勤続数十年と、係長・課長補佐・課長級と順調に昇進していったものの、日頃の業務の中で、議会対応や部下とのコミュニケーションなど、悩みや不安を抱えている方も多いでしょう。
今回も管理職になりたての頃によくある悩みについて、八尾市 こども若者部長の吉川 貴代さんに回答いただいた。
【連載】
case1:議会答弁の経験がなく不安です。何をどう準備したらいいでしょうか。
case2:管理職として具体的な調整が苦手です。どうしたらよいでしょうか。
case3:部下の昇任に対する反応にギャップや課題を感じています。←今回はココ
case4:課長から見た困った上司(副市町村長/部・局長編)への対処法について教えてください。
case5:課長から見た困った上司(首長)への対処法について教えてください。
お悩みcase3
昇任に対する受け止め方に差があると感じます。このギャップをどう埋めていけばいいでしょうか。
部下の昇任=上司からの期待
-期待は言葉にして初めて伝わるもの-
昇任とは、地方公務員法の定義で「職員をその職員が現に任命されている職より上位の職制上の段階に属する職員の職に任命すること」とされています。
また、同法の規定により、任命権者が職員を昇任させる場合には、「当該職について昇任のための競争試験(昇任試験)又は選考昇任試験又は選考による」とされています。
試験が実施されている自治体では、受験資格を得た職員が受験しない限り、その職員が優秀と上司が評価しても、彼/彼女は昇任しません。
試験は管理職への昇任に限らず、係長への昇任で実施している自治体もあり、ここで係長試験を受験しないと、さらに上位の課長や部長に昇任することはありません。
最近では、昇任試験の受験率が低いので、受験資格の要件緩和や、選考に切り替えるといった工夫をされている自治体もでてきています。
昇任の魅力を語れるか
-昇任してほしいのに、受験してくれない職員への対応-
課長からみて、主任のAさんは日頃の仕事ぶりは良好で、将来的には管理職になってほしいと考えていますが、Aさんは係長昇任試験を拒否し続けています。さて、どうしましょう。
なぜ、昇任試験を受験したくないのかは、Aさんと一対一で、じっくりと話を聞いてみましょう。自分の能力や仕事の負担増に対する不安、家庭事情などが複雑に絡んでいるかもしれません。
課長は“係長のときは良かったなぁ”と懐かしく思うし、経験は美しい記憶と化すことはよくあることです。
Aさんは係長という仕事に魅力を感じていないというのが現実です。ここに課長と部下ではギャップがあるので、要注意です。
係長の上には、課長などの上司がいて、係員という部下がいる。チーム〇〇係をまとめる役目ではあるけど、最終的には課長に相談もできる。
“係長だからといって、何もかも一人でする必要はないから大丈夫”というのは、オーソドックスな説得方法です。それに加えて、係長の魅力を自分の言葉で語れますか。
所沢市職員である林 誠さんの著書『my公務員BOOK 「係長」』(出典:ぎょうせい)によれば、担当業務について“その自治体で一番詳しい存在になる”とされています。不断の努力が必要ですが、自治体の事業を動かすのは自分次第という仕事の楽しさを、自身が語れるかどうかです。
部下への期待を語れるか
-希望していないのに昇任した職員への対応-
〇月〇日付人事異動で、Bさんは希望していないのに、副課長に昇任。昇任を内示したときに、喜ぶどころか、不安と不満を課長にぶつけてきました。
選考の場合にありがちな話です。さて、どうしましょう。昇任に関し、職員本人の意向を反映するかどうかは、自治体差が相当あるようです。
地方公務員法では昇任について、「任命権者が、職員の受験成績、人事評価その他の能力の実証に基づき、任命しようとする職の属する職制上の段階の標準的な職に係る標準職務遂行能力及び当該任命しようとする職についての適性を有すると認められる者の中から行う」としています。
各自治体において、何らかの基準(年齢や在級年数など)に該当する職員集団の中で、人事評価等により昇任させるにふさわしいのは誰かという判断をしているはずです。
したがって、Bさんに対しては、どこを評価して、副課長として何を期待しているのかを、明確に伝えましょう。人間には承認欲求がありますから、期待されて悪く思うことはまれで、これからも頑張ろうと思うはずです。
昇任における男女差
-職員のジェンダー・バランスは要注意-
一般行政職の職員の昇任に関しては、ジェンダー・バランスという視点が必要です。この話をすると、“女性職員は昇任意欲が低いから”と反応されることがあり、確かに各種調査では昇任意欲の男女差は示されています。
しかし、自治体差はあるものの、女性職員の昇任が進まないのは、女性職員の意欲だけが原因でしょうか。
“〇〇さんは子どもが小さいから”“〇〇さんは親の介護で残業できないから”という理由で、上司あるいは人事課が女性職員の職務経験を狭めていませんか。また、子育て・介護=女性という思い込みはありませんか。
こういった、一見すると親切にみえる“配慮”が重なると、その職員は結果として年齢や職位に応じた職務経験を積むことができず、仕事の自信がもてない、ワンランク上の仕事にチャレンジできないという状況に陥ります。
結果、昇進意欲が下がり、昇進できない。時間的制約があることを度外視しろといっているのではありません。
むしろ、時間内に最大限の経験ができるように工夫をすればよい。男性の育児休業の取得を促進する時代になり、もはや女性だけの問題ではありません。
多くの自治体では、住民の半数以上が女性です。自治体の政策形成過程に女性職員の参画がないか少ないほうが不自然です。
一人ひとりの職員が住民のために力を発揮できるよう、職員の能力向上や昇任が行われるものであり、ここでの上司つまり課長の責任は重大です。
吉川 貴代(よしかわ きよ)さん
大阪府 八尾市 こども若者部長。1989年入庁。人権文化ふれあい部次長、政策企画部長などを経て現職。日本福祉大学社会福祉学部非常勤講師、大阪公立大学大学院都市経営研究科博士後期課程在学中。
著書:
「自治体でいきなり課長になったら読む本」(学陽書房) |
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