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フレイル・サルコペニアとは?高齢者の健康を維持するために自治体ができること

高齢化の進行が国全体の問題となっている現代、医療や介護に関する支出の増大も深刻化している。自治体としても、医療や介護に関する支出を適正化することが課題ではないだろうか。

本稿では、医療・介護費増大の原因にもなっている、加齢により心身の状態が健康に保てない状態「フレイル」「サルコペニア」について解説していく。それぞれの特徴や違いを理解し、自治体が住民の健康を守るために何ができるのかを考えていこう。

【目次】
 • 健康と要介護の間を指すフレイル

 • 筋肉量がカギ!サルコペニア
 • フレイル・サルコペニア共通の予防方法は栄養・運動療法
 • 国は「健康寿命延伸プラン」で「通いの場」拡充を目指す
 • フレイル・サルコペニア予防に取り組む自治体をご紹介
 • 超高齢社会の日本にとって高齢者の健康維持は重要

※掲載情報は公開日時点のものです。

荒井秀典(あらい ひでのり)さん 国立長寿医療研究センター理事長監修
荒井秀典(あらい ひでのり)さん

国立長寿医療研究センター理事長

1984年京都大学医学部卒業、1991年京都大学大学院博士課程修了。医学博士。
2009年京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻教授を経て、2015年国立研究開発法人国立長寿医療研究センター副院長、2018年同病院長、2019年より同理事長(現職)。日本サルコペニア・フレイル学会代表理事、日本老年医学会理事、日本老年学会理事長、日本学術会議第25期・26期 会員(第2部、臨床医学委員会)。

専門は老年医学、フレイル、サルコペニア。

健康と要介護の間を指すフレイル

フレイルとは、医学用語「frailty(フレイルティー)」を訳した言葉で、加齢により心身が弱った状態のことである。フレイルの概念や原因について詳しく見ていこう。

健康と要介護の間を指すフレイル

フレイルには3つの種類がある

フレイルとは「要介護状態ではないが、健康でもない状態」のこととされており、大きく分けて3つの種類がある。

・運動機能が衰える「身体的フレイル」
・うつ状態や軽度認知症などの「精神・心理的フレイル」
・社会とのつながりが薄れ、経済的困窮も要因となる「社会的フレイル」

これまでは、加齢に伴う症状をあらわす言葉として「虚弱」「老衰」などが使われていたが、これらの言葉には回復するイメージがなかった。しかし、フレイルは適切に介入すれば、健常な状態に回復することも十分に可能である。よって、早めの気づきと適切な予防・対処が大切になってくる。

フレイルの原因は1つではなく複合的

フレイルの主な原因は以下の通りだ。

・呼吸器疾患、抑うつ症状、貧血などの慢性的な疾患
・不適切な栄養摂取
・身体活動性低下
・社会交流機会の減少
・体重減少
・家族構成、収入などの取り巻く環境

これらのうちのどれか1つが原因になるというわけではなく、複数の原因が合わさってフレイルが起こることを理解しておきたい。

フレイルと認知症の関係とは

フレイルと認知症には相関関係があると考えておこう。例えば、認知機能が低下することで、活動量が減りフレイルになる。反対に、フレイルで活力が低下すると、認知機能も低下してくる。フレイルと認知症、どちらかだけに対処するのではなく、双方への対処が必要となってくるのだ。

ただし、「フレイルだから必ず認知症になる」「認知症だからフレイルである」とは限らない。フレイル、認知機能低下ともに、早期発見し適切に対処することで回復する可能性は十分にある。
 

「ロコモ度3」が身体的フレイルと重なる

ロコモとは、「ロコモティブシンドローム」の略で、運動器(骨、筋肉、関節、神経などの総称)の衰えが原因で日常生活での自立度が低下するリスクのある状態のことである。ロコモが進行すると、要介護状態に進行する可能性がある。

ロコモの原因には筋肉量の低下や骨粗しょう症、変形性膝関節症などがある。

ロコモが運動器の衰えが原因になることに対し、フレイルは運動器、脳、免疫など全身の衰えが原因となるという違いがある。また、ロコモが進行した「ロコモ度3」が身体的フレイルとほぼ重なるとされている。

筋肉量がカギ!サルコペニア

フレイルとともに使われる用語に「サルコペニア」があるので、こちらも意味を押さえておこう。

サルコペニアの概念

筋肉量がカギ!サルコペニア
サルコペニアとは、加齢で筋肉や筋力が減少した状態のことだ。平成28年に国際疾病分類に登録された(※1)。サルコペニアになると、転倒リスクの増加や歩行困難などの身体機能障害の発生が懸念される。

なお現在、65歳以上の人の15%程度がサルコペニアである(※2)と考えられており、女性よりも男性の割合の方が高いとされている。

※1・2出典 公益財団法人 長寿科学振興財団「サルコペニアとは」

サルコペニアの原因

サルコペニアの原因には以下のようなものがある。

・加齢
・不適切な栄養摂取
・疾患
・ストレス
・神経系の疾患・問題
・身体活動量減少
・ホルモン減少

サルコペニアを防ぐためには、筋トレなどの運動習慣や適切に栄養を摂取することが重要となる。

サルコペニアチェックとは

以下の症状に当てはまるとサルコペニアである可能性が高いとされている。

・横断歩道で青信号の間に渡り切れないことがある
・ペットボトルや瓶のふたが開けにくい
・ふくらはぎが痩せてきた
・半年前よりも2kg以上体重が減った
転びやすくなった

サルコペニアはフレイルと深い関係があり、予防方法もほぼ同じである。次項でフレイル・サルコペニアの予防方法について詳しく紹介する。

フレイル・サルコペニア共通の予防方法は栄養・運動療法

フレイルとサルコペニアで共通する予防方法は「栄養をしっかり取る」「運動習慣をつける」というものだ。具体的な方法を見ていこう。

たんぱく質をしっかりとろう!食事の秘訣は?

様々な食品をバランスよく食べることで、栄養を取ることができる。主食・主菜・副菜をしっかり取るようにしよう。

ロコモチャレンジ推進協議会では、バランスよい食生活のために、「合言葉は『さあにぎやか(に)いただく』」を推奨している。ぜひ参考にしてほしい(※3)。

たんぱく質をしっかりとろう!食事の秘訣は?

さ(魚)あ(油)に(肉)ぎ(牛乳)や(野菜)か(海藻)い(イモ)た(タマゴ)だ(大豆)く(果物)

たんぱく質も十分に

加齢に伴い、たんぱく質が不足してくる。魚・肉・大豆・牛乳などを積極的に取っていきたい。高齢者の場合、1日分として推奨されるたんぱく質の量は1.0~1.2g×体重(Kg)だ(※4)。

※4出典 東京都福祉局「『食べる』フレイル予防」

骨粗しょう症予防のためのカルシウム、ビタミン D

動ける身体を保つためには骨粗しょう症予防も必要となる。牛乳・野菜・豆類・海藻類などから700~800mg/日のカルシウムを摂取しよう。

また、カルシウムの吸収を高めるビタミンDは魚介類、タマゴ、キノコ類から摂取できる。1日あたり20マイクログラムは取っておきたい(※5)。

※3・5出典 日本整形外科学会 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト「食生活でロコモ対策」

筋肉のためにBCAAを取ろう

筋肉のためにBCAAを取ろう

筋肉はたんぱく質からできている。たんぱく質を構成する必須アミノ酸「BCAA」(ロイシン、イソロイシン、バリン)も摂取しよう。BCAAは筋肉を作るだけでなく、スタミナ維持にも役立つ。

BCAAを多く含む食品には、マグロの赤身、カツオ、アジなどの魚介類、鶏肉(胸肉、もも肉)、牛肉(サーロイン)、木綿豆腐などがある。

筋肉量を維持し転倒を防ごう!運動を習慣に

運動で筋肉量を維持することで、転倒防止にも役立つ。ぜひ取り入れたい運動を2つ紹介する。どちらも1日3回程度を目安にスキマ時間を使って行おう。

下半身の筋肉を鍛えるのに効果的!スクワット

下半身の筋肉を鍛えるのに効果的!スクワット

スクワットは太ももやお尻の筋肉を鍛えるのに効果的な運動だ。膝の曲げ伸ばしを5~6回行うが、慣れない間はイスや机を支えにして行うとよい。また、素早く行うよりもゆっくりした動作で行うことで適度な負荷をかけることができる。

バランス能力を維持!片足立ち

バランス能力を維持!片足立ち

バランス能力を保つために片足立ち運動も取り入れておきたい。イスの背もたれや机に手をつきながら片方の足を床から離して1分間バランスを保つという運動だ。バランス能力を維持できると、転倒防止にも役立つ。

国は「健康寿命延伸プラン」で「通いの場」拡充を目指す

国は「健康寿命延伸プラン」で「通いの場」拡充を目指す

2040年までに男女ともに健康寿命を3年以上延伸することを目指し、国は令和元年5月に「健康寿命延伸プラン」を策定した。

このプランの中では取り組みのひとつとして、「介護予防、フレイル対策、認知症予防」の推進が挙げられている(※6)。

具体的には、高齢者の健康活動や触れ合いの場となる「通いの場」への参加率を高めることを目標としている。

2020年度時点の参加率は5.3%だが、厚生労働省では、「2025年度までに参加率8%」という目標を掲げている(※7)。

※6出典 厚生労働省「健康長寿に向けて必要な取り組みとは?100歳まで元気、そのカギを握るのはフレイル予防だ」

※7出典 東京都健康長寿医療センター「PDCAサイクルに沿った『通いの場』の取組を推進するための手引き」 p9

フレイル・サルコペニア予防に取り組む自治体をご紹介

いち早くフレイル・サルコペニア予防に取り組んでいる自治体の例を紹介する。

【和歌山県紀の川市】フレイルサポーターを養成し、ご当地体操「紀の川歩(てくてく)体操」DVDを配布

和歌山県紀の川市では、地域のフレイルチェックサポートのために、NPO法人を通じてフレイルサポーターを養成している。フレイルサポーターはフレイル予防に取り組む人たちと同じ年代のため、和やかな雰囲気で活動できるのが強みだ。フレイルサポーター自身の健康維持にも役立っている。

また、市の高齢介護課では、集会所に対し、ご当地体操「紀の川歩(てくてく)体操」のDVD提供リハビリ専門職の派遣も行っている。エリアが広い公民館よりも高齢者が集まりやすいという集会所の利点を生かした取り組みである。

【東京都西東京市】リーフレットとトレーニングバンドを配布し、トレーナー派遣にも対応

ーフレットとトレーニングバンドを配布し、トレーナー派遣にも対応

東京都西東京市では、市内に住民票がある75歳以上の高齢者を対象に、運動方法を記載したリーフレットとともにトレーニングバンドを配布している。また、個人ではなかなか取り組みづらいという人のために、地域の希望する団体にトレーナーを派遣する事業も開始した。トレーナー派遣により、運動指導だけでなく、地域の高齢者が集まるきっかけづくりも行えるようになった。

超高齢社会の日本にとって高齢者の健康維持は重要

超高齢社会で最も懸念されているのが、医療・介護費の増加だ。今以上に支出を増やさないためには、高齢者に健康を維持してもらうための取り組みが重要となってくる。特に、今回紹介したフレイル・サルコペニアは体力、筋力低下から、運動機能障害や認知機能低下につながってくるため、早めの対策が必要だ。

なお、フレイル・サルコペニアは食生活、運動で防止・改善できるが、個人の意識や体力によるところも大きい。通いの場の設置やフレイルサポーター養成など、自治体としてのサポート体制を作っておくべきといえるだろう。
 

荒井秀典(あらい ひでのり)さんの著書

『40歳からの健康年表』(文春新書)

 

『40歳からの健康年表』(文春新書)
 

 

 

 

『フレイル・ロコモのグランドデザイン』(日本医事新報社)

 

『フレイル・ロコモのグランドデザイン』(日本医事新報社)

 

 

 

その他『シニアの筋トレ・口トレ・骨体操 まずはこれだけトレーニング! 別冊NHKきょうの健康』(NHK出版)『寝たきりにならずにすむ 筋肉の鍛え方 かんたん体操&栄養知識でいつまでも歩けるカラダに!』(河出書房新社)など、著書多数。

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