政策の成果と税収が連動しやすく、中長期的に安定した財源として位置づけやすい点も、制度が選ばれている理由の一つである。

宿泊税の制度概要

ここでは、宿泊税の制度について、基本的な位置づけと仕組みを整理する。

法定外目的税としての位置づけ

宿泊税は、自治体が条例にもとづいて独自に課税できる「法定外目的税」に位置づけられる。税収の使い道は、条例で定めた観光振興に関する施策の範囲に限られており、住民サービスなどに使われる一般財源とは区別される点が特徴だ。

税額設定の考え方と徴収方法

出典:観光庁「観光地域づくり法人(DMO)における自主財源開発手法ガイドブック」

宿泊税の税率設定には、宿泊者1人当たり一定額を課す「定額制」と、宿泊料金に応じて一定の割合で課す「定率制」があり、自治体ごとに選択されている。国内では定額制を採用する自治体が多く、宿泊数や宿泊単価の増減と税収の関係が分かりやすい点も、制度設計の判断材料となっている。

また、徴収は宿泊施設が宿泊料金とあわせて預かり、後日自治体に納付する「特別徴収方式」が一般的である。

宿泊税と入湯税の違い

宿泊施設で課される税には、宿泊税のほかに「入湯税」がある。  どちらも宿泊時に目にしやすいため混同されがちだが、課税の目的と対象は異なる税制度である。

入湯税は温泉の入浴行為に、宿泊税は宿泊行為に対して課される税であり、温泉施設のある旅館では両方が課される場合もある。これは制度上想定されたもので、二重課税に当たるものではない。

項目
宿泊税
入湯税
税の種類
法定外目的税
法定税(地方税法で定められた税)
目的
観光振興に関する施策の財源確保
温泉施設の環境整備・消防対策、観光の振興など
課税対象
宿泊行為(宿泊者)
入浴行為(鉱泉浴場の利用者)
標準税率
自治体ごとに条例で定める(定額制・定率制など)
標準税額は1人1日150円(自治体ごとや宿泊・日帰りで変動する場合あり)

出典:総務省「入湯税」

全国で進む宿泊税導入の動き|自治体による使い道例

宿泊税は、観光施策の安定的な財源を確保する手段として、令和8年にかけて全国で導入が進む見通しだ。宮城県や北海道、熊本市など、約30の自治体が新たに課税を予定しており、すでに導入済みの自治体でも、税額や制度の見直しを進める動きが広がっている。

宿泊税の使い道は自治体ごとに異なるが、主に次のような事業に充てられている。

  • 観光案内所の運営や多言語対応の強化
  • Wi-Fi環境の整備や観光案内のデジタル化
  • 文化財の保存・活用や新たな観光資源の整備
  • 観光地の混雑対策や美化活動
  • 国内外に向けた観光プロモーション活動

以下では、宿泊税を導入している自治体の事例を抜粋し、その使い道を整理する。

全国の導入・検討状況(一覧)

宿泊税を導入、または導入を決定・検討している自治体の一例を整理する。税額や課税対象は自治体ごとに異なるため、最新情報は各自治体の公式サイトを確認してほしい。

導入・検討地域
税額
制度の特徴・補足
北海道(倶知安町)
宿泊料金の2%
定率制を採用。令和8年4月1日以降は3%に変更。
京都府
1人1泊当たり200円~1,000円
※宿泊料金によって変動
令和8年3月1日からの宿泊税の見直し(200円~1万円)。国内で最高額となる。
静岡県熱海市
1人1泊当たり200円  
小学生以下は対象外。
福岡県(北九州市・福岡市以外)
1人1泊当たり200円
福岡市・北九州市とそれ以外で税率が異なる。
宮崎県宮崎市
1人1泊当たり200円  
令和8年7月の導入予定。
沖縄県
宿泊料金(素泊まり料金)2%
令和8年度後半に導入予定。税額2,000円を上限とする。

※本一覧は、令和8年1月26日時点の情報にもとづいている。最新の内容は各自治体の公式サイトを確認してほしい。

東京都|宿泊税を見直し、観光施策の財源を再整理

東京都では、宿泊税について、従来の定額制から宿泊料金に応じて課税する定率制へ制度の見直しが進められている。税率は3%とし、宿泊料金の水準に応じた負担とする考え方だ。

あわせて、これまで対象外だった簡易宿所や民泊も課税対象に含めるほか、課税免除基準を「1人1泊1万円未満」から「1万3,000円未満」へ見直す方向で整理されている。宿泊形態の多様化や料金水準の変化を踏まえ、制度を現状に合わせて調整する狙いがある。

見直し後は宿泊税収の増加が見込まれており、観光スポットにおけるごみ問題や混雑対策、民泊の適正運営の確保など、サステナブル・ツーリズムを進めるための施策に活用していく考えだ。

出典:東京都「宿泊税の見直し」

愛知県常滑市|交流人口を支える財源として宿泊税を導入

常滑市では、来訪者の受入環境整備や観光資源の磨き上げ、情報発信の強化などに充てる財源として、令和7年1月6日から宿泊税を導入している。中部国際空港を抱え、旅行やビジネスを目的とした来訪者が多い地域特性を踏まえ、交流人口の増加をまちの魅力向上につなげる狙いだ。

税率は宿泊者1人1泊当たり200円の定額制で、免税点は設けていない。旅館・ホテルに加え、簡易宿所や民泊も課税対象とし、宿泊形態の多様化にも対応している。制度をシンプルに設計することで、安定的な財源確保と分かりやすい運用を両立している点が特徴である。

出典:常滑市「宿泊税について」

福岡県福岡市|県と市が役割分担する宿泊税制度

福岡市では、令和2年から宿泊税を導入し、福岡県と市がそれぞれ課税する仕組みを採用している。市内の宿泊施設では、宿泊者1人1泊につき、宿泊料金が2万円未満の場合は200円、2万円以上の場合は500円が徴収され、このうち50円は県税、残りが市税として配分される。

このように、都道府県と市町村が協調して課税する制度設計は、広域的な観光振興と各市町村の課題対応を同時に進められる点が特徴だ。県は広域観光やインバウンド対応を担い、市は観光振興条例にもとづき、都市戦略と一体となった持続可能な観光振興を担っている。

出典:福岡市「福岡市宿泊税条例の概要」

自治体担当者が知っておきたい、宿泊税導入を進める際のポイント

宿泊税の導入を検討する自治体にとって、制度設計そのもの以上に重要となるのが、関係者との合意形成や、導入後の運用を見据えた実務設計である。ここでは、各地の検討・導入事例を踏まえ、担当者が押さえておきたい主なポイントを整理する。

宿泊事業者との合意形成

宿泊税の導入では、宿泊事業者から理解を得にくいケースもある。宿泊客からの徴収や申告・納付といった事務負担が生じるほか、課税が実質的な値上げと受け取られ、競争環境への影響を懸念する声も出やすいためだ。

こうした点を踏まえ、制度の内容だけでなく、宿泊業への影響や徴収事務への支援策、宿泊税を活用して実施する施策の内容を具体的に示すことが重要となる。検討段階から関係者と意見交換を行い、目的や効果を共有しながら進めることが、円滑な導入につながる。

使い道の明確化と、継続的な効果検証

宿泊税は、使い道が見えにくいままでは理解を得にくい。地元の事業者や住民にとっても、「何に使われ、どのような効果があったのか」が重要な判断材料となる。

実施した事業の内容や成果を定期的に公表し、観光客数や満足度などの指標を用いて効果を確認していくことが重要である。使い道と成果を継続的に示すことで、宿泊税が「負担」ではなく、地域の観光を支える仕組みとして理解されやすくなる。

徴収事務を見据えた運用設計と負担軽減

宿泊税の導入にあたっては、制度設計だけでなく、実際の徴収事務を担う宿泊事業者の事務負担への配慮は欠かせない。そのため、申告や納付をオンラインで完結できる仕組みの整備や、書類様式の簡素化など、実務を前提とした運用設計が求められる。

まとめ

宿泊税は、観光に伴って生じる行政コストを補い、観光地の受入環境や魅力を維持・向上させるために導入されている税である。その背景には、安定した観光財源の確保や、住民と観光客の共存を図るという目的がある。宿泊者に一定の負担を求める制度ではあるが、その税収は地域の観光施策や環境整備を支える重要な財源として活用されている。