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東京都中野区

【酒井 直人さん】自治体にとって、DXの意義とは?

「もっと何かできないか…?」「仕事にやりがいはあるけど、思うように成果が出せない...」「このままでいいのか...?」仕事をしていると、誰しも一度は迷いを抱いたり、もしくは立ち止まったりすることはあるだろう。きっと首長も同じ。何度も迷ったり、立ち止まったりしたことがあっただろう。

そんな時に出会った本を軸に、現状を打破した、もしくは感銘を受けたエピソードから明日の仕事へのヒントになる話を聞いた。

中野区長
酒井 直人(さかい なおと) さん

プロフィール

1971年(昭和46年)10月14日生まれ、早稲田大学法学部、同大学院法学研究科修了後、中野区役所に入庁。
その後、議会事務局、財務会計システム担当、広報担当課長、地域包括ケア推進担当課長を歴任し、2018年(平成30年)に第28代中野区長に就任(1期目)。

区民との対話に努め、政策課題への対応に全力を注ぐとともに、行財政の構造改革を進め、持続可能な区政運営の実現に取り組んでいる。
中野区の財産である「人」が一層活躍できるよう、セーフティネットの取り組みと、区民と区の協働・協創を進め、中野区の未来を築いていくために日々尽力している。

#紹介したい本

「DXで変える・変わる 自治体の「新しい仕事の仕方」~推進のポイントを的確につかみ効果を上げる!~」
高橋邦夫/第一法規

筆者は先進事例を率いてきた存在だった


― まず、酒井区長がこの本を知ったきっかけと、選ばれた理由を教えてください。

酒井区長:実はこの本を書いている高橋邦夫さんは、私の知り合いなんです。
私は広報課長だったとき、東京23区の広報課長会に参加していました。高橋邦夫さんは豊島区の情報システム課長で、広報課長と情報システム課長で意見交換会をしたときに知り合い、飲み会も何回か一緒に行かせてもらって、「この人はとてもすごい人だな」とずっと思っていました。
そして、私が中野区長選挙に出るために区役所を辞めたとき、同じタイミングで高橋さんも区役所を辞めたんです。


ー 退職が同じ時期だったのですね。

酒井区長:そうなんです。また、豊島区の情報システムは先進的で、23区内でも進んだシステムに取り組んできたのが、まさに高橋邦夫さんでした。


ー 酒井区長も視察に行かれたそうで、それくらい豊島区はすごいのですね。

酒井区長:当時、新庁舎移転を契機に情報システムの導入に取り組んでいらっしゃいました。そういう功績を知っていたのもあり、「これは私も読まなくてはならない」と思って読みました。

DXとICT化の関係は「ゴールと手段」


ー 高橋さんとのこれまでのお付き合いもあって本を読まれたとのことですが、その前からDXに課題を感じられていたのだろうと思います。DXにおいて区長が一番課題に感じていることを教えてください。

酒井区長:DXとは単にICT化することではないです。改善・改革のために業務を根本から見直して、デジタル化をすると同時にやり方を変えていく、そのゴールこそが「DX」です。「ICT化」はそのゴールを目指す手段です。だからこそ自治体の皆さんは、単にICT化したことで満足していてはダメです。
私も昔、財務会計や文書管理システムを導入したときに、業務のフローから全部見直しました。それと同じことをDXにおいて全国の自治体できちんとやらないと、「コストをかけてシステムを入れ替えただけになってしまう」という危機感がありました。高橋邦夫さんの本には、それがはっきり書いてあります。


ー 本質から疑うということですね。

酒井区長:そういうことです。
また、この本では例としてテレワークについても取り上げられています。「テレワークによって何が見直せたのか」「今まで要らない会議でも顔を合わせてやっていた」「今までITを使わないで職員が何人も同じ会議の議事録をとっていた」など、耳が痛いです。「今までやってきたことは何だったのだろう」と、多くのことを気づかされました。これらのことから、改善・改革のために組織のやり方をみんなで本質から疑っていくことこそDXだと、この本を読んでつくづく感じました。

役所はICT人材が不足している


ー 中野区としては、新庁舎(2024年度開設予定)の建設によってインフラなども大きく変わってきますよね。これを機に一気に改善・改革運動を進めていくため、民間人材を公募したのでしょうか

酒井区長:とにかくこのタイミングでやらないと二重投資になってしまうからです。


ー 二重投資というと?

酒井区長:予定では、新庁舎に3年後に移転します。新庁舎に移転した後にシステムを導入するのであれば、既存のシステムを一旦持ち込まなければならないので、コストが余計かかります。新庁舎移転のタイミングでやれることは一緒にやっていく必要があります。もちろん先行で導入する部分もあるけれど、新しい区役所でインフラを投資するタイミングだからこそ、うまく最適化したシステムを入れたいです。
しかし、「実現するにはマンパワーが足りない」とみんな口を揃えて言います。そこで今回、「ビズリーチ」に人材公募をお願いしたところ、7人の枠に対して約150人の応募が来ています。
 

ー マンパワー不足もありますが、スキルも頼りにしているのでしょうか?

酒井区長:もちろんです。マンパワーはスキルであり、はっきりいえば、ICT人材が役所には足りません。外からの力を借りるしかないと考えています。これまでの職員の育成だけではマンパワーが足りないのです。


ー ビズリーチの公募ページで「周りの理解を得るのも大変なので、積極的に応援していきたい」といった酒井区長のメッセージを拝見しました。これは酒井区長の職員時代に電子決裁の導入などに取り組まれていたご自身の経験を踏まえ、全体を巻き込みながら進めていかなければならないのが、DXの難しさでもあるのでしょうか

酒井区長:「自分たちは関係ない」という職員が多ければ多いほど、手間もかかるし大変になります。組織が一丸となって行動してもらわないといけません。外からIT人材を7人連れてきても、「職員が協力的でなくて、ボトルネックになっています。」と言われたら恥ずかしいですから。組織としても7人を守り、きちんと盛り立てていきます。


ー ご自身の経験が、今回のDX人材の登用にもかなりリンクしている印象を受けます。酒井区長が色々なシステムを導入してきた経験が、今回も活きているのでしょうか

酒井区長:はい。「役所の当たり前」を疑わないと、なかなか制度は変えられません。


ー ICT人材に求める能力とは何でしょうか

酒井区長:ルールの見直しや制度を変えることは、職員を中心にやらなければなりません。そのためには、ITスキルを持ち、どこまでがシステムでできるのか、もしくはできないのかを、現場で要件を聞いて判断していく職員が必要になります。
しかし、そのスキルが区役所には足りず、プロジェクトマネジメントも含めてシステムエンジニア(SE)のスキルが必要だと思っています。

課題を把握するために地域へ飛び出そう


ー DX化で効率化した分、自治体職員は何をするべきでしょうか

酒井区長:我々のミッションは住民の公共の福祉を向上させることなので、そのために割かなければいけないマンパワーは、これからどんどん増えていきます。
我々が本来マンパワーをかけるべきところに手をかけ、人の代わりにやれるところはどんどんICTでやっていけばいいと思います。
少子高齢化が進み、虐待も増え、今は新型コロナウイルス感染症で大変ですけれど、「人がやらなければならない」となったときに、今までやっていた戸籍や住民税、国民健康保険などの制度管理は、なるべく手間をかけずにやらなければなりません。だとしたら、DXによって今の仕事を本質から見つめ直して、マンパワーをどんどん必要な方へ振り向ける必要があります。


ー 最後に、現状を打破したい全国の自治体職員にメッセージをお願いします。

酒井区長:新型コロナウイルス感染症の影響もあり、自治体職員もこれまでの働き方を大きく変えていかなければなりません。DXなしで、新しい価値をつくっていくことは難しいです。
これからの自治体職員は、より深刻化する地域の課題を把握し、解決していかなくてはなりません。本気で解決していく気があるのなら、今ここで取り掛からないとダメです。そのために、区民が地域の課題を解決するパートナーととらえ、どんどん地域に飛び出していきましょう!

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