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東京都町田市

【行革甲子園2024】施工管理アプリの新たな可能性 ~“あったらいいな”の実現に向けて~

全国の市区町村の創意工夫あふれる取り組みを表彰する、愛媛県主催の「行革甲子園」。7回目の開催となった令和6年の「行革甲子園2024」には、35都道府県の78市区町村から97事例もの応募があったという。今回はその中から、東京都町田市の「施工管理アプリの新たな可能性 ~“あったらいいな”の実現に向けて~」を紹介する。

※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2024」の応募事例から作成しており、内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。

取り組み概要

建設業界はIT化が遅れた業界と言われていたが、今やDXの最先端として脚光を浴びている。しかし、地方自治体の発注する工事では景色が異なり、市町村は国や都道府県より工事規模が小さく、工事受注者(以下、受注者)も中小企業が多いことから、DXは遅れがちである。このため、主体的にICTを用いて業務のDXに取り組んでいく必要がある。

町田市(以下、市)と建設業者双方のDXを目指し、クラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」を提供する株式会社アンドパッド(以下、アンドパッド)と2023年5月に協定を締結し、実証実験を開始した。

これにより、「ANDPAD」を含めた施工管理アプリの活用シーンを市が発注する公共工事や施設調査などに広げ、民間事業者と協働し、市が発注する建築工事に係る受注者等の負担軽減や各種業務の効率化を目的としている。

背景・目的

【背景】

建設業界では、高齢化や労働人口減少による人材不足が問題となっている。さらに、長時間労働が常態化しているため、2024年4月から時間外労働規制が適用され、建設業者と地方自治体、双方の生産性向上の取組が急務となっている。

また、公共工事では、工事現場での立会い等による確認を原則としていることに加え、工事関係書類を紙ベースとしているため、手間のかかる事務が多く残っている。

【目的】

これら諸課題を解決するため、建設現場に浸透してきている施工管理アプリを自治体用に転用し、現場主体の仕組みづくりをすることで、受注者等の負担軽減だけでなく、営繕業務を効率化し、すべての関係者の働き方改革を推進する。

取り組みの具体的内容

営繕課では「施設利用者がより良い環境で安全・快適に利用できる」よう施設の工事・修繕を行っている。

工事に関する業務は、様々な法令や基準等が定められており、書面や対面原則といったアナログ的な事務が多く存在している。アナログ的手法を見直し、多くの建設現場で使用されている施工管理アプリ「ANDPAD」を活用することで、受注者の負担軽減や営繕工事に係る効率化を目的に取組を進めている。

さらには、施工管理アプリの活用シーンを工事や修繕の必要性を判断するために行う施設調査等にも広げている。

2023年度は、工事2件と基本・実施設計業務1件を対象案件として“あったらいいな”の実現に向けて取組んだ。

あったらいいな①「写真管理をスマートに」                                                        

工事現場では、材料1つ使用するのにも市の確認や承諾が必要である。目視での確認はもちろんのこと、工事の各施工段階における材料等の数量・保管状況、施工状況・検査状況等を記録写真として残しておく必要がある。記録の方法も使用材料、施工管理、品質管理等が設計図書や施工計画書等に基づいて記録しなければならない。

【施工管理アプリ導入前】

工種や区分により、撮影箇所や内容が分かるように撮影時期や頻度等細かく撮影することが求められ、必要事項を記載した黒板と撮影するため、受注者は撮影に時間と手間を要している。(写真1枚あたり5分程度)

さらに、撮影した写真データは数千枚に及ぶことがあり、それらを精査し、提出書類(写真帳)としてまとめる事務作業が膨大である。

【施工管理アプリ導入後】

施工管理アプリ内に電子黒板が搭載されているため、受注者は黒板の文字の写り具合を気にせず、必要な部位が写っているかに集中すれば良いため、写真撮影の効率化に繋がっている。(写真1枚あたり1分程度)

また、撮影した写真はフォルダ分けして管理することができ、提出書類(写真帳)として作成することもできるため、受注者の作業時間の削減に寄与できている。

その他に、市の担当者は工事中に撮影された写真の確認ができるため、現場で立会うとき以外でも施工状況の確認をすることが可能になった。

施工管理アプリで撮影した工事写真             施工管理アプリ上の写真フォルダ

あったらいいな②「コミュニケーションツールの改善」                                                 

受注者が工事を適正に施工しているか、市は監督する義務がある。そのため、現場での検査や立会いだけでなく、円滑に工事を進めるため多くの打合せを行っている。

また、打合せ以外でも、工事内容についての問い合わせや対応等、様々なシーンで市と受注者は電話やメールを使用して連絡を取り合っている。

【施工管理アプリ導入前】

現場での検査や立会い

電話やメール等で受注者が関係者に対し個々に連絡を行い、日時調整を行っている。

受注者は約束の時間より早く現場に到着している必要があり、関係者の到着が遅れるとその分の待機時間による作業の停滞が発生する。

打合せ

関係者の日程調整だけでなく、資料作成や準備(印刷、ステープラー処理等)、配布に多くの時間を費やしている。毎週、打合せを行うため受注者の業務負担が大きい。

【施工管理アプリ導入後】

現場での検査や立会い

連絡手段をメールからチャットに統一したことにより、関係者に一斉に連絡できるようになり、日程調整に係る作業時間が減った。加えて、写真が掲載でき、資料がアップロードされると通知があり、その資料をチャット上で展開できることで確認する手間が省けた。
遠隔(リモート)で行うことで、関係者の日程調整の幅が広がるだけではなく、市の担当者の移動時間削減や受注者の待機時間の解消にも繋がった。他にも詳細に確認したい箇所や是正が必要な箇所について画面上で示せる機能により、具体的な部分について齟齬がなくなった。

打合せ

定期的な打合せは、クラウド上での資料共有に変えたことにより、受注者側の資料準備、配布の負担が軽減され、かつ紙削減にも繋がった。

遠隔(リモート)で確認している画面                 チャットの利用画面

あったらいいな③「資料の共有」                                                 

市のホームページに掲載されている提出書類だけでも約30種類あり、その他行政機関等に提出する書類や施工上でのやり取りに関わる資料等も必要となる。

【施工管理アプリ導入前】

工事の着手から完了までの手続きは、今なお受注者が市へ提出する書類の多くが紙ベースになっており、印刷や製本の手間がかかるだけでなく、対面による提出が必要になっている。
また、提出書類に不備があった場合、上記作業を繰り返すことになる。

【施工管理アプリ導入後】

クラウド上に各種書類をアップロードすることで、紙ベースではなく電子データで書類不備の確認を行った。そのため、紙提出が1回で済み、書類のやり取りの削減や紙の削減に繋がった。

工事1件分の紙書類(段ボール3箱分)              クラウド上の書類格納画面

あったらいいな④「情報の整理整頓」                                                 

工事の図面は数十枚以上あり、図面には、施工中の調整事項、メモ、変更した内容等、様々な情報を記載する。また、施工確認を行う際は受発注者間における認識に齟齬のない情報共有が不可欠となる。

【施工管理アプリ導入前】

指摘事項等がある場合、受注者はその場で図面に内容を書くことになるが、図面は数十枚にわたることから、内容を失念する恐れがある。

【施工管理アプリ導入後】

クラウド上にアップロードされた図面に、施工確認した際に指摘した箇所、内容、写真の入力等が直接行えるため、業務負荷が軽減した。

さらに、クラウド上の図面は、複製ができるため、指摘等内容を入力することで、後からの確認も容易である。例えば、「指摘事項」、「調整事項」、「変更内容」等をシート別にすることで、見落とし防止となる。

市の担当者は同じ情報を見られることから、情報共有が容易である。

指摘事項等を記載した図面

あったらいいな⑤「調査内容の継承」                                            

営繕業務は、工事以外にも様々な業務があり、その一つが施設調査である。

施設調査に必要な主な資料は、施設の図面・各種の点検報告書・過去の工事履歴情報・その他に施設の状況や調書目的により適した資料などがあり、多くの資料を準備する必要がある。

【施工管理アプリ導入前】

担当者は、資料を印刷し、現地に施設調査に向かう。

現地の確認や関係者のヒアリング等の情報を資料に記載する。

【施工管理アプリ導入後】 ※この取組は、実証実験の対象ではなく、新たな領域へ展開した内容

クラウド上に資料をアップロードすることで、情報を資料に直接入力でき状況写真を取り込むことができる。
担当者が得た情報をクラウド上の資料に反映されていることから、担当者が変わった場合や担当者が不在の時でも、資料を確認すれば内容の把握が可能である。

こちらの活用ができれば、情報の共有ができる。例えば、施設の設備トラブルによる施設調査であった場合、施設運営を最小限に抑えることや、担当者が変わっても情報の継承ができることに寄与する。

特徴

【独自性】

今回の実証実験の独自性としては、市とアンドパッドが協働して施工管理アプリを自治体用に転用し、さらに営繕業務への拡大を検討していることが挙げられる。


 システム利用イメージ図

【新規性】

自治体と民間事業者の協働による施工管理アプリのシステム改善は全国的に希少である。
また、本実証実験を含む市の取組は、デジタル庁の公募事業「地方公共団体におけるアナログ規制の見直しに係る課題調査事業」のモデル自治体として採択(全国で13自治体)され、同庁ホームページに先進事例として掲載・公表された。

【工夫した点】

協力体制の構築

工夫した点としては協力体制の構築がある。まず、課内の協力体制としては、実証実験は追加業務になるため、やる価値や面白さを伝え、理解者を増やしていった。協働して取り組むアンドパッドに対しては、ただアプリを利用するだけでなく、新たな価値を創造するという視点で、互いにモチベーションを保ちながら実証実験を進めている。

実証実験には受注者の協力が欠かせないため、具体的なイメージや効果、建設業界の危機感を共有し、協力体制を構築していった。また、受注者の負担とならないよう、機能説明や活用状況の確認のために会議を定期的に実施することや、疑問点や不安要素を解消すべく市とアンドパッドによる支援を行うことで、受注者にも本実証実験の有用性を実感していただきながら進めた。

他自治体への広がり

「今後の予定・構想」においても後述するが、建設業者は幅広い地域で事業展開をしている。そのため、施工管理アプリの検討においては、市だけで仕様等の検討するのではなく、近隣自治体と連携して進めていきたいと考えている。2023年度は国土交通省関東地方整備局の営繕技術検討会や東京都内の26市に対し事例発表を行い、本取組を他自治体にも波及させながら進めている。また、複数の自治体から視察も受けている。

取り組みの効果・費用

現状の成果としては、受注者の工事写真作成時間の削減、定例会議のペーパーレス化、監督員が行う工事書類のチェックバック時間削減等が挙げられる。
2023年度時点の実証実験における定量効果は以下のとおりである。

取り組みを進めていく中での課題・問題点

・工事における提出書類等について、クラウド上にアップロードする書類等の検討を行った。すべての書類等をクラウド上で取り扱うには、個人情報・セキュリティ等が懸念される書類等もあるため、段階的に進めた。

・資料をアップロードするフォルダ構成等のルール化の検討を行った。細かくは設定していないが、上層階のフォルダ構成を統一した。情報の整理ができること、情報共有の効率化を図るために改善しながら進めている。

・市独自の情報セキュリティポリシーや文書管理規程等に則るための検討等が必要である。

・公共工事における標準仕様書等に則るための検討等が必要である。

・検査や立会いを遠隔(リモート)で行うにあたっては、遠隔(リモート)で確認ができるもの、確認できないもの を精査する必要がある。

・工事の関係者は多岐に渡る。また扱う書類についても、他部署へ提出が必要となる書類も点在する。工事の一元化には、工事主管部署だけではなく、他部署との連携が必要になる。

今後の予定・構想

・2024年度は、引き続き、営繕業務において実証実験を行うとともに、他部署の土木工事や検査業務にも対象を広げ、市が発注する工事全般で取組を進めていく予定である。

・市内業者等は近隣市の公共工事も受注している。そのため、近隣市とあわせて同様のシステムを導入していくことで、市内業者等の業務負担軽減や業務効率化を促進し、建設業界を取り巻く諸問題の解決の一助となるよう、取組を進めていく。

他団体へのアドバイス

・行政を取り巻く環境はDXに限らず、目まぐるしく変化している。その変化に対応・適応していくためには、自治体が主体的になり、失敗を恐れず新たなことに挑戦していくことが必要であると考える。

・公共工事は、工事主管部署だけではなく、契約部門、検査部門、総務部門等といった複数の部署にまたがるため、組織全体で取組を検討していく必要がある。しかし、全体をいきなり巻き込むのは困難であることが多いと思うので、所属部署で検討を進め、少しずつ広げていくのが良いと考える。

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