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【連載】ビールの基礎から地域活用まで!―公務員のためのクラフトビール講座<2>ビールをもっと楽しむには

お風呂上がりに仕事の後に、お酒好きにとっては欠かせないビール。近年のクラフトビールブームを経て、特産品を活かしたビールづくりも各地に定着し、地域活性化の主役にもなりつつあります。この連載では、ビールの基礎知識から地域での活用事例まで、ビールライターの富江 弘幸さんが分かりやすく解説します。第2回はビールの楽しみを広げる「ビアスタイル」をご紹介!
※掲載情報は公開日時点のものです。

解説するのはこの方
富江 弘幸(とみえ ひろゆき)さん
ビールライター・ビアジャーナリストアカデミー講師
編集者。昭和50年東京生まれ。法政大学社会学部社会学科卒業。卒業後は出版社・編集プロダクションでライター・編集者として雑誌・書籍の制作に携わる。中国留学を経て、英字新聞社やDXコンサル会社などに勤務。ビール・飲食関連記事の執筆や、ビアジャーナリストアカデミー講師など、幅広く活動している。著書に『教養としてのビール』(サイエンス・アイ新書)=写真=など。
ビールと料理はどう合わせる?味わい方の基本をご紹介
ビールは、麦芽・ホップ・水を主原料とした、酵母で発酵させたお酒で、それぞれの原材料や副原料の使い方によって味わいは大きく変わります。また、多彩な味わいのビールにどのような料理を合わせるかによって、感じ方も大きく変わってくるのです。
今回は、ビールの味わいの種類と料理との合わせ方について紹介します。考え方を覚えてしまえば簡単に応用できると思いますので、ぜひ地元の食材と合わせるなどして試してみてください。

ビアスタイルを知ればビールの味が想像できる
ビールは黄金色の液体に白い泡でのど越しを楽しむお酒…というだけではなく、実は味わいやつくり方によって150種類以上に分類することができます。
その分類をビアスタイルというのですが、主要なビアスタイルを知っておけばどんな味わいのビールなのかを理解でき、料理にも合わせやすくなるのです。
第1回でお伝えしたとおり、ビールに使う酵母はラガー酵母とエール酵母に大きく分けられます。ビアスタイルもまずこの2つに分類し、そこから細かいビアスタイルに分けられていきます。
ラガー系のビアスタイル
ラガー系のビアスタイルは、比較的すっきりとしていてシャープな味わいになっているのが特徴です
ピルスナー

ピルスナーは、世界で最も飲まれているビアスタイルだといってもいいでしょう。すっきりとしていてゴクゴク飲むことができ、ホップの苦味も感じられる味わいです。ビールと聞いて想像する味わいだといえます。
日本の大手ビール会社が販売している「アサヒスーパードライ」「キリン一番搾り生ビール」「サッポロ生ビール黒ラベル」「ザ・プレミアム・モルツ」などは全てピルスナーです。飲み比べてみると少しずつ違うとはいえ、同じピルスナーというビアスタイルなのです。
シュヴァルツ
シュヴァルツはいわゆる黒ビールです。焙煎した濃色麦芽を使うことで、黒い色合いになっています。チョコレートやコーヒーのようなフレーバーに加え、ローストによる苦味が特徴のビールです
エール系のビアスタイル
エール系のビアスタイルは、華やかな香りが特徴です。
ペールエール

ペールエールはイギリス発祥のビアスタイルです。使用するホップの品種によってイングリッシュスタイルとアメリカンスタイルに分けられます。イングリッシュスタイルはダージリンティーのような落ち着いた香り、アメリカンスタイルは柑橘系の香りが主流になっています。
IPA(インディアペールエール)

IPAもイギリス発祥のビアスタイルで、強烈な苦味と強い香りが特徴です。イギリスがインドを植民地にしていた頃は、インドの気候ではビールが醸造できなかったため、イギリスから船でビールをインドに運んでいました。その際、ペールエールに防腐効果のあるホップを大量に入れたことにより、苦味と香りの強いビールができたというのが由来です。
また、最近ではヘイジーIPAという派生スタイルも出てきています。hazy(霞んだ)という言葉のとおり濁ったような色合いになっており、よりフルーティーでジューシーな味わいが特徴です。
ヴァイツェン

ヴァイツェンはドイツ発祥のビアスタイルで、バナナのような香りが特徴です。苦味はかなり抑えられており、苦味が得意でない人でも飲みやすいビールだといえます。小麦麦芽を使うことで、まろやかで軽い酸味も感じられる味わいになっています。
ホワイトエール
ホワイトエールはベルギー発祥のビアスタイルで、小麦とオレンジピール、コリアンダーを使っているのが特徴です。軽い柑橘感と酸味があり、ヴァイツェン同様、苦味が抑えられています。
スタウト

スタウトはアイルランド発祥のビアスタイルで、ラガー系のシュヴァルツと同じく焙煎した麦芽による黒い色合いが特徴です。シュヴァルツよりもアルコール度数が高いものが多く、じっくり飲むのに適したビアスタイルといえるでしょう。
そのほかのビアスタイル
ビアスタイルはラガー系とエール系に大きく分けられると書きましたが、どちらにも属したり属さなかったりするビアスタイルもあります。
ランビック

ランビックは、ベルギーのブリュッセル周辺に生息する野生酵母を使ったビアスタイルです。強烈な酸味が特徴ですが、ドライな後味ですっきりと飲めます。ブリュッセル以外でも野生酵母を使ったビールはありますが、ランビックと名乗れるのはブリュッセル周辺でつくられたビールだけです。
フルーツビール、フィールドビール

フルーツを使ったフルーツビールや、野菜などを使ったフィールドビールといったビアスタイルもあります。これらは酵母の種類は関係なく、フルーツや野菜を使っていればフルーツビール、フィールドビールということになります。それぞれの副原料の特徴が出せるビアスタイルで、地域の特産品を使う場合に参考となるビアスタイルといえるでしょう。
ビールと料理を楽しく味わうペアリングの3つの基本
ここまで書いたように、ビールは味わいの幅が広いお酒です。味わいの幅が広いということは、様々な料理にも合わせやすいともいえます。基本の考え方を知って、地域食材との組み合わせを考えるヒントにしてみてください。
ビールで料理の味を切る

ビールで料理の味を切るのは、ビールのペアリングの中で最も理解しやすい考え方だといえるでしょう。油や濃い味わいをビールで流し込むイメージです。
具体例としては、ソーセージとピルスナーです。ソーセージの油や塩味をすっきりとした味わいのピルスナーで流し込むことで、舌がリフレッシュされてまた料理をおいしく味わえるという好循環が生まれます。
肉料理やピリ辛料理などは、すっきりとしたピルスナーと合わせるのがペアリングのひとつの考え方です。
ビールと料理の共通する味を合わせる

ビールと料理の共通する味を合わせると、双方の調和がとれて違和感なく味わえるようになります。味わいを想像しないといけないので、ちょっと難しく思えるかもしれませんが、ビールの色と料理の色を合わせると、比較的簡単に味わいの調和がとれます。
具体例としては、焼き鳥(特にタレ)とスタウトです。共通する部分は、焦げの苦味です。焼き鳥の少し焦げた部分と、スタウトのロースト感が同調して、口の中でスムーズに混じり合います。
また、スタウトの種類にもよるのですが、カラメルのような甘味を持ったスタウトもあり、それが焼き鳥のタレと口の中で同調するという効果もあります。
ビールと料理の異なる味を組み合わせる

ビールと料理の異なる味を組み合わせるというのは、ペアリングの3つの考え方の中で最も難しいかもしれません。組み合わせ方はもちろんひとつではないので全部覚えるのは大変ですが、まずはひとつだけ理解して試してみてください。
ビールの苦味(特にローストの苦味)と、料理の甘味です。
具体的には、バニラアイスとスタウトがいい例だと思います。バニラアイスにスタウトをかけるとアフォガートのような感じになったり、逆にスタウトの上にバニラアイスをのせるとコーヒーフロートのようになったりします。
ビールと甘味を合わせるのはちょっと意外かもしれませんが、コーヒーに砂糖を入れることを考えてみると理解しやすいかと思います。スタウトのようなロースト感のあるビールは、バニラアイスでなくてもスイーツ系はだいたいよく合うので、ぜひ試してみてください。
ビアスタイルやペアリングを知れば、楽しみ方がもっと広がる
ビールはどれも同じ味わいではありません。味わいの幅が広く、様々な料理と合わせやすいお酒です。
ビールの味わいを覚えたり、料理との組み合わせを覚えたりするのは一見大変そうに思いますが、ビアスタイルやペアリングの基本を少しだけでも覚えておけば、地域の特産品や料理とビールの合わせ方を根拠を持って考えることができます。
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連載第3回では、ホップ栽培で地域を盛り上げる岩手県遠野市の事例をご紹介します。


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