ジチタイワークス

東京都世田谷区

顔認証による勤怠管理で負担を減らし、DX推進に弾みをつける。

紙の出勤簿による勤怠管理を顔認証の電子管理に変更

会計年度任用職員をはじめ、職員の約半数の出退勤を紙で管理していた世田谷区。記録の客観性向上かつ、手間の軽減を目的に顔認証のシステムを導入したという。取り組みの経緯や成果などについて聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.38(2025年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

左:総務部 人事課 担当係長
鈴木 俊章(すずき としあき)さん
中央:元・総務部人事課副係長(現・特別区人事・厚生事務組合 人事企画部)
中村 龍之介(なかむら りゅうのすけ)さん
右:元・総務部 人事課 主任(現・都市整備政策部都市計画課 副係長)
白石 一樹(しらいし かずき)さん

紙の出勤簿を使った従来の方法では職員と所属長の負担が大きかった。

常勤職員の勤怠については、ICカードによる打刻で管理を行う同区。しかし、会計年度任用職員と一部の常勤職員は、紙の出勤簿への押印で管理をしていたという。そうした中で令和4年、一部の事業所が労働基準監督署から是正勧告を受けた。「押印だけでは、客観的な記録とはいえないという理由です。システム導入を検討しはじめましたが早期実現は難しく、当面の間は措置が必要でした。そこで出退勤時間を記入した後、所属長が確認する形に改めました」と、中村さんは振り返る。

ところが、その方法では本人と所属長の負担が大きくなってしまったという。「書棚に出勤簿を取りに行き、自席で時間を書いて押印し、確認してもらって戻すという作業が必要です。所属長も毎日、人数分の確認をしなければならず、不在時の対応も課題でした」と語る。

早期のシステム化を求められたが、最大のネックは、対象人数が多いことだった。「常勤職員約5,500人に対し、会計年度任用職員が約4,800人います。1年未満の勤務が多く、入れ替わりもあるため年間の延べ任用人数では最大6,400人に達することも。その都度ICカードを発行するとコストや手間がかかるため、できれば避けたいと考えていました」。そこで、勤怠管理の適正化を最優先とし、出退勤管理に特化した仕組みの導入を決定。プロポーザルを実施して令和6年3月に採用を決めたのが、顔認証のシステムだった。

顔認証などでログイン後、出勤か退勤のボタンをタップすれば完了

顔認証に対する抵抗感も懸念されたが9割以上の職員がスムーズに利用。

顔認証による出退勤管理はシンプルだ。対象職員はタブレット端末で顔を撮影して登録。出退勤時に顔認証を行い、“出勤”“退勤”ボタンをタップするだけで記録が完了する。ICカードや個人のパソコンが不要というのは大きなメリットだと、鈴木さんは話す。「対象者の職場は小・中学校や幼稚園、児童館など多岐にわたり、業務用パソコンを持っている職員は半数ほどです。タブレット端末なら拠点に1台設置すれば共有でき、イニシャルコストを抑えることができました」。

1カ月間のテスト運用を実施し、令和6年8月から約450拠点で本格的に稼働を始めた。デジタルに不慣れな職員でもスムーズに使えるよう、事前の周知や説明は丁寧に行ったそうだ。「庁内イントラにポータルサイトを開設し、ガイドラインや操作説明動画、CSVファイルを簡単に作成できる支援ツールなどを用意しました。マニュアルを作成する際、特に注力したのはパッと見て分かりやすいことです。どんなにいいマニュアルも、見てもらえなければ意味がありません。写真や図を多用し、直感的に理解しやすい構成にしました」。

顔認証に抵抗がある職員がいることも想定されたため、事業者に相談し、職員番号での認証も可能な機能を実装したという。「代替手段を用意できたのは安心材料でした。ただ、最初は抵抗があった職員も、周囲が利用するのを見て自然と登録が進み、今では9割以上が顔認証を利用しています。細かい質問も含めると、当初は多いときで1日当たり50件ほどの問い合わせがありました。今では1日1~2件になっていて、特に不便なく使用されているのを感じます」と、白石さんも手応えを語る。

操作が簡単でストレスがなくDXに触れるいいきっかけに。

電子化による成果は大きいという。タブレットを1台設置しておけばスムーズに打刻できるので、記録にかかる時間はほぼ半減。特に所属長の負担が軽減した。人事課においても、データ管理の効率が飛躍的に向上したそうだ。これまでは給与計算を行うときに確認したいことがあれば、各拠点から出勤簿を取り寄せたり、PDFにして送ってもらったりする必要があった。今では電子化されたデータをすぐに閲覧できるので、効率化につながっているそうだ。

運用してみて、顔認証システムの便利さを実感していると話す中村さん。「カメラに顔を映し、ボタンをタップするだけでいいので、すごくハードルが低いですね。DXの入口として、その手前のデジタル機器になじみがない職員にも、受け入れられやすかったと思います」。

取り組みを通じ、DXが前進した同区。「規模が大きい自治体では、抜本的な見直しのハードルが高くなってしまいます。今回、出退勤に機能を限定したことで、約3カ月という短期間でスムーズに導入することができ、メリットを感じています」と話す。鈴木さんも「行政には間違いは許されないという風潮があります。でも、スモールスタートやトライアンドエラーでもいいので、まずは実行することが大切ではないでしょうか。今後もデジタル技術を活用し、業務改善に積極的に取り組みたいです」と、展望を語ってくれた。

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