
全国の市区町村の創意工夫あふれる取り組みを表彰する、愛媛県主催の「行革甲子園」。7回目の開催となった令和6年の「行革甲子園2024」には、35都道府県の78市区町村から97事例もの応募があったという。
今回はその中から、愛媛県久万高原町の「上浮穴高等学校振興対策にかかる長い歴史と新しい取り組み」を紹介する。
※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2024」の応募事例から作成しており、内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。
取り組み概要
久万高原町では、平成16年に「上浮穴高等学校振興対策協議会」を発足。町内唯一の高等学校である愛媛県立上浮穴高等学校を存続させるため、上浮穴高等学校振興対策協議会、久万高原町教育委員会で横断的な支援として、早くから補助事業を開始している。
その中でも社会情勢やニーズに合わせて各種補助事業を展開し続けている。
背景・目的
年々厳しくなる高校の再編成基準
例1:平成25年~令和4年の再編整備基準
例2:令和5年度以降の再編整備基準
前述のとおり、高等学校の再編整備計画は年々厳しいものになってきている。特に、上浮穴高等学校からすれば、40人以下を3年続いた場合の分校化というクッションがなくなり、30人以下が3年続いたら募集停止という、とても厳しいチャレンジシステムが設けられた。
取り組みの具体的内容
町外生徒への通学補助
遠距離通学補助
公共交通機関利用距離が6㎞以上,生徒に対し、バス定期代の7割を補助。町内だけでなく、国道33号線沿いの県内中学校からの進学者を確保。
下宿補助
下宿をして通学する生徒のために下宿代の7割以内(3万円上限)を補助。上記33号線沿い以外の中学校からの進学者を確保。
町内生徒への通学補助
通学用具補助
単車購入時2万円、自転車購入時1万円、ヘルメット購入時5,000円を補助。町外だけでなく、町内で通学距離が遠い地域からの進学者を確保。
ふるさと奨学金制度
地元中学校から上浮穴高等学校へ進学した生徒のうち、成績優良者に対して毎月1万円の奨学金(返済不要)を支給。
中学校臨時部活動便の活用
土日に運行している中学校の部活動便(代替バス)に上高生が利用することを許可。
進学後の支援
就学支援金(入学準備金)
入学後の諸準備に必要な費用として、生徒1人に対して7万円を支給。
上級資格取得検定料補助
協議会の指定する検定を受験する場合、その5割を補助(合否を問わない)。
学校給食の提供(希望者のみ)
町内外を問わず、昼食に給食を希望する生徒には学校給食を提供。家庭の負担減少に貢献。
公営塾の展開
基礎学力底上げ型の久万高原町オリジナル公営塾を展開。上級学校への進学希望者数の増加に期待。
海外研修事業
ドイツでの現地研修にかかる費用の約9割を補助。
県外生徒への補助
町営学生寮の運営
定員30名、全国募集開始に伴い町営の寮を運営開始。空室がある場合は県内遠距離生徒も利用可能。
特徴(独自性・新規性・工夫した点)
協議会員の中に町長部局や教育部局の職員はもとより、議会、高校PTA会長、地元中学校長、地元中学校PTA会長がいるため、地域の実情に沿った、行政・議会・教育現場の意見の総意を照らし合わせながら方策や補助事業の内容について毎年見直しを行っている。
また、高校の振興に地域おこし協力隊ならびにそのアドバイザーを活用する自治体が多い中、同町は全事業をすべて協議会事務局(教育委員会内)が担っているため、費用対効果の面でも非常に有効である。
取り組みの効果・費用
これまで再編整備計画のチャレンジシステムに設けられた数値を下まわったことはない。また、新たな事業開始に際しては最小限の費用で行うよう徹底している。例を挙げるならば公営塾導入に際し、当初準備期間に600万円、運用開始後は2,000万円を超える運用費が必要であったところを、準備期間0円、開塾後300万円弱の予算で開始する予定である。
取り組みを進めていく中での課題・問題点(苦労した点)
今でも苦労しているのは「上高存続のためとはいえ、町外から来る生徒にばかりお金をかけて、町内生徒への補助が少ない」という声が止まず、町内生徒の上浮穴高等学校志願率が年々減ってきていることである。このことについては行政のみならず、高校とも連携を取りながら町内進学率を向上させる必要がある。
今後の予定・構想
寮について
現在全国募集を積極的に行っている県立学校は、1つの高校に対して複数寮が存在しており、その寮の運営母体も市町村や県立高校、地域と複数に及んでいるケースが多い。
同町においても、行政の寮だけでなく、地域や学校の運営する寮を展開し、今まで以上に行政・高校・地域が手を取って生徒たちを支援する仕組みをつくる。
公営塾について
本事業を地元中学生の上浮穴高等学校志願率を上げるきっかけになるよう、まずは利用者満足度を100%にし、学習する楽しさを知ることができる塾を運営していく。
他団体へのアドバイス
高校振興については現在、全国のいたるところで全国募集を行っており、特集やインターネット記事に素晴らしい事例が報告され、さもそれが正解であるかのような情報が散見されるが、それと同じ制度を導入して失敗する例を多数耳にしている。今一度地域の課題に、担当者のみならず組織全体で真剣に取り組むことが必要だと思われる。
【上浮穴高等学校に通う生徒への支援制度】
https://kamiukena-h.esnet.ed.jp/page_20190409083226
【上浮穴高校学生寮(町営寮「星天(せいてん)寮」)についての情報】
https://kamiukena-h.esnet.ed.jp/seitenryou