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【相談室】法律の勉強、効率よく行う方法はありますか?

「何でこうなってるの?」「もっとこうならいいのに」毎日仕事をする中で、頭をよぎる疑問や悩み…そんな「モヤモヤ」を、一歩先ゆく公務員の皆さんに解決して頂く企画。

第4回は、公務員であれば誰しもが触れる「法律」のモヤモヤについて、佐倉市役所の塩浜克也さんに寄稿いただいた。

【今回のモヤモヤ】

仕事をしながら法律の勉強は、正直負担です。効率よく勉強をする方法はありますか?

今まで専門的に法律の勉強をしたことがありません。入庁後、法律に触れる機会が多く正直戸惑っています。仕事をこなしながら、効率よく勉強をする方法を知りたいです。


まずは日頃の仕事で、以下について心がけてみましょう。 

・折に触れて根拠条文を確認する。
・法律の目的や条文が行おうとする内容を意識する。
・自分の仕事の法律上の役割について興味を持つ。

「法律がわかりません…」

「なぜ証明書が出せないんだ。法律のどこに書いてあるんだ、とお客さんに聞かれました」困った顔の職員から相談を受けたことがあります。

最近では、採用試験に専門科目を廃止する自治体もあることから、採用されてから法律の知識不足に困惑する方は少なくないようです。

しかしながら、私たち公務員の仕事のよりどころは、法律です。法律の知識を習得することは、仕事のしやすさにもつながります。

不安はあるでしょうが、コツをつかめば、効率よく法律の勉強することは可能です。

「法令」「例規」って何だ?

勉強のコツの前に、ちょっとだけ介護保険制度を例に、法律とその周りの「ルール」との関係についてご説明しましょう。

介護保険制度は、介護が必要になった高齢者を社会全体で支える仕組みです。その制度の大枠は介護保険法という「法律(国会で制定)」で定められています。法律に不足するある程度具体的な内容は、介護保険法施行令という「政令(内閣が制定)」で定められています。また、提供される介護サービスの内容等は、介護保険法施行規則という「省令(大臣が制定)」で定められています。法律とこれに基づく政令・省令を併せて「法令」と呼びます。

このようにルールが複数あるのには、理由があります。法律は制度的な安定を担保する一方で、機動的な対応が難しい側面があるからです。保険制度自体に大きな見直しがされたら利用者は混乱しますが、提供されるサービスの見直しが柔軟に行わなければ制度の運営に支障が生じかねません。

一方、自治体で定められるルールもあります。制度の利用者が支払う介護保険料の額は、介護保険条例という「条例(議会で制定)」で定められます。保険料の算定根拠となる利用者の数や具体的なサービスは、自治体によって異なるからです。保険料の納付書の書式は、介護保険条例施行規則という「規則(長が制定)」で定められています。条例と規則を併せて「例規」と呼びます。

このように、法令と例規はそれぞれ役割を分担し、ジグソーパズルのように組み合わされて、介護保険制度は運営されています。

法律を勉強するコツ

仕事の中で法律を勉強するコツとしては、以下のものがあります。

1)折に触れて根拠条文を確認する

仕事で目にする通知や参考資料に法令や例規の条項が引用されている場合は、お手間でも、それらの条文を確認するよう心がけてみましょう。

法令や例規の相互の関係は前述のように少々複雑ですが、ある程度条文を読めば、それらの役割分担が見えきます。慣れれば、法令や例規はどの分野もだいたい同様の構成ですので、異動して違う分野で仕事をする際も勘が働くようになります。

 

2)法律の目的や条文が行おうとする内容を意識する

合間を見て、仕事に関する法律の参考書に目を通してみましょう。よい入門書があれば一冊通読すると、法律の目的(法律が何を達成しようとしているのか)が見えてきます。法律の目的を踏まえると、それぞれの条文が行おうとする内容(何に対して何を行うのか)への理解が進みます。

「逐条(ちくじょう)解説」と呼ばれる条項ごとの解説書があれば、必要に応じて疑問を解消することができます。また、「質疑応答集」と呼ばれる参考書は、実務から根拠条項の解釈を導く手立てになります。

 

3)自分の仕事の法律上の役割について興味を持つ

上記の1、2を実践できたら、次のステップとして、自分の仕事の法律上の役割について興味を向けてみましょう。「何ができるか」「何を行うべきか」が念頭に置かれれば、法律への理解がより進むはずです。先行自治体の事例は、日常の疑問を解きほどくヒントになります。

仕事に関係する検定や資格試験がある場合は、受験を検討してみるのもよいでしょう。なお、それらのテキストは、受験者が効率よく学習するために解説が端的にまとめられていますので、実際に受験までしなくても、仕事の手頃な参考書として重宝します。

自治体は法運用の最前線

冒頭の質問に戻りましょう。特定の人に対してしか証明書が発行できないということは、役所が持つ情報の秘匿性が高いということです。

したがって、法律に書かれているのは、「証明書が出せない理由」ではなく「証明書が出せる理由(申請者が本人であることを証明できたなど)」ということになります。法律の目的を踏まえれば、クレームめいた質問への対応も可能になります。

自治体の現場は、法運用の最前線です。皆さんは、勉強の絶好の機会にいるといえます。苦手意識を持たず、無理のない範囲内で、法律を勉強してみてください

法律の勉強にオススメ!の書籍とウェブサイト

最後に、法律の勉強にオススメの書籍とウェブサイトをご紹介しましょう。気になるところから読み始めて、少しずつ知識を広げていってください。

○書籍

『疑問をほどいて失敗をなくす 公務員の仕事の授業』塩浜克也・米津孝成(学陽書房)
財務・法務・議会など公務員に必要な知識について、関係法律に触れながら解説します。右も左もわからない!と不安な方は、まずこの本を。本稿の執筆者の著書です。

『自治体職員のためのようこそ地方自治法[第3版]』板垣 勝彦(第一法規)
私たちの仕事の基本である地方自治法についての解説。地方自治制度についての説明も。中堅と呼ばれるまでには、是非読んでおきたい一冊です。

『事例から学ぶ 実践! 自治体法務・入門講座』吉田勉(学陽書房)
実務で出くわす諸問題に対して適用する法律とその意味・効果について説明しています。仕事と法律への理解や興味をより深めたい方にオススメです。

 

○ウェブサイト

政策法務ニュースレター
(https://www.pref.chiba.lg.jp/seihou/gyoukaku/newsletter/index.html)
千葉県政策法務課による庁内の職員向けの情報提供です。数ページなので読みやすい。


塩浜 克也(しおはま かつや)

1968年生まれ。1997年佐倉市入庁。資産税課、財政課等を経て、2016年から現職。
著書は、『自治体の法規担当になったら読む本』(学陽書房、2014年、共著)、『法実務から見た行政法 エッセイで解説する国法・自治体法』(日本評論社、2014年、共著)ほか多数。
 


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