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【連載】ビールの基礎から地域活用まで!―公務員のためのクラフトビール講座<4>地域の特産品でビールをつくる

お風呂上がりに仕事の後に、お酒好きにとっては欠かせないビール。近年のクラフトビールブームを経て、特産品を活かしたビールづくりも各地に定着し、地域活性化の主役にもなりつつあります。この連載では、ビールの基礎知識から地域での活用事例まで、ビールライターの富江 弘幸さんが分かりやすく解説します。第4回は特産品のサツマイモをビールづくりに活かした埼玉県川越市の事例をご紹介します。
※掲載情報は公開日時点のものです。

解説するのはこの方
富江 弘幸(とみえ ひろゆき)さん
ビールライター・ビアジャーナリストアカデミー講師
編集者。昭和50年東京生まれ。法政大学社会学部社会学科卒業。卒業後は出版社・編集プロダクションでライター・編集者として雑誌・書籍の制作に携わる。中国留学を経て、英字新聞社やDXコンサル会社などに勤務。ビール・飲食関連記事の執筆や、ビアジャーナリストアカデミー講師など、幅広く活動している。著書に『教養としてのビール』(サイエンス・アイ新書)など。
副原料でビールの味わいの幅を広げる
ビールは麦芽、ホップ、酵母を主原料としてつくられますが、副原料を入れることで味わいの幅を広げることができます。また、地域の特産品を副原料として使えば、その地域ならではのビールをつくることも可能になります。
今回は、地域の特産品でビールをつくる事例として、埼玉県川越地域の特産品であるサツマイモを副原料に使ったビールをご紹介します。
※日本の酒税法では、麦芽重量の5%を超えて副原料を使用した場合は発泡酒となりますが、この記事ではビールとして表記します。
川越は江戸時代からのサツマイモの名産地

埼玉県川越市は、江戸時代に城下町として栄え、その情緒が感じられる蔵造りの町並みが残っていることもあり、「小江戸」と呼ばれています。新河岸川から荒川、隅田川とつながっていることもあり、水運による江戸とのつながりも深く、この地域の商業的、文化的な中核都市だったといえます。
江戸時代には川越周辺でサツマイモの栽培が始まりました。水運を使ってサツマイモが江戸に運ばれ、江戸では栗のように甘い川越のサツマイモが大人気に。川越のサツマイモは当時「栗よりうまい十三里」というキャッチコピーで知られていました。「栗(九里)+より(四里)」で「十三里」という言葉遊びなのですが、実際に川越から江戸までの距離は十三里ほどだったそうです。

現在でも川越ではサツマイモが特産品で、町中ではサツマイモを使ったスイーツなどが売られています。蔵造りの町並みを散策しながら、サツマイモスイーツを食べ歩きする人たちもよく見られます。
この川越地域を拠点としているのがコエドブルワリーという醸造所で、川越の特産品であるサツマイモを使ったビールを醸造しています。
廃棄されてしまうサツマイモをビールの原料に
コエドブルワリーを運営している株式会社協同商事は、昭和57年から川越で地域の農業に携わってきている会社です。平成8年にビール事業を立ち上げ、同18年から「COEDO」というブランドでビールをつくってきました。
コエドブルワリーは、「COEDO 毬花-Marihana-」「COEDO 瑠璃-Ruri-」「COEDO 白-Shiro-」「COEDO 伽羅-Kyara-」「COEDO 漆黒-Shikkoku-」「COEDO 紅赤-Beniaka-」の6種類の定番ビールと、様々な限定ビールをつくっています。この定番ビールのひとつである「COEDO 紅赤-Beniaka-」が、サツマイモを副原料として使用しているビールです(酒税法上は発泡酒)。

この「COEDO 紅赤-Beniaka-」で使われているサツマイモは、もともとは廃棄されてしまうような規格外品でした。当時、サツマイモは収穫されたうちの約4割は、味の問題はないにもかかわらず規格外品として廃棄されてしまっていたといいます。もともと農家の収入にならなかったサツマイモをコエドブルワリーが買い取ってビールにしているのです。
そうすることで農家の収入につながり、コエドブルワリーがサツマイモを使ったビールとして販売することで、川越のサツマイモのブランディングにもつながっているともいえるでしょう。
また、この取り組みが素晴らしいのは、農家の収入に貢献しているということだけでなく、定番商品として販売していることだと考えています。限定ビールといった一過性の商品ではなく、定番商品として販売しているため、継続的に川越のサツマイモをアピールできるようになっています。
さらに、規格外品のサツマイモを加工することはほかのスイーツなどでもできることですが、ビールにすることでより遠くの消費者にも届けられているのではないでしょうか。川越土産としての販売だと、川越に来た人でないとなかなか購入できませんが、ビールとしてコエドブルワリーが国内だけでなく海外にまで販売することで、認知度も高められているのではないかと思います。
サツマイモを焼きいもに加工して香味を引き出す

「COEDO 紅赤-Beniaka-」に使っているサツマイモは、ビールの商品名と同じ「紅赤」という品種です。「紅赤」はほくほくした食感とほどよい甘味が魅力的で、スイーツなどにも加工しやすいのが特徴といえます。
この「紅赤」をビール醸造に使う際は、焼きいもに加工し、それを皮ごとペースト状にして使っています。焼きいもにすることで香味が引き出されますが、サツマイモの糖分は酵母がアルコールと二酸化炭素に分解するため、サツマイモの味わいが全面的に出ているわけではありません。
ほのかなサツマイモの風味が感じられ、ビールとしての味わいのバランスも保たれており、非常においしいビールです。
地域との関係性の中から解決策としてのビールをつくる
ビールの醸造には副原料を使用することができ、地域の特産品を副原料として使えばその地域ならではの特徴的なビールをつくることができます。しかし、特産品を使ったビールをつくることがゴールではありません。地域でどのような課題があって、ビールをつくることでどのように解決できるかを考えることが大切です。
コエドブルワリーの「COEDO 紅赤-Beniaka-」は、協同商事が昭和57年から川越で地域の農業に携わってきた、地域との関係性から生まれたビールだともいえます。特産品を使ったビールをつくるのであれば、つくることに終始するのではなく、地域との関係性を考えて進めていくことが必要なのではないでしょうか。
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連載第5回では、廃棄されてしまうぶどうをビール醸造に活用した山梨県小菅村の事例をご紹介します。













