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水道事業が直面する課題に広域連携で真っ向から挑む。

水道事業の共同化に向けた体制づくり
全国の水道事業が危機に瀕している。施設の老朽化をはじめ、人口減少による収入減など課題は山積している状況だ。そうした中、大津市は広域連携を見据えて国が推進する「水道情報活用システム」を導入。水道事業の変革に踏み出している。
※下記はジチタイワークスVol.42(2026年2月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
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大津市
企業局 企業戦略・危機対策室
副参事 山本 晋平(やまもと しんぺい)さん
孤独で過酷な公営企業会計業務の中で広域連携への動きがスタートした。
「近隣自治体と連携が必要だと感じたのは、水道事業の会計業務があまりにも難解で、孤独だったことがきっかけでした」と山本さんは振り返る。「この分野は自治体業務の中でも特殊で、課内に相談相手がいないことも多い。4月に着任し、専門知識がないまま5月中に決算業務を仕上げなければならず、相当なプレッシャーでした」。
そこで、同じ思いを抱える職員がいるはずだと近隣自治体へ声をかけ、平成28年に水道事業に関する「経理事務担当者会議」を設立。互いに悩みを共有する中で、あるアイデアが浮かんだという。「他自治体と業務を共同化できれば、もっとラクになると思ったのです。そのためには、まず業務で使用するツールの共同調達が必要だと考えました」。
そうして県内の市町に働きかけ、令和2年に検討会を発足。しかし、共同調達のハードルは想像以上に高かったという。「検討を進める中で、各自治体で求める仕様が異なることが分かりました。また、ツールの更新時期がバラバラで、導入タイミングを揃えるのも難しかったのです」。思わぬ壁で計画が頓挫しかけたとき、課題を解消できる仕組みに出合ったという。国が導入を支援している「水道情報活用システム」だ。

※令和7年11月時点
理想的なシステムと出合い共同化に向けた動きが加速。
同システムは、国の標準仕様にもとづき、水道事業に関わるデータをクラウド上で一元管理できる仕組み。標準仕様に対応したプラットフォームと業務アプリを導入することで構築できる。アプリには財務会計アプリなどがあり、自前のサーバーからクラウドに移ることで、広域連携が進めやすくなる点がメリットだという。「この仕組みであれば、データが標準化され、異なるアプリ間でもデータが連携できます。また従来は、特定のベンダーへ依存していました。その点、複数ベンダーが提供しているため、競争原理が働きコストダウンにもつながります」。
共同化のハードルを越える手法は見つかった。しかし先進的な取り組みだったため、ベンダーとの合意形成には時間を要したという。「当初の見積もりは、驚くほど高額でした。それでも諦めずに交渉を続けると、こちらの本気度が伝わったのか、最終的には適正な条件で話が進みました」。その後は、共同化を希望する事業体を募り、協議会を設立。庁内や関係者に丁寧な説明を重ね、システム導入を進めた。

被災地における混乱の中で取り組みの意義を再認識。
当初は他自治体との連携で負担軽減を目指した取り組みだった。しかし、標準化とクラウド活用は、災害時にも価値を発揮すると気づいたという。「能登半島地震の際、私も応援で現地入りしましたが、被災地のダメージは想像を超えていました。断水でトイレも使えず、手も洗えない。何より、水道を復旧させるための情報を得ることが困難だったのです」。
応援に入った自治体では、情報が紙で管理されていたが、その紙が床に散乱して泥にまみれ、パソコンも破損して使えない。やむなく白地図に管路を手書きし、破損箇所を落とし込む作業から始まったという。「もし標準化されたデータがクラウドにあれば、応援職員は自前の端末ですぐに参照できます。そうすれば、復旧のスピードも格段に上がるはずです。こうした災害対応でも、水道情報活用システムは非常に有用なのだと実感しました」。この被災地支援で業務に追われる中でも、自分が取り組んでいる仕事の意味を改めて深く認識できるようになったそうだ。
同じ志をもつ仲間たちと水道事業の未来を切り開く。
現在、同協議会には県内の全22事業体のうち、過半数の12事業体が参加。システムの利用も段階的に進み、活用範囲が広がっているという。現状、導入しているアプリは自治体ごとに異なるが、将来的には統一を目指しているそうだ。「最初から一気に揃えるのではなく、できる部分から積み重ねていく方針です。ゆくゆくは、“同じ画面を見ながら仕事をする”という状況を可能にしたいと考えています」。その状況が実現すれば、業務の負担や職員のストレスは、今よりも大幅に軽減されるはずだ。
また、長期的な視点として、将来的には経営統合も見据えているという。「会計業務は事業経営の基盤です。そのデータが標準化されていれば、事業統合を行う場合もスムーズに進められます。ほかにも様々なデータ連携やアプリの共同化が可能になる。このシステムは、それだけ大きな可能性を秘めていると考えています」。
孤独な会計業務を続ける中で、仲間探しから始まった共同化の取り組み。健全な水道事業を次世代へつなぐため、その連携の輪はこれからも広がりつづけていくことだろう。
取り組みの流れ
▶平成28年
・滋賀県内の複数事業体と「経理事務担当者会議」を設立し、相談し合える場をつくる
▶令和2年
・「企業会計システム共同化に関する検討会」を発足
▶令和3年
・「公営企業会計システム共同化協議会」を設立
・県内5事業体が協議会に参加・「水道情報活用システム」を導入することを決定
▶令和6~7年
・加えて7事業体が協議会に加入(県内22事業体中12事業体が参加)
SPECIAL INTERVIEW
“もし水が出なくなったら”を想像し覚悟をもって地域の水道を守る。
大津市のように、持続可能な水道事業を目指す取り組みは各地で進んでいる。そうした自治体をサポートする活動を、全国で行っている菊池さん。専門家の目から見た水道事業の現状と、今後のあるべき姿を聞いた。

総務省
経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー
菊池 明敏さん(きくち あきとし)さん
1984年、旧・和賀町(現・北上市役所)へ入庁。財政課などを経て、2001年に水道部営業課へ。2014年、岩手中部水道企業団創設に伴い移籍。その後、総務省アドバイザーをはじめ「、水道情報活用システム標準仕様研究会」理事を務める。
水道事業が抱える課題と広域連携・人材育成の重要性。
水道事業の健全化について、菊池さんはまず現状を受け止めることが大切だと語る。「今ある施設を単純に更新しつづければ、事業はいずれ破綻します。人口減少は止められず、それは職員数と水道料金収入の減少にも直結するからです。だからこそ事業を破綻させないために、広域連携と事業規模の最適化が必要だと考えています」。
広域連携はシステムの共同利用に限らない。水源を共有し、需要に対して不要な施設を統廃合することで、予算の流出を食い止めることが重要なのだという。「私は過去に広域化を行い、8年間で15の水源を廃止した経験があります。自治体にとって勇気の要る決断でしたが、将来の更新費用を試算すると100億円に近い投資削減効果になったのです」。
ただし、これを実行するには技術者の知見が欠かせない。一般職員に限らず、技術職員の不足が叫ばれる昨今では、厳しいようにも思えるが、ここでも広域連携がカギになる。「連携すれば、人材のシェアも可能になります。専門知識をもつ職員が自治体の枠を超えて活躍できるようになれば、エリア全体の底上げができる。もちろん、並行して人材育成も早急に進める必要があります」。

住民の命を守るという覚悟で未来に希望をつないでいく。
広域連携、事業規模の最適化、そして人材育成。これらを進めるために、自治体には何が求められるのか。「当事者が“覚悟”をもつことが必要です。水道事業は人の命を預かる仕事。首長から、管理職、現場職員に至るまで、“今やらなければ未来はない”という強い覚悟をもつこと。問題を先送りせずに、一歩踏み出すことが必要だと思うのです」。
菊池さんがこうしたメッセージを発するのは、東日本大震災での被災経験をはじめ、数々の断水現場を目の当たりにしてきたからだ。被災者が水のない生活を強いられる光景を見るたび、“何か起きてからでは遅い”という思いを強くしてきた。「生活用水はもちろんですが、断水現場で何より恐ろしいのは火事です。消火栓から一滴も水が出ない状況で火が出たら、大惨事になる。決して他人事ではなく、“自分のまちがそうなったら”という想像力を働かせてほしいのです」。
今や、日本中どの地域でも、地震などの災害から逃れることはできないだろう。同時に、水道事業の課題も深刻化していく。この難局から脱するには、行動することが必要だと強調する。「広域連携を進めるには、エネルギーが必要です。その点、水道情報活用システムで標準化を進めるのは有効なアプローチだと思います。私も、次の世代に“課題”ではなく“希望”を残す活動を続けていきます」。

MERIT
システム導入における事業体のメリット
持続可能な水道事業を実現する一助として、今注目されている水道情報活用システム。ここでは、導入によって得られる具体的なメリットを整理するとともに、実際に導入した大津市の担当者に話を聞き、現場に即した実践的なアドバイスを紹介する。
MERIT 1 ベンダーロックインの解消で、コスト削減に


大津市
山本さんからのアドバイス
コスト最適化には比較検討がカギ。
検討段階で「複数ベンダーから見積もりを取っている」など、本気度をベンダーに伝えると価格が下がることも。また、共同調達することで競争が働き、コスト縮減になると実感しています。
MERIT 2 有事を見据え、災害レジリエンスを強化


災害時の復旧には情報が欠かせない。
被災地支援の経験から、情報をクラウドで保管しておくことの重要性を改めて痛感しました。災害時に事業を止めないためにも、クラウド化は大きな効果があります。
SUPPORT
導入をスムーズに進める様々な後押し


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CHECK!
ガイドブックを公開中
システムの詳細や導入手順、調達仕様書サンプルなど、実務担当者に役立つ情報を掲載。意思決定時の説明資料としても活用できる。
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導入事例集を公開中
先行自治体の事例をもとに、導入の経緯や効果を紹介。他自治体を参考にしながら、具体的な導入イメージを描くことができる。
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