絵の特技を活かし、業務としてイラストや漫画を描いて情報発信を行う平田さんは、森林・林業の将来を思いながら、今日も描き続けている。
※下記はジチタイワークス公務員特別号(2021年3月末発行)から抜粋し、インタビューの内容やプロフィールは原稿作成時(同年2月中旬)のものです。
林野庁 北海道森林管理局
総務企画部企画課 事業企画係長
平田 美紗子 さん
ひらた みさこ:2004年、林野庁に入庁し、群馬県の利根沼田森林管理署で係員として勤務。2005年から同署相俣森林事務所、静岡森林管理署静岡森林事務所、同表富士森林事務所で森林官として働く。2010年から5年間の育児休業を経て、2015年4月より林野庁本庁に。渉外広報班第二渉外広報係長、企画課林野図書資料館総務係長を経て、2019年より故郷・北海道へ戻り、現職(本庁企画課併任)。利根沼田森林管理署所属時に、森の情報発信紙にイラストを描いたことをきっかけに、パンフレットの作成や連載などを担当。森林官としての経験を活かしながら、イラストや漫画で林業や森に関する情報発信を行っている。
絵や漫画によって、森林・林業と外とをつなぐ“通訳者”でありたい。
Q.林野庁の中で絵を描き始めた経緯とは。
子どもの頃から「風の谷のナウシカ」に心酔し、絵を描くのが好きでした。一方でアウトドア好きな両親の影響で、森林や生き物も大好き。「ファーブル昆虫記」を読んでは、森で虫を追いかけまわす子ども時代でした。将来は絵描きか生物学者を夢見ていましたが、「絵は勉強や仕事をしながらでも学べる」と、大学では森林生物学を学び、林野庁へ入庁しました。
入庁から5年間、国有林を管理する森林官として働いていましたが、最初の赴任先・群馬県の利根沼田森林管理署管内にある、「赤谷の森」の情報発信紙「赤谷レポート」を業務外でつくったことが大きな転機に。子ども達にも分かりやすいよう挿絵をふんだんに取り入れ、森の動植物やイベント行事の紹介などを、毎月A3サイズの紙一面に水彩画で描きました。それが好評で、庁内外から絵の依頼をいただくようになりました。
正直、「職場で絵を描くなんて怒られないかな?」と心配でしたが、むしろ上司や同僚は「どんどん描いて」と勧めてくれて。育休復帰直後に本庁所属となったのも、絵のスキルがあったから。庁発行の情報誌「林野」で林業漫画「お山ん画」を連載し始めたことで、ついに絵が特技から“業務”に。絵描きの夢がこのような形で叶うなんて、思いもしませんでした(笑)。
Q.絵を描く際にこだわっていることを教えてください。
実は絵は独学で、素人に毛が生えたレベル。描き始めた頃は、「このテンはおしりが大きすぎる」「ノウサギは走るときこの方向に耳を向けない」など指摘を受けることが多くありました。そのため資料集めや取材を綿密に行い、下絵の段階で1回以上は専門家に見てもらっています。その上で、嘘ではなく、かつ難解になりすぎず、伝わりやすい絵や漫画制作に努めています。様々な分野の方と知り合いになれるのも嬉しい副産物です。
本庁異動後、所属課の仕事をしながら、前述の「お山ん画」や樹木漫画「リン子の絵日記」、職業漫画「人to木」、北海道異動後に「北海道の木のえほん」、現場漫画「林業よススメ!」などを連載。さらに、これまでの作品をまとめた「北の森漫画」を北海道森林管理局より1万部発行し、全道の公立小・中・高等学校、約1,800校に配布しました。ホームページでも作品を閲覧可能で、イラストは無償配布されています(商業利用を除く)。
平田さんの作品「お山ん画」
Q.“林野庁職員”の平田さんが絵を描くことの意義とは。
林業は、外の人からは分かりにくい世界。一方で、外の人に興味を持ってもらえないと成り立たなくなる仕事だと思います。そのため、イラストや漫画を通して林業のことを分かりやすく伝える“通訳者”でありたいなと。もちろん、外部の人に委託する方法もあると思いますが、森林官の経験を持つ私がこの手で発信するからこそ、意味があるはずです。今後の一番の目標は、林業をテーマにしたストーリー漫画をつくること。話題になった農業高校が舞台の漫画や獣医学生の漫画などのように、林業を盛り上げられる漫画を描ければいいですね。何年かかるか分かりませんが、すでにそのための取材や準備は始めています。
また、私と同じように特技を活かした情報発信を担ってくれる仲間を庁内で集めています。書道が得意な人に本の題字を描いてもらったり、小説を書ける人に森を紹介する物語をつくってもらったり、YouTube動画をつくれる職員もいます。今後、もっとこのような職員を発掘し、協働していきたいです。
公務員が“武器にできる個性や特技”を持っていることは、外への発信力や外とのやりとりにおいて、大きな強みになると感じています。所属する省庁や自治体の風土も影響するとは思いますが、自分にしかできない特技で業務に貢献するというワークスタイルが、これからもっと広がっていくのではないかと期待しています。