公務員としても落語家としても活躍し、本を出版した牧野さん。個性的な公務員として注目される彼が考える“特技を活かすこと”の意義とは。
※下記はジチタイワークス公務員特別号(2021年3月末発行)から抜粋し、インタビューの内容やプロフィールは原稿作成時(同年2月中旬)のものです。
岡山県倉敷市
観光課 主事
牧野 浩樹 さん
まきの こうじ:リクルートグループの事業会社に契約社員として入社後、3カ月で退社。2011年に倉敷市に入庁し、納税課に配属され税金徴収を担当。2013年には岡山県滞納整理推進機構に出向。倉敷市の処理困難案件の滞納整理に従事し、伝え方について研究と実践を続けた結果、1億7,000万円の徴収に貢献する。出向から戻った後は、総務部人事課を経て2020年4月より文化観光部観光課(事業継続支援室と兼務)。2016年に、広島県で活動する落語家のジャンボ衣笠に弟子入りし、「ジャンボ亭小なん」として活躍中。2020年8月「コミュ障だった僕を激変させた公務員の『伝え方』の技術」(学陽書房)を出版。
“公務員 兼 落語家”として目立つことで市にも貢献できるはず。
Q.落語家として活動を始めた理由を教えてください。
私は子どもの頃から人見知りでした。一方で、人を笑わせたり喜ばせたり、言葉で人の心を動かすことが好きでした。お笑いもよく見ていましたし、大学時代には友人と一緒に「M-1グランプリ」に挑戦したほどです。
大学卒業後は広告営業の仕事に就くも、生来の“コミュ障”がたたって3カ月で退職。その後、親の勧めで公務員を目指しました。観光に興味があり倉敷市職員となったのですが、最初の所属は納税課。徴税はコミュ障にはつらい仕事で、最初は全く役に立たなかったと思います。しかし、「どういう言葉を投げかけたら人の心が動くか」の公式を考えて実践していくうちに、徐々に成果を上げられるように。コミュ障から一転、コミュニケーションが面白いと感じられるようになったのです。そこで、「何か人を楽しませるようなことをしたい」と、話芸で人を喜ばせる“落語”を始めることに。元信金職員という経歴を持つ、人気の広島弁落語家・ジャンボ衣笠さんに弟子入りしました。
Q.落語を始めて感じた変化や、この特技が活きた場面は。
月に2回、師匠のもとへ通い、「ジャンボ亭小なん」の高座名で初めて披露したのは、約200名のお客様がいる寄席でした。初めて笑ってもらえたときは本当に嬉しく、「これが生きがいだ」と実感。また、落語は同じ噺でも落語家によって面白さが変わり、話し方のメリハリやスピードの工夫が必要です。これが、当時所属していた人事課での新人研修や採用説明会でのプレゼンに役立ちました。
そして、仕事で落語の特技を活かせたのは、平成30年の西日本豪雨のとき。担当していた避難所の閉鎖が迫り、落ち込む避難所の方を元気にできたらと、落語会の開催を申し出ました。約30名の住民を前に、古典落語「時そば」を披露。「元気が出た」との声をいただき、私も元気が出ました。すると、噂を聞きつけた他の避難所からも声がかかり、ジャグリングができる職員とタッグを組んで避難所をまわり、チャリティー落語会を開催することになりました。
Q.公務員と落語家、二刀流で取り組みたい今後の活動は。
「倉敷で落語を愉しむ会」や各地のイベントに呼んでもらって落語を披露したりと、平日は公務員、土日は落語家という日々。注目してもらえるのは、ただ趣味で落語をしているだけではなく、“公務員 兼 落語家”だからこそ。これにより私個人だけでなく、倉敷市自体も“目立つ”ので、市の知名度向上や職員志望者数の増加につながるかもしれません。このような活気づけをもっとできたらと、様々な芸をもつ職員を集めて「天領座」という演芸サークルを同僚とつくり、活動の輪を広げています。
一度きりの人生、後悔がないよう何にでもチャレンジするべきだと思います。そして“公務員 兼”という立場は、その挑戦を良い方向に導いてくれるはず。公務員だからと個性や特技を隠す必要はなく、それを活かすことが、自分の人生にとっても所属する組織にとっても、大きなメリットをもたらしてくれると実感しています。今後は“チャレンジする公務員”を増やすために、落語を活かした研修や講演に挑戦したいです。