ジチタイワークス

【前編】実践!型から学ぶ滞納者対応のコツとテクニック!

本年度も早いもので、気づけば3月。この時期、多くの公務員が「人事異動」について考えるのではないだろうか。多種多様な仕事がある自治体現場での人事異動は、しばしば「転職」と称されるほど。これまでの経験が活かせず途方に暮れるといった話を耳にすることも多い。

そこで、ジチタイワークスでは『自治体シゴトのテキスト』という企画をスタート。少しでも皆さんの支えとなるよう、多種多様な自治体業務について、その業務に精通している方にやりがいや魅力、仕事のポイントについて紹介いただく。

前回の”知る”編では、岡元さんの「辞めたい」が「天職」に変わったきっかけに触れるとともに、滞納整理の価値を列挙してくださった。皆さんの「心のサイドブレーキ」は、無事に解除されただろうか(まだ読まれていない方は、ぜひ先にそちらを読んでほしい)。

第2回では、”実践”編とのこと。長きにわたって滞納整理の現場で実践を重ねてきた岡元さんのテキストに書かれた内容は、きっと皆さんの現場でもすぐに使えるはず。ただ読むだけではなく、皆さん自身のシゴトのテキストにコピー&ペーストして、実際に使ってみよう。
 

【自治体シゴトのテキスト、「滞納整理」を学ぶ】
(1) 基礎編|滞納整理の“やらず嫌い”を克服するためには?
(2) 実践編|実践!型から学ぶ滞納者対応のコツとテクニック! ←今回はココ
(3) 応用編|滞納者対応を極めるノウハウとは?

※著者の所属先及び役職等は2022年3月公開日時点のものです。
※各記事の掲載情報は公開日時点のものです。

滞納整理の実践における「優しさ」に必要なカスタマイズ

前回は、「滞納整理の前に、まずはあなたの心を整理しよう」ということをお伝えしましたが、いかがでしょう。多少は心の整理ができましたか?繰り返しになりますが、人間は機械ではありません。感情に左右される、血の通った動物です。法律に指示されたとおり正確無比に行動できるわけではないんですね。

動物が火を恐れ避けるように、滞納整理に負のイメージを抱えたままでは、いちいち心が本能的に滞納整理を避け、目指すべき目標・果たすべき役割から遠ざかってしまいます。すぐには難しいかもしれませんが、徐々に心のサイドブレーキを解除して、安心してアクセルを踏める状態にしていきましょう。

さて、今回は”実践”編ということで、私が滞納整理業務12年間の中で積み重ねてきたノウハウを共有します。できる限り皆さんが求める内容を提供したいと思いますので、本題に入る前に少し、需要と供給のマッチングにお付き合いください。

私は全国で滞納整理の研修講師を務めていますが、北は北海道から南は沖縄まで、場所は違えど、職員にはある共通の悩みがあります。それが、「滞納者対応が不安」というもの。そうした不安からか、研修に寄せられる質問には、

○ 高圧的・威圧的な態度の滞納者に強く言われ、言いなりになってしまう
○ 窓口や電話口で怒鳴られて頭が真っ白になり、こちらに不利な条件を飲んでしまう
○ 約束を破った滞納者に厳しく対応できず、甘く接してしまう
○ 高齢の滞納者に対して遠慮してしまい、言うべきことが言えない
○ 反発を恐れて差押や捜索、裁判所申し立てなど厳しい処分に着手できない
○ 無視・放置する滞納者にどう対応していいか分からず、手を焼いている


こういった内容が多いです。皆さんも、似たような悩みを抱えていませんか?自治体職員は基本的に「優しい」方が多く、こうした悩みを抱えるのも当然と言えます。かくいう私自身、「3分の2は優しさでできている」と自負し、某風邪薬よりも高い割合で優しさが配合された男ですから、その葛藤はよく分かります。

「人の痛みが分かる」「つらい気持ちに寄り添える」という資質は自治体職員にとって非常に重要な能力であり、ぜひ皆さまにも大切にしていただきたいのですが、滞納整理現場においては、その「優しさ」に対して「本当の優しさは、時に厳しい」「良薬口に苦し」といった要素を加えてカスタマイズする必要があります。滞納整理の実践にあたって、まずはここをしっかりと押さえてください。

話を戻して、滞納整理における不安の大半が、この「滞納者対応」にたどり着きます。

・・・ということはつまり、この「滞納者対応」をしっかりと押さえておけば、滞納整理への不安がほぼ解消されると言っても過言ではありません。従って、今回の”実践”および次回の”極める”パートでは、限られた文字量の中で最大の効果を生み出すべく、この「滞納者対応」の不安に寄り添うことに特化します。

督促や催告、財産調査や差押など、滞納整理において重要な業務は数々ありますが、それらについては拙著「現場のプロがやさしく書いた自治体の滞納整理術」で学んでください!(ちまたでは、「本の営業をゴリゴリ仕掛けてくる」でおなじみの男です)

 

『型』から学ぶ納付折衝

「型にハマった」「紋切り型」「ステレオタイプ」など、「型」というものを否定する言葉は多々ありますよね。ただ、日本には古くから「守破離」という考え方があり、特に芸事や武道において、まずは決められた一つの型を忠実に学び(守)、自分なりの解釈を加え(破)、新しい型をつくっていく(離)という3段階を経る技能習得の筋道があります。

私は、この古来の手法を参考にして「岡元式納付折衝」という一つの型をつくりました。なお、「納付折衝」とは徴収職員の「早期に完納してほしい」という要望と、滞納者側の「すぐには納付できない」という正反対の意向に折り合いをつける交渉のことを言います。「岡元式納付折衝」では、滞納者とのファーストコンタクトから最後に見送るまで、以下の流れに沿って対応を進めます。

12年間、滞納者対応をする中で、自分なりに効果があったと思われる対応を整理して、この型が生まれました。まずは、この型に沿って滞納者対応を繰り返して経験を積み、その中で自分なりのスタイルを確立してもらえたらと思っています。

なお、芸事や武道には「○○流」という流派があります。もしも、私の型が合わない場合は、他の方をモデルとしてください。自分に合った流派を探すことをオススメします。では、それぞれについて詳細に説明していきましょう。

1.相手に余裕を示し、ペースを握る「あいさつ」

交渉事の鍵を握るのは、交渉者の「余裕」です。そして、そうした余裕が生まれるには一定の経験(場数)が必要でしょう。皆さんは、「ドラゴンボール」をご存じでしょうか?あの漫画の中で相手の戦闘能力を測る「スカウター」というメガネ型の道具が出てくるのですが、滞納者は(いや、滞納者に限らず市民はすべからく)、この「スカウター」を備えていて、常にあなたの態度から伝わる「余裕」がチェックされていると思ってください。余裕がない(=戦闘力が低い)ことがバレると「こいつには勝てそうだ」と判断され、相手の態度はより強気になり、高圧的になります。

逆に、「こいつ、なかなかやるな」と思わせることができれば、一定のこちらのペースで話を進めることができるのも事実です。この「余裕」を測るスカウターの存在を前提としたときに、「相手の目を見てあいさつできる」というのは「余裕の表れ」として相手に映ります。たとえ経験値が低く、内心は焦っていたとしても、「目を見てあいさつをする」という行動を取ることで相手に余裕を見せると同時に、こちらの気持ちを整えましょう。

あいさつの際、「本日は貴重なお時間を使ってお越しいただき、有り難うございます」等と、相手の時間(=人生)に配慮するひと言を添えると、相手に与える印象も変わります。人間には、「自分が大切に扱われた場合、その相手に丁寧に接したくなる(返報性の原理)」という自然の摂理が備わっています。その観点からも、この「あいさつ」は非常に重要です。
 

2.「本人確認」と「滞納状況確認」で死角をつぶす

滞納整理業務において、職員は法律上、圧倒的に強い立場にあります。滞納者は「定められた納期内に納付しない者(ルール違反者)」であり、法律の規定に従って滞納者の財産を処分することも可能です。そんな徴収職員に死角があるとすれば、「個人情報の流出」や「滞納額を正確に伝えなかったことによる行き違い」です。ここでは、これらの死角をつぶすために、相手の本人確認を適切に行い、滞納状況をしっかりと確認します。
 

3.常に「一括納付」を要求する

「滞納者は全体の数パーセントしかおらず、90%を超える大半の方が何も言わず納期内納付をしてくださっている」

これは、滞納整理における心構えの一丁目一番地。すべての滞納者対応の基本となる認識です。紙に書いて職場の見えるところに貼り、毎朝必ず復唱してください。携帯の待ち受け画面にしてもらってもいいかもしれません。それぐらい重要なことです。100人いれば100通りの人生があり、それぞれが課題や問題を抱えながら生きています。本当に苦しい状況の中でも、税金等の決められた金額を決められた納期までに納期内納付をしてくださる方がいます。そして、そのような方が大半を占めているわけです。

そうした方々の気持ちを考えたときに。滞納者に対して「納期限なんて気にせず、あるときに払ってくれたらいいですからね」なんて、口が裂けても言えませんよね。

市民の大半を占める納期内納付者の声なき声に応えるべき職員の立場として、滞納者に対しては「苦しい状況は分かりますが、納期限が過ぎているものについて一括で納付することはできませんか?」と一括納付を要求するべきだと思うのです。もちろん、相談に来られた方の気持ちを尊重した上で、伝え方は丁寧にすべきですが、求めるべきことはしっかりと求める必要があります。

「対応はソフトに、要求はハードに」これが、納付折衝における基本姿勢です。

一括納付を伝えたときに、滞納者がしばらく黙ってしまう場合もあります。長い沈黙を恐れて、「じゃあ、分割納付でどうですか?」と自ら提案してしまいたくなる衝動にかられますが、この沈黙には耐えてください。滞納者自身が「どうすれば一括納付できるか」真剣に考えている場合もあるからです。そのときに「分割納付」という余計な助け船を出せば、乗るに決まっています。本当なら自力で完納というゴールまで泳いでたどり着けたかもしれないのに、あえて楽な道を選ばせ、問題を先送りにする愚行と言えるでしょう。

当然、「一括納付が苦しいから、こうして相談に来てるんだろ!」と怒る方もいますが、想定内です。その場合、「では、なぜ一括納付ができないのか、詳しく教えてもらってもいいでしょうか?」と続けることで、次の「収支状況確認」へとスムーズに移行できます。

私は過去に最初から「収支状況を聞かせてください」とお願いして、「なぜ、そんなことを聞かれないといけないのですか?」と断られた経験がありますが、この「一括納付を求める」→「断られる」→「収支状況を聞く」という順番では一度も「なぜ、そんなこと…」と言われたことはありません。これは「ドア・イン・ザ・フェイス効果」と呼ばれる交渉テクニックを取り入れたものであり、「最初にほぼ断られるであろう大きな要求をした後に、小さな要求をすることで、小さな要求が通りやすい」という心理学的な効果を活用しています。

成功すれば一括納付につながるし、成功しなくても次のステップへとスムーズに進める。「一括納付を要求する」ことはどちらに転んでも有利に働く一手です。「使わない」という選択肢はないでしょう。

 

※後編では、「実践!型から学ぶ滞納者対応のコツとテクニック!」の続きをお届けする。

 


プロフィール

岡元 譲史(おかもと じょうじ)さん

寝屋川市 経営企画部 企画四課 課長代理兼係長(元 滞納債権整理回収室 係長)
1983年生まれ。2006年に同市入庁後、12年間にわたり、様々な債権の滞納整理に従事し、市税滞納額70%(約25億円)削減に貢献。2020年より現職。
「滞納整理に価値を見出して伝えることで、受講者の不安や葛藤を取り除く」という独自スタイルによる研修を全国で実施し、6年間で延べ3,700人が参加。受講者が給食費の滞納ゼロを達成するなど、すぐに使えて再現性の高いノウハウを伝えている。執筆に、「滞納整理のための空地・空家対策」(『税』2018年3月号)など。「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2018」受賞。プライベートでは2男児の父。PTA会長を務めるなど地域の活動も行う。


著書

現場のプロがやさしく書いた 自治体の滞納整理術』(学陽書房)

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