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地域脱炭素とは?実現への課題と自治体の取り組み事例

温室効果ガスの削減が世界的に求められている中、日本においては企業だけでなく、各自治体の脱炭素への取り組みも重要視されている。令和3年6月9日、政府は「地域脱炭素ロードマップ」を策定し、積極的に地域脱炭素が進むよう各種政策を実施している現状がある。

社会問題である温室効果ガスの削減と経済成長の両立を実現し、地域の魅力を向上させるために、自治体は具体的にどのようなことに取り組めばよいのだろうか。本記事では、地域脱炭素とは何かをあらためて解説するとともに、地域脱炭素実現に立ちはだかる課題や脱炭素先行地域での取り組み事例を紹介する。

地域脱炭素とは

地域脱炭素とは、令和3年6月9日に策定された「地域脱炭素ロードマップ」を中心とした温室効果ガス削減に向けた取り組みのことだ。地域脱炭素は、脱炭素への取り組みによって地域課題の解決や地方創生を目指す地域の成長戦略といえる。

地域脱炭素ロードマップでは、2030年までに集中して行う取り組み・施策についての具体策が示されており、中には「少なくとも100カ所の脱炭素先行地域」の選定や自家消費型太陽光発電や省エネ住宅、電気自動車の普及促進を図る重点対策の実施が明言されている。

地域脱炭素への取り組みの背景には、2050年カーボンニュートラルがある。令和2年10月に政府が示した脱炭素社会を実現するためには、各地方が地域脱炭素に取り組む必要があるだろう。

令和3年4月、政府は2050年カーボンニュートラルと整合的で野心的な目標として、2030年度に温室効果ガスを2013年度比46%削減することを目指し、さらには50%削減の高みに向け挑戦を続けることを表明している。

地域脱炭素の取り組みと課題

地域脱炭素を実現するためには、いくつかの課題を乗り越える必要がある。ここからは、地域脱炭素を実現するために必要な取り組みと課題について解説する。
 

地域脱炭素実現に必要な取り組み

地域脱炭素に向けて、各自治体では次のような取り組みが必要と考えられる。

・職員の研修など、地域脱炭素関連の知見を持つ人材の育成
・温室効果ガス関連データを可視化・活用する体制づくり
・再生可能エネルギー・省エネ設備などの導入拡大
・金融機関・商工会議所などとの協力による脱炭素投資の拡大

 

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これらの取り組みを推進するために、環境省は人的支援、情報・技術支援、財政支援などを実施するとしている。具体的には、「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」の創設や、地方支分部局の水平連携などがある。また、地域脱炭素化のモデルとなる「脱炭素先行地域」を2030年度までに100カ所以上創出するとし、令和5年4月28日までに32道府県83市町村の62提案が選定された。

脱炭素先行地域においては、民生部門の電力消費に伴うCO2排出実質ゼロの達成や、運輸部門においては国全体の削減目標と整合するレベルへのCO2削減、IoTの活用による取り組み進捗や排出削減の評価分析の可視化などが求められている。


 

地域脱炭素実現への課題

これらの取り組みの先にある地域脱炭素の実現には、いくつかの課題がある。

・人材をはじめとする各種リソースの不足
・データ活用のための体制ができていない
・企業や金融機関との連携に向けた合意形成が困難

まず考えられるのが、ヒトや時間、資金といったリソースの不足だ。地域脱炭素に関する知見を持つ人材が不足していること、そもそも新たな取り組みを推進するだけの人的リソースを有していない自治体もあるだろう。これについては、政府による専門人材派遣や外部人材の派遣を活用する方法のほか、分野別研修などの実施による人材育成が考えられる。資金面においては、前述した交付金ほか各種制度を効果的に活用していくことが望ましい。

温室効果ガス削減の効果測定や検証には詳細なデータが必要になるにもかかわらず、データを収集する体制が整っていないケースも少なくない。そもそも、データ収集には機器類や民間企業の協力が必要不可欠であること、データ収集にかかる工数が大きく現状把握が困難であること、各データを一元的に確認・把握できるプラットフォームが不足していることも問題だ。

この課題を解決するためには、電力事業者など各事業者による開示データを活用することに加え、データ管理者の配置や民間企業などが有するデータの収集・開示形式の統一化やデータプラットフォームの構築が必要だ。

また、地域全体で脱炭素に取り組むためにはサプライチェーン全体での温室効果ガスの効果的な削減や脱炭素投資が必要不可欠となるが、自治体と企業・金融機関をはじめとする関係機関との連携が進まないことも考えられる。

ステークホルダーとの連携を進めるには、地域脱炭素のメリットや取り組みへの意義を伝え、「地域全体で取り組むべきこと」という認識を持ってもらう必要があるだろう。

 

事例紹介(小田原市)

最後に、小田原市の脱炭素への取り組みを紹介する。小田原市が行う「脱炭素型EVカーシェアリング」実施のポイントを詳しく見ていこう。
 

小田原市「市役所設置の"脱炭素型"EVカーシェアリング」

神奈川県小田原市は、「EVを活用した地域エネルギーマネジメントモデル事業」として2020年にカーシェアリング事業を行う株式会社REXEV、地域新電力の湘南電力株式会社と連携し、EVに特化したカーシェアリングサービス「eemo(イーモ)」をスタート。同時に、EVを動く蓄電池として、地域におけるエネルギーの効率化を図り、脱炭素型地域交通モデルの構築を目指している。

本事業は、環境省の「令和2年度脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業」のうち「脱炭素型地域交通モデル構築事業」と、「令和4年度地域脱炭素移行・再エネ交付金」のうち「重点対策加速化事業」の採択を受けて実施された。
 

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脱炭素への課題と打ち手

首都圏にありながら豊かな自然と観光資源を有する小田原市は、一次産業と観光業が盛んである。東日本大震災を起因とする計画停電の際には、市民生活だけでなく農産物や観光業も大きな影響を受けたという。

地域における電力への課題が表面化したことが、再生可能エネルギー政策の推進、ひいてはEVカーシェアリング事業の契機となっている。また、公共交通機関の地域偏在といった市民生活における課題や、自家用車の利用割合の高さがカーシェアリングの実施を後押しした。

これら地域内にある課題を解決すべく、同市は「第六次小田原市総合計画行政案」にて掲げた「気候変動にも対応した持続可能なまち」を実現するため、EVカーシェアリングを含むまちづくり施策を実施している。
 

今後の展望

令和5年4月21日には、市役所設置脱炭素型EVカーシェアリング用車両が7台まで増車され、カーシェアリングのステーション数も20カ所まで拡大した。

EVは、平時には公用車およびカーシェア用車両として利用され、電力需給ひっ迫時にはエネルギーマネジメントに活用し、災害時には非常用電源となる。

小田原市は、市内にEVおよび充放電機器などを駅前施設や民間の事業所、市役所に段階的に導入し、EVを100台導入することを目指している。

令和5年7月には、脱炭素先行地域に選定された。今後は地産再生可能エネルギーやEVの活用など、電力の地産地消の促進を図り、日本初のエネルギーマネジメントの仕組み構築に取り組んでいく。
 

自治体と企業の連携施策でカーボンニュートラルの実現へ

2050年カーボンニュートラルの実現には、国だけでなく地方自治体や企業、各機関の連携による施策の実施が不可欠だ。各自治体は脱炭素における地域の旗振り役となり、脱炭素の重要性や意義、取り組むことで得られるメリットを企業や市民に広く伝え、脱炭素を実現する地域づくりへの協力を求める必要がある。

脱炭素への取り組みにあたっては、全国各地の脱炭素先行地域を参考にしつつ、国による各種支援を活用し職員や財政に負担が少ない方法を模索するとよいだろう。

 

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