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【相談室】困った上司をどうするか(後編)

勤続数十年と、係長・課長補佐・課長級と順調に昇進していったものの、日頃の業務の中で、議会対応や部下とのコミュニケーションに対し、悩みや不安を抱えている方も多いでしょう。

今回は、困った上司シリーズの後編として、首長(市区町村の長)を対象に、その対処法を八尾市 こども若者部長の吉川 貴代さんに回答いただいた。

【連載】
case1:議会答弁の経験がなく不安です。何をどう準備したらいいでしょうか。
case2:管理職として具体的な調整が苦手です。どうしたらよいでしょうか。
case3:部下の昇任に対する反応にギャップや課題を感じています。
case4:課長から見た困った上司(副市町村長/部・局長編)への対処法について教えてください。
case5:課長から見た困った上司(首長)への対処法について教えてください。←今回はココ

お悩みcase5

課長から見た困った上司(首長)への対処法について教えてください。

首長は選挙で選ばれた自治体のトップである。

前編では、困った上司=副市町村長/部・局長としましたが、後編では首長(市区町村の長)について考えてみましょう。

副市町村長が置かれず※1、課長の直上の上司=首長という自治体もあれば、首長と課長の間に副市長・局長・部長・次長などの上司たちがいる自治体もありますから、課長からみた首長との関係、距離感は多様です。

とはいえ、重要事項は首長の決裁が必要ですし、それに伴う説明の場面などもあり、秘書課から、‟首長が〇〇について説明を聞きたいと仰っている”という連絡を受け、説明に伺うという経験も日常業務の中であると思います。

今更ながらの話になりますが、首長はほかの上司と決定的に違います。首長は公約を掲げて首長選挙に立候補し、民意で選ばれた人です。さらに、首長は職員の人事権をもち、当該自治体の執行機関の総合調整機能も有する、まさに自治体のトップとして絶大な権限をもっています。

※1 総務省(「地方自治月報第60号」4(3)副知事・副市長村長の定数に関する調(令和3年4月1日現在)によれば、133団体において配置がない
 

〇〇を首長に何回説明しても理解していただけない!

局長や部長とともに、あるいは、課長が一人で○○について首長に説明したところ、首長が難色を示し、理解されない。なぜ理解してもらえないのか。

首長と職員では視点が違います。‟これぐらいは理解してくれるだろう”と期待するよりは、政治家と職員は違うと割り切って接するほうが、ストレスが少なくて済みます。

政治家である首長は、昼夜を問わず年中無休で、実に多くの住民※2と会っています。コロナ禍で行事等が少なかった時期が例外で、たいていの首長は、自治体の公式行事だけではなく、地域の行事や祭りをはじめ、実に様々な場面に出向かれます。

そこで、住民との交流があり、首長は住民から様々な要望や意見を聞いています。住民の中には行政の取り組みに対して否定的な方もおられますから、首長に直接話をできる機会があれば、様々な主張をされるのはよくあることで、職員が気づかない・知らない話が含まれます。

つまり、首長の情報源は多彩かつ住民視点です。したがって、担当部・課の事情や職員視点、特に、事務的な話をしても通用しないと考えておきましょう。

※2 ここでの住民は自治体の区域内に住所を有する人だけでなく、在勤・在学の人や事業所を経営されている人たちを含みます

実務上の手続きや詳細を説明する際に気を付けることは?

首長の守備範囲は行政全般ですから、課長などの実務を隅々まで掌握することはありえず、そのために、〇〇課などの内部組織を設けています。

首長に説明や報告に伺うという場面では、何が問題となっているのか、それをどう解決・改良したいのかなどを、平易な用語で要点を書いたメモをもとに説明します。焦らず、簡潔明瞭さがポイントです。

それでも、首長が理解されない、挙げ句の果てには激高されたらどうするか。そういう場面がないに越したことはないですが、首長も人間ですから、起こり得ます。怒りを静めていただくことが最優先になります。首長は何にこだわっているのかを冷静に聴いて、そこを乗り越える工夫が必要です。

職員はどうしても職員視点でモノゴトを考えますが、首長は住民視点が基本で、職員の苦労も一定は理解されているものの実務者ではないので、実務上の悩みや苦労、感情までは分からない。分からなくて当然です。

ただし、視点が違うことを前提に、対話を重ねることができれば、首長と職員に信頼関係が深まり、よりよい政策展開につながっていきますから、焦らず、じっくりと首長と向き合う努力が必要です。

首長の困った行動に対してどう向き合うべきか。

職員からみた首長は様々ですが、大森彌さんの自治実務セミナー※3では次の記述があります。

・再選のため保身にきゅうきゅうとし、実利に嗅覚が鋭すぎてそれに引き寄せられている
・首長が不用意に口を出す言葉がどれほど職員を含む関係者を煩わせるかということを、
  無自覚なまま思いつきのアイデアを放言する
・職員を信頼し励まし、大筋の考え方を提示し、後は職員に任せる
・何かにつけて細部にわたるまで口をださなければ気のすすまない

“あ、うちの首長だ”と苦笑いされている方もおられることでしょう。首長の経歴は多彩で、自治体運営の実務を全くしたことがない首長は多数おられます。仮に自治体実務経験者であっても、首長になれば政治家で立場が違います。

どのような首長であっても、首長は首長で、任期は4年。再選できれば8年、12年と年数を重ねる中で、職員は苦労が絶えないというのがホンネだと思います。

職員は実務を担う中で、担当している施策や事業について、法令、目的、手法、費用、経過など総合的に理解して運営しており、必要に応じて変更を加えています。

仮に首長がいっていることが公正さを欠く、法令に反する内容であれば厳然と説明するのも職員の使命です。ただし、首長と対立する必要はなく、粛々と正確に説明し続けるのみです。

※3 大森彌(2014)「入門講座 自治体の首長18首長の人事権(6)」、自治実務セミナー2014年11月号、P32-35


 

吉川 貴代(よしかわ きよ)さん

大阪府 八尾市 こども若者部長。1989年入庁。人権文化ふれあい部次長、政策企画部長などを経て現職。日本福祉大学社会福祉学部非常勤講師、大阪公立大学大学院都市経営研究科博士後期課程在学中。

著書:

 

 

 

 「自治体でいきなり課長になったら読む本」(学陽書房)

 

 

 

 

 「はじめてでも乗り切れる!公務員の議会答弁ガイド」(学陽書房)

 


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