ジチタイワークス

徳島県徳島市

【内藤 佐和子さん】必要なことは幼少期に学んでいる、一歩踏み出すコツとは?

「もっと何かできないか…?」「仕事にやりがいはあるけど、思うように成果が出せない...」「このままでいいのか...?」仕事をしていると、誰しも一度は迷いを抱いたり、もしくは立ち止まったりすることはあるだろう。きっと首長も同じ。何度も迷ったり、立ち止まったりしたことがあっただろう。

そんな時に出会った本を軸に、現状を打破した、もしくは感銘を受けたエピソードから明日の仕事へのヒントになる話を聞いた。

ジチタイワークス_首長の本棚_内藤佐和子_徳島市長徳島市長
内藤 佐和子(ないとう さわこ)さん

プロフィール

1984年(昭和59年)徳島県徳島市生まれ。東京大学法学部政治コース在学中から家業の機械製造会社の役員を務め、企業経営に携わる傍ら、地域活性化のコンテストの開催など徳島のまちづくりに取り組む。
令和2年4月、徳島市長に就任、全国で最年少の女性市長となる。
令和3年3月、在日米国大使館と駐大阪・神戸米国総領事館から「勇気ある女性賞」を授与される。
令和3年4月、男女共同参画社会形成の促進に関する政策等について調査審議等を行う内閣府の「男女共同参画会議」の議員に就任。

市の将来像に「わくわく実感!水都とくしま」を掲げ、「さまざまな主体との連携」「DE&I」をキーワードとした市政運営を進めている。「徳島から日本を変えていく」をモットーに、あらゆる人が参加しやすく持続可能なまちづくりを目指して行政の常識にとらわれない新しい取組に次々と挑戦している。

#紹介したい本

「人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ」
ロバート・フルガム 著
池 央耿 訳

河出書房新社

中学生時代に出会った1冊が人生の指針となった


この本を知ったきっかけを教えてください。

内藤市長:この本は、私が中学生のときに、駅前の本屋さんで見つけたものです。電車通学の空き時間に本屋さんに行ったところ、結構売れていた本だったので目にとまりました。「人生に必要な知恵は」という大きな表現が使われていたので、「何が書かれているのかな」と思って買いました。


ー 中学生時代に出会った本が今でも印象に残っているのですね。

内藤市長:この本を読んだことで「バランスよく生活することは重要だ」と思ったので、その後の人生の指針にしてきました。
ビジネス書などもずっと読み続けていく本ではありますが、「どう生きるか」を考えたときに、この本に中学生で出会えたのは良かったと思います。


ー この本を選ばれた理由には、受験や大学生活、仕事といった経験が大きく関係しているのでしょうか?

内藤市長:はい。何かに集中することはとても大切で、そういう時間も必要です。しかし、1つのことに集中して周りが見えなくなってしまうと勉強や仕事の効率が落ちてしまうので、バランスをきちんと考えて生活しなければいけないと思っています。
また、仕事の側面から考えると、世の中の現状として、働き方改革が浸透し、M字カーブ(女性の年齢階級別の労働力率を示す指標)が改善されてきたとはいえ、女性の非正規雇用は公務員の世界でも共通の問題です。みんなが色々なことをバランスよくできる世の中になってほしいので、そういう意味でも、この本は真理をついていると思います。


ー この本の題名にあるように、人として当たり前のことは幼少期にみんな触れているという内容が、内藤市長の中に印象深く残っているのでしょうか?

内藤市長:大人は子どもに対して「人としての当たり前」を教えるのに、結局大人になるにつれてそういうことができなくなっているじゃないかと子ども心に感じていました。当時は、中学校で変だと思う校則のもとで先生に指導され、「本質を考えずにルールというだけで守らなくてはいけないというのはおかしい」と思っていました。今では少しずつブラック校則やルールメイキングについて考える時代になっていますが、校則が単に『学校が生徒を管理しやすいルール』になってはいけないと思います。
そこで、本質的なことをきちんと考えていくと、幼稚園のときに色々教えられたことがもとになっていて、それを守っていけば実はうまくいくのではないか。「きちんと本質を考えて、仕事や勉強、社会生活をしているのだろうか」と当時も今も考えています。

バランスを取ることは「居場所をつくること」


ー 内藤市長は、本質を考えるとともに、バランスも大切にされていますよね。

内藤市長:何かに短期で一気に取り組むのはいいことかもしれませんが、どこかでひずみが生まれてくるので、バランスはきちんと考えなければならないと思っています。
また、バランスを取ることは色々な居場所をつくっておくことにリンクしていると考えています。仕事をしながらでも色々なコミュニティに所属したり、一人でゆるりとできるサードプレイスを持っておいたりすることは大切ですし、そういう場所がないと人はつぶれてしまうので、バランスが取れていることは必要だと思います。


ー 高校生時代には留学もされていたと伺いました。この本と出会ったころから、活発に活動されていたのでしょうか?

内藤市長:好奇心旺盛な性格だったので、この本と出会う前から活発でした。
小学生のころは、全市から子どもが集まって休日に色々なスポーツをするスポーツ学校や、第2土曜日を有効活用して徳島市のことを勉強するプログラムに参加したり、習い事やスポーツ少年団にも通ったりしていました。また、高校生のときは、地元のラジオ番組でパーソナリティをしていました。できるだけ色々なところに行って、色々な経験をしようと思っていました。

ー この時代だからこそバランスがとても大事なのかなと思うのですが、色々なコミュニティに属していくことが秘訣なのでしょうか?

内藤市長色々なコミュニティに属したり、色々なことに挑戦したりしてみることが秘訣だと思っています。「リカレント教育」といわれていますが、何歳からでも学ぶのは遅くありません。私はもともと好奇心旺盛なので、遊びも含めて挑戦することをとても大切にしています。「Twitterでつながったから連絡してみよう」とDMを送ったら新規事業が始まったこともあるので、ご縁は大切にしようと思っています。

現場との関係性を大切にする


ー 住民ニーズが多様化したり、職員数が減少したり、メンタルヘルスに課題を抱える職員が増えていたりと、職員もバランスを保つのが難しい時代に入ってきていると思います。内藤市長が職員に対して何か発信していることはありますか?

内藤市長:一部の職員に仕事が偏っていたり、通常業務に加えて今は新型コロナウイルス感染症対策の業務もあったりして、特に基礎自治体の職員には業務が重くのしかかってきていると思います。
普段あまり関わらない職員も含めて、同じエレベーターに乗ったら他愛のない会話をして「忙しい中でもできるだけ休んでね」「大変だったら言ってね」と声をかけています。
また、1回帰宅して子どもと食事をした後に市役所に戻ると、電気がついていることがあります。そういうときは、一緒に夜食を食べたり仕事をしたりしながら、フランクに話をします。部長級と話すのと、課長級・課長補佐級以下と話すのでは現場感が違うこともあるので、特に忙しい部署の場合はできるだけそのフロアに行って話をするようにしています。


ー 市長とそれだけフランクに話せることは珍しいのではないでしょうか?

内藤市長:珍しいと思います。また、新卒採用の職員には、市長部局を除き、病院局も含めて60~70人全員に手紙を書きます。その人たちの趣味やメッセージを冊子にまとめているのですが、全員分を読んで、書いていることや部署に応じてメッセージを書いて、本人に持って行っています。


ー そこには、内藤市長のどんな想いが込められているのでしょうか?

内藤市長:せっかく徳島市に入庁してくれたので、やりがいを感じながら働いてほしい気持ちと、はじめに配属される部署はそれぞれ違うけれど、置かれた環境で頑張ってほしい気持ちを込めています。

まずは一歩踏み出してみよう


ー 内藤市長は「現場に出てほしい」というメッセージを庁内で発信されているそうですが、その背景を教えてください。

内藤市長:徳島市は基礎自治体です。まちづくりをするために、住民や事業者のニーズをきちんと聞かなければなりません。そのために、部署関係なくきちんと現場に出て、どういう状況なのか知っておく必要があります。
また、徳島市の色々な取り組みを知っておくと全体の施策につながる場合もあるので、まちづくりも含めて、色々な現場に出ていってほしいなと思っています。


ー 「現場に出てほしい」というのは、市長に就任されてから実感したのでしょうか?

内藤市長:私はもともと、まちづくりのボランティアや仕事を12年くらいやってきて、自治体職員の方はあまり現場に出てきていないと感じていました。ボランティア活動も含めて、自治体職員はもう少し現場に出た方がいいと思います。
また、SNSでは住民の色々な声が届きます。多様な人と関わっていくと色々な意見を頂けて、それが政策に活かされることもあります。面倒くさいかもしれないけれど、小さな声を拾って、上司に意見を伝えて、少しずつでも改善していくことが必要です。


ー 内藤市長は、これからの公務員像について、もっと現場に出て声を聞き、課題を感じ取って政策をつくっていくと良いとお考えでしょうか?

内藤市長:はい。また、政策や事業も市役所だけで完結するものではありません。住民やボランティア団体、スタートアップなどとも一緒になって面白いことを展開していくことが、特に基礎自治体には必要だと思います。


ー 最後に、全国の自治体職員にメッセージをお願いします。

内藤市長:現場に飛び出すことが怖かったり、面倒くさいと思ったり、時間がなかったり、後ろ向きな方もいると思いますが、そういう方にこそあえて「とりあえず一歩踏み出してみようよ」と言葉をかけたいです。
また、コロナ禍で色々なことが流動的なので、自治体職員はとても大変だと思います。心が折れそうになることもあると思いますが、みんなのために仕事をしている自負を忘れずに、みんなで仕事ができればいいなと思います。仕事が楽しくないこともあるかもしれませんが、仕事以外も含めてどこかで楽しいことを見つけてバランスをとってほしいですし、逃げる選択肢も忘れないでほしいです。みんなでこの危機を乗り越えていきましょう!

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