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自治体による終活支援についての全貌を徹底解説

「終活」とは、人生の終わりに向けた準備のことである。具体的には「最期の迎え方や葬儀の希望などをエンディングノートに残しておく」「断捨離」「財産の整理」などの活動だ。しかし、家族がいる人ならともかく、一人暮らしの人になると、亡くなった後の手続きや葬儀・埋葬について、どうすればいいのか悩んでいるケースも多いことが予想される。

住民が安心して最期を迎えられるよう、自治体としてどのような終活支援ができるのか考えてみよう。

【目次】
 • なぜ自治体が終活支援をするのか

 • 総務省による調査
 • 各自治体の終活支援事例(神奈川県横須賀市・大和市)
 • 終活支援は住民と自治体のための重要な業務

なぜ自治体が終活支援をするのか

令和3年版の高齢社会白書によると、平成27年時点で65歳以上の一人暮らしの人は男性約192万人、女性約400万人となっている。平成2年には男性約31万人、女性約131万人であったところから比較すると、驚異的な増加といえるだろう。この数字は将来さらに増えることが予想されている。

また、一人暮らしの高齢者の増加に伴い、見送る人がいないまま亡くなるというケースも多数発生している。なお、一人暮らしの高齢者が亡くなり、埋火葬を行う人がいない場合、もしくは判明しない場合は、行旅法または墓埋法にもとづき、死亡地の市区町村(長)が埋火葬を行う。その際の費用は、亡くなった人の遺留金品を充てるが、不足していた場合は埋火葬を行った市区町村が一時繰替支弁することとなっている。

誰もが安心して老後を過ごし、満足できる形で最期を迎えられるよう終活をサポートすること、そして、一人暮らしの住民が亡くなった後の手続きをスムーズに進められるようにしておくことは、国や自治体を挙げての大きな課題であるといえよう。

総務省による調査

総務省が令和5年に発表した「遺留金等に関する実態調査 結果報告書」より、全国の自治体が引き取り者のいない死亡人にかかる業務をどのように行っているかを確認してみよう。

引き取り者のない死亡人に係る市区町村の業務実施体制

墓埋法適用死亡人  (身元が判明しているものの埋火葬を行う者がいない、または判明しない死亡人)についての業務実態を61市区町村にて調査した結果、この業務を専門に担当する職員を配置している市区町村はなかった。また、ほかの業務と兼務で担当する職員数は「1人」と回答した市区町村が最も多くなっている。

そして、業務の負担についてだが、死亡人が発生して1週間程度は「戸籍の公用請求」「親族関係図作成」で1日2時間程度を要することもあり、業務の負担になっているという意見も出ている。

葬祭費用への費用充当

先に触れたとおり、一人暮らしの高齢者が亡くなり、埋火葬を行う人がいない場合、 もしくは判明しない場合は、行旅法または墓埋法にもとづき、死亡地の市区町村(長)が埋火葬を行うこととなっている。

墓埋法適用死亡人の取扱費用についてだが、14都道府県および62市区町村のうち、都道府県が定めた行旅死亡人に関する規定を準用しているところが8都道府県および14市区町村、市区町村が定めた行旅死亡人に関する規定を準用しているところが21市区町村あった。そして、独自で墓埋法適用死亡人に関する規定を定めているところが、5都道府県および2市あった。

なお、遺留金(亡くなった人が残したお金)が充当される範囲だが、厚生労働省の「行旅病人の救護等の事務の団体事務化について」(昭和62年2月12日付 社保第14号厚生省社会局長通知)で、以下のようになっている。  

1.医師診察料、手術料、入院料、往診料および診断書料
2.薬価および療養に関する必要品費
3.食料
4.看護料および番人費
5.被服および寝具料
6.行旅病人又は行旅死亡人のために特に要する薪炭油費
7.借家料および小屋掛料
8.護送および運搬に関する諸費
9.死体検案料および検案書料
10. 仮土葬および火葬に関する諸費並びに墓標費
11.公告料

なお上記以外に、独自に遺留金を充当する種目がある自治体が3都道府県および10市区町村あった。

また、遺留金の中には亡くなった人の預貯金を現金化したものも含まれるが、現金化するためには金融機関に各種証明書等を提出し手続きすることになる。この作業も煩雑になりがちで担当職員の大きな負担になると考えられる。

遺骨の保管状況

行旅法および墓埋法にもとづき、市区町村(長)が埋火葬を行った場合の遺骨の取扱いについては法令上に規定がない。遺骨の引き取り者がいない場合や引取りを拒否された場合は、市区町村が遺骨を保管していると考えられる。

「遺留金等に関する実態調査 結果報告書」では、市区町村が保管している遺骨の数の調査結果も出ているが、平成30年と令和3年の比較では令和3年の方が遺骨の数が増えている。それに伴い、保管場所について苦慮している市区町村も多いようだ。保管場所が満杯になったら合葬や海洋散骨を行うとする市区町村がある一方、遺族が引き取りに来る可能性があるとし、合葬を控える市区町村もある。

そのほか、以下のような問題点もある。

●    遺骨の保管期間が決まっていない
●    遺骨引取りの統一基準が決まっていない
●    遺骨引取に関して徴収する書類や引渡し範囲が定まっていない

各自治体が滞りなく遺骨保管、遺族への引渡しを行えるよう、統一基準の制定が求められるところである。

各自治体の終活支援事例(神奈川県横須賀市・大和市)

一人暮らしのまま亡くなる住民の対応をスムーズに行うためにも、住民の状況を把握し、終活をサポートすることが重要になってくる。

今回は「神奈川県横須賀市」「神奈川県大和市」の例を紹介する。

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case.1 神奈川県 横須賀市

横須賀市では、身元は判明しているが引取り手がない遺骨の数が年々増加していた。  家族に連絡したくても連絡先が分からない、さらに墓がどこにあるか分からないという状況もあり、職員は対応に苦慮していた。

そこで、「住民の尊厳を守るため」そして「自治体の葬祭関連支出を減らすため」という理由で、2つの終活サポートを行うこととなった。

1.    エンディングプラン・サポート事業(ES事業 )
ES事業の対象はゆとりのない一人暮らしの人だ。そのため登録者は身寄りのないことが前提で、所得の制限、資産の制限も設けられている。

登録者は協力葬儀社に25万円を予納し生前契約しておくと、亡くなった後、その葬儀社で基本的な葬送を行ってもらえる。万が一、葬儀社が倒産した場合、市が火葬義務を負うことになるが、全ての身寄りのない人の葬儀を請け負う場合よりも、税金の負担はかなり抑えられるというメリットがある。

2.    わたしの終活登録事業 
希望する人は誰でも元気なうちに以下の内容の終活情報を登録しておくことができる。

●    本籍・筆頭者
●    緊急連絡先
●    支援事業所・終活サークル
●    医師・薬・アレルギー
●    リビングウィルの保管場所
●    エンディングノートの保管場所
●    葬儀・納骨・遺品整理の生前契約
●    遺言書の保管先
●    お墓の所在地
など

これらを登録することで、亡くなった際に自分の意思を尊重した葬送をしてもらえる。また、自治体側にとっても、無縁納骨堂の遺骨を減らすことができる、葬祭関連の支出を減らせるというメリットがある。

参考:横須賀市「行政による終活支援の必要性」

case.2 神奈川県 大和市

大和市では終活に対する施策を推進するため、令和3年7月1日より「大和市終活支援条例」  が施行されている。条例では終活に関しての市の責務、市民や事業者の役割が明記されている。

また、具体的に以下の終活サポートも行っている。

1.わたしの終活コンシェルジュによるサポート
市民の終活に対する不安に応えるため、「わたしの終活コンシェルジュ」による相談事業を行っている。対象者は市内在住で自分の死後に不安を抱える一人暮らしの人や夫婦・兄弟姉妹で暮らしている人だ。

市内の協力葬祭事業者の紹介および生前契約の支援、遺品などの整理について法律専門家の手配、親族の代わりにお墓の所在などを知人に連絡、などの事業を行う。

終活コンシェルジュへの相談は本人だけでなく、大和市内で暮らす親を持つ親族からも受け付けている。

2.そのほかの事業
終活コンシェルジュのサポート以外に「エンディングノートの配布と市による保管サービス」「終活について学べるクイズの配布やカルタの貸し出し」も行っている。

元気なうちから終活について考え、死後の希望を明確にしておくことで、不安の軽減につなげることができる。

参考:大和市「おひとり様などの終活支援事業」

終活支援は住民と自治体のための重要な業務

一人暮らしの高齢者が増えるにつれ、死後の手続きや葬儀を行ってくれる近親者がいない、という問題が増加している。自治体でも手続きに時間がかかり、担当者の負担は相当なものとなることが予想される。さらには、遺品処理や遺骨保管などの問題も解決していかなければならない。

住民が自分の希望通りに最期を迎えるため、そして自治体の負担軽減のためにも、自治体が主体となり積極的に終活支援を行うことが今後求められるだろう。

エンディングノートの配布や管理、葬祭事業者との契約サポートなど、自分たちにはどのようなことができるか、話し合う機会を設けてみてはいかがだろうか。

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