GPS機能による安定した飛行・スマホアプリによる容易な操作・高所からの高画質撮影・高い機動性等が特徴の“ドローン”。
情報発信にとどまらず災害時の情報収集や民間企業による宅配など様々な分野で活用が期待されており、市に赤外線カメラ付きドローン1台を配備し、職員自身が操作を行えるよう、部局横断・公募による職員有志22名のパイロットチーム「Peaceful Blue(ピースフル・ブルー)」を結成し、活動を展開しています。
※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2022」の応募事例から作成しており、本記事の内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。
背景・目的
市では平成28年からドローンを市の課題解決に活かすという視点で検討がスタートし、平成29年には茨城大学航空技術研究会と「災害時におけるドローンによる情報収集等に関する協定」を締結しました。
その後、災害時にとどまらないドローン利活用の可能性を見据え、令和元年度から関係部局課長補佐級職員による庁内プロジェクトチームを結成し、先進地視察や庁内アンケート等検討を進めるなかで、最終的に「市においてドローン導入は有効」との結論に達し、令和2年度から本格的に取組を開始しました。
基本的には、「市で自らドローンを配備すること」「災害時においても職員が情報収集にあたれるよう、職員自身がドローンを操作できる体制を構築すること」「災害時にとどまらず、インフラ・環境・情報発信等様々な分野で活用できるよう、部局横断型でチームを結成し、安全・確実にドローンを操作すること」とし、それらを行うことで「市の課題解決につなげること」を目的として活動を展開しています。
取り組み事例
「市職員有志22名によるドローンパイロットチーム
『Peaceful Blue(ピースフル・ブルー)』の活動」
●ドローンを活用したまちづくり【全体的な概要:石岡市ホームページ】
●ドローンパイロットチーム「Peaceful Blue」活動日記【具体的な取組を紹介:石岡市ホームページ】
●(参考)市職員によるドローン隊結成 石岡 【茨城新聞動画ニュース ※外部リンク※】
取り組み期間
令和2年度~(継続中)
取り組みの内容
◆経歴不問・部局不問・公募による職員パイロットチームの結成
職員自らドローンの操縦にあたることを念頭に置き、庁内でパイロットチームを結成しました。結成にあたり、各部局からの動員ではなく、「課題解決に熱意のある方」「積極的に新たな分野に取り組む意思のある方」「ドローンに興味のある方」等を要件として、部局や経歴は一切不問とし(ただし、継続的取組を見据え年齢は40代前半までとした)、「公募」で職員自らの意思を尊重した募集を行いました。
当初、チームの定員を“20名”としましたが、結果として“22名”から応募があり、志望動機等判断した上で応募者全員をチームメンバーとしました。メンバーからはリーダー1名・副リーダー2名を選出したり、チーム名・チームロゴの選定について、いずれもメンバー間で相談しながら決定したりするなど、参画意識を強固にする努力を重ねました。
チーム名である「Peaceful Blue(ピースフル・ブルー)」は、メンバー最年少(結成当時21歳)の女性職員(市民課所属)のアイディアによるもので、石岡市の市章の色と市章に込められた思い(円満な市政の発展)から着想を得たものです。
また、チームロゴはリーダーとなった職員(総務課所属)が自らデザインしたものです。
▲石岡市 市章
▲パイロットチームロゴ
◆安全確実に操作を行うための環境づくり
ドローンを安全に運行する観点から、国土交通省では「操縦時間実績が10時間以上」等といった内容のガイドラインが定められています。当ガイドラインに即した運行を行うことを前提としながらも、さらなる安全・確実な飛行体制を構築するため、国土交通省がHPに掲載する「無人航空機の講習団体・管理団体」が実施する民間ドローンスクール(茨城県内)へチームメンバーから数名を選出し、公費(総務課研修経費)で派遣しています(令和4年3月現在:計5名)。
そのたのメンバーへの操作技術習得にあたっては、民間ドローンスクールへ派遣した職員が自ら講師役となり、年2~4回の頻度で、メンバー全員を対象とした操作練習会を実施しています。会場は公共施設の統廃合等で未利用資産となっている学校跡地(校庭・体育館)を有効活用することで、天候に左右されず練習できる環境を構築しています。
なお、練習会の実施にあたり、民間ドローンスクールの協力も得ています。
◆各分野における活用詳細
<防災消防>
令和2年度に市内の山林地帯で山火事が発生した際、延焼範囲の確認や効果的な消火活動等を行う観点から、消防本部職員(パイロットチームメンバー)がドローンを自ら操作し、上空からの情報収集にあたることで、効率的な消火活動につなげました。
また、災害発生時の速やかな情報収集を行う観点から、民間ドローンスクールと協力し、現地からのドローンによるライブ配信試験等を実施しています。
<インフラ>
市営住宅における安全管理の観点から、外壁・屋根など人による目視確認が行いにくい高所部分の撮影を行い、計画的な修繕に向けた資料として活用しています。
また、地域の子どもたちが通う小学校の体育館等でも、目視で確認のしにくい雨樋などをドローンで撮影する等、安全安心に施設を使用できる環境づくりを図っています。
<環境・産業>
農業振興地域における農地の確認を行う際、これまで市民等と担当職員がともに公用車等で対象地へ移動し目視確認を行っていましたが、「三密回避」「周辺環境など鳥瞰的に対象地を確認する必要性」などから、ドローンによる農地撮影を行い、その成果を会議等で活用する形へ切り替えました。
また、昨今各地で問題となっている不法盛土や不法投棄物等について、対象地の全容を把握する観点から、ドローンによる空撮を行うことで、対応策の一助としました。
<情報発信>
コロナ禍においても自宅で地域の魅力を体感いただけるよう、市内観光施設で開催された「さくらまつり」について、パイロットチームメンバーが撮影・編集し、市公式SNSで「#おうちでお花見」と題しサクラの開花状況を映像で発信しました(ビュー数:twitter約12,000・Facebook約1,500 = 計13,500)。
また、奈良時代に常陸国分寺・国分尼寺が建立されるなど「歴史の里」と評される我が地域の特性を活かし、遺跡発掘現場や史跡(東日本第2位の規模を誇る舟塚山古墳等)をドローンで撮影・記録することにより、地域の魅力を次世代につなぐ取組を行っています。
<市民向け>
「ドローンの特長を市の課題解決へ生かす」取組について、市民の皆さんが認知し共感・応援いただけるよう、市民向けのイベントを積極的に実施しています。
これまで、地元公民館主催の夏休み子ども教室のメニューとして、“親子ドローン教室”を開催し、地域の子どもたちの夏休みの思い出として、トイドローンの操作を体感していただきました。この取組にあたっては、定員8組16名であったところ、募集直後から応募が多数あり、定員を大きく超える30組以上の親子から申込みがあり、大変好評でした。
<取組実績>
令和2年10月から庁内におけるドローンの利活用を開始し、各案件に対応してきました。ほぼ全ての案件は各部局担当者から自主的に活用要望が挙がったものであり、職員のニーズに即した取組として機能しているところです。
取組件数は、庁内での利活用として、令和2年10月から令和4年3月までの18カ月間で31件の実績となり(目標:12件/年)、目標を大きく超えて達成するなど、順調に利活用が進んでいます。
なお、庁内での利活用にあたっては、活用要望のある部局と経営戦略課が事前打ち合わせを行ったうえで、撮影内容や日程等を確認後、パイロットチームメンバーにその都度声かけを行い、原則として3人1組の撮影チームを組織し、所管の業務に支障のない範囲でメンバーが参加・撮影業務にあたっています。
▲庁内ドローン活用件数の推移
▲庁内ドローン利活用の運用方法
取り組みを進めていく中での課題・問題点(苦労した点)
◆各所管課職員に「ドローンの利活用=『ジブンゴト』」と捉えてもらうために・・・庁内報の発行
ドローンの利活用効果を最大限に発揮するためには、各種事業を実際に担う所管部局の主体的な協力が必要不可欠であり、これがなければせっかくドローンを導入しても活用されず、“無用の産物”になりかねない事態が起こりうると考えました。
そこで、所管部局が「ドローンを活用することが我が部署の課題解決の一助になる」と認識してもらうきっかけづくりとして、「ドローンを活用し実践したこと」「ドローン活用時に抱いた担当者の率直な思い・感想」などを常時わかりやすく発信することとしました。
具体的には、各部局の活用結果やパイロットチームの活動をA4ワンペーパー・フルカラーで作成する「庁内報(Peaceful Blue NewsLetter)」として庁内全職員に向けて発行しました。
この取組を行うことで、ドローンの利活用効果の認知向上が図られたほか、事業課が抱いていた課題を部局横断で共有できたり、パイロットチームメンバーの努力が“見える化”され、職員のモチベーション向上につながったり、職員同士のコミュニケーション向上の一助となるなど、二次的・三次的な効果も表れ、職員からも好評を得ています。
また、全庁的な取組を担保するため、市の最高意思決定機関である、庁議にて審議・報告し、幹部職員から了承を得た形で実施しているほか、市議会等へ取組状況等の報告を適宜実施しています。
特徴(独自性・新規性・工夫した点)
◆民間ドローンスクールとの強力な連携(包括連携協定の締結)
当市では、安全確実なドローンの運行を図るため、民間ドローンスクールへパイロットチームメンバーから選抜した職員を公費で派遣し、民間資格相当の技能を習得しています(一般社団法人日本UAS産業振興協議会認定・無人航空機操縦技能資格および無人航空機安全運航管理者資格)。
職員の派遣を契機に、受け入れ元である民間ドローンスクール「ドローンビジネスラボラトリーつくば校(茨城県下妻市。以下d-lab)」を運営する「茨城県西自動車学校」とドローンを通じた意見交換等が図られ、令和2年11月には「無人航空機の利活用に係る包括連携協定書」を締結しました。
この協定では、「災害時の情報収集」にとどまらず、「市職員が行うドローン操作の技術向上支援」「ドローンの活用が見込まれる分野の調査研究」「そのた市民サービス向上に関する取組」等を含んだ内容としており、前述のドローン操作練習会においてd-labからも講師としてのサポートを受けたり、現在国が進めるドローン関連法令の改正について積極的な情報共有を図ったり、市民向けドローン体験会等でも相互に協力し実施したりするなど、ドローンの利活用を通じ強力な連携を図っています。
◆撮影したデータの有効活用(セミオープンデータ化)
ドローンで撮影したデータ(映像・静止画)の活用効果を高めるため、各種公共施設や観光施設の写真をデータベース化し、庁内ネットワーク上に公開することで、担当部局以外でも便利に画像等を活用できる環境を構築しました。これにより、広報紙や各種計画書の挿絵、施設内PRブースのポスターなど、地域の魅力を発信する場等において、ドローンの撮影した画像が活用されるシーンが増えました。
なお、データベースの構築にあたっては、市広報担当と強力に連携し、ドローンのデータに加え、各種広報画像データも含む形で環境を構築することにより、広報担当者が日々対応していた他部局からの画像使用問い合わせに係るコストを縮減・効率化する形を採りました。
当該データについては、現在国が推進する、オープンデータの考え方を踏まえ、将来的には市公式ウェブサイト等を通じて公開し、一般に広く活用していただくことを予定しています。
◆情報発信
自治体におけるドローンの利活用については、主に災害時の情報収集として活用されるケースが多く、全庁的・部局横断型で取組む事例は多くないため、特色ある取組として多くの方々に認知・共感が得られる可能性が高いと考え、積極的な情報発信に力を入れました。
具体的には、パイロットチームの結成にあたって市長がメンバーへ任命書を手渡すセレモニー(任命式)を開催することで、各種メディアのパブリシティ効果を高めたり、市公式ホームページにパイロットチームメンバーのよるドローンの利活用を日記形式で掲載したりするなどしました。
これにより、関連記事等を含め、これまでに新聞媒体等へのべ12回掲載されたほか、地元メディア(茨城新聞)の公式Youtubeチャンネルでの動画配信や、地元ケーブルテレビ(J:COM)でニュース番組として紹介されるなど、一定の効果を得ることができています。
◆市民団体等とのコラボレーション
市民に当市のドローン利活用の趣旨を認知し共感いただくことが重要であるという観点から、ドローンを通じた市民団体等との積極的な連携を図っています。具体的には、令和3年11月に市内の若手商業者団体による市役所駐車場を会場とした初のイベント「レナトゥスマルシェ」が開催された際、準備段階で主催者と積極的に情報交換等を図り、ドローン体験会をブース出店する取組へとつなげました。
これをきっかけとして、令和4年5月には商工団体が主催する大規模イベントにおいても、「ドローン体験会・パイロットチームPRブース」を出店する予定となっているなど、市民と手と携え、ドローンの楽しさや役割を共有できる環境を構築しています。
効果・費用
◆取組に要した費用:令和2年度(取組初年度)決算
分 類 |
内 容 |
金 額 |
備 考 |
1.ドローン購入経費 |
・配備ドローン 1台 ・練習用ドローン 2台 ・関連機器(コントローラー等) 1式 |
646 千円 |
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2.保険料 |
・賠償責任保険等 1式 |
40 千円 |
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3.研修経費 |
・民間ドローンスクール派遣 5名分 |
1,100 千円 |
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4.そのた雑費 |
・チームウェア 等 |
105 千円 |
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計 |
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1,891 千円 |
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※ 後年度:「保険料」は継続して支出。「研修経費」は派遣人数により前後する(年3名程度を予定)。
◆これまで得られた効果・今後見込まれる効果
< 公共施設等の点検コスト削減>
各地域において活用されてきた各種公共施設の維持管理について、限られた財源の中で持続的にいかに実施していくかが全国各地で課題となっています。当市においても同様の課題に直面する中で、これまで民間事業者へ業務委託等でしか実現することができなかった、公共施設(特に高所)における外壁等確認について、ドローンを活用することにより、施設を所管する職員の点検実施コストの削減に寄与しています。
< 災害時等における迅速かつ効果的な情報収集>
災害が発生した際、市民の安全・安心を確保する観点から、その原因や状況等について迅速かつ効果的に情報を収集する必要があります。
一方で、災害状況によっては、人の立ち入りが困難な環境の中で状況を確認しなくてはならないケースや、交通インフラ等が広域的に遮断されるケース等が発生する可能性もあります。
特に後者の場合、災害時のドローンによる情報収集に関連して民間事業者と協定を締結している場合であっても、民間事業者が現場に到着できない場合も考えられます。
この点において、当市ではドローンの操作技術を職員自ら習得する環境を構築しているため、職員自らが現場に駆け付け、自らの手でドローンを操作することにより、迅速に情報を収集することが可能です。
また、人が立ち入れない環境下においても、ドローンの機動性を駆使し効果的に情報を得ることができます。
<コロナ禍における「三密」の回避>
新型コロナウイルス感染症が拡大する中において、いわゆる「『三密(密閉・密集・密接)』の回避」が効果的な予防策としてうたわれています。
これまで、人員を集中的に投下し実施してきた事業においても、それらをドローンの特性を活用することで代替することが可能となれば、「『三密』の回避」を実践することが可能です。
当市の場合、農地の現地確認において、公用車等に市民等を含む複数名が乗車するなどして実施してきた方法をドローンに切り替えることで、「『三密』の回避」が可能となったのみならず、効率的・効果的な事業の実施につなげることができました。
< 職員のモチベーションアップ・コミュニケーションアップ>
ドローンパイロットチームは前述のとおり、庁内公募により実施したもので、職員の自主性・熱意を尊重した取組を重視しています。部局問わず多様な課題の解決手法としてドローンを活用する取組を通じ、パイロットチームメンバーは市における様々な課題を知るきっかけにもなっています。
また、部局横断型のチーム編成のため、職員同士がこの取組を通じ新たに交流を図っているようすも見られます。
取組初年度に民間ドローンスクールへ派遣した職員3名(総務部・都市建設部・消防本部各1名)は、特にチームへの参画意識が強く、メンバー同士のコミュニケーションを積極的に図る姿勢が見られており、「地域の課題解決に貢献する人材となる」という意識が深く浸透しています。
今後の予定・構想
◆パイロットチームの体制強化
市におけるドローンの利活用について、認知が浸透してきたことにより、庁内各部局からの利活用に係る相談件数が増加しています。取組の要望に的確に応えていくためには、パイロットチームの体制強化が欠かせないため、メンバーの増員やドローン操作スキル向上の機会(練習会等)を増やすといった取組を進めていきます。
◆航空法改正に対応した安全・安心な運行体制の確保
現在国では、ドローンの特性を最大限発揮する環境を構築するため、ドローン機体の登録・認証制度やドローンに関するライセンス(免許)制度等、関係法令(航空法等)の整備を進めています。
当市でも、関係法令の趣旨を鑑み適切に対応できるよう、民間ドローンスクールとの情報共有等を図りながら、今後の法令整備の方向性によっては、パイロットチームメンバーのドローンライセンス取得も視野に入れながら、職員自身が確実に飛行でき、安全・安心にドローンを運航できる体制を整えられる環境づくりを進めていきます。
他団体へのアドバイス
自治体のドローン利活用は、他地域の取組を見てみると、災害時の情報収集に限ったものが大半であり、当市にように、部局横断型で職員自身がドローンを操作できるようパイロットチームを組織し、全庁的に活用するという例は当時殆どありませんでした。
また、ドローンという目新しさは目を惹くものの、具体的かつ効果的な利活用方法の詳細については、導入時、全部局の職員へ浸透しているとは言えない状況でした。
このような状況の中で、新たな取組を進めるには、「一人でも多くの職員に『ジブンゴト』と捉えてもらうため⇒職員に共感・理解を得られるよう、インナーコミュニケーションの努力を怠らないこと+市民から共感・理解を得られるよう情報発信に積極的に取り組むこと」が重要だと考え、小さなことから地道に実践を積み重ねました。
その結果、庁内各部局からの利活用に関する要望が主体的に寄せられるようになり、パイロットチームメンバーが熱意を持ち積極的に参画する等、一定の効果があらわれているものと感じています。
どの新規事業にも言えることかもしれませんが、部局横断型で新規事業を実施する際には、上記のマインドを担当者が常に持ち、一つ一つ実践を積み重ねることが重要であると思います。