「何でこうなってるの?」「もっとこうならいいのに」毎日仕事をする中で、頭をよぎる疑問や悩み…そんな「モヤモヤ」を、一歩先ゆく公務員の皆さんに解決して頂く企画。
第8回は、議会の答弁書を書く際に気をつけるポイントについて、所沢市役所の林誠さんに寄稿いただいた。
【今回のモヤモヤ】
議会の答弁書を書くことに!気をつけるポイントは?
議会の答弁書を書くことになりました。まったくの未経験で緊張します。気をつけるべきポイントはありますか?
質問の意図を理解することが最も大切。聞かれていることに素直に答えましょう。
はじめての答弁書、緊張しますね。
課長級以上の職員だけが書く、という自治体もあると聞きますが、答弁書作りはとても勉強になる機会なので、若い頃から関わらせてもらえるといいですね。
「答弁」は答えることが前提、まずはヒアリングを大切に。
改めて「答弁」という言葉の意味をおさらいすると、「質問に答えて、説明すること」といったことになると思います。その意味のとおり、当たり前のことですが、答弁は質問に答えることが前提です。こちらの言いたいことを言う場ではありません。
となれば、まずは何を聞かれているのかをしっかり把握する必要があります。そのために、質問する議員とのヒアリングの場が設定されているはずです。この時間を大切にしましょう。ヒアリングをした人と実際に答弁書を書く人が別々ということがあるかもしれませんが、それはできれば避けたいところです。同じ人が、しっかり聞いて、しっかり書く、というのが基本です。
ヒアリングでは、質問の意図を理解することに集中しましょう。どういう問題意識があって、何を聞きたいのか、どんな答えを引き出そうとしているのか、といったことを聴き取ります。本音の部分も含め、相手の話を引き出すことを意識します。
そのうえで、事実認識に齟齬があったり、意図が伝わっていなかったりした場合には、こちらからの言い分も伝えましょう。うまく理解していただけたら、その事業の応援団になってもらえる可能性もあります。
答弁書作成は目合わせが大事、上司としっかり方向性を確認する。
ヒアリングが終わったら、その内容を整理して、答弁書の作成にかかることになります。
ただし、実際に書き始める前に、上司としっかり答弁内容の方向性を確認することが必要です。実際に答弁するのは、首長であったり、部長であったりと、作成者とは別になるからです。答弁書は、作成者がどう思っているのかを書く場ではありません。実際に答弁する人がどう考えているかということを慮ることが求められます。
例えば、質問事項に関連する事業について、内々には今後の進め方が固まっているとしても、それをどこまで言っていいかは、慎重になるべきケースがあります。思い切り反論したくても、そうするべきではない場合もあるでしょう。書き終わってから、ここまで書くことはない、この質問に対してこうしたトーンで書くべきではない、とならないように、事前に目合わせをしておきましょう。
過去の答弁内容を振り返り、必要な資料を揃える。
書き始める前にもう一つ心がけたいのは、基礎的な資料を揃えることです。
法令の運用が問われているのなら該当する条文を、過去の実績を確認されているのなら年度ごとの数値を、新たな事業の実施を求められているのならその必要性を裏付ける統計情報を、それぞれ用意しましょう。答弁は一発勝負になりますから、間違ったことを言うわけにはいきません。資料の裏付けと事実関係のチェックを常に心がけましょう。
また、忘れてならないのは過去の答弁内容を振り返ることです。多くの自治体で、議事録が検索できるようになっていると思います。しっかり確認しましょう。
以前の答弁に縛られ続けなくてもいいと思いますが、もし考え方を変えるのならそれなりの根拠を持ち、その旨を伝える必要があります。過去の答弁内容を知らないままで違った答弁をしてしまうと、矛盾が生じ、信ぴょう性も損なわれてしまいます。
答弁書作成の基本、「聞かれていることに答える」。
さて、いよいよ書き始めましょう。
答弁書を書くときの基本は、「聞かれていることに答える」ということです。あまりにも当然のことのようですが、これができていないケースをよく見かけます。
例えば、以下のようなパターンがあります。
・やたらと回りくどいパターン
当該自治体を取り巻く環境やこれまでの経緯などの周辺情報を延々と続ける。
・言い訳が多いパターン
財政状況や人員不足など、できない理由をいくつも連ねる。
・噛み合っていないパターン
質問内容と微妙に食い違う対応を、さもやっているかのようにして述べる。
議員にとっては、議場での質問の機会は非常に貴重な時間です。少しでも意味のある答弁を引き出そうといろいろ考えているはずです。そうした中、聞きたいことと違う内容を長々と聞かされてはストレスが溜まるばかりでしょうし、信頼も失われかねません。首長が、政治的な配慮から、わざとずらした答弁をする可能性はありますが、答弁の素案を書く人間がそうした配慮をする必要は、通常はないと思います。
答弁書には、独特の言い回しがあったり、議員ごとに対応の仕方が違ったりということがあるでしょう。しかし、そうした細かいテクニックを覚えようとするより、質問者に敬意を持って、正面から真摯に答えることが最も大切だと思います。
はじめての答弁書、がんばってください。
林 誠(はやし まこと)
所沢市財務部長 中小企業診断士、通訳案内士。
1965年滋賀県生まれ。民間企業に就職後、所沢市役所に転職。一時埼玉県庁に出向。市では、総務部門、財政部門、政策企画部門、商業振興部門に所属。
役所内で経済を面白おかしく勉強するサークル「経済どうゆう会」をかれこれ200回以上開催。
著書に、「イチからわかる! “議会答弁書"作成のコツ」「9割の公務員が知らない お金の貯め方・増やし方」「どんな部署でも必ず役立つ 公務員の読み書きそろばん」など。
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