勤続数十年と、係長・課長補佐・課長級と順調に昇進していったものの、日頃の業務の中で、議会対応や部下とのコミュニケーションなど、悩みや不安を抱えている方も多いでしょう。
今回も管理職になりたての頃によくある悩みについて、八尾市 こども若者部長の吉川 貴代さんに回答いただいた。
【連載】
case1:議会答弁の経験がなく不安です。何をどう準備したらいいでしょうか。
case2:管理職として具体的な調整が苦手です。どうしたらよいでしょうか。←今回はココ
case3:部下の昇任に対する反応にギャップや課題を感じています。
case4:課長から見た困った上司(副市町村長/部・局長編)への対処法について教えてください。
case5:課長から見た困った上司(首長)への対処法について教えてください。
お悩みcase2
管理職として具体的な調整が苦手と感じています。何からどう対応すればよいでしょうか……。
自治体の人事は飛び級がまれで、多くの場合、係長(自治体によってはグループ長や班長と呼びますが、ここでは“係長”とします)を経て、課長などの管理職に昇任します。係長、課長とポジションが上がると、何かと調整することが出てきます。
事柄の大小、相手の難易度に差はあるでしょうけど、こういった不安は管理職になりたての頃によくあります。ここでは、部長-課長-係長がいる一般行政職の課長がする調整を考えてみましょう。
課長が携わる調整の出番は、うまくいかないときだからしんどい。
「岩波 国語辞典 第八版」(出典:岩波書店)よれば、調整とは、“調子や過不足などを整えて、規準に合わせたり折り合いをつけたりすること”とされています。
課長の出番は、事業の廃止や大きな変更や、苦情やもめ事、事務上の間違いなど不手際解決のための調整もあります。自治体の規模や部署のより違いはありますが、調整の相手方を大別すれば、議会、関係団体、部や課などの内部組織といったところでしょう。
最初から課長が出るかは相手によって使い分けましょう。
課を代表しているのは課長です。といって、何でもかんでも、課長が調整すればよいというものではありません。そんなことをしていたら、課長は時間がいくらあっても足りない。事柄の大きさ、重要さ、相手が誰かというモノサシが必要です。
議会であれば、一般的には管理職対応でしょうから、課長が最初から出ることになります。また、関係団体の場合は、これまでの慣例に従うのが無難です。
いずれにせよ、課長が調整する場合でも、一人は避け、係長、内容と相手によっては部長とともに対応するようにします。トラブル回避という目的もありますが、課という組織内での共有、つまり人事異動や退職による揺れを少なくするためです。
調整の心得は“損して得取れ”。
自治体内部の調整を考えてみましょう。住民生活は日々変化していますから、自治体の仕事もずっと同じであるはずがありません。
政府の方針で突発的な対応に迫られることもあります。担当課が決まっていない場合、どこの課が担当するか、よくある調整です。明らかに他課の業務というものは別として、自分の課が引き受けないと仕方がないと思えるものについては、損して得取れをオススメします。
もちろん、事前に係長などとすり合わせをしたうえでの行動です。突然、課長の独断で引き受けたら、課の中が大炎上というのは想像に難くない。逆に、係長などが文句をいわないのであれば、それは、課長が独裁者になっている可能性が高いのでお気をつけください。
なぜ、損して得取れなのか。およそ新種の業務は、何カ所かの関係課があり、役所内の連携・協働が必要なものがあり、そうすると、自分の課が主導権を握るほうが、動かしやすいというメリットは大きいです。
関係団体との調整は難しいもの。
自治体の各部門には、関係団体とのお付き合いがあります。協働、連携、パートナーシップなどと呼ばれる関係のもと、ともに、住民のために事業に取り組んでいます。
団体の中には、何十年も前から活動されていることもあり、課長からみれば、役所の中よりも手ごわい。団体内で会長などの役員の入れ替わりはありますが、役所の人事異動のように、税務から福祉へというような異分野を渡り歩くことはありません。そのため、団体の方々は経過を詳しく知っていて、現場での実践を積み重ねています。
例えば、介護事業者の団体であれば、平成12年の介護保険制度の施行前後でどう変化したでしょうか。その変遷の中で事業を継続し、様々な利用者への対応をしています。そう考えると、経験年数1年も満たない課長が、介護サービスの本質的な議論をして団体に勝とう、論破しようとしても無理があります。
相手の視点で考えてから調整すること。
調整の基本は、相手の視点で考えることです。例えば、関係団体に交付している自治体独自の補助制度を見直すという場合、課長は課員とともに十分に検討して、変更内容を決めます。
いざ、関係団体の代表者等に説明をしたところ、全く折り合いがつかない!これは一大事です。なぜ、折り合いがつかないのか。それは、自治体=役所視点だけで検討しているからです。
人口減少が進む中で行政運営はますます厳しく、行革の一環として自治体独自の補助制度の見直しはよくあることです。このとき、相手の視点で考えていますか。
補助金交付団体の事業内容、収支決算、社会への貢献度などから、相手がどう思うかを想像しながら、調整のシミュレーションをしておけば、苦しいながらも、何かしらの余裕がでてきます。
考えたこともないことをいわれて、課長がフリーズすると、その瞬間に調整は一気に不利になります。公共施設の再編、行事の見直しといった事例でもよくあることです。
何とか折り合いがついて渋々ではあるものの相手が納得し、調整もおおむねうまくいった場合、ともに調整に携わった係長などをねぎらって次に向かうことで、課の業務が円滑になり、好循環が生まれます。
次回も、管理職ならではのお悩みに吉川さんがお答え。議会対応・議会答弁については、「自治体でいきなり課長になったら読む本」(学陽書房)にも掲載されています。ぜひご覧ください。
吉川 貴代(よしかわ きよ)さん
大阪府 八尾市 こども若者部長。1989年入庁。人権文化ふれあい部次長、政策企画部長などを経て現職。日本福祉大学社会福祉学部非常勤講師、大阪公立大学大学院都市経営研究科博士後期課程在学中。
著書:
「自治体でいきなり課長になったら読む本」(学陽書房) |
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