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フレイルとは?予防方法と自治体ができる対策を徹底解説!

フレイルとは、加齢により心身の状態や認知機能が衰えることである。そのままにしておくと、将来、要介護状態となることも予想されるため、早めの対策が求められる。

現在、社会問題にもなっているフレイルだが、地域住民のフレイルを予防するために自治体ができることはあるのだろうか。対策が必要な理由、およびフレイル予防に力を入れている自治体の例を確認しながら、自身の自治体でもできることを考えてみよう。

【目次】
 • フレイルとは?

 • 3つのフレイル「身体」「社会性」「こころ/認知」
 • 地域社会における高齢者のフレイル予防ポイント3つ
 • フレイル予防の実際の取り組みを紹介
 • ICTなども活用しつつ高齢者の健康寿命を延ばす施策を
 • 高齢者が楽しみながら取り組めるフレイル予防を考えていこう

※掲載情報は公開日時点のものです。

フレイルとは?

まずはフレイルとは何なのか、そして、フレイル予防が必要である理由について確認しておこう。

フレイル予防が人生100年時代の健康長寿のカギを握る

フレイル予防が人生100年時代の健康長寿のカギを握る

フレイルとは、もともと「虚弱」「脆弱」という意味の医学用語であるが、老齢医学においては「健康状態と介護状態の間」という意味で使われている。

人間がフレイルと呼ばれる状態になる大きな原因は加齢だ。加齢により、運動機能や認知機能が衰え、生活に支障が生じはじめる。ただし、フレイルは特定の病気に罹患しているわけではなく、要介護にはまだ至っていない状態のため、適切に対応すれば生活機能の維持や向上も期待できる。

高齢化社会が進む現在、元気に自立した生活を送れる高齢者を増やし、健康寿命を延ばすためにもフレイル予防対策が重要だ。

フレイル予防が必要となる背景とは

少子高齢化が進む日本では、介護が必要な人の人数が年々増加している。厚生労働省の「令和3年度 介護保険事業状況報告(年報)」(※1)によると、2021年度に要介護認定(要介護1~5)を受けた人は約689.6万人となっている。2000年度の要介護認定者256.2万人と比較すると、約2.7倍も増加しているのだ。

今後も要介護認定者の増加が予想されるが、それに伴い、医療・介護費用が国や自治体の財政を圧迫することも懸念されている。厚生省の資料(※2)でも、2025年度の介護費の予想は16.4兆円(GDP比2.5%)と、2012年度の8.4兆円の約2倍となっている。また、医療費についても2025年度予想は54.4兆円(GDP比8.4%)~54.9兆円(同8.5%)と2012年度の35.1兆円から大幅に増加している

これ以上、介護費・医療費を増やさないため、そして、自治体の財政負担を減らすためにもフレイル予防は早急に取り組むべき重要な課題といえる。

※1出典 厚生労働省「令和3年度 介護保険事業状況報告(年報)」
※2出典 厚生省「介護費の将来見通し」 

3つのフレイル「身体」「社会性」「こころ/認知」

フレイルには「身体的」「社会性」「こころ/認知」の3つの要素がある。どのようなものか具体的に見ていこう。

「身体」のフレイルとは

身体のフレイルとは、身体が衰えることである。例えば筋力や呼吸器・心臓など臓器の衰えのことだ。また、「以前と比べて身体が疲れやすくなった」「動作が遅くなった」「体重が減ってきた」という状態も身体のフレイルの一部だと考えられている。

なお、身体のフレイルの診断は専門外来で行われるが、日本版のフレイル基準では、以下の項目のうち3つ以上が当てはまると「フレイル」、1~2つでフレイルの前段階である「プレフレイル」、該当なしで「健常」とされている。

フレイルチェックリスト

出典 公益財団法人長寿科学振興財団「日本版フレイル基準(J-CHS基準)」

「社会性」のフレイルとは

「社会性」のフレイル

社会性のフレイルとは、社会とのつながりが希薄になる状態や、経済的な困窮に陥る状態のことである。

例えば「一人暮らしで誰とも話す機会がない」「孤食のため食生活のバランスが崩れている」「働けなくなり経済的に苦しくなった」などが挙げられる。

社会性のフレイルは、身体のフレイルとは異なり目には見えにくいため、周囲が気づきにくいという特徴がある。

「こころ/認知」のフレイルとは

こころ/認知のフレイルとは、「認知機能や判断力の衰え」「抑うつ」「不安」「不眠」「意欲の低下」などのことである。

こころ/認知のフレイルが進行すると、「人と会うのがおっくうになる」「外出したくなくなる」など社会性のフレイルにつながっていくおそれもある。

地域社会における高齢者のフレイル予防ポイント3つ

自治体や地域社会において、高齢者のフレイルを予防するためにできることを3つ紹介する。

1.たんぱく質を中心とした栄養をしっかり摂取

高齢になるにつれ、肉や魚介類などを敬遠し、少なめであっさりとした食事を好む人が多くなる。しかし、フレイル予防には栄養をしっかり取ることが重要だ。

血液をつくり、筋肉を保つのに必要なたんぱく質を中心として、バランスよく栄養を取れるよう、食生活の指導を行っていこう。

食事指導を行う場合、「市町村ホームページでの呼びかけ」「公民館などでの料理講座開催」は高齢者だけでなく、家族などの身近な人にも情報を届けやすく効果的だ。

オーラルフレイルとは

なお、「滑舌の低下」「食べこぼしが増える」「食事のときにむせる」などは「オーラルフレイル」と呼ばれ、本格的なフレイルの前段階と考えられている。

オーラルフレイルについても歯科医と連携し、啓発活動を行っていく必要がある。

2.定期的な運動

定期的な運動

身体のフレイルを予防するためには定期的に運動する習慣を付けておきたい。高齢者向けに身体を動かす機会や場の提供も検討しよう。

例えば、以下のような取り組みがある。
●    高齢者向けの運動講座
●    市町村ホームページでの体操動画配信
●    歩数計アプリなどの提供

また、運動できる場を提供するだけでなく、運動が高齢者の健康にもたらす効果を伝える講座を併せて開催することで、参加者のモチベーションを高めることもできる。

関連記事|【富山県高岡市】市と地元の大型スーパーが連携、「体操の会」で健康増進に貢献。

3.積極的な社会参加

積極的な社会参加

社会性のフレイルやこころ/認知のフレイルを予防するためにも、高齢者の積極的な社会参加の場を設けることを検討したい。

公民館・集会所等での運動・体操講座など、近場で定期的に通える場をつくるのは非常に効果的だ。

運動以外にボランティア、カラオケなど趣味のサークル活動でもよいだろう。

定期的に人と顔を合わせ会話すると、高齢者は社会的なつながりを確認することができる。さらに、健康な高齢者が健康に不安のある高齢者を助けるといった助け合いに発展することもあるだろう。

また、定期的に集まる場所を設定することには「急に来なくなった人がいる」「参加はしているが元気がない」など、参加する高齢者の異変にも気づきやすくなるというメリットもある。
 

フレイル予防の実際の取り組みを紹介

ここで、フレイル予防のための自治体の取り組み例を3つ紹介する。自身の自治体の参考にしていただきたい。

1.【東京都八王子市】スマートフォンを使った介護予防ポイント制度「てくポ」

東京都八王子市では60歳以上の市民を対象に「てくボ」というスマートフォンアプリサービスを提供している。

アプリを導入した人が「歩く」「バランスよく食べる」「脳トレをする」「イベントに参加する」といった「脳やカラダにいいこと」を行うと、ポイントが貯まるという仕組みだ。

貯めたポイントは1ポイント=1円で地域の店舗で利用するか、PayPayポイントに交換することができる。

ポイントをためる以外にも、以下のような機能がある。

  • 血圧や体重などを入力し健康管理ができる機能
  • 歩数管理機能
  • 市で行われるイベントやボランティア検索機能
  • 脳トレゲーム

楽しみながら、身体と心の健康づくりができるのが特徴だ。

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2.【千葉県柏市】ポイントカードを利用した「かしわフレイル予防ポイント」制度

千葉県柏市の「かしわフレイル予防ポイント」は、事前に市の窓口か郵送でかしわフレイル予防ポイントカードを発行しておくと、市の指定する健康づくりやボランティア活動に参加することで自動的にポイントが貯まるという制度だ。

具体的なポイント数の例は以下のとおりである。

  • ボランティア活動:100ポイント/1回(1時間以上2時間未満)
  • 健康づくり活動への参加:20ポイント/1回

※年度内に獲得できるポイントの上限は5,000ポイント

「かしわフレイル予防ポイント」

貯まったポイントはWAONポイントに交換し、1ポイント=1円として買い物で利用することができる。

3.【茨城県常陸太田市】市の「フレイル対策室」がつくった「長生き上手音頭」

出典 常陸太田市ホームページ「長生き上手音頭」

茨城県常陸太田市では、筋力低下などのフレイルを予防するため、市オリジナルの「長生き上手音頭」をつくっている。市の名産品や名所も入った親しみやすい歌詞と分かりやすい踊りで、高齢者はもちろん、子どもや働き盛りの人も楽しめるようになっているのが特徴だ。

フレイル予防を高齢者だけの問題にとどめず、あらゆる世代に印象付けることができる好例だといえるだろう。

ICTなども活用しつつ高齢者の健康寿命を延ばす施策を

フレイル予防
スマートフォンやパソコンを使いこなす高齢者が増加するに伴い、ICTなどを活用したフレイル予防はさらに広がっていくだろう。習慣化アプリでの運動習慣の管理や脳トレツールの提供などで、高齢者が気軽に、そして楽しみながらフレイル予防ができるようになるはずだ。

自治体側としても、ICT活用で高齢者の健康づくりの動向やどのようなイベントを求めているかを把握しやすくなるというメリットがある。

今後、フレイル予防施策を検討するのであれば、アプリや動画などを活用し、高齢者はもちろん、広い世代にフレイル予防や健康寿命を延ばすことの重要性を訴求できるものにしたい。

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高齢者が楽しみながら取り組めるフレイル予防を考えていこう

フレイル予防

介護費や医療費の大幅な増加が問題になっていることもあり、高齢者になるべく長い期間健康な状態を保ってもらうことが、日本全体の課題となっている。自治体の負担減のためにも、介護の前段階「フレイル」の予防に力を入れていくべきだろう。

ICT技術の発展もあり、従来型の「公民館に集まって一緒に運動する」といった方法以外にも、アプリの活用などできることも増えているはずだ。

高齢者が楽しみながらフレイル予防に取り組めるよう、自治体でも知恵を絞っていきたい。


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