ジチタイワークス

富山県高岡市

市と地元の大型スーパーが連携、「体操の会」で健康増進に貢献。

高岡市では、「イオン高岡店」と共同で毎日2回、買い物客が気軽に参加できる「体操の会」を開いている。みんなが知っているラジオ体操で、準備や予約が要らないことや、交流のきっかけにもなることから評判は上々で、連日40~50人が参加しているという。官民が連携した健康づくりへの工夫を、同市の永森さん、店長の太田さんに聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.18(2022年3月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

市とスーパーが強みを活かし合い高齢者の健康づくりを後押し。

同市は、65歳以上の高齢者が総人口の32.1%※を占め、全国的に見ても高齢化率が高い。地域柄、高齢者の健康づくりに熱心で、公民館やお寺など市内の80カ所に「通いの場」を展開。体操や茶話会を開催するなど、高齢者が心身ともに健康に過ごせる場所を積極的につくっている。一方で、施設がない地区では通いの場をつくれないことや、参加者が固定化するという問題も抱えていた。

そんなときに、令和元年、イオン高岡店の店長に着任したばかりの太田さんから「みんなの集まる場所、スーパーマーケットでアクティブシニアに向けたイベントをしたい」との話が持ち込まれたという。同店の客層は6割が60歳以上で「長年通ってくれている高齢客に提供できるものを」と、同市高齢介護課・健康増進課の職員と企画。毎朝9時30分から店内のイベントスペースで店舗スタッフが進行してラジオ体操を開始することに。それだけでは10分程度で終わってしまうため、通いの場でも実施していた同市オリジナルの健康体操も組み込み、約30分間、ストレッチ、筋力アップ、介護予防などに役立つ運動をしているという。人の集まるスーパーと健康づくりに熱心な同市が、互いの強みを活かし合って実現した形だ。

※平成27年度 国勢調査

参加者5人で始まった体操の会は約50人が集まる人気イベントに。

令和元年7月から始まった体操の会。事前に大きな宣伝はせず、店内のポスターなどで来店客に参加を呼び掛けた。当初は毎日5人程度の参加者しかいなかったものの、口コミや問い合わせ、通りすがりに体操を見かけるなどして徐々に人数が増え、今では毎回40~50人が参加する人気イベントに成長している。参加者は60代後半から70代が中心で、女性が7割、男性が3割。周辺の様々な地域から人が集まるため、知り合いがいない方がかえって加わりやすいとの声もあるという。

参加者が継続的に通いたくなる仕組みとして、お菓子と交換できるスタンプカードを用意した。また、夏休みには子どもたちも参加し、世代を超えたコミュニケーションの場にもなっている。令和2年4月には、新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言が全国に発令されたことに伴い一時中止していたが、再開を求める声が多数寄せられたため、宣言解除後から感染対策をとった上で実施中だ。同年末からは参加者の要望に応えて午後の部も追加し、毎日2回開かれるようになるほど、来店客の意欲は高まっているという。

体を動かした後は市の健康講座でさらに関心度UP

年中無休の決まった場所で開催されている体操の会。この取り組みは「第9回 健康寿命をのばそう!アワード」の厚労省老健局長優良賞を受賞している。

毎日開催
「体操の会」タイムテーブル

午前

9:30~10:00
ラジオ体操、市オリジナル体操

10:00~11:00
薬の飲み方、終活サポート、福祉相談など各種講座

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午後

15:30~15:45
ラジオ体操

体操の後は市独自の各種講座で健康づくりについて学ぶ機会に。

体操の会の後には、市や他団体が開催する健康づくりの関連講座にも参加できる。認知症サポーター教室、薬の飲み方講座、終活支援教室などを実施しており、どれも盛況だそう。体操の会に集まってきた人にそのまま話すので、市は集客の準備が要らず、普段は普及啓発活動の場に来る機会のない人にも話を聞いてもらえてメリットばかりだという。太田さんも「当社は全国の店舗で色々な取り組みをしていますが、ここまで連携がうまくいっている例はないと思います」と話す。

体操の会をきっかけに、今まで通いの場には行っていなかった高齢者、コミュニティに入るのが苦手な男性も健康づくりに参加しやすくなり、新たなコミュニケーションの輪も広がっているという。永森さんは「習慣化されている人もいて、フレイル予防も期待できます」とうれしそうだ。

同市ではこの事例をきっかけに、道の駅など多くの人が気軽に参加できる場所で、同様の取り組みを他企業、他団体と広げている。「ただ、これほど毎日たくさんの人が集まる場所はなかなか見つかっていません」と永森さん。高齢者が気軽に立ち寄れる拠点を増やしていくのが当面の目標だと、今後の展望を語ってくれた。

 

左:イオン高岡店 店長
太田 敦士さん(おおた あつし)
右:高岡市福祉保健部
高齢介護課 係長
永森 真澄さん(ながもり ますみ)

大型スーパーならではの集客力と、自治体ならではの健康づくりの企画や他企業とのつながりを活かすことで、体操の会を地域に根づく強力なイベントにすることができました。

課題解決のヒント&アイデア

1.“買い物ついで”なら無関心層でも自然に習慣化

多くの人が高頻度で訪れるスーパーが会場だから、事前の準備や予約がなくても気軽に参加可能。年中無休で、時間も決まっているので、健康に関心がなかった人でも習慣化しやすい。

2.雰囲気や参加者が見えるから安心して参加できる

公民館など外から見えない場所は初回参加の心理的ハードルが高いが、オープンスペースは興味を引きやすく、会の様子も分かる。また、誰もが親しみを覚えるラジオ体操だから安心して参加できる。

3.孤立しがちな高齢者の社会参加や学びの場となる

体操の後は健康づくりの講座も受けられ、関心を高める機会に。健康増進だけでなく、高齢者の社会参加や孤立の予防にも一役買っている。「ここに来るのが生きがい」という参加者も。

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