ジチタイワークス

【後編】実践!型から学ぶ滞納者対応のコツとテクニック!

本年度も早いもので、気づけば3月。この時期、多くの公務員が「人事異動」について考えるのではないだろうか。多種多様な仕事がある自治体現場での人事異動は、しばしば「転職」と称されるほど。これまでの経験が活かせず途方に暮れるといった話を耳にすることも多い。

そこで、ジチタイワークスでは『自治体シゴトのテキスト』という企画をスタート。少しでも皆さんの支えとなるよう、多種多様な自治体業務について、その業務に精通している方にやりがいや魅力、仕事のポイントについて紹介いただく。

前回の”知る”編では、岡元さんの「辞めたい」が「天職」に変わったきっかけに触れるとともに、滞納整理の価値を列挙してくださった。皆さんの「心のサイドブレーキ」は、無事に解除されただろうか(まだ読まれていない方は、ぜひ先にそちらを読んでほしい)。

第2回では、”実践”編とのこと。長きにわたって滞納整理の現場で実践を重ねてきた岡元さんのテキストに書かれた内容は、きっと皆さんの現場でもすぐに使えるはず。ただ読むだけではなく、皆さん自身のシゴトのテキストにコピー&ペーストして、実際に使ってみよう。
 

【自治体シゴトのテキスト、「滞納整理」を学ぶ】
(1) 基礎編|滞納整理の“やらず嫌い”を克服するためには?
(2) 実践編|実践!型から学ぶ滞納者対応のコツとテクニック! ←今回はココ
(3) 応用編|滞納者対応を極めるノウハウとは?

※著者の所属先及び役職等は2022年3月公開日時点のものです。
※各記事の掲載情報は公開日時点のものです。

『型』から学ぶ納付折衝

※1~3は「【前編】実践!型から学ぶ滞納者対応のコツとテクニック!」でご紹介。

4.「収支状況確認」で滞納者の課題を可視化する

私も長年、滞納整理に携わっていますが、「朝起きたら、いきなり滞納者になっていた」なんて人には出会ったことがありません(もし皆さんが今後、出会ったら教えてください)。基本的に地方税や国民健康保険料等は法律上、その方が負担可能な金額を賦課しているはずであり、滞納に至るには、必ずそこに何かしらの”原因”があるはずです。滞納者の収支状況を確認し、滞納の原因を特定し、金銭上の課題を洗い出す。滞納解消のためのロードマップは、ここから始まります。

滞納に至る主な原因・課題と対応方針を簡単に列挙しておきます。

○ 財産があるにも関わらず納付しない者(怠慢・行政不満)
 ⇒ 速やかに財産差押さえの上、換価して滞納金に充当

○ リストラ・転職・事業の不調等に伴う前年度からの収入減少
 ⇒ 減免規定があれば適用検討。差押可能財産がない場合は滞納処分執行停止も視野に

○ 消費者金融からの借入れおよび返済
 ⇒ 弁護士等専門家と連携し、債務整理させる

○ 分不相応な高額支出(高額な住宅ローン、車のローン)
 ⇒ 不動産等の財産差押さえの上、ローン以外の支出を抑制し、分割納付させる。抜本的な解決策として不動産や車を手放してもらうことも検討

○ 小さな出費の蓄積(光熱水費無駄遣い、高額なスマホ代、たばこ代、過剰な習い事等)
 ⇒ 節約指導。小さい改善も重なれば月10,000円、年間120,000円になり、完納へ近づく

○ 妻・夫の使い込み
 ⇒ 速やかに2人で話し合って解決させる

○ 別れた元妻・元夫と子への養育費支払い
 ⇒ 滞納完納まで支払額を調整可能か相談してもらう


※上記いずれの場合も可能な限り相談には乗るが、滞納者自身での問題解決に期待できない場合は、やむを得ず財産の差押さえ等、強制徴収を行うこと。

 

5.納付計画検討

現在の滞納額および滞納者の収支状況を踏まえ、滞納を完納するまでの道のりを具体的な計画に落とし込んでいきます。当然、計画期間は短ければ短いほど良いです。当初の要求である「本日一括納付」をスタートとして、明日、1週間後、1カ月後、3カ月後・・・と基本的には細かく刻んでいくものであり、安易に「じゃあ、3年計画で様子を見ましょう」と長期計画を認めてしまうのは望ましい対応ではありません。

なお、滞納額が大きく、滞納者の収支状況も厳しい場合、月々の納付金額が確保できず、どうしても1年を超えるような長期計画になってしまうことがあると思います。このような場合であっても「このままでは完納までに1年以上かかります。いったん、3カ月間は月々○○円を納付していただきますが、1日でも早く滞納の状態から脱していただきたいので、3カ月後に改めて相談に起こしください。それまでに、こちらも財産調査をしておきます。」というように、「長期計画を安易には認めない」姿勢を示すことが重要です

 

6.滞納に伴う不利益の説明

最後に、「滞納の状態は、こんな不利益(嫌なこと)があるよ」ということを丁寧にお伝えします。人間の動機付け要因のうち、大きなものに「快の追及」と「不快の回避」の二つがありますが、滞納整理においては後者の要因が圧倒的に優位です(これまで「納税最高!ヒャッホー!」みたいな方には出会ったことがありません)。よって、「滞納=不快」という意識づけを徹底して行い、一日も早く不快な状態から脱していただくことを期待します。なお、滞納に伴う不利益の例としては以下があります。

○ 督促手数料や延滞金など、余計に支払う金額が増える。
○ 滞納がある限りは財産調査の可能性があり、勤務先や取引先などにも照会が届き、個人や会社の信用にも負の影響を及ぼす。
○ 財産は、原則として差押対象となる。一度、差し押さえられた財産は滞納金が完納するまで差押が解除されない。
○ 介護保険料を滞納している場合、介護サービスを受ける際の自己負担額が大きくなる。

 

7.お礼(感謝・ねぎらい)

最後は相談にお越しいただいたことへのお礼や、今後の分割納付を履行していただくにあたっての苦労をねぎらい、納付折衝を終えます。話の最初と最後を優しい、柔らかい言葉で包む「サンドイッチ話法」という交渉テクニックの一つで、途中の厳しい・耳の痛い内容について受け入れやすくする効果があります。
ただし、「テクニックとして効果があるからお礼をする」というのではなく、目の前にいる「未来の納期内納付者」に対するリスペクトや感謝の気持ちをもって、心から感謝とねぎらいの言葉を伝えましょう

というわけで、”実践”編は以上です。長文にお付き合いいただき有り難うございました!
いよいよ本シリーズ最後となる次回は、”極める”編。今回お伝えした「納付折衝の型」を土台に、滞納者から怒鳴られたり、罵詈雑言を浴びせられたりしたときに心を傷つけないための理論武装や、自分だけの『最強チーム』の作り方についてお伝えします!

 


プロフィール

岡元 譲史(おかもと じょうじ)さん

寝屋川市 経営企画部 企画四課 課長代理兼係長(元 滞納債権整理回収室 係長)
1983年生まれ。2006年に同市入庁後、12年間にわたり、様々な債権の滞納整理に従事し、市税滞納額70%(約25億円)削減に貢献。2020年より現職。
「滞納整理に価値を見出して伝えることで、受講者の不安や葛藤を取り除く」という独自スタイルによる研修を全国で実施し、6年間で延べ3,700人が参加。受講者が給食費の滞納ゼロを達成するなど、すぐに使えて再現性の高いノウハウを伝えている。執筆に、「滞納整理のための空地・空家対策」(『税』2018年3月号)など。「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2018」受賞。プライベートでは2男児の父。PTA会長を務めるなど地域の活動も行う。

著書

現場のプロがやさしく書いた 自治体の滞納整理術』(学陽書房)

 

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