ジチタイワークス

広島県福山市

「兼業・副業」で切り拓くポストコロナ時代の新しい働き方

取組概要

人口減少対策を始めとした重要な施策を効果的に推進するためには,行政だけの「自前主義」から脱却し,外部の新しい発想を取り入れていく必要がある。
そこで,2018年3月,民間企業の最前線で活躍する高度専門人材を「戦略推進マネージャー」として,兼業・副業で採用した。
戦略推進マネージャーは,民間のマーケティング手法やソリューションを活用した新たな施策・戦略を立案するとともに,自らが持つ人や企業のネットワークと本市とをつなぎ,様々な登場人物を巻き込みながら,そのアイデアを実現させている。
兼業・副業による人材の受入れは,自治体としては全国初の取組であり,メディアからの取材や他自治体への取組の波及を通じて,「多様な働き方を実現できるまち」としてのイメージの構築・発信にもつながっている。
ポストコロナ時代を見据え,地方都市への関心が高まるとともに,新しい働き方への転換が進む中,兼業・副業の促進に先陣を切って取り組んでいる。

取組期間

2017年度(平成29年度)~(継続中)

※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2020」の応募事例から作成しており、本記事の内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。

背景・目的

人口減少は,本市も例外ではなく,少子高齢化や生産年齢人口の減少を伴いながら進んでいくと推計しており,その影響は,経済や地域社会,社会保障など,様々な場面に及ぶと考えている。さらに,近年のライフスタイルの急激な変化に伴い,市民ニーズはますます多様化しており,このような状況の中,行政だけのいわゆる「自前主義」では対応が難しい局面が生じている。

このため,産・学・官・金・民協働での取組を進めているところだが,そのような連携だけでなく,行政の一員として本市が抱える課題をともに解決していける人材が必要と感じた。
しかし,人材獲得競争が激化する中、民間企業の最前線で活躍する高い専門性を持った人材を市職員として獲得することは困難である。
そこで,国が働き方改革の中で促進している「兼業・副業」に着目し,民間企業を本業に持ちながら,地方に貢献したいという強い気持ちを持った人材を募集した。

その結果,想定を遥かに上回る395人からの応募があり,当初1人の予定だったところを,5人,「戦略推進マネージャー」として採用した。
5人の戦略推進マネージャーは,約2年間の任期の中で,それぞれ本業で培った知識,経験,人や企業のネットワークを活かしながら,施策を立案し,実行に移した。このように,新しいアイデアからその実現までを戦略的に描き切ることは,行政だけではなかなかできなかったことである。

取組の具体的内容

特徴(独自性・新規性・工夫した点)

〇自治体としては全国で初めての兼業・副業による人材の受入れ 
人材獲得競争が激化する中、民間企業の最前線で活躍する高い専門性を持った人材を市職員として獲得することは困難と考え,戦略推進マネージャーの募集に当たっては,国が働き方改革の中で促進している「兼業・副業」に着目した。
平成26年度兼業・副業に係る取組み実態調査(中小企業庁委託事業)の結果によると,兼業・副業を行う人材側のメリットとして,自己実現のチャンスの拡がり等,本業の企業側のメリットとして,社員の離職防止等と報告されていることから,兼業・副業のメリットは,本市・人材・企業それぞれにあると考え,自治体としては全国で初めて,この方法により人材を受け入れることとした。
その結果,想定を遥かに上回る395人からの応募があり,当初1人の予定だったところを,5人,「戦略推進マネージャー」として採用した。

取組の効果・費用

〇新たな施策・戦略(民間のマーケティング手法やソリューションの活用)
「取組の具体的内容」のとおり

〇新たなネットワーク(市単独ではつながることが難しい人や企業のネットワークの構築)
・大手映像制作会社のクリエイター
ロケ誘致に向け,ロケ地としての福山市の魅力を分析
・首都圏のクリエイター
ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた「ワーケーション」を市内で体験
・中国の人気インフルエンサー
市内各所を巡り,その魅力をSNSで国内外に発信

〇新たな働き方の発信(多様な働き方を実現できるまちとしてのイメージの構築・発信)
・メディアで取り上げられたことによるPR効果
約2年間で74回のメディア露出(テレビ,新聞,雑誌等)
・高度専門人材を兼業・副業で活用する取組の他自治体への波及

〇市職員の意識改革
戦略推進マネージャーが任期を終えた後も,その発想に触れた職員を中心に行政・民間両方の視点を持って施策を検討するなど,市職員の意識改革が進んでいる。

〇高い費用対効果(委託により実施した場合との比較)
委託により施策を実施した場合と比較して,高い費用対効果が見込まれる。
(参考1)戦略推進マネージャーの謝礼の額(消費税改定後)
日額 25,463円(あわせて交通費,宿泊費及び日当を本市規定に基づき支給)
(参考2)2018年度決算額
9,861千円(延べ従事回数(5人合計) 161回)

取組を進めていく中での課題・問題点(苦労した点)

○庁内関連部署の理解
戦略推進マネージャーが施策・戦略を立案し,実行していくためには,庁内関連部署の協力体制が必要不可欠だ。しかし,外部の人材が市政に関わることや民間の新しい発想への抵抗感から,なかなか理解を得られない状況もあった。
そこで重要だったのが,戦略推進マネージャーに「よろず相談」に乗ってもらうことである。戦略推進マネージャーは,この相談への対応を通じて関連部署とのコミュニケーションを図れるのはもちろんのこと,福山市政の現状や課題に触れることで,その後の戦略立案に当たり,関連部署との認識のギャップを埋めることができた。
その結果,徐々に戦略推進マネージャーの活動への理解を得ることができ,関連部署の方から相談が持ち掛けられることも珍しくなくなった。

○行政特有の文化
行政は,国や県,他自治体,各種団体,地域住民などを常に意識しながら,公益性を担保しつつ,施策・戦略を検討しなければならない。また,議会議決や予算編成などの手続は,行政特有の文化である。
このような民間企業との文化の違いは,戦略推進マネージャーが活動する上で様々な障壁となって顕れることが予想された。
このため,任期開始当初,これら行政特有の文化について認識を共有する機会を持った。
戦略推進マネージャーが立案する施策等は,自らの発想に行政の視点を取り込んだ,いわば行政と民間のハイブリッド型と言える。

今後の予定・構想

戦略推進マネージャーの活動は行政内部に留めず,市内外の企業や大学等へ段階的に波及させていくこと を想定している。

なお,5人の戦略推進マネージャーは,2019年度末をもってその任期を終えた。現在は,「福山市政シニアマネージャー」に立場を移し,これまで立案した施策・戦略のうち継続案件を中心に,本市の求めに応じてアドバイスを行うなど,継続的に福山市政に携わっている。
一方で,今般,新たな戦略推進マネージャーの募集を行った。募集したのは,「ふくやまICT戦略」に基づき先端技術の社会実装に向けた施策・戦略の立案を行う人材と,福山城築城400年記念イベント等を通じて地域の活性化を行う人材である。
それぞれ1人ずつの募集に対し,延べ476人の応募があり,兼業・副業を希望する人材側のニーズは依然として高いことがうかがえる。

このような高いニーズに加え,ポストコロナ時代を見据え,地方都市への関心が高まるとともに,新しい働き方への転換が進んでおり,今こそ兼業・副業を促進するチャンスと考えている。国においても,労働時間管理に関する労働者の自己申告制の導入に向けた検討がなされるなど,兼業・副業の更なる促進が図られようとしている。
しかしながら,福山市内の企業における兼業・副業の受入れに関するニーズは高いとは言えない。
このため,今後は,戦略推進マネージャーの活用事例をモデルケースとして兼業・副業のメリットを市内企業に周知し,その受入れに関するニーズを掘り起こすなど,兼業・副業を希望する人材の受け皿整備を進める。

他団体へのアドバイス

兼業・副業で地方に貢献したいという強い気持ちを持った人材を募集するに当たり,特に留意しなければならないことは,人材側の“やりたいこと”と兼業・副業の受入れ側の“やってほしいこと”のギャップをなくすことである。
特に受入れ側は,採用後に何から取り掛かってもらうかを事務レベルで,募集前にあらかじめ整理し,選考過程において積極的に伝えることで,兼業・副業のイメージを共有することが重要だ。
幸い,5人の戦略推進マネージャーは,行政特有の文化など様々な障壁がある中,粘り強く従事してもらえたが,本市以外の事例では,採用したものの従事内容のアンマッチにより退任となるケースもあるとのことだ。
地方に貢献したいという強い気持ちに対し,受け皿をしっかりと用意することが,兼業・副業の受入れ側の使命と言える。

取組について記載したホームページ

http://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/soshiki/kikaku/147296.html

問い合わせ先

広島県 福山市 企画政策課
電話番号 084-928-1282

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