
全国の市区町村の創意工夫あふれる取り組みを表彰する、愛媛県主催の「行革甲子園」。7回目の開催となった令和6年の「行革甲子園2024」には、35都道府県の78市区町村から97事例もの応募があったという。
今回はその中から、秋田県由利本荘市の「出張行政サービス『移動市役所』」を紹介する。
※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2024」の応募事例から作成しており、内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。
取り組み概要
由利本荘市では、令和4年度から移動市役所推進事業「ゆりほん窓口GO」の実証実験を開始。令和5年度より本格運行している。本事業は、オンラインによる遠隔相談や証明書類発行機能などを搭載したマルチタスク車両に職員が乗車し、住民が自宅近辺で出張行政サービスを受けられる移動型サービス(行政MaaS)。
移動手段の確保などが困難な市民の利便性向上、行政サービスヘのデジタル技術の活用を図りつつ、移動手段がない住民や、デジタルが苦手な住民に、自宅近くで直接サービスの提供を可能にすることで人口減少に伴う交通や移動に関する課題の解消を目指す。行政MaaS型では秋田県内初の取り組みであり、提供サービスについて拡大を検討している。
背景・目的
1. 人口減少に伴う労働人口の減少
・公共交通を担う人材の不足により、公共交通網の維持が困難になる。
・行政サービスでも、職員の減少によって拠点機能の維持が難しくなる。
→行政サービス拠点まで来なくても、サービスを提供できる仕組みが必要。行政サービスヘのデジタル技術の活用を図りつつ、移動手段がない住民や、デジタルが苦手な住民に自宅近くで直接サービスの提供を可能に。
2. 高齢化地域の増加
・中山間地域を中心に高齢化率の進行が顕在化。
・行政サービスとのアクセスがより一層難しくなる。
→中山間地域などに居住している高齢者にも、行政サービスを届ける方法が必要。デジタル化の進展や行政サービスヘのアクセスが難しくなるなどの住民の不安を解消し、住民が行政サービスの提供方法を自由に選択できる体制を整える。
3. 移動手段を持たない高齢者の増加
・高齢化や運転免許の自主返納などにより、自家用車での移動に依存していた高齢者が、移動手段を失ってしまう。
→移動手段をもたない高齢者と行政サービスを接続する手段が必要。サービスの質を維持しながら行政機能の集約、再配置を検討し、将来に向けた行政サービス拠点のあり方を検討する。
取り組みの具体的内容
マルチタスク車両を導入し、移動市役所(行政MaaS)を推進
・マルチタスクで利用可能な特殊車両内にオンライン会議システムを構築し、遠隔で窓口相談を実施。
・マルチタスク車両内に閉域SIMを用いたVPNにより庁内LAN環境を延伸し、窓口業務を車両内で実施。
・マルチタスク車両内で写真撮影なども含めマイナンバーカードの申請受け付けを実施。
特徴(独自性・新規性・工夫した点)
・窓口で取り扱っている業務を、できるだけ多く移動市役所で受けられるように、全庁的に可能な業務について照会し、取り入れた。
(例:証明書発行、マイナンバーカード申請、入浴施設入場料等割引券、各種相談 など)
・由利本荘市は1市7町が平成17年に合併した市であり、面積が1,209平方キロと沖縄本島とほぼ同じ面積であり広大である。そのなかで高齢者などは移動手段の確保が課題であることから、巡回する場所についてもきめ細かく、地元の公民館等へも訪問しており、市内48箇所へ訪問している。
・令和4年度にNTT東日本秋田支店および「MonetTechnologies」の協力のもと、10日間の実証実験を実施。マイナンバーカード申請等の一定の利用数があったことから、デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプ)に申請を行い、本格実施に踏み切った。
取り組みの効果・費用
得られた効果・今後見込まれる効果
高齢者をはじめ移動手段の限られている市民が、市役所庁舎・総合支所などに来庁しなくても行政サービスを受けられる。
取り組みに要した費用
車両:約16,600千円
機器:約6,033千円
運行支援:800千円
取り組みを進めていく中での課題・問題点(苦労した点)
移動市役所内での取り扱い業務や運行箇所については、事業を始める上で苦労した部分であった。取り扱い業務については、各課から移動市役所で受けることができそうな業務を聞き取ったりした上で整理した。運行箇所については、基本的には町内会(自治会)会館を廻ることとしたが、そのほかに、日中に従業員が勤務している事業所などにも運行することで、普段は市役所に来れない方への行政サービス提供ができるようになった。
今後の予定・構想
移動市役所車両として対応可能な業務としては、住民票・印鑑証明書等の発行やタクシー助成券の発行、申請書の各課との取り次ぎ等を行っているが、さらに対象業務を拡大に向けて検討しているところ。また、別部署ではあるが、医療MaaSの導入を検討しており、導入となれば、医療機関への移動が困難な高齢者などへ支援を展開することになる。
他団体へのアドバイス
免許返納などで高齢者の移動手段が限られる中で、本事例は有効であると考えられ、住民満足度向上につながる。また、人口減少のなかで、自治体が今までと同じ規模・人員で行政サービスを行っていくことは難しい状況であり、職員数の減も見込まれる。その中で、移動市役所(行政MaaS)のようなデジタルの力を活用し、住民サービスを維持していくことは必要であると考えれることから、同市の取り組みをぜひ参考にしていただきたい。
【由利本荘市公式ホームページ:移動市役所があなたの地域に伺います!】
https://www.city.yurihonjo.lg.jp/1000002/1001507/1008031/1008156.html#group1