ジチタイワークス

東京都東大和市

持続可能な自治体経営のための行財政運営の実現

取組概要

 民間事業者の専門的な知識と経験、ノウハウ及びICTを活用して、市民部の窓口業務等を一体的(横展開)に委託したことで、サービス水準の向上と人員確保が実現。さらに、職員は公権力行使を中心とした中核業務に特化するとともに、バックヤードのそれ以外の全ての業務にBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を導入したことで、事務プロセスの合理化や効率化が促進され、労働生産性が向上した。
 また、成果検証分析、事務改善につなげるきめ細かなチェックルーチン(マネジメントサイクルの点検周期)を確立し、民間事業者とのパートナーシップで「イノベーション(「新機軸」を打ち出すこと)」を達成することで、持続可能な自治体経営のための行財政運営を実現していく。

取組期間

平成31年2月1日から令和6年3月31日まで (継続中)

※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2020」の応募事例から作成しており、本記事の内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。

背景・目的

<背 景>
東大和市においても人口減少に伴う労働力不足局面があらわに⁉出典:東大和市まち・ひと・しごと創生総合戦略

住民自治が涵養し、多様化する住民ニーズや解決が困難な行政課題が顕在化する今日、それを解決に導く体制づくりが自治体に求められている。しかし、人口減少に伴う労働力不足局面において【上表】公的部門と民間部門で少ない労働力を分かち合う必要があることを前提とした時代に「如何にして限られた資源(人材)を中核業務に専念(集中)させるか」ということは、今や自治体経営において最優先課題である。

一方、政府では科学技術の発展により2040年問題を前提にAI(人工知能)や定型業務を自動で行うRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用して事務作業を自動処理させるなど、従来の半分の職員でも自治体が本来担うべき機能を発揮できる仕組みづくりが検証されてきている。このことは先述した労働力不足局面や働き方改革への対応として大きな効能があり、超過勤務時間数の圧縮とともに、有給休暇取得率の向上が図れ、活気ある職場づくりが推進することとなる。

令和2年度からの「会計年度任用職員制度」への移行については、多くの嘱託職員及び臨時職員を抱える市民部においては、まさに“焦眉の急”となった。制度移行に伴う行政経費の拡大及び、雇用形態の制約が懸念され、そのことでマンパワーの確保に影響が出ると想定したためである。そこで、市民部としては、令和2年度からの「会計年度任用職員制度」への対応については、ICTの徹底的な活用と民間委託の推進による業務改革を進め、簡素で効率的な行政体制の実現に努めるべきであると庁内調整の席で主張した。さらに企画及び人事部門に対し、現場職員が中心となり熟考に熟考を重ね、持続可能な行財政運営の実現に向けた取り組みをボトムアップにより提言した。

当該企画立案に関しては、第一段階として、納税課において業務内容や運用方法及び民間事業者の業務水準の検証と、費用対効果として市税等滞納金の徴収及び管理業務を委託することで安定的な収納率と業務水準の確保を含めた事業成果が確認できたため、平成30年度からの「納税管理及び徴収補助等業務委託」の民間委託を実施し、1年間の検証を踏まえた後、令和2年度より第二段階として「その他の市民部窓口業務等委託(市民課、保険年金課、課税課)」について実施する計画を立てた。

<目 的>

民間事業者とのパートナーシップで「イノベーション」を達成することの目的は、人口減少に伴う労働力不足局面における簡素で効率的な行政体制を確立し、持続可能な自治体経営のための行財政運営を実現することである。BPOを導入することで業務マニュアルが作成され、業務過程の可視化が図れることとなり、全体業務からの最適化が実現する。この一連の作業で業務のブラックボックス化を防ぎ、旧来の職人芸(属人的業務)からの脱却が可能となる。さらに、ICTの活用も含めた業務委託として、RPAを縦横無尽に駆使することで、事務作業を自動処理させるなどの業務効率化が実現し、マンネリ化していた周辺業務から職員が解放されることになる。併せて、業務の合理化が図れることで、省力化そして省人化が実現し、結果として、人員の適正配置や中核業務への職員確保につなげることができる。

また、市税等滞納金の徴収及び管理の一部業務については、バックヤードにも業務委託を展開することで、累計滞納の解消と税収の安定確保を図るとともに、徴収業務のさらなる効率化を促進し、もって歳入の根幹である市税等収納率の一層の向上が実現できる。

取組の具体的内容

<業務体制>

業務体制【上図】は部署ごとに(市民課、保険年金課、課税課、納税課)チームを構成。計6チーム体制。

それぞれに人員を配置し、業務管理者及び業務副管理者以外にも、各チームには、チームリーダー及び サブ・チームリーダーが配置され、管理者層の充実を図り、労働法制に適合した業務運用にあたっている。

納税課は平成31年度。それ以外は令和2年度から、それぞれ業務委託を開始していることから、ここでは効果測定が容易な納税課を中心に検証を行う。

○納税課における民間活力の導入による収納率向上を目指す業務改革プロジェクト

納税管理及び徴収補助等業務委託では、収納管理チームの窓口担当スタッフが、職員に代わり第一線に立ち納税者の対応に当たっている。民間事業者のスタッフ7人で専従体制を敷き、このうち3~4人が窓口で税の納付や口座振替の申請、納税証明書等の発行などの業務に従事している。さらに、業務委託はバックヤードにも展開。残りのスタッフが、郵便振込の仕分けや還付などの事務を処理し、加えて、納税課への入電も民間事業者のスタッフが一元的に受電し、必要に応じて担当者に繋いでいる。続いて、滞納整理については、徴税吏員9人に、民間事業者のスタッフ10人を加え、人員を大幅に増強した。このうち、民間事業者のスタッフは電話催告のほか、これまで徴税吏員が担ってきた現年課税分の滞納整理の一部も担当。高額滞納案件をはじめとする困難案件への対応は、公権力の行使につながる納税交渉が必要となることから民間事業者には担任できないため、民間事業者のスタッフには少額な案件や、初めて滞納した等、公権力の行使につながらない範囲内で電話催告などにより、現年課税分からの累積滞納を防ぐ取り組みを行っている。

電話催告のコールセンター機能は、収納率向上を図るため「電話催告システム」の導入と同時にスタートさせた。従来では、土曜日午前の開庁時において行っていた電話催告を、平日9時から5時までフルタイムで実施している。オペレーターも民間事業者のスタッフ4人体制とした。民間事業者の持つ他自治体における受電業務実績を参考に、受電傾向やトレンドを予測し、オペレーターと共有。電話催告システムの報告書機能により、時間当たりの実施件数からコンタクト率、約束率など指標を計測。成果を検証・分析し、業務効率化につなげていくことが可能となった。従来では、1年に1度だけ業務の振り返りとなる事務事業評価(行政評価)を実施してきたが、BPO導入を契機に、きめ細かな「マネジメントサイクルの点検周期(事務改善チェックルーチン【下図】)」が、納税課における事務事業の随所に確立した。月に一度「戦略会議」を開催することで、民間事業者に対し収納率や収入額の推移を伝え、収納率向上へ向けてアプローチすべき対象や今後の施策について双方で議論する場を確保し、民間事業者とのパートナーシップを最大限活用することで、事務改善を図りながら組織力の強化につなげている。

・滞納整理を推進させる「礎」を整備

周辺業務から解放されたことで徴税吏員は、本来業務である差押え、公売、滞納処分の執行停止などの公権力行使業務に専念できる業務体制が構築される。従来の地区担当制から金額担当制(ランク制)への移行を実現。執行体制の礎を整備して徴税吏員の機動性を確保。先送りしていた長年未解決案件に着手し、その約7割を完納若しくは、分納履行監視など一定の方針を定めることができた。

・滞納整理業務の迅速化

現年課税分における速やかな滞納整理が可能となり、新規滞納の発生を防ぐ取り組みが強化できた。このことで「差押え」という業務(事務)自体が減少し、長期未解決案件に取り組める環境が、今以上に整備されることとなった。

・限られた資源(人材)を重要施策に集中させることに寄与

収納管理業務においては、正規職員が担っていた業務の一部を含めて外部委託したことから、職員定数を1名削減し、当市の重要施策へ限られた資源(人材)を集中させることに寄与した。

※令和2年度から業務を開始する他課の業務委託の概要は下記のとおりである。

○市民課業務の見直し

・市民課業務の整理
市民課では、委託を行う以前は、窓口での受付、入力、出力、交付といった流れを正規職員や嘱託職員が混在して携わっていた。これを職員でなければ実行できない公権力の行使に係る業務とそれ以外の業務に整理し、マニュアル化を行った。
その結果、窓口案内業務、住民票等証明業務、マイナンバーカード受付業務について保険年金課窓口業務、課税課窓口業務と一体で委託が可能となった。
引き続き、市で行う業務に携わる職員については、担当業務に専念することで生産性を向上させ、また、職員の研修計画を策定し、研鑽を積むことで常にスキルアップを目指し、仕事の正確性と迅速性を担保していく。

・令和2年度から市民部3課を一体的に委託することによる柔軟な体制構築
一つの課で突発的な欠員が生じた場合であっても代理の従事者が配置され、市民サービスを維持することができる。また、研修・教育の充実により、接遇の向上等で高い水準の市民サービスが提供できる。

○保険年金課における業務の見直し

・保険年金課の業務精査
国民健康保険、後期高齢者医療制度、国民年金事業の窓口業務等を、委託可能となる定型業務と、公権力の行使等にあたる業務とに整理する必要があることから、保険年金課の主管業務全体の精査を行った。
業務委託の結果、保険年金課全体で嘱託職員3名、臨時職員10名であった非常勤職員の体制は、委託後には会計年度任用職員(元嘱託職員)1名となった。

・委託業務マニュアルの作成
窓口業務等委託にあたり、各業務のマニュアルを作成した。申請受付の流れ、システムへの入力事項、注意事項等をまとめ、委託する業務の可視化を図った。

・施策推進等の業務への注力
窓口業務等委託により、職員は窓口業務対応や非常勤職員の労務管理の時間が削減され、施策推進等の業務に注力することが可能となった。このことから、懸案であった業務課題(国民健康保険資格の職権管理、後期高齢者医療制度の保険料の徴収強化等)の解決に向けた取り組みを進めている。

・職員研修
職員の研修計画を策定し、経験年数等に応じた専門研修を計画的に受講することで、職員のスキル向上を継続する。また、土曜開庁時の窓口対応を委託せず、正職員で行うことでOJTを実施し、窓口業務に関する知識の継承を図っている。

○課税課における業務の見直し

・会計年度任用職員制度を見据えた課税課全体の業務精査
臨時職員7名の業務内容について、委託する業務と職員が直接携わる業務に整理し、委託後は、会計年度任用職員2名体制で業務を行っている。

・委託業務マニュアルの作成
委託業務の実施にあたっては、事前にパソコンの操作、電話対応、個人情報の取り扱い、市税の概要等、各業務に対応するマニュアルを作成し、必要に応じて更新を行っている。

・職員研修
毎年研修計画を策定し経験年数等に応じた専門研修等を受講している。平成31年度実績として、延べ112日で63件の研修を受講した。令和2年度も昨年度と同等レベルでの研修計画を策定しているところではあるが、新型コロナウイルス感染症の影響で計画していた研修が中止、延期されている状況である。中止となった研修については、テキストを入手するなどして、経験豊富な職員が経験の浅い職員に対する勉強会などを行い、職員のスキルアップを図っている。

<委託業務におけるICTの活用>

○RPAの導入

行政事務の連続性や継続性の視点に立った際に「未来へと繋ぐツール」としてICTをどのように活用していくかが肝要だと考え、RPAの導入を図った。単純ミスの防止や、定型的な業務の自動化をはじめとする業務効率化を実現し、省力化から省人化を達成させるものがRPAである。民間事業者スタッフの逓減も視野に入れた執務環境の改善により、後年の委託経費を圧縮し、負担軽減を図るとともに、ひいては、将来的に市民部の職員定員数の見直しから組織の再編成も考量することで、追って全庁的な行政課題の解決に当たるために限られた資源(人材)の動員を可能にする大きな可能性を秘めたものである。

●RPAの活用例【※企画段階及び開発中を含む】~納税課の導入事例を中心に紹介~

RPAは、パソコン画面上の操作をルールに基づき自動的に再現する技術で、納税管理及び徴収補助業務へのRPA導入は、全国的にも先駆けた取り組みとなった。

①業務アシストロボットによる定型業務の自動化とリアルタイム更新【納税課】

催告対象者リストから、SMS・自動電話・電話催告・訪問等、どの方法で催告を行うべきか自動で振り分けし、リストを作成するものである。また、定型業務の自動化と基幹系システムなど複数システムへの同時自動更新(リアルタイム更新)も行い、事務作業の誤謬の低減と業務効率化を図り、将来的には民間事業者スタッフの逓減により、委託経費の圧縮を図る。
導入メリット
 幹系システムとの連携確保には、システム改修が必要となり、大きなコストが掛かるが、RPAであればコスト規模が小さい。

②市税等還付処理における還付情報の入力及び伝票出力の自動化【納税課】

基幹系である収納管理システムから抽出したデータを基に、同システムへの還付情報の入力及び伝票出力の自動化を実現した。1件の処理時間は3分で、年間5,000件を想定し、作業時間約250時間の削減効果を見込んでいる。

③財産調査回答データのシステム入力の効率化【納税課】

財産調査の回答内容をエクセルのワークシートに打ち込めば、RPAがそれを読み込み、基幹系である滞納整理システムの財産情報と経過記録の自動更新を行う。
これにより、事務作業の誤謬が低減すると同時に、一度に大量データの処理が可能となったことで、業務効率化が図られ、労力の削減が実現した。

④窓口サービスロボット(コミュニケーションロボット)の配置を検討 ~RPAとのロボット連携~【各課共通】

「総合窓口化」など多方面への横展開を具体化していく中で、証明書申請窓口の一元化、いわゆるワンストップサービスの実現により、窓口サービスの利便性向上を検討している。今後、窓口サービスロボットとしてコミュニケーションロボットを配置し、RPAとロボット連携により、市民部窓口業務に関連する組織をシームレスで拡張することが可能となり、バックヤードの作業時間の効率化が図られ、来庁者の待ち時間等を短縮する。

⑤ビッグデータ蓄積ロボットの活用を検討【各課共通】

ビッグデータ蓄積ロボットとして、一連の業務処理の記録(ログ)を蓄積し、AI活用時の機械学習データとして活用することも検討している。

⑥市民課申請書の一括印刷【市民課】

RPAを導入し、窓口案内業務において記載困難者の方等の申請書代理作成、一部証明書発行業務の自動化を行い、来庁者の窓口手続きの負担軽減を図る。また、窓口案内業務は従来1名で対応していたが、RPAの対応時にも通常の案内業務に支障をきたさないよう2名体制に拡充し、より市民に寄り添ったサービスを目指す。
さらに、今後、市民課、課税課、納税課の証明書受付業務について1か所に集約することとしている。複数の課の行政手続について、市民が必要最小限の移動で済む方法を検討していく。

◆市民課申請書の一括印刷(RPAの導入)イメージ
導入メリット
 請書を記入する手間や、手書き申請書の補記及び修正の手続きを省き、記載困難者等への市民サービスが向上

⑦アンマッチ該当者のリスト作成及び他自治体への回送処理等の自動化【課税課】

個人市民税の課税業務において、国税連携システムを通じて配信される確定申告書のダウンロード、基幹系システムへの取込み、印刷、基幹系システムで「アンマッチ該当」となった者のリスト作成や他自治体への回送処理等をRPAによる自動化を検討している。

☘導入一例として企画及び開発中のものを含め紹介してきたが、業務委託契約の終了時期である令和5年度までには、市民部として合計8体のRPAを稼働させることとしている。民間事業者とのパートナーシップにより窓口サービスの向上や業務効率化及び働き方改革などを視野に入れた「イノベーションツール」としてのRPAの開発を共に歩んでいく。

特徴(独自性・新規性・工夫した点)

①IT企業によるBPOの実現【各課共通】

当該業務委託については「BPO導入」と「システム導入」という2つの目的から構成されている。
本来であれば、それぞれの業務を別枠で発注することになるが、民間事業者の専門的な知識と経験、並びにノウハウ及びICTを活用し、人口減少に伴う労働力不足局面において自治体が本来担うべき機能を発揮できる仕組みを構築することで、サービス水準の向上と人員確保の実現という業務委託の目的を集約し、公募型プロポーザル方式による民間事業者の選定を実施した。
プロポーザル実施要領における参加資格と仕様書において、単独企業に限らず共同事業体を一定条件のもとで認めたことや、ICT等の導入及び開発に関する再委託を認めることとし、競争性を確保した。
結果として、システム開発ベンダーで、かつ人材派遣業務を備えたIT企業が受託。窓口業務を熟知した人材を蓄積し、業務経験から得たノウハウを十分に駆使することで、成果を追求できる事業者がパートナーとなる「IT企業によるBPO」が実現した。
パートナーシップとして役割分担するためには、本業務を円滑に遂行するための進行管理とその評価を行い、問題点の整理や企画発案を継続的に行うことができるパートナーとしてのスキルが必要であり、IT企業から繰り出されるイノベーションは、人口減少に伴う労働力不足局面における簡素で効率的な行政体制を確立し、持続可能な行政運営を具現化していくものとなる。

②業務委託従事者との連携により、繁忙期における窓口混雑の解消を図る【各課共通】

市民部の窓口業務等を一体的に委託したことで、繁忙期における相互支援の実施が可能となった。
担当課のチームのみで対応しきれない場合は、他課のチームでも窓口業務が対応できるようスタッフを育成し、有効的に共有し活用することで、繁忙期における窓口の混雑解消を図る。
また、将来構想として業務実績を蓄積しデータ分析を行い、混雑時期(曜日・天候等)や来庁者の流れ等を把握することで「繁閑分析による配置人数の最適化」の実現に向けて、民間事業者と協議を進めていく。

③ICTの活用(RPAを駆使する)【各課共通】

事務プロセスの合理化を図るとともに、RPAを駆使して事務作業を自動処理させるなどの業務効率化を実現することで、職員の本来業務である公権力行使に専念できる環境が創出できる。
RPAと言っても汎用品であれば短期間で設定できるものがあるが、働き方改革を視野に入れたイノベーションツールとしてRPAの導入を考えるならば「ボトムアップ型による開発でRPAを導入する」というパッケージで捉えることにより、その形成過程において携わった職員は、将来的にはAI導入も視野に含めた大きな展望を描くことが可能となる。
また、業務手順である「シナリオ」作成からはじまり、担当業務の「マニュアル作成」で可視化を図り、全体業務からの最適化が実現できる。この一連の作業で業務のブラックボックス化を防ぎ、旧来の職人芸(属人的業務)からの脱却も可能となる。

④5年後を見据えた長期契約を実現【各課共通】

例えば、納税管理及び徴収補助等業務委託のPDCAの実施検証には、催告対象者の動向や最適な催告方法と、それに伴う収納結果など業務年数を積み重ねることで、より多くのデータが蓄積され、データ分析を図ることができるため、少なくとも3年間は必要であると考えた。契約期間を3年間とした場合は、実施検証前に新たな契約手続きとなってしまうため検証結果の業務反映が不十分になってしまうことから「5年間」の長期契約とした。また、その他の市民部窓口業務等委託(市民課、保険年金課、課税課)の契約終了時期を納税課と合わせることで、総合窓口化など将来的な展望に対応するために、多方面への横展開の可能性を含有させることとした。

⑤業務改革を民間事業者と共に推進【納税課】

蓄積された技術的知識を有する民間事業者と「BPO」を実現し、簡素で効率的な行政体制を実現するためのパートナーシップを築き、事務プロセスの合理化及び効率化と、収納率向上を果たすためのイノベーションを民間事業者と共に進める。

⑥全国初。収納管理業務までを委託に⁉【納税課】

納税課の取り組みでは、市税及び国民健康保険税の収納に伴う現金の取り扱い、領収証書及び納税証明書の発行。郵便振込事務に伴う納付書作成から経理事務。口座事務に伴う口座登録の受付。還付事務に伴う伝票作成及び通知発送から還付支払い精算。督促・警告・予告発送事務。窓口(来庁者)及び電話(入電)による問い合わせに対する回答及び市担当者案内等、公権力の行使に関連する補助的な業務(決裁準備)を外部委託した。このような収納管理業務までも委託業務の範囲としていることは「全国初」である。

⑦フロンティアスピリッツの萌芽【各課共通】

仕様書やプロポーザル実施要項の作成などを各課選抜による若手気鋭をプロジェクトチームに任せたため、携わった職員に「事務プロセスの合理化及び効率化」というパラダイム(思考規範)の転換が図れ「優先順位で業務の取捨選択」、「集中力で勝負」、「自分の能力に限界を引かず、めげずにやり切る」との観点で仕事に対する向き合い方を捉えることができる職員に変化し「フロンティアスピリッツ(先取の気性)」が芽生えたことは、イノベーションによる非常に大きな産物となった。

取組の効果・費用

委託経費(市負担額)と収納率向上による効果額との比較

①納税管理及び徴収補助等業務委託の取組効果について

◆令和元年度市税収納率  東京都多摩地域 全26市中
 現年課税分       99.3%(昨年度数値99.2%)    +0.1㌽  15位(  5ランクアップ)
 滞納繰越分         44.4%(昨年度数値28.8%)  +15.6㌽    8位(16ランクアップ)
 総計(現年+滞繰)   98.3%(昨年度数値97.5%)   +0.8㌽  16位(  8ランクアップ)
  ※令和元年度(決算期)市町村税徴収実績における収入歩合(総計)98.3%(0.8㌽増)に相当する市税収入額は、約1億円 の増収となった。

◆市負担額と収納率向上による効果額との比較
期   間  平成31年2月1日から令和6年3月31日まで 債務負担行為(5年間)
経費総額 327,133,860円(税込)
令和元年度経費   76,422,960円(税込)※システム導入初期費用を含む
費用対効果 委託経費負担額と収納率向上による効果額との比較
「令和元年度市税収納率(総計)0.8ポイント向上に相当する市税収入額(約1億円)」から「令和元年度経費(委託料)より行政経費削減額(会計年度任用職員賃金等)を控除」を差し引き、効果額を算出すると 約5,500万円 となる。
他にも、職員の 超過勤務時間数が前年度と比較し、約2分の1となり、行政経費の削減が実現している。

②市民部窓口業務等委託の取組効果について

期   間  令和2年1月14日から令和6年3月31日まで 債務負担行為(4年間)
経費総額 357,784,460円(税込)
費用対効果 令和2年1月の導入であるため委託経費負担額と委託による効果額については未算定。
今後の窓口サービス向上と業務の合理化及び効率化により、計画的な職員定数の削減や、職員の超過勤務時間数の削減が大いに期待できる。

取組を進めていく中での課題・問題点(苦労した点)

①職員の担当業務に対する経験や知識の空洞化への対策

事務プロセスの運用までを一括して委託したため、公権力行使に関連する補助的な業務(決裁準備)に携わることが少なくなり、担当業務に関する経験や知識が乏しくなることが懸念されていたが、OJT(職場内訓練)等を民間事業者と共同開催することで基本的知識の習得や、各課で職員勉強会(QCサークル)を定例的に実施し、担当業務の知識向上を図っている。
なお、経験や知識の空洞化対策の一環として「職員研修計画」を整備し、職務経験年数等に応じ、外部研修への参加などにより、知識の標準化や組織力の向上にも努めている。

②民間事業者のパートナーシップとして役割

業務の合理化や効率化、そして省力化から省人化を図ることを目的に掲げ、パートナーシップとして役割を分担してきたため、民間事業者は、本業務を円滑に遂行するための進行管理とその評価を行い、問題点の整理や企画発案を継続的に行うことができなければならず、パートナーとしてのスキル低下は禁物である。

③既存スタッフ(嘱託職員及び臨時職員)の雇用継続を担保

業務運営を早期に安定させる観点から即戦力となる人材を確保するため、既存スタッフ(嘱託職員及び臨時職員)を積極的に採用すること、そして地域雇用促進の観点から市内在住者の積極的な雇用という採用方針が、民間事業者より示され、高スキルで高品質な人員体制の構築が図れた。

④労働法制の適正化

安定した業務運営を実施していくためには、市と民間事業者に指揮命令関係が介在しない環境、業務体制を構築することが重要であるため、業務責任者等のマネジメント職を常駐させ、市から民間事業者スタッフが直接、指示や連絡を取り合わない業務体制の構築と、物理的な区分けとしてパーテーション等によりレイアウトを設計した。

⑤個人情報の保護

個人情報及び秘密情報を取り扱う者として意識付けをしなければならないことから、セキュリティ教育として定期的に研修会とテストを実施(100%受講)することや、民間事業者とスタッフが秘密保持及び個人情報に関する誓約書を取り交わすことで管理責任及び保護意識を徹底する。
また、民間事業者の選定にあたっては、個人情報について適切な保護措置を講ずる体制を整備している事業者等の評価を示す「プライバシーマーク」が付与されている業者を選定過程において条件付け、委託受注者に対して個人情報保護に関する法律及び個人情報保護条例を遵守する契約を履行させている。

今後の予定・構想

各自治体の個人情報保護政策との整合性に留意しつつ、同一の基幹系システムユーザーなどによるクラウド化を実現することで「BPOによる行政事務の広域的な処理」が可能となり、行政サービス及び行政処分の平準化が図れるという構想を描くことができる。

また、当該業務委託の導入を契機に、職員の内面にフロンティアスピリッツが萌芽したため「2040年問題に向けた業務改革プロジェクト」を新たに立ち上げる。業務委託により備わった機能とポテンシャルを総動員し、人口減少に伴う労働力不足局面において自治体が本来担うべき機能を発揮できる仕組みを「現場職員が熟考」し、持続可能な自治体経営のための行財政運営の実現に向けた提言として、企画及び人事部門に対し、継続的にボトムアップしていく体制を構築する。

他団体へのアドバイス

今の仕事に未来への展望が描けるか?最上位計画による他部局からの過剰な要求で業務が硬直化していないか?仕事ができるエース職員は疲弊し、潰れる。そのような組織運営では、職員のモチベーションが低下し、生産性が落ちるという負のスパイラルに陥る・・・その前に、職人芸(属人的業務)からの脱却を果たし、人口減少に伴う労働力不足局面において限られた資源(人材)を「中核業務」に集中させ、持続可能な自治体経営のための行財政運営の実現していくことは、今、行政に携わる職員の使命である。

取組について記載したホームページ

東大和市公式ホームページ > くらし・手続き > 税金
 http://www.city.higashiyamato.lg.jp

問い合わせ先

東京都 東大和市 納税課
042-563-2111

 

【行革甲子園】全国の自治体の創意工夫あふれる取り組みを紹介! 記事一覧

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