ジチタイワークス

奈良県生駒市

【小紫 雅史さん】自治体職員に求められるリーダーシップとは?

「もっと何かできないか…?」「仕事にやりがいはあるけど、思うように成果が出せない...」「このままでいいのか...?」仕事をしていると、誰しも一度は迷いを抱いたり、もしくは立ち止まったりすることはあるだろう。きっと首長も同じ。何度も迷ったり、立ち止まったことがあっただろう。

そんな時に出会った本を軸に、現状を打破した、もしくは感銘を受けたエピソードから明日の仕事へのヒントになる話を聞いた。

生駒市長
小紫 雅史(こむらさき まさし)さん

プロフィール

1974(昭和49)年 3月生まれ。1997年一橋大学法学部卒業、同年環境庁(現 環境省)に入省。2003年シラキュース大学マックスウェル行政大学院修了(行政経営学修士)。
その後、外交官として米国ワシントンDCの日本国大使館勤務。
2011年公募により生駒市副市長に就任し3年8ヶ月間務めた後、2015年(平成27年)に生駒市長に就任(現在2期目)。

採用戦略を徹底的に強化し素晴らしい人材の確保を続けているほか、大都市近郊型の住宅都市として全国で初めて「環境モデル都市」に選出。
その他、生活道路の安全対策とゾーン30の取り組み、まちなかバル、パパママアプリなどひとづくりや「自治体3.0」、「WLCの融合」に基づく「自分らしく輝けるステージ・生駒」のまちづくりに全力で取り組んでいる。

#紹介したい本

「採用基準: 地頭より論理的思考力より大切なもの」
伊賀泰代/ダイヤモンド社

地方創生にはリーダーシップが必要不可欠だ。


―まず、小紫市長がこの本を知ったきっかけを教えてください。

小紫市長:もともと評判になっていた本なので、読んでみようと思ったのがきっかけです。また、「ちきりん」さんのブログが好きで読んでいたのですが、匿名ブロガーである「ちきりん」さんの正体が、この本の著者である伊賀泰代さんなのではといううわさがあり、さらに関心を持ちました。
はじめは採用に興味があって表題に惹かれたのですが、実際に読んでみると採用ノウハウの本ではなく、これからの時代を生きていく上で必要な力がテーマでした。
私がリーダーシップを大切だと考えるようになったのは、この本に影響を受けたからです。この本の著者の伊賀さんは、マッキンゼーでコンサルタント、人材育成、採用を長年務め、その経験から、リーダーシップ教育やキャリア形成の重要さを説いています。リーダーシップは求めても手に入りにくいものですし、地頭の良さや論理的思考力よりも能動的に動ける力の方が、これからの時代で一番大切になると思っています。

 

―この本を読まれた当時、採用に対する課題感があったのでしょうか?

小紫市長:もちろんありました。自治体職員の採用をどうするかは私の中心的なテーマで、副市長時代からずっと取り組んできました。色々変えていこうと考えているので、採用に対する課題感はずっとあります。

 

―当時の課題感は、具体的にどんなものでしたか?

小紫市長:今までの採用で重視していた自治体職員の「優秀さ」は、事務能力があったり、気が利いたり、言われたことをきちんとしたりすることです。そういう意味で生駒市役所では、優秀な人を一定数採用できていました。
しかし、「公務員の仕事は地方創生だ」といわれている今、自治体の課題を解決したり魅力を高めたりするために何をすればいいのかを、どんどん考えて実行していく人が必要です。そんな人材をどうやって採用すればいいのか、頭を悩ませていました。そんなときにこの本を読んで、自分と著者の考えが同じだと感じ、またそれが明快に書かれていたので、非常に参考になりました。

 

―思った通りの人は採用できるようになりましたか?

小紫市長:非常にレベルの高い人が来ており、生駒市役所の採用は全国の自治体でトップレベルだと思います。採用に力を入れ、そうやって入ってきた人が活躍できる場をきちんとつくることで、「生駒市役所では新しいことに挑戦できる」「応援してくれる環境がある自治体なんだ」と伝えられた結果だと考えています。自治体の採用で「リーダーシップが大切だ」と言うところはあまりありませんが、私は採用説明会で「リーダーシップのある人を採用します」と言い続けていますね。
また、リーダーシップが大切なのはまちづくりも同様です。まちづくりは自治体職員だけに限ったことではありません。行政から何かをしてもらおうと考えている市民ばかりのまちはあっという間に消滅すると思いますが、市民が自分から動いてくれる自治体は消滅しません。それは生駒市が掲げる「自治体3.0」のまちづくりに通じる考え方です。

自治体は、公務員の世界のベンチャーだ。


―生駒市役所はビジョン・ミッション・バリューを策定されていますが、それらを明確にしたことで、組織は強くなりましたか?

小紫市長:ビジョン・ミッション・バリューが職員にどれだけ浸透しているのかにもよりますし、正直まだまだ、「市長や人事がややこしいことを言ってきた」と受け取っている職員も多いと思います。
「ビジョン・ミッション・バリュー」は職員を縛るものではありません。「実現したい生駒市のビジョン」、「生駒市職員が果たすべきミッション」、そして「行動の指針となるバリュー」を明確にすることで、むしろ、その範囲と方向性に沿っていればどんどん動いていいと裁量を与えているんです。
職員には、「ビジョン・ミッション・バリューに合った事業には、予算も人材も優先的につける」と伝えていました。これらに沿って面白いアイデアを出してくれるなら、1年目でも臨時職員でも挑戦できる文化をきちんとつくっていきたいのです。それがきちんと理解されて職員に浸透しているかというと、まだまだだと思います。ただ、道筋はつき始めているし、ビジョン・ミッション・バリューに合う人を採用・育成しはじめているので、少しずつ浸透してきていると思います。

―ビジョン・ミッション・バリューを浸透させるために、小紫市長が日頃意識されていることはありますか?

小紫市長:新型コロナウイルス感染症対策の業務などで忙しい中、ビジョン・ミッション・バリューを誰かがきちんと言わないとあっという間に忘れられるので、忘れたころに「これはビジョンに合っているのか」といった話をします。人事評価でも、昇格などに関係する職務行動はビジョン・ミッション・バリューを具体化した内容で評価しています。
また、「去年と同じことをしていたら人材も予算も減らす」と伝えていますし、逆に、ビジョン・ミッション・バリューに沿って本当に必要な取り組みをするのであれば、本気で人材を増やします。職員の総量は増えないので、新規事業が出てこないところは同じ仕事量があっても今年から人材を減らし、新規事業が出てきた部署に分かりやすく人材をつけることを本年度から実行しようとしています。ハレーションもありますが、新規事業に取り組むか否かでそういう変化があると態度で示しています。ビジョン・ミッション・バリューが部課長にどれだけ浸透していくのか、彼らが忙しい中、どれだけ係長などとコミュニケーションをとっているのかなども課題ですが、1年で浸透するとは思っていないので、地道に取り組んでいきたいです。

 

―ベンチャー企業のようですね。
小紫市長:市町村は、公務員の世界のベンチャーでないと何の意味もありません。国家公務員は、全国のことを考えなければならないので最大公約数的なところがありますが、市町村は現場に一番近い。縦割りを排除しながら色々なことをどんどんやっていくスピード感は、市町村の方が早いんです。市町村が大企業のように、去年と同じことをしているから予算を与えているようでは、だめなんです。

 

―自治体も、新しいことにどんどん挑戦していく必要があるんですね。

小紫市長:新しいことを考えたり地域に行ったりすることは私からすれば当たり前で、そこに公務員の面白さや存在意義があるのですが、中央集権社会で長年やってきている中では考え方や行動を変えるのが難しい人、自治体もあるかもしれません。
しかし、このまま新しいことを考えずに、言われたことだけをやればいい自治体だったら、地方創生の時代に存在する意義がどんどん小さくなっていきます。国から言われたことだけをする組織風土がしみついてきた自治体を、採用や色々な取り組みによって本気で改革しようとしている自治体は本当に尊いですし、そういう自治体が1つでも増えていくことが地方創生だと思います。

地域に飛び出す上で、覚悟は必要ない。


―小紫市長は非常に情熱的な方だと感じました。仕事にここまで情熱をかけられる理由は何でしょうか?

小紫市長:仕事が面白いからですね。私は、「働いている人は全員、個人事業主」だと思っています。これからの時代、定年まで安泰だという職はなく、それはこの先、公務員も例外ではない。自分から動いていける力が普遍に必要で、それは生駒市の職員教育でもずっと言っています。今でこそ公務員は制度的には安泰ですが、それを活かして挑戦していかないと、終身雇用制度が崩壊したときに行くところがありません。市長や市民から「残ってください」と言われるような職員になるには、退職しても生きていける力をつけておく必要があります。矛盾しているようですが、公務員を辞めても生きていける人は、公務員を辞めなくてもいいんです。地域や他自治体の公務員とのつながりを楽しくつくったり、副業をしたりして、生きていくためのカードを増やさなければなりません。

 

―自分の市場価値を上げて自立し、カードをいくつも持てるようにしていかなければいけないんですね。

小紫市長:公務員の場合、地域やコミュニティはカードとして使えるのではないかと思います。私の本では「ワーク・ライフ・コミュニティの融合」と言っています。自治体職員にとって、地域活動と仕事は非常に密接です。副業で地元サッカーチームのコーチをしたり、プログラミングを教えたり、お店を開いたりすることは、人生のカードになって仕事にも生活にもプラスになりますし、何より楽しいです。

 

―最後に、全国の自治体職員にメッセージをお願いします。

小紫市長:地域の人と関わることが何より大切です。どんな地域でも、まちづくりを頑張ってくれている人は絶対にいます。まちで頑張っている人と触れ合うと、自然と「私も仕事を頑張らないと」「この人たちを応援しないと」と思うようになっていきます。行動すれば自然とスイッチが入り、人脈も増え、物事は絶対に良い方向へ変わっていきます。
地域に飛び出すことに対して覚悟は必要ありません。そして、私たち公務員は、面白い人に仕事で会いに行けます。その特権を活かして、地域に飛び出して、地域の面白い人にとにかく会いに行ってくださいね。

 

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