公開日:
官民で地域のビジョンを共有し、インフラ老朽化の課題を乗り越える。

公共インフラの老朽化は、全国の自治体が共通して抱える大きな課題だ。近年は道路の陥没など、関連する報道も相次いでいる。そうした中、インフラの維持管理を進める解決策を見いだせず、焦りを感じている職員も少なくないだろう。
本記事では、自治体のインフラマネジメントサービスを手がけるJR西日本の担当者に話を聞き、ジチタイワークスが実施した職員アンケートの結果と合わせて、“持続可能な地域インフラ運営”のヒントを探る。
[PR]西日本旅客鉄道株式会社
interviewee

西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)
デジタルソリューション本部 ビジネスデザイン部
伊地知 平(いぢち たいら)さん
益井 大樹(ますい ひろき)さん
待ったなしのインフラ危機と自治体の課題。
水道や道路、施設など、高度経済成長期につくられたインフラが年月を経て老朽化し、各地でトラブルを起こしている。災害対応の遅れや住民サービスの低下といったリスクが現実味を帯び、自治体は地域の持続可能性の危機に直面している。しかし、インフラの量はあまりにも膨大で、対応が追いついていない。
この状況について、伊地知さんは「自治体が直面する課題は、“ヒト・モノ・カネ”の不足に帰結します」と指摘する。
「インフラの維持管理に限りませんが、人材は採用できず、財政も厳しい。予算がなければソリューションの調達も困難になります。どの自治体も“なんとかしなければ”と思いながらも、実際に対応するとなると難しいのが現状です」。
令和7年9月にジチタイワークスが実施した「地方自治体における『インフラ』の維持メンテナンスに関する課題感調査」によると、インフラの維持管理・再構築業務に関する困りごとについて「財源が確保できない」が約7割、「担当職員のマンパワー不足」も約6割にのぼり、その対応については「担当課内で手探りの対応をしている」が約5割、「着手できていない」とする声も約4割にのぼる結果となった。

インフラの維持管理・再構築に関する意思決定が進まない理由として、「担当部局だけでは判断しづらい」「各インフラが別部門に分かれている」といった回答も目立つ。これらの声については、伊地知さんは以下のように分析する。
「いわゆる“縦割り”に起因する部分が大きいと感じます。職員は足元の業務に追われており、インフラの課題に向き合うリソースが足りません。そこに単年度予算の問題も加わり、中長期的な計画策定が難しくなります。民間委託をしようにもコストが必要で、庁内・庁外での合意形成にも時間がかかります。どこを向いても課題ばかりで、結果として“着手できていない”ということになるのが実情だと思われます」。
こうした中、PPP/PFIなどの官民連携に取り組む自治体もあらわれているが、同アンケートの結果では、実施自治体が約2割にとどまった。導入の妨げとなる要因として、「地元企業との役割分担への配慮」「住民の理解を得るのが難しい」などが挙げられ、合意形成の難しさがボトルネックとなっている。
とはいえ、公共インフラの安全確保は最優先事項の一つ。まずは前述の課題をクリアしつつ、包括的にインフラマネジメントを行う必要があるという。
「個別施設単位の対応では限界があります。たとえ水道がつながっていても、橋が崩れていては地域の生活基盤が維持できません。自治体は、道路や水道、公園、公共施設など地域全体を俯瞰した上で“あるべきビジョン”を描き、施策を総合的に進めていく必要があります」。
こうした自治体の動きに伴走するべく提供しているのが、「JCLaaS(ジェイクラース)」というサービスだ。
個別最適から“全体最適”へ、JCLaaSが描く新しい形。
JCLaaSは、官・民・地域が一体となった総合インフラマネジメント事業。JR西日本グループ、NTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、日本政策投資銀行が令和6年2月に業務提携契約を締結して立ち上げられた。この6社がそれぞれの得意分野を活かし、最適化の計画策定からDX推進、 資金アレンジなどを総合的に担い、自治体の実情に応じた最適なソリューションを提供する。

益井さんはこの新しいサービスについて、次のように語る。
「当サービスは、水道や道路といった個別分野を単発で捉えるのではなく、地域インフラ全体を俯瞰し、どうすればまちを維持・発展させられるかを考えていくものです。道路も水道も、公園や公共施設も含めて、“まち全体”を一つのシステムとして最適化していきます。6社の強みをかけ合わせ、持続可能なまちづくりに深くコミットしていくのです。従来の発注者・受注者という関係を超え、自治体の皆さんとともに課題解決を目指すパートナー として、地域を一緒につくり上げていきたいと考えています」。

さらに、サービスの提供にあたり、地域に根ざしたパートナーやコンサルタント、建設事業者との協働も重視。それぞれのまちの実情に寄り添いながら、多様なプレイヤーが一体となって持続可能な地域社会の実現を目指している。
6社の強みを活かした、JCLaaSの実践力。
こうしたビジョンを具体的な取り組みに落とし込むのが、JR西日本グループをはじめとするJCLaaSの実践力だ。
1. 最適化の計画策定
JCLaaSの中核を担うJR西日本グループは、長年の鉄道事業を通じて鉄道インフラの安全性・効率性・費用対効果を高めてきた。この知見を公共インフラの領域にも展開し、個別の最適化にとどまらない“全体最適”の実現を目指している。
また、AIによる劣化診断やドローン点検、ロボット活用、センサー計測などを組み合わせ、分野横断で最適なデジタル技術を統合。自社サービスにこだわらず、外部技術も柔軟に活用することで、省力化と精度向上を図っている。
さらに、西日本エリアに広がるネットワークを活かし、災害時には拠点間で人的・技術的リソースを共有。広域支援体制によって柔軟かつ強靭な対応を発揮する。

2. DXによる上流工程の最適化
NTTドコモビジネスとの連携で、複数自治体のインフラデータを蓄積・分析し、維持管理や改修の判断基準を提供する仕組みを構想している。例えば、橋梁の劣化傾向や交通量などのデータをもとに「どの橋を優先して直すべきか」を可視化する、といったものだ。これにより、職員が“計画・意思決定”といったコア業務に集中できる環境をつくり、より高度な予防保全の実現を目指す。
3. 長期的な財政課題への対応
金融4社との連携により、資金調達スキームを提案。インフラ管理事業を担う事業者が、銀行から融資を受けて自治体からの事業を受注する仕組みだ。これにより、まとまった資金を活用した早期の予防保全への転換が可能になり、長期的な視点でのライフサイクルコスト(LCC)の削減が期待できる。

実際、年度予算の制約で修繕・更新が進まない自治体は少なくない。アンケートでも「財源の確保が課題」「予算の柔軟化が必要」といった意見が目立ち、民間に期待するサポートとしては、「財政効果・コスト削減シミュレーション」が半数を超える結果となった。金融機関と連携した資金調達スキームは、まさに現場のニーズに応える仕組みといえる。
JCLaaSはこうした仕組みやノウハウを活かし、長期にわたる伴走支援の中で、地元事業者への安定的な事業機会も創出。地域産業の活性化にも貢献する。中でも特徴的なのは、“自治体と運命をともにする”という姿勢だ。
「当社の主幹事業である鉄道は、地域が活性化してこそ成り立つものです。だからこそ私たちも当事者意識をもって事業に関わっています。これまで鉄道事業で地域の皆さんと連携してきたように、公共インフラの分野においても自治体と伴走し、地域の未来をともに担っていきたいと考えています」。
住民への意識醸成を進め、インフラ維持への参画を促す。
もちろん、これらの取り組みは事業者だけが奮闘してもうまくいくものではない。職員や住民も含め、地域が一丸となって進めていくことで事業の実効性が高まる。そこに必要なのは“自分たちのまちは自分たちで守る”という意識の醸成なのだと伊地知さんは力を込める。
「JCLaaSの導入過程では、私たちは受注者・発注者という立場ではなく、職員とともに課題解決を目指すパートナーとして検討段階から参画します。具体的には、庁内で部署横断的なワークショップを実施し、各部局の実情や理想像を共有。その上で事業に向けたマインドセットをしていくのです」。
また、地域インフラの維持管理を“住民とともに行う”というのもJCLaaSが目指す“持続可能なまちづくり”の構想だ。そこに向けたステップは大きく3つに分けられる。

こうした未来を描きつつ、現在はインフラ維持の重要性を住民に理解してもらう段階にある。そのため同社は、地域の駅や列車の車内などを活用し、インフラの現状を周知するポスターの掲示や、イベントなどの啓発活動を実施。住民の理解と共感を広げ、地域全体の協働基盤を育てている。
福知山市の事例を皮切りに、多分野へ展開。
JCLaaSを活用し、地域の持続可能性を高めようとする動きはすでに広がり始めている。その皮切りとなったのが京都府福知山市の上水道事業だ。
ほかにも、国土交通省の「令和6年度 民間提案型官民連携モデリング事業」に採択。広島市をフィールドとして、橋梁修繕の最適化計画と民間資金の活用による予防保全への転換等を提案した。また、京都府城陽市でも令和8年4月からウォーターPPP事業の実施が決定。同社は今後、上下水道にとどまらず、地域を構成するあらゆる公共インフラ分野を対象とし、まちづくり全体を見据えた総合的なマネジメントに注力していくとしている。
官民の共創で、持続可能な地域を目指す。
インフラの健全な維持・管理は、どの自治体でも待ったなしの状態だ。事故が起きてから対策をしても遅い。益井さんは、「まずは近い将来の地域ビジョンを描き、その実現に向けて何が必要なのかを考えることが第一歩。どの地域でも人口は減っていくので、それに対して地域の資産をどのように残し、住民の幸福な暮らしをどう担保するか、ということを考えるのです。財源の問題で難しい場合は、近隣の自治体も巻き込んだ広域化も視野に入れるといい。こうした発想は、国交省が提唱する“群マネ”※にも通じていきます」とアドバイスする。
実際、アンケートでも、公共インフラにおける理想の未来像として、「ノウハウが継承されている」「財政的な見通しや住民ニーズを踏まえて、中長期の方針が描けている」という回答が上位に挙がっていた。こうした理想を実現するためにも、“ともに考え、支える”JCLaaSの仕組みは、自治体の現場にフィットするといえるだろう。
公共インフラの維持・管理を自治体の力だけでやろうとしても、いずれ限界がくる。そこに、長期間にわたって伴走してくれる民間の力を取り入れることで、インフラ管理の質が高まり、職員は本来行うべきコア業務に集中できるようになるはずだ。そうした未来を描こうとするJCLaaS。益井さんは以下のようなメッセージで締めくくってくれた。
「“何から手をつけていいのか分からない”といった相談にも応じます。私たちとしてもできるだけ多くの自治体を支援し、地域の持続可能性を高めていきたい。ぜひビジョンを共有し、未来をともにつくっていきましょう」。
※地域インフラ群再生戦略マネジメントの略。複数自治体のインフラや複数分野のインフラを「群」として捉え、広域的・多分野的に効率的・効果的にマネジメントすること

お問い合わせ
サービス提供元西日本旅客鉄道株式会社
〒530-8341
大阪府大阪市北区芝田2‐4‐24
メール:project-jclaas@westjr.co.jp










