応援職員に聞く【災害広報】
災害時には、被災者に最新の情報を正確かつ迅速に伝えることが求められる。しかし、災害対応に追われる被災自治体にとって、こうした広報業務を行うのは容易ではない。そこで、神戸市は珠洲市への遠隔支援という取り組みに挑戦。ニーズに沿った情報発信で、被災者を支えた。
※下記はジチタイワークスVol.33(2024年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
Interviewee
神戸市 市長室 広報戦略部 部長 兼 広報官
多名部 重則(たなべ しげのり)さん
被災地からの広報支援要請に、えり抜きの職員派遣で応える。
令和6年1月14日、珠洲市の災害対策本部へ派遣中だった神戸市職員から、多名部さんのもとにメールが届いた。その内容は、“珠洲市で災害広報の支援をしてほしい”というものだった。
多名部さんは、平成16年の新潟県中越地震で内閣府の防災担当として派遣され、平成19年の能登半島地震でも神戸市の危機管理担当として現地を訪問。東日本大震災の際には避難者情報に関するシステムを構築した。こうした豊富な経験をもつが、それでも現地からの依頼内容には驚かされたと話す。「災害時の広報は失敗が許されない、極めて重要な業務。それを外部に依頼するということで、現地の切迫した状況がうかがえました」。
詳しく聞くと、珠洲市では広報担当が1人しかおらず、被災者へ迅速な情報発信ができていないことが判明した。そこで急きょ、広報戦略部から職員を派遣することを決定。「ホームページの責任者と、SNSの責任者を選出しました。技術だけでなく運用にも長けている2人が、珠洲市への貢献に適していると考えたのです。また、珠洲市の職員と人間関係を構築するのも、彼らの使命の一つ。まずは、われわれを信頼してもらうことを重視しました」。
さらに同市は、遠隔での支援体制を考案。珠洲市の要望を現地派遣の職員がヒアリングし、それを神戸市にいる40人の職員が受け取って、広報に必要な配布物などの制作に対応するというものだ。こうして、神戸市広報戦略部の全面バックアップのもと、現地とオンラインで行う複合型の広報支援が始まった。
情報弱者をつくらないために、発信の手段を多様化した。
珠洲市に派遣された2人は、まず公式LINEのメニューを災害モードへ切り替え、情報の見せ方や文言を伝わりやすいものに修正。現地で珠洲市の意向を聞き、神戸市と毎日オンライン会議を重ねながら、情報発信を進めていった。「出来上がったものは必ず珠洲市に確認してもらって、承認されたものから公開をしていました。職員が現地に行っていなかったら、この体制は成り立たなかったと思います」。
広報支援では試行錯誤も重ねた。あるとき、“新しい炊き出し情報”という文言を配信したところ、メッセージの開封率が上昇。被災者が求めているものが把握でき、その後は入浴や給水情報などニーズに沿った配信が行えたという。こうした活動は、補助金に関するチラシ制作、デジタルサイネージの活用など多岐にわたった。「情報を発信する手段は多い方がいい。災害時は情報の網から漏れる人をなくすことが重要です」。
この一連の広報支援は、“今だからこそできる”と多名部さんは語る。「コロナ禍を経て、オンラインに対する抵抗感は薄れています。もちろん現地でなければできないこともありますが、遠隔でできることも確実に増えている。前例にとらわれない視点をもつことが大切だと思います」。現地と遠隔での複合サポートという体制は、今後の災害支援において新たな選択肢になることだろう。