ジチタイワークス

兵庫県神戸市

e-スポーツや会話ツールを活用し、高齢者の健康や交流を支援する。

コンピューターゲームやビデオゲームなど、対戦型ゲームで競い合う「eスポーツ」。エレクトロニック・スポーツ(電子競技)の略で、日本において市場規模が拡大しつつある。神戸市では、このeスポーツをはじめとしたデジタルツールの活用で、高齢者の健康増進を図ろうと実証事業を行っている。同市の長井さんに今後の展望について話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.13(2021年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

eスポーツによる課題解決に向けて2つの企業と連携。

新型コロナウイルス感染症の影響により、外出する機会や人との関わりが減少している。そのため、特に高齢者にとっては「フレイル」になるリスクが高まっていることが大きな課題となっている。フレイルとは、医学用語frailty(フレイルティ=虚弱)の略。加齢とともに筋力や心身の活力が低下し、病気ではないものの介護が必要になりやすい、健康と要介護の間の虚弱な状態のことをいう。フレイルは早めに気づき、適切な対策が取れれば、健康な状態に戻すことができる。予防のためには、“栄養”と“身体活動”、“社会参加”という3つの柱が重要だ。しかしコロナ禍では、家族や友人に会ったり、趣味や社会活動のために出かけたりすることが制限され、高齢者の健康への悪影響が懸念されている。

そこで令和2年7月、神戸市と「NTT西日本」、「PACKage(パッケージ)」は、「withコロナ時代におけるeスポーツによる地域課題解決に向けた連携協定」を締結。NTT西日本が得意とするICT技術、PACKageが持つeスポーツチームの運営やイベント企画などのノウハウを活かした取り組みを展開中だ。その一環として、同年12月から令和4年3月末まで、高齢者向けのeスポーツを活用した実証事業を行っている。“高齢者”と“eスポーツ”という、一見かけ離れたイメージのある2つを結び付けた背景について、長井さんは「神戸市では、以前よりeスポーツによる地域活性化を視野に入れていました。eスポーツにはエンターテイメントとして人の心を動かす力があり、地域課題の解決にもつなげられないかと考えていたところ、フレイルにまつわる課題を聞き、これらをかけ合わせてみることにしました」と説明する。

ゲームに加え、会話ツールで幅広い高齢者にアプローチ。

まずは公募により、市内のシニアサービス2事業者を選定。利用者である高齢者にも分かりやすいよう、シンプルな操作のパズルゲーム、ドライビングシュミレーターゲームなど、なじみのあるゲームを体験してもらっている。また、体験者のフレイル問診や認知機能チェックを実施。睡眠やバイタルデータも収集し、eスポーツ体験による“コミュニケーションの活性化”と、“健康増進の可能性”を検証していく予定だ。さらに、「ゲームをするのが難しい高齢者にもオンラインに慣れ親しんでいただき、フレイル予防や日常生活に活かしてほしい」という思いから、令和2年12月に、リハビリに特化したクラウドソフトを手がける、Rehab for JAPAN(リハブ フォー ジャパン)とも協定を締結。オンライン会話ツールを使って施設と自宅、家族などをつなぎ、会話や体操といった日常動作からデジタル化を実践。“デジタルへのハードルを下げる”ことを意識したという。

eスポーツ体験で、健康増進と活発なコミュニケーションを実現

新しいツールの開発や産業の活性化を目指す。

取り組みを発表して以降、協力したいという企業が4社、賛同企業となり、さらには自治体からの問い合わせなど、大きな反響があったという。「将来的には、この実証結果にもとづき、フレイル予防や高齢者のデジタル利用を促進したい。そのために、eスポーツを活用した新たなコミュニケーションツールの開発も目指しています。神戸市は、あくまでもこうした取り組みにおけるフィールド提供や、サポートをする立場ですが、ここから“eスポーツ産業全体”を盛り上げたいと思いますので、これからも常識にとらわれずにチャレンジしていきます」。

神戸市 企画調整局
つなぐラボ 特命係長
長井 伸晃(ながい のぶあき)さん

慣れる・楽しむ・活かすの3ステップで高齢者×eスポーツの可能性を探る!

高齢者向けeスポーツ実証事業の流れ

利用者より

実際にeスポーツを体験した高齢者からは、「やってみたら意外とできる」「次もやってみたい」「やったらスカッとする」「孫にやり方を教えてもらった」など、前向きな感想を聞くことができたという。

課題解決のヒント&アイデア

1.担当課へのヒアリング・企業との役割分担

取り組みに際し、まずはフレイル予防に課題感を持つ介護保険課にヒアリング。その後、協力企業ごとの強みをつなぎ、市は支援する役割を担った。

2.高齢者になじみのあることからオンライン化

ゲームをするのが難しい高齢者もいるため、会話や体操など、なじみのある活動からオンラインで体験してもらった。

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