高齢者向けの健康支援施策として独自のポイント制度を運用する八王子市。アナログな運用方法を見直し、支援を持続可能なものにするために、ICTを活用した3年計画の実証実験が、全国から注目を集めているという。
※下記はジチタイワークスVol.25(2023年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]株式会社ベスプラ
アプリ導入による自動化でまずは職員の負担を軽減。
同市では、高齢者に向けた健康支援施策として「高齢者ボランティア・ポイント制度」を15年前から運用してきた。高齢者がボランティア活動に参加するとポイントが付与され、商品券と交換できる仕組みだが、アナログな運用方法が職員の負担になっていたそうだ。さらに、高齢者へ社会活動の参加を促したい一方で、増加する高齢者の数と比例してポイント原資がかさみ、運用を続ける障壁になりつつあったという。そこで、これらの課題を改善し、持続可能な制度に変えていくための実証実験に、「ベスプラ」とともに取り組んでいる。
令和3年10月から開始した取り組みでは、同社が提供する認知症・介護予防を目的とした「脳にいいアプリ」を導入。アプリは“運動・食事・脳刺激・ストレス緩和・社会参加”の5要素が認知症予防に効果的であるという科学的根拠※1にもとづき、食事の記録や目標歩数の達成、脳トレゲームなどでポイントがたまるように設計されている。同市では、このアプリを活用し、市内の店舗やPayPayポイント変換で使えるポイント制度を構築。さらに、ボランティア先に用意された二次元コードを、高齢者自身がアプリで読み取ることでポイントが付与される機能も追加した。アプリの改修費用は同社負担のため、自治体は負担なく取り組みを開始。これにより、手作業のポイント付与・管理の業務が自動化され、職員の負担を大幅に軽減できる上に、高齢者自身が健康を守る仕組みづくりを構築できたのだという。
※1 カロリンスカ研究所「フィンガー研究」より(食事指導・運動指導・認知トレーニング・生活スタイル指導などを組み合わせることが、軽度の認知機能障害進行の抑制に有効であることを世界で初めて証明した研究)
アプリを活用したポイント制度「てくポ」
登録者数は3,000人以上、男性の参加率も高めに!
アプリを活用した実証開始から1年後、目に見えて様々な成果が上がったという。「会場での登録受付のみだった初年度の登録者数は350人ほど。次年度からは、拡大を目指しアプリ内で登録申請が完結できるようにしました。その後、NHKをはじめとしたメディアに取り上げられたこと、市報に挟み込み広告を出したこと、口コミ促進のため『お友達紹介ポイント』を新設したことなどにより、3,000人以上にまで増えています。そのうち約4割が男性で、これまで男性の高齢者は従来の介護予防事業に関心を示しにくかったので、思わぬ効果ですね」と辻さん。
また、アプリの活動データや利用者アンケートからは、歩行速度の向上や脳トレ成績の好転、生活意欲の向上など、介護予防につながる多角的な変化が見えてきている。今年度からは、さらに医療・介護データと組み合わせた本格的な効果検証を進めていくという。
ここまで順調に推移しているように見えるが、持続可能な健康支援施策という最終目標までには次の課題を乗り越える必要がある。それが、ポイント原資を自治体が負担せずに済む仕組みづくりだ。そこで次なる一手としてスタートしたのが「ウェルネスプラットフォーム」。これは、同社以外の事業者も巻き込んだ新たな実証実験だ。
健康支援施策の持続のためポイント原資を創出する。
この取り組みは、アプリ利用を通じて得られる高齢者の健康状態や興味データと、健康づくりに役立つサービス・商品・イベントの情報をマッチングさせるもの。事業者はアプリを通じて顧客となる高齢者へ効果的な情報発信ができ、売上増加につなげることが可能。高齢者はパーソナライズされたオススメ情報を得られる上に、イベント参加や対象店舗での脳トレゲームでポイントを獲得でき、双方にメリットが生まれる仕組みだ。「例えば、『セブン-イレブン・ジャパン』と行った取り組みでは、アプリの利用データを活用し、高齢者一人ひとりの健康状態に合わせたオススメ商品の情報提示ができるようにしました。さらに、店舗へ訪れることで参加できるアプリ内の脳トレゲームイベントを実施。高齢者にとってはポイント獲得の機会にもなり、企業にとっては来店の機会が得られます」。
現在、コンビニをはじめスーパー、ファミリーレストラン、ハウスメーカーなど、全国規模の大手企業が数多く参画。健康関心層を活動エリアで絞って顧客とつながるという機会を得られるメリットがあることから、将来的には、事業者側の広告掲載費などで、ポイント原資を獲得できるようにする構えだ。このような自治体・高齢者・事業者にとって三方良しの仕組みが実現することで、持続可能な健康支援施策へと進化させるねらいがある。
また今後は、人材会社やシルバー人材センターと協働し、高齢者の就労支援の分野にも力を入れていくという。「加速する少子高齢化の中では、高齢者が役割を得ることが求められるようになると考えます。今までのボランティア制度に加え、ギグワーク※2のような働き方の機会をアプリ内で提供できるシステムを構築したいですね」。
※2 短時間、単発で仕事をする働き方
自治体・高齢者・事業者が三方良しの連携で前進する。
アプリを通じ発信された情報から、実際に行動へ移す高齢者は利用者全体の3割ほど。その結果が事業者から好評を得ており、今後の出資検討が現実的に行えるフェーズにあるという。また、参加した高齢者の9割近くが、あるイベントについてのアンケートで“楽しい”と回答するなど、双方におおむね好評だという。同市では令和6年度をめどに、この枠組み内でポイント原資についての課題解決を図りたい考えだ。
最大の課題だった原資獲得については大きく前進したが、まだまだ多い高齢者からの問い合わせ数にどう対応するか、さらなる登録者数の拡大にどう取り組むかなど、課題は残る。しかし、辻さんは「もちろん一つずつ解決する必要がありますが、それは想定していたものです。それよりも、目先の課題や結果に振りまわされず、事業がどうなれば成功なのかという最終的な目的を見失わないようにする必要があります。そのためにも、このプラットフォームの枠組みをしっかり活かし、官民が連携していくことが重要だと考えています」と力強く話す。
健康支援に頭を悩ませる自治体も多い中で、この取り組みが革新的なモデルケースとなるのか。残された実証期間の動きにも、引き続き注目したい。
八王子市 福祉部
高齢者いきいき課 主査
辻 誠一郎(つじ せいいちろう)さん
八王子市における3年計画の実証実験経過レポート
令和3年度
●ベスプラと出合い、10月より実証実験を開始
●モニター希望者350人からのスモールスタート
●運用面の課題を洗い出し、改善に向けた策を練る
令和4年度
●市内協力店、スポンサーの拡大をねらう施策を打つ
●参加者拡大に向けて、アプリで登録申請ができる仕組みづくり
●問い合わせ増加に対応すべくコールセンターを開設
令和5年度
●ポイント原資を事業者からの広告料で賄う仕組みを検証
●健康施策としての効果検証も定量データで確認
●仕事やボランティアの仲介に向けた実証を開始
令和6年度以降
●制度をアプリ内で完結させ、完全に電子化
●事業者からの広告収益で持続可能な制度へ
●様々な企業・団体・行政サービスと高齢者をつなぐハブへ
令和5年度現在の成果
※アプリ活用を行っていない4・5月は除く ※八王子市調べ
登録者数も順調に増加中!
離脱も少なく、堅調に推移中。従来、巻き込みが難しかった男性の参加も。さらに、友達紹介ポイントで無関心層の参加もねらう。
平均歩行速度が向上!
同ユーザーで1年間の歩行速度を比較すると平均歩行速度が向上している。歩行が習慣化することは、フレイル予防にもつながる。
さらに健康施策としての成果も!
アプリ活用データから効果検証が可能に。今後、医療・介護データなどと結合し、より精緻な分析に向けた仕組みづくりへ。
認知機能の維持向上
脳トレゲームの難易度が徐々に上がっている。認知症予防につながる。
バイタルが安定
平均BMIや血圧が安定している。生活習慣病予防につながる。
アプリ利用者の声
八王子市「てくポ」の参加者からこのような声が届いています
●気軽に参加でき、脳トレゲームで勝つとポイントを獲得できるのがやりがいになります!
●外出のきっかけができ、同年代の人に出会えるようになり、心が和みます。
●コンビニまで行けば参加できる対戦型脳トレが楽しいです。しかもポイントをもらえるのがうれしいです。
脳にいいアプリを広めて健康社会を構築し、次世代につなげたい。
株式会社ベスプラ
代表取締役
遠山 陽介(とおやま ようすけ)さん
家族が認知症になった経験から、健康維持アプリの開発に取り組む。
アプリを開発したきっかけは、家族が認知症を発症したことにあります。つらい日々を送る中で、なぜ予防できなかったのか、もっと家族としてできることがあったのではないかと自問自答を繰り返しました。その折、認知症患者が2025年には730万人になるという予想が国から発表されたことを知り、認知症予防やその家族のためのサービスを開発しようと考えたのです。約4年かけて専門家や専門機関へのヒアリング、基礎研究の収集を実施。平成29年に正式にリリースしたのが「脳にいいアプリ」です。
開発の際に重視したのが、①既存研究②機械学習の応用③高齢者の声という3点です。健康維持について、エビデンスが高いと判断した研究結果をアプリに機能化し、AI技術を用いて利用者に合ったサービスを提供できるようにしました。さらにユーザーの声を徹底的に反映することで、利用の継続率が80%を超えるアプリに成長させることができたと思っています。
自治体と同じビジョンを掲げながら健康社会を実現するべく、協働する。
現在は、自治体と実証実験を行っています。当社は“健康社会をつくっていく”というビジョンをもっていますが、自治体の皆さんも、同じ先を見据えていると思い、協力しない手はないと考えました。システムのこと、かかる費用など、自治体側がリソースを割けない部分は、我々が頑張って負担します。
この協働によりアプリを普及させることができれば、将来的な医療費や介護費の抑制になるのではないか、次世代の社会保障費を健全にできるのではないかと考えています。実証実験を行う中で、感謝の声を多くいただきます。脳にいいアプリと別に、「家族サイト」というサービスがありますが、サイトを通じ、高齢者の家族の方々から“アプリの利用状況を確認できて安心する”という声が聞けてうれしいですね。
高齢者の健康維持は今まで以上に重要な課題だと認識しており、まずこの取り組みを広げていきたい。そのためには、自治体の皆さんと一緒に取り組むことが大事だと思っています。ぜひご協力をお願いします。
実証実験に参加しませんか?
脳と体の健康維持アプリ「脳にいいアプリ」を活用し、高齢者支援の実証実験を行う自治体を募集しています。各自治体が抱える課題に合った施策を、仕組みづくりの部分からお手伝いします。気軽にお問い合わせください。
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