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後編|行革甲子園2022、結果発表!地方自治体の甲子園をレポート

地方自治体が、永遠のテーマとして取り組み続ける行政改革=行革。

各自治体がそれぞれの立場で取り組みを続けているが、そのアイデアやノウハウを共有して新たな行革推進につなげることを目的に、愛媛県が主催しているのが「行革甲子園」だ。平成24年にスタートした行革甲子園は、今年で6回目。全国33都道府県・68市町から寄せられた事例から、1次審査を通過した8団体が本会場に集結し、プレゼンテーションを繰り広げた。さらに今回は、台湾デジタル担当大臣のオードリー・タン氏による特別講演も行われた。大会の模様をレポートする。

後編では、大会ステージに立った8団体のうち後半4団体、「大分県別府市」「栃木県茂木町」「鳥取県日南町」「愛媛県西予市」のプレゼンテーションの模様をレポートする。

前半の「群馬県前橋市」「山形県山形市」「神奈川県座間市」「福島県いわき市」のプレゼンテーションの模様はこちら

■ 前編|行革甲子園2022、結果発表!地方自治体の甲子園をレポート

 

大分県・別府市
「自発・自立した組織への進化こそ、改革のゴール」

大分県別府市は、源泉数・湧出量ともに日本一を誇る温泉の郷。県内一の留学生が集まる、多様性のまちでもある。人口は11万3,000人。

発表者は企画戦略部部長参事兼CDO・浜崎さん。

 

【エントリー事例】
RPAを活用して3年、職員の負担軽減、年間6,000時間までの道のり

※引用:行革甲子園2022特設サイト

別府市では、令和元年度からRPAの活用をスタートしている。34業務でスタートしたRPAは、令和3年度には87業務にまで拡大。RPA活用による縮減時間数は1,715時間から6,000時間に増加している。

別府市役所のRPAへの取り組みは、平成30年度に保険年金課からの依頼があったことに始まる。保険年金課は日中は窓口業務があるため、定例作業は時間外に行わざるを得ない状況だった。令和元年度には税部門、2年度には福祉部門を中心にRPA適用を拡大。3年度には全庁に展開した。4年度になると、「パソコンを利用する定例的な業務は、RPAを利用するのが当たり前」というスタンスで業務にあたるようになっている。

これを踏まえ、別府市役所はRPA活用のポイント①を「徐々に頂上を目指す」とした。「RPAってなに?」という認識の職員がほとんどのところからスタートすることになるので、トップダウンではとても浸透しない。丁寧に説明し、要望のヒアリング、RPAのシナリオ作成など、運用開始に至るまでのプロセスをきちんと踏んでこそ、職員から受け入れられるようになる。

ポイント②は、「導入を予定する課の職員全員に説明を行う」。導入する課の職員に対し、少人数の説明会を何度も行い、RPAの機能やRPAを活用することでどう業務を簡略化できるかを理解し、考えてもらう。そして、業務調査票にRPAを活用したい業務の詳細を記入してもらう。この業務調査票の作成を通じて自分の仕事を再確認することができるのだ。

そしてポイント③、「情報部門へ直接要望する」。情報部門は要望を受けてRPA運用シナリオをつくり、実際に運用がスタートする。すると、稼働状況を見ることでほかの職員のRPAへの理解が深まり、さらにRPAを導入しようという機運が高まる、というわけだ。

また、情報部門はRPA導入効果の大小にかかわらず、要望があれば全て対応していく方針となっている。RPAのシナリオは、全87シナリオ中72シナリオ(82%)を情報部門の職員が作成する、高い内製率を実現している。情報部門でRPAを担当しているのは2名。担当する人材の育成は、実際のRPA運用を担当し、既存シナリオを確認しながら知識・経験を積むことで実現している。

ポイント④は、「まずは、内製で」。シナリオ作成を内製で行うメリットは、スピード感と費用対効果。日々発生する需要に即座に対応するには、内製化は不可避だ。

RPA導入によって発生した費用対効果額は、2,175万1,856円と試算されている。実際に削減できた費用に加え、縮減時間を金額換算したものだ。

別府市は、RPAを活用する目的を「自発的に業務改善を実施できる、自立した組織風土の醸成」と考えている。自分の業務を自分でラクにすることができる、自発・自立した組織への進化こそ、別府市が進める改革のゴールだ。

 

栃木県・茂木町
「できない・やらないではなく、できる手段を考え続けた地方公務員の挑戦」

栃木県茂木町は、モータースポーツのメッカ「ツインリンクもてぎ」を擁する人口1万1,432人の町。東京都心から100㎞圏内と地の利もよく、交流人口は年間310万人を誇る。移住相談件数は栃木県内第1位だ。

発表に立つのは農林課主査・東海林(しょうじ)さん。

 

【エントリー事例】
地方公務員が一般社団法人を設立して町の財源を生み出す@栃木県茂木町~20 年後の子どもたちに住みよい環境を創るため~

※引用:行革甲子園2022特設サイト

東海林さんは2020年春、自ら地域商社・一般社団法人Social Up Motegiを立ち上げた。自ら稼ぎ、利益をつくり、まちの財源に還元する。縦割りの行政組織に横ぐしを刺し、職員の意識を変革することに成功したという。東海林さんは、「皆さんにとって、仕事とは何でしょうか」と問いかけるところからプレゼンをスタートした。「私たちが良いと思った事業を、職場の決済なしで実行できる組織をつくりたい」。それが、一般社団法人Social Up Motegiを立ち上げた動機だったという。

東海林さんは、まちづくりの主役は「郷土愛を持った20年後の子どもたちだ」と考えるようになった。そのために、町の資源を活かし、収益を生み、町の財源に還元することを目的に、一般社団法人を立ち上げたのだ。 

東海林さんたちがぶつかった最初の壁が、自分たちが地方公務員だという事実だ。地方公務員法第38条の規定で、任命権者の許可を受けなければ営利企業を経営したり、報酬を得る事業に従事したりすることはできない。そこで、この規定にかからない「非営利・無報酬」の一般社団法人という形態を選んだ。さらに利益の半分を次年度の事業費、もう半分を町に寄付することで、公務員が自ら稼ぎ、町の財源を確保するという全国初の団体をスタートしたのだ。 

次の問題が、設立費用などの初期費用をどうするか。4名の参加者が3万円ずつ拠出し、12万円の資本金をもってスタートしたが、これでは事業費用には全く足りない。そこで、クラウドファンディングを実行。クラウドファンディング開始から2週間程度で目標の50万円を達成し、最終的には60万円を超える資金を確保することができた。

そしていよいよ、取り組む事業について。茂木町内には、全国的にも珍しい放牧黒毛和牛農家がいるが、商品化できていないという課題があった。「これまで市場に出荷していた肥育牛を、独自の販路をつくりブランド化したい」というニーズに応えるため、一般社団法人Social Up Motegiとタイアップしてクラウドファンディングに取り組んだ。オンラインでの周知や道の駅でのイベント開催などを通じ、終了4日前になんとか目標達成にこぎつけた。無事出荷された牛は、「もてぎ放牧黒毛和牛」ブランドを背負って新たな販路獲得に成功した。

東海林さんは、「自分は特別なことをやっているつもりはない」と話す。仲間の協力と就職したときの志があれば、公務員の仕事と一般社団法人の仕事は十分に両立できるという。事業を進めていくと、継続していくために利潤を追求する必要があるため迷う場面もある。そのとき考えるのは、「20年後の子どもたちのためになるか」ということ。やらない理由を探すのも、枠にはめるのもやめよう。前例踏襲、年功序列、縦割りが基本……それでいいのだろうか、東海林さんはそうは思わない。志という原動力と一般社団法人という手段があれば、地方公務員でも地域を改革できる可能性を持っている。

東海林さんは「引退するときに、『町が少し良くなったね』と言われるようでありたい」という。事業規模の目標は1億円だ。「できない、やらない」ではなく、できる手段を考え続ける。東海林さんのチャレンジはまだ始まったばかりだ。

 

鳥取県・日南町
「まちの資源を守り・育て・活用し、財源確保。未来へとつなげる」

鳥取県日南町は、鳥取県西部にある人口4,188人の町。道後山、船通山など標高1,000メートルを超える山が連なる、中国山地の山あいの郷だ。過疎と少子高齢化が進行し、「30年後の日本の姿」として多くの学術機関のモデル地域となっている。

発表に立つのは農林課主任の荒金さんだ。

 

【エントリー事例】
脱炭素で地域事業者のサステナブル経営を後押しする SDGs未来都市の挑戦

※引用:行革甲子園2022特設サイト

日南町は、令和元年7月に基幹産業である林業を基軸とした「第1次産業を元気にするSDGs~にちなんチャレンジ2030」をテーマに、SDGs未来都市に選定された。日南町の山地には、戦後スギ・ヒノキなどが植林され、山林の6割が人工林となっている。現在、それらの多くが伐採の時期を迎え、鳥取県の素材生産量の約30%に至っている。

その一方で、人口流出や高齢化の影響で、これまで町の主要産業だった林業は担い手不足・後継者不足に陥っている。こんな状況の中で、町の財産・資源である森林を持続可能な形で守り、育て、活用するための財源確保を目的として、平成25年度から「企業と連携し森を守る“J-クレジット”制度」を採用・参入することになった。

J-クレジット制度は、森林における二酸化炭素の吸収量を認定し、売買を可能にした国の精度。日南町ではクレジットの売り上げを林業振興・生態系保全に活用している。

日南町町有林のJ-クレジット販売実績は2020年度から大きく伸び、21年度は103社にt-CO2量で1,974トンを販売した。販売額は約1,700万円。日南町のような自主財源の小さな自治体が100社を超える企業と取引を結んだり、2,000万円に迫る売り上げを実現するのは素晴らしいことだ。J-クレジットの販売では、地元の地方銀行と連携も行っている。

また、J-クレジットで取引を行っている企業とは必ず調印式を行い、町の公式ホームページで取り組みを紹介。企業側にとってもメリットのある形での情報発信に力を入れている。

日南町は、町営の林業学校「にちなん中国山地林業アカデミー」(定員10名・1年制)を設置し、林業の担い手を育てる試みも進めている。町立の林業学校は全国初の取り組みだ。森林の教育への活用は人材育成にとどまらず、都市部の子どもたちに森林に触れてもらう取り組み、修学旅行・教育旅行の誘致など、幅広く行っている。

 

愛媛県・西予市
「どんな働き方をしたいかを職員全員で考える」

トリを飾るのは、愛媛県西予市。四国地方南西部に位置し、西は宇和海から東は四国カルストまで東西に長く広がる人口3万5,560人の町。海沿いから標高1,400メートルの四国山地まで、多様な自然景観を有している。

発表者は政策推進課・山村さんだ。

 

【エントリー事例】
働き方改革を実現するオフィスの空間づくり~withコロナ時代における自治体経営改革~

※引用:行革甲子園2022特設サイト

西予市が目指す働き方は、「市民と職員の双方がハッピーな窓口の実現」「考えをすぐに共有できる」「仕事が効率化できている」「フレキシブルな働き方」の4点。これを目指し、平成26年度からコツコツと歩みを進めている。

袖机を強制的に撤去することでペーパーレス化を進め、民間と連携してオフィス環境を整備する中で、「オフィスの環境整備は働き方改革につながる」という確信を得た。平成30年の西日本豪雨の影響でオフィスの環境整備はいったんストップするが、新型コロナウイルス感染症の影響でオフィスと働き方の双方が大きく変わる必要に迫られる。

これを経て、現在の西予市は
・全フロアWi-Fi導入
・全職員ノートPC
・全職員デュアルモニター
・協議はPCで行う(ペーパーレス)
・部長室なし
・袖机なし
・引き出し付きの机なし
という環境を達成。

当初、職員は懐疑的。マイナスの意見も多く出たという。オフィス改革実現のためにプロジェクトチームを創設し、ワークショップを開催して「理想の働き方」のイメージを磨き上げ、議会や市民、職員などのステークホルダーには何度も丁寧に説明を行う。

また、幹部級の職員にもマネジメントのレクチャーを行い、意識の向上に努めた。「頼みやすい部下にだけ仕事をお願いしない」「事業廃止の背中を押してあげよう」「引継ぎを意識したデータ管理をしよう」など、ここから生まれたノウハウを標語として共有した。

さらに、実際に新しい働き方を実現している中央の官庁やコクヨ、Google、サイボウズなど民間企業への視察を繰り返し、「新しい働き方」をリアルなイメージとして持てるようになった。働き方が改善されたことで、結果として受益者である市民に対するサービスの向上にもつながったという。

様々な施策のためにかかったコストは1億8,436万3,000円。うち、交付金は1億3,505万1,000円と、73.3%を新型コロナ交付金などで賄うことができた。50%を目標にしたペーパーレス化は現在38.3%、コピー機使用料はピーク時の2,220万円から1,460万円となり、760万円の削減に成功した。WEB会議の推進により、本庁~支庁間の移動費・人件費など741万円が削減できたと推測されている。

今年度は個人の携帯電話を内線電話化するクラウドPBXを導入予定。これにより、固定席にとらわれず業務内容に応じた働き方ができるようになる。働き方を変えることに不安を感じる職員は多いが、粘り強く説明し、「どんな働き方をしたいのか」を職員全体で考えることが改革のポイントだという。

 

表彰式、行革甲子園2022のグランプリは栃木県茂木町に!

以上で、発表は全て終了。審査員が審査を行うあいだ、台湾・デジタル担当大臣のオードリー・タン氏による講演「台湾におけるデジタル化の取り組みについて」(※事前録画)が行われた。

「デジタルと民主主義を組み合わせることは、タピオカミルクティーと似ているかも知れません」というユニークな比喩から始まった講演は、台湾ではインターネットと総統選挙が同じ年に登場した、つまりデジタル技術と民主主義は自然と一体だったことを明快に解き明かしてくれた。

デジタル民主主義の社会では、少数のリーダーがしゃべって大衆がそれを聞くのではなく、全ての人々がお互いの意見を聞き、発言しあうということ。台湾では政策プラットフォーム「Join」で、全ての人々が法律につながる提案をしたり、施行される法令を閲覧し、意見を送ることができる。実際に、Joinの提案によって法律が制定されたり、修正される例も少なくない。市民が政治に参加する仕組みが、実際に動いているのだ。

 

さて、審査発表だ。オンライン投票で最多投票を獲得したのは愛媛県西予市。審査員長特別賞には鳥取県日南町。そしてグランプリには栃木県茂木町が選ばれた。

 審査員長の椎川忍氏は、講評として「一昔前の行革というと暗い感じがあったが、皆さんが新しいことに生き生きと取り組んでいること、それが行政だけでなく世の中を変えることになるんだという意気を感じました」と述べた。


 

グランプリの茂木町については「通常の行革とは少し違った、職員の行動様式や意識を変えることで、住民と職員を一体にしようとしている」と高く評価した。一方、プレゼン手法については「原稿読み上げでは気持ちが伝わらない」と厳しい意見も呈された。


行革甲子園2022も、様々な角度で行政改革に取り組んでいる事例が集まった。「互学互習」の心構えで、それぞれの自治体での取り組みに期待したい。

 

【行革甲子園】全国の自治体の創意工夫あふれる取り組みを紹介! 記事一覧

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