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水産業の課題を徹底解説!現状と未来、持続可能な発展への道筋とは?

日本の食卓に豊かな恵みをもたらしてきた水産業。しかし今、その現場は漁獲量の減少、担い手不足、コストの高騰など、数多くの厳しい課題に直面している。 本記事では、日本の水産業が抱える問題の現状とその背景にある原因を深掘りし、国や現場レベルで行われている対策、そして持続可能な未来を築くための展望について、分かりやすく解説する。

【目次】
 • 日本の水産業が抱える現状と深刻な課題

 • なぜ水産業の課題は深刻化しているのか?その原因を探る
 • 水産業の課題解決に向けた国の主な取り組み
 • 現場レベルで求められる水産業の活性化策
 • 持続可能な水産業の未来を築くために
 • まとめ

※掲載情報は公開日時点のものです。

この記事で分かること
日本の水産業が直面している課題の全体像
■国が進める主な取り組みや政策の方向性
■現場で取り組まれている具体的な活性化策

日本の水産業が抱える現状と深刻な課題

日本の水産業は、私たちの食生活に不可欠な役割を果たしているが、近年、その持続可能性を揺るがす多くの課題に直面している。最新の統計によると、漁業・養殖業の生産量は長期的に減少傾向にあり、漁業経営体の数も減少している。この背景には、複数の要因が複雑に絡み合っているのである。

漁獲量の減少と資源管理の問題点

かつて世界有数の漁獲量を誇った日本だが、1984年の1,282万トンをピークに生産量は減少し、2018年には442万トンとなっている。特にマイワシ、サンマ、スルメイカといった主要魚種の減少が顕著だ。この原因の一つとして、気候変動による海洋環境の変化とともに、一部の魚種における過剰な漁獲圧や、国際的な資源管理の難しさが挙げられる。

政府は漁獲可能量(TAC)制度を導入し、対象魚種を拡大しているが、その実効性や科学的根拠にもとづく資源評価の精度向上が引き続き求められている。

出典:水産庁「数字で理解する水産業」

漁業者の高齢化と深刻な後継者不足

水産業の担い手不足も深刻だ。漁業就業者数は減少し続けており、2003年には約23.8万人いた漁業就業者が、2023年には12.1万人にまで減少した。さらに、就業者の高齢化が著しく、2023年のデータでは漁業就業者のうち65歳以上が約4割を占めている。若年層の新規参入が少ない背景には、収入の不安定さ、厳しい労働条件、そして将来への展望のもちにくさなどがある。

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国内における魚介類消費量の低迷

日本人の魚離れも、水産業にとって大きな課題だ。1人当たりの年間魚介類消費量は、2001年度の40.2kgをピークに減少傾向にあり、2023年度には22.0kgまで落ち込んだ。この背景には、肉類消費の増加といった食生活の欧米化、調理の手間、価格の高さ、若年層の魚食経験の減少などが指摘されている。国内需要の低迷は、水産物の価格形成にも影響を与え、漁業経営を圧迫する一因となっている。

出典:政府統計の総合窓口「食料需給表 確報 令和4年度食料需給表 年度次」

経営を圧迫する燃料費の高騰と物価上昇

近年の原油価格の高騰は、漁船の燃料費を大幅に押し上げ、漁業経営に大きな打撃を与えている。燃料費は漁業経費の大きな割合を占めるため、収益性を著しく悪化させ、特に体力の乏しい小規模経営の漁業者にとっては死活問題である。これに加え、漁具や資材、物価全般の上昇も経営を圧迫しており、持続的な漁業経営を困難にしている。

なぜ水産業の課題は深刻化しているのか?その原因を探る

水産業が直面する課題は、単一の原因によるものではなく、複数の要因が複雑に絡み合って深刻化している。その根本的な原因を理解することが、有効な対策を講じるための第一歩だ。

地球規模での気候変動と海洋環境の変化

地球温暖化に伴う海水温の上昇、海洋酸性化、海流の変化などは、海洋生態系に広範な影響を及ぼしている。これにより、魚種の生息域が北上したり、産卵場所が変化したりするなど、従来通りの漁業が困難になるケースが増えている。また、異常気象による漁獲量の不安定化や、有害プランクトンの発生頻度の増加も懸念材料である。

国際的な漁業規制と海外との競争激化

1970年代以降の排他的経済水域(EEZ)の設定により、日本の遠洋漁業は大きな影響を受けた。近年では、国際的な資源管理の強化が進み、マグロ類などの特定魚種に対する漁獲枠の設定や厳しい規制が導入されている。加えて、海外からの安価な輸入水産物との競争も激化しており、国内の漁業者は価格面でのプレッシャーにさらされている。

漁村地域の活力低下とインフラの老朽化

漁業者の高齢化と後継者不足は、漁村地域の人口減少と活力低下を招いている。若者が都市部へ流出し、地域の伝統文化や共同体機能が失われつつある地域も少なくない。さらに、漁港施設や加工・流通施設といった水産業を支えるインフラの老朽化も進んでおり、その維持・更新が大きな負担となっている。

水産業の課題解決に向けた国の主な取り組み

深刻化する水産業の課題に対し、国も様々な対策を講じている。水産庁を中心に、資源管理の強化、密漁対策、漁場環境の保全など、多岐にわたる取り組みが進められている。

新たな資源管理システムの導入と強化

持続可能な漁業を実現するため、科学的根拠にもとづく資源管理が重視されている。2020年に施行された改正漁業法では、漁獲可能量(TAC)による管理を基本とし、MSY(最大持続生産量)を達成できる水準に資源を回復・維持することを目標としている。TACの対象魚種は順次拡大されており、より実効性のある資源評価と管理体制の構築が進められている。

出典:水産庁「新たな水産基本計画」

密漁対策とIUU漁業への対応強化

資源管理の実効性を損なう大きな要因の一つが密漁である。特にアワビやナマコといった高付加価値の水産物を狙った悪質な密漁が問題視されている。国は、水産流通適正化法を施行し、特定の水産物について漁獲番号などの伝達・保存を義務づけることで、違法に採捕された水産物の流通を防ぐ取り組みを強化している。

また、国際的に問題となっているIUU(違法・無報告・無規制)漁業に対しても、関係国との連携を強化し、その撲滅に向けた取り組みを進めている。

出典:水産庁「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」

漁場環境保全と生態系回復の推進

豊かな漁場環境は、水産資源の維持・増大に不可欠である。国は、藻場や干潟の造成・保全、海洋プラスチックごみ対策、適切な種苗放流などを通じて、漁場環境の保全と生態系の回復を推進している。また、赤潮や貧酸素水塊といった漁業被害を引き起こす現象への対策研究や、気候変動が海洋環境に与える影響調査も行われている。

現場レベルで求められる水産業の活性化策

国の施策に加え、漁業者自身や地域社会、関連企業が主体となった取り組みも、水産業の活性化には不可欠である。新しい技術の導入やビジネスモデルの変革、人材育成など、現場レベルでの創意工夫が求められている。

スマート水産業とDXによる効率化

人手不足の解消や生産性の向上を目指し、ICT(情報通信技術)やAI、IoT(モノのインターネット)といった先端技術を活用する「スマート水産業」の導入が進められている。例えば、魚群探知機の高度化、養殖における自動給餌システムや水質管理システム、ドローンを活用した漁場監視などが挙げられる。これらの技術は、省力化だけでなく、データにもとづいた効率的な漁業経営や資源管理にも貢献すると期待されている。

6次産業化と新たな販路開拓の模索

漁獲(1次産業)だけでなく、水産物の加工(2次産業)や流通・販売(3次産業)までを一貫して手がける「6次産業化」は、付加価値の向上や所得向上に繋がる取り組みとして注目されている。消費者ニーズに合わせた商品開発や、オンラインストアでの直接販売、観光と連携した体験型コンテンツの提供など、新たな販路を開拓する動きも活発化している。

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若者や多様な人材の新規参入促進

水産業の未来を担う人材の確保・育成は喫緊の課題である。国や自治体による就業支援プログラムの提供、漁業学校や研修機関における教育内容の充実、漁業体験イベントの開催などを通じて、若者や漁業未経験者に対する門戸を広げる努力が続けられている。また、労働条件の改善や所得の安定化、漁業の魅力発信も重要である。

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持続可能な水産業の未来を築くために

日本の水産業が直面する課題は複雑で根深いものだが、悲観するだけでは未来は開けない。国、漁業者、研究機関、そして地方自治体が一体となって、知恵を絞り、行動していくことが求められる。

消費者意識の改革と国産水産物の応援

消費者の選択も、水産業の未来に大きな影響を与える。国産の水産物を積極的に選ぶこと、MSC(海洋管理協議会)認証やASC(水産養殖管理協議会)認証といったサステナブルな漁業・養殖業で生産された水産物に関心をもつことは、持続可能な水産業を支える力となる。旬の魚や地元で獲れた魚を味わうといった魚食文化を楽しむことも大切である。

国際協力と連携による資源管理の推進

多くの魚種は国境を越えて回遊するため、一国だけの努力では資源管理は困難である。国際的な漁業機関を通じた情報共有、共同での資源調査、そして公平な漁獲ルール作りなど、関係国との協調・連携を一層強化していく必要がある。地球規模での海洋環境保全への貢献も重要だ。

水産業の多面的機能と社会的価値の再認識

水産業は、単に食料を供給する産業であるだけでなく、国境監視や海洋環境の保全、伝統文化の継承、地域社会の維持といった多面的な機能と社会的価値を有している。これらの価値を社会全体で再認識し、水産業を支えていくという意識を共有することが、日本の豊かな海と食文化を未来へつなぐために不可欠である。

まとめ

日本の水産業は、漁獲量減少、担い手不足、コスト増など多くの課題を抱えているが、これらは同時に変革への機会でもある。新たな資源管理の推進、スマート技術の導入、消費者意識の変化など、未来に向けた動きも着実に進んでいる。 関係者一人ひとりが課題を直視し、それぞれの立場でできることに取り組むことで、日本の水産業が持続可能な成長産業として発展していく道が開かれるのである。

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