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森林経営管理制度で進める「持続可能な森林管理」のヒントとは?

日本の森林は所有者不明や担い手不足といった課題に直面している。こうした課題に対応し、森林がもつ多面的な機能を維持・発揮させることを目的に、市町村が主体となって森林を集約・管理する「森林経営管理制度」が創設された。

本記事では、制度の背景と目的を解説するとともに、持続可能な森林管理を実現するためのヒントを紹介する。

【目次】
 • 森林経営管理制度とは?創設の背景と目的

 • 森林経営管理制度と市町村の役割
 • 所有者不明森林等への特例措置と活用状況
 • 森林経営管理制度の取り組み状況とアンケート結果
 • 持続可能な森林経営管理に向けた取り組み事事例
 • まとめ/森林経営管理制度の本質を見失わずに活用しよう

 ※掲載情報は公開日時点のものです。

森林経営管理制度とは?創設の背景と目的

森林のイメージ写真

森林経営管理制度は、手入れの行き届いていない森林に対し、市町村が主体となって経営管理の委託を受け、意欲ある林業経営者へ再委託するとともに、林業経営に適さない森林は市町村が公的に管理する制度である。この制度により、荒廃が進む放置森林を減らし、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理を両立させることがねらいである。

森林資源の放置・担い手不足への対応

戦後造成された人工林は成熟期を迎えている一方、林業従事者の減少や高齢化が進んだことで、各地に手入れが行き届かない森林が増えている。日本の森林の約9割は保有面積10ha未満の小規模所有であり、こうした零細分散構造が管理の難しさをいっそう高めている。

※出典:林野庁「森林経営管理制度と森林環境譲与税」

森林の多面的機能の維持

森林は木材生産だけでなく、災害防止、温暖化防止、水資源の涵養(かんよう)など多面的な機能を担うが、手入れ不足による機能低下が各地で問題となっている。この多面的機能の維持は、森林経営管理制度の重要な目的の一つである。

小規模所有構造への対策と集約管理の必要性

日本の山林所有は小規模で分散している傾向が強く、さらに相続や売買などで所有者が細分化され、境界もあいまいになりがちだ。従来は、森林の区画ごとに所有者が個別に管理するしかなく、結果的に効率的な施業(森林の管理や作業)や路網整備(林道や作業道の整備)が難しかった。
そこで、市町村が仲介して森林を集約・一括管理する仕組みを整えることで、経営効率を高め放置山林の減少を図るねらいがある。

制度創設と森林環境税・譲与税による財源確保

平成30年5月に成立した森林経営管理法にもとづいて始まった森林経営管理制度は、森林環境税を財源としている。市町村は案分して譲与される「森林環境譲与税」を活用し、意向調査の実施や境界確認、間伐などの施業費用を負担する仕組みを構築している。

出典:林野庁「森林環境税及び森林環境譲与税」

森林経営管理制度の仕組みと市町村の役割

森林経営管理制度は、具体的にどのような仕組みで森林の課題解決を目指すのだろうか。制度の概要、市町村が担う役割、そして円滑な運営に必要な体制について解説する。

制度の目的と概要

森林経営管理制度は、放置森林の整備と林業経営の効率化を同時に実現することを目的としている。森林所有者が森林を適切に管理できない場合に、市町村が「経営管理権」を設定して森林を一時的に預かり、林業採算が見込める森林を民間の林業経営体に再委託し、そうでない森林は市町村が公益的機能の維持を目的に直接管理する仕組みだ。

森林経営管理制度の仕組みと市町村の役割出典:林野庁「森林経営管理制度と森林環境譲与税」

制度の進め方と市町村の役割

市町村は、森林所有者との窓口となり、森林の現況調査から再委託先の選定までをトータルで担う。

●意向調査の実施

まずは管内の森林所有者全てに対して「今後も自分で管理するのか」「市町村に委託したいのか」などの意向調査を行う。未回答者への再アプローチや電話、訪問などの地道な活動も必要となる。

●経営管理権の設定

意向調査の結果をもとに「委託を希望する」森林について、所有者の合意を得た上で市町村が経営管理権(森林経営管理法にもとづく権利)を設定する。

●集積計画の策定

経営管理権を設定する際には、その森林を含めた「経営管理権集積計画」を策定する。計画には森林の場所や面積、具体的な施業方針などを記載し、所有者・共有者から同意を得るのが原則となる。所有者不明の場合には特例措置を活用する方法もある。

●再委託・直接管理

林業経営に適した森林は、意欲ある林業事業者(森林組合や素材生産業者など)に経営管理実施権を設定し、再委託して施業を行ってもらう。一方、林業経営に適さない森林は市町村が直接管理(市町村森林経営管理事業)を行うことになる。

制度を円滑に進めるための体制整備

森林所有者の個別対応や境界確認、施業計画の策定など事務作業は膨大である。そのため、市町村が単独で対応するには限界がある。市町村の森林・林業担当職員数は令和6年12月時点で全国3,000人程度にとどまり、林務専任職員が0人の自治体も約4割存在する。

制度運用を推進するには、以下の3つが必要とされる。
・市町村の体制構築
・協議会による民間連携
・広域的な市町村連携

都道府県から専門家を派遣してもらう「地域林政アドバイザー制度」や、森林組合・林業経営者と連携しながら役割分担をするなど、自治体によって様々な工夫が行われている。

出典:林野庁「森林経営管理制度と森林環境譲与税」

所有者不明森林等への特例措置と活用状況

所有者不明森林のイメージ

管理の大きな障壁となる所有者不明の森林。森林経営管理制度では、この問題に対応するための特例措置が設けられている。その内容と実際の活用状況、国の支援策を紹介する。

特例措置とは

所有者不明森林や、相続未登記などで一部の共有者と連絡が取れない森林については、本来なら経営管理権集積計画をつくれない。しかし、一定期間公告しても所有者や共有者が申し出ない場合、都道府県知事の裁定によって、同意があったものとみなす特例措置が設けられている。これにより、市町村は法律上の手続きを踏んだ上で、所有者不明の森林にも経営管理権を設定できるようになる。

経営管理権集積計画の作成に係る特例措置の概要図
出典:林野庁「所有者不明森林等に係る特例措置」

令和5年度までの実績

所有者探索を実施した市町村:156
所有者候補調査:約1万500人
調査面積:約6,300ha
所有者特定済み:約5,800人(3,500ha)
実際に公告・経営管理権を設定した件数:10件(9市町)

この実績をみると、まだ大規模な活用とは言い難い状況だ。市町村アンケートでは「手続きが煩雑」「公告期間が長い」「マンパワー不足」といった声が多く、制度自体のハードルの高さが指摘されている。

出典:林野庁 令和6年12月「森林経営管理制度と森林環境譲与税」

林野庁による実務支援

林野庁は「所有者不明森林の特例措置活用のためのガイドライン」を作成・改訂し、Q&A形式やケーススタディを通じて実務面の対応を支援している。

また、都道府県の森づくり推進課や森林管理署などとも連携し、事例研究や研修会も実施されている。人材やノウハウ不足で踏み出せない市町村にとって、こうした情報や専門家とのネットワークは大きな助けとなるだろう。

森林経営管理制度の取り組みとアンケート結果

制度開始から数年、森林経営管理制度は全国でどの程度活用されているのだろうか。最新の実績データと市町村アンケートから見えてくる現状の成果と、運営上の課題をみてみよう。

令和5年度までの実績

意向調査実施市町村:1,132
対象森林面積:約103万ha(回答率:約6割)
経営管理権設定面積:約2万3,290ha
実施権配分計画面積:3,177ha(整備実施:598ha)

制度開始から数年が経ち、多くの自治体が意向調査や経営管理権の設定に着手している。林野庁の取りまとめでは、意向調査に着手した市町村は約7割にのぼるという。

一方で、再委託まで完了して実際に森林整備が進んだケースはまだ限定的である。これは時間がかかるプロセスでもあり、今後徐々に進んでいくことが期待されている。

※出典:令和6年12月 林野庁 森林利用課 森林集積推進室「森林経営管理制度と森林環境譲与税」

市町村アンケートに見る制度運用の課題

職員・技術者不足

アンケートでは、8割以上の市町村が「マンパワー不足」を課題として回答。林業専門の職員がいない自治体も多く、意向調査から境界確認、再委託手続きまでの作業が大きな負担になっている。

小規模・散在森林の集積困難

8割以上の自治体が「森林が小規模・分散しており、集積・集約化につながらない」と回答。複数の小さな森林が点在している場合、再委託先として林業事業者が興味を示すようにまとめて経営するのは容易ではない。採算が合わない森林をどう扱うかは大きな課題だ。

境界不明確

さらに、7割を超える市町村が「森林の境界が不明瞭」と回答。施業を始めるにあたっては隣接地との境界を確認しなければならないが、測量に時間と費用がかかり、所有者不明や高齢化で立ち会いが難しいケースも多い。経営管理権の設定や施業計画を進めるうえでのボトルネックになりやすい。

手続きの煩雑さ 

集積計画策定時に全員同意が必要であることや、配分計画策定時に、業者が1者のみでも企画提案会を行う必要があることなど、制度自体にハードルを感じている市町村は9割にものぼり、制度の手続き自体にも課題が見える。

持続可能な森林経営管理に向けた取り組み事例

持続可能な森林経営管理のイメージ

制度運用には多くの課題があるが、創意工夫によって成果を上げている自治体も存在する。ここでは、秋田県大館市、福井県福井市、三重県津市の先進的な取り組み事例を紹介し、持続可能な森林管理のヒントを探る。

秋田県大館市: 直営体制の整備による取り組み

秋田県大館市は、総面積約9万1,000haのうち、森林面積が約7万2,000haを占めており、秋田杉の主要な産地で林業が盛んな地域だ。制度開始以前は林業の専門職員が不在であり、人手不足が課題だった。制度の開始と合わせて市自ら人材を確保し、制度の実施体制を構築しながら、市が主体となって取り組みを進めている。

直営体制の整備 

森林経営管理制度の対象となる私有林約1万2,000haについて、20年間で意向調査を完了させる期間を制度運用期間として設定。制度の円滑な運⽤を図るため、制度の開始前に実施した意向調査候補森林(当⾯5年分)の選定など、⼀部の事務は外部委託で実施。一方で、意向調査の実施から配分計画の作成に至るまでの一連業務は、市が直営で対応している。

体制確保のポイント

地域林政アドバイザー制度や会計年度任用職員を活用し、経験者のノウハウを活かしている点も、大館市の取り組みのポイントだ。市の職員だけでは対応しきれない分野を補完しながら施業と事務手続きを同時に進めることで、制度の円滑な運用を実現。こうした体制強化の結果、制度開始前には林務担当職員が3〜4人だったのに対し、令和7年5月末時点には16人まで増員した。
※令和7年5月末時点

出典:林野庁 森林利用課「森林経営管理制度に係る取組事例集 VoL.3」
 

福井県福井市: 境界未確定地への対応

福井市では、リモートセンシングデータと専門知識を活用し、境界未確定地の対応に取り組んでいる。

森林境界推計図の作成と活用

公図を基本に、空中写真、微地形表現図、林相識別図、樹高分布図などのリモートセンシングデータを活用し「森林境界推計図(素図)」を作成。集会所などで地域をよく知る人や土地所有者にこの素図や3D画像を提示し、詳細な聞き取り調査を実施する。聞き取った境界目標物の位置情報(GNSSによる位置座標)の取得や、境界確認に有効な風景などの撮影を現地で行うことで、効率的に境界確認を進めた。
森林境界推計図の同意取得率は、面積で96%、人数で70%という高い水準を達成している。

森林境界推計図の作成と活用

公図を基本に、空中写真、微地形表現図、林相識別図、樹高分布図などのリモートセンシングデータを活用し「森林境界推計図(素図)」を作成。集会所などで地域をよく知る人や土地所有者にこの素図や3D画像を提示し、詳細な聞き取り調査を実施する。聞き取った境界目標物の位置情報(GNSSによる位置座標)の取得や、境界確認に有効な風景などの撮影を現地で行うことで、効率的に境界確認を進めた。
森林境界推計図の同意取得率は、面積で96%、人数で70%という高い水準を達成している。

出典:林野庁 森林利用課「森林境界の明確化」
 

三重県津市: 意向調査を簡素化・効率化

意向調査の全域実施と分散化

津市では、早期の森林整備を求める声が多数寄せられたことから、市域全体を対象として意向調査を実施する方針を決定した。市域の私有林約3万8,000haを9地域に分け、5年で意向調査を実施。集計作業を効率化するため、複数回に分けて調査票を段階的に発送した。

調査票回収率向上の工夫

さらに、各地域で説明会と相談会を複数回行うなど「郵送のみ」に頼らない方法を試み、その場でも意向調査票の回収を行った。意向調査票の送付後、宛先不明の場合は、市会計年度任用職員(法務局OB)が住民票、戸籍をもとに所有者探索を再度行い、回収できなかった所有者にはハガキで回答を依頼しているという。

出典:林野庁 森林利用課「森林経営管理制度と森林環境譲与税」

森林経営管理制度の本質を見失わずに活用しよう

森林経営管理制度は、放置森林の再生と林業の振興を同時に図ることが可能とされる枠組みだ。しかし、所有者不明問題や境界不確定など課題は多く、制度を導入するだけで直ちに全てが解決するものではありません。重要なのは、地域ごとの実態に合わせて制度を柔軟に運用し、必要に応じて都道府県や専門家の支援を得ながら進めることではないだろうか。

本制度の本質は「地域の森林を持続的に管理し、多面的機能を維持すること」にある。この目的を見据え、着実に一つひとつの取り組みを積み重ねていくことで、将来的にはより広域的な森林管理が実現し、林業や地域経済にも新たな活力をもたらすことが期待できるだろう。

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