ジチタイワークス

愛媛県四国中央市

まちの将来を見据えて-官民連携による四国中央市の空き家対策-

社会情勢の変化等に伴い、管理放棄された空き家が増加の一途を辿っていることが全国的な課題となっています。

空き家問題には、専門知識やマンパワーの不足などの技術的な問題に加えて、安易な対応に過ぎれば「放っておいても行政が解決してくれる」といったモラルハザードを招き、さらなる管理放棄された空き家の増加につながることが懸念されます。

空き家対策は、自治体がどのように関わり、どこまで踏み込むべきかという立ち位置の難しさをも併せ持っているため、従来の取り組みのなかで解決させることは容易ではありません。こうしたことから、当市において空き家対策は、空家等対策に関する特別措置法(空家法)にもとづく権力的な手法と所有者主体の自主的な解決を促すための非権力的な手法を兼ね合わせて推進されるべきと考え、空家法に規定される空家等対策協議会や金融機関や地元士業界などとの連携を通じて、所有者が第一義的な責任を全うするための様々な取り組みを行っています。

※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2022」の応募事例から作成しており、本記事の内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。

背景・目的

近年、地域における人口減少や既存の住宅・建築物の老朽化、社会的ニーズの変化及び産業構造の変化等に伴い空き家が増加しています。そのなかには、適切な管理が行われていない結果として安全性の低下、公衆衛生の悪化、景観の阻害等多岐にわたる問題を生じさせ、ひいては地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしているものがあります。

このまま空き家が増加すれば、空き家がもたらす問題は一層深刻化します。

 

取り組み事例
「まちの将来を見据えて-官民連携による四国中央市の空き家対策-」

 

ホームページ | 四国中央市の空き家対策(建築住宅課)

 

取り組み期間

平成28年度~(継続中)

 

取り組みの内容

【空家等対策協議会】

平成28年4月、建設部建築住宅課空家等対策室が設置され、空家等対策協議会条例が9月議会で成立、10月には空家等対策協議会を設置しました。
空家等対策協議会は、市内の士業や関係行政機関の代表者などで構成され、会長は市長が務めます。これまで12回の公式会議と数回の勉強会が開催され、空家等対策計画の策定以外に、空家法の執行に必要な基準の決定、施策の方向性に関する協議、個別事案に関する協議などが議題とされています。

 

【空き家の3R】

平成30年春には、「空家の3R」即ち「空家のリユース、リメイク、リサイクル」を基本理念とした空家等対策啓発冊子「空家のこと考えてみませんか/空家の3R」を作成しました。

 

【空家取得・リフォーム支援事業】

令和3年から、空き家の活用と住宅ストックの循環を目的とした「空家取得・リフォーム支援事業」をスタートさせました。「居住するために市内の空き家を購入する場合」、「居住するために市内の空き家をリフォームする場合」もしくは「市内外問わず二地域居住するために市内の空き家をリフォームする場合」に、15万円を限度に補助するものです。

また、空き家を購入する場合には、住宅金融支援機構の【フラット35】地域連携型利用対象事業とすることができます。(ただし、住宅金融支援機構の基準をクリアしたうえで、取扱金融機関を経由した手続が必要)

 

【金融支援に係る連携協力協定】

平成30年12月、住宅金融支援機構四国支店、愛媛銀行及び当市の三者で、住宅金融支援機構の【リ・バース60】を軸とした、「四国中央市の空家等対策のための金融支援に係る連携協力協定」(以下「金融支援連携協定」という。)を締結しました。

【空き家問題体験すごろく】

 ⑴開発経緯

「空き家問題体験すごろく」は、金融支援連携協定による活動の1つとして、市町村の啓発活動のみならず、銀行、不動産業者等の営業活動のなかで、「空き家を放置するとこういうことになる」ということを広く理解していただくためのツールをつくろうという思いから取り組んだものです。

当初、人生ゲームの空き家問題版の制作を検討しましたが、ゲーム時間が長くなること、無料頒布が困難であることなどから、落ち着いた先がすごろくでした。すごろくのなかで遭遇する出来事は、三者でアイデアを出し合い、調整を進めましたが、みんなで出し合った出来事のなかには1つとして良いことはなく、頭を抱えるようなことばかりで、ゲームとして成立するのかという危惧もありました。

しかし、現実を感じてもらうためのゲームという趣旨から、気遣いは織り込まないことにしました。このため、プレイヤーの多くが赤字でゲームを終えることになり、すごろくなのに、「ババ抜き」と同じく「ビリ争い」で盛り上がります。

 ⑵初版リリース

企画を練り上げていくなかで、人間すごろくにすれば面白いという案が出され、みんなで盛り上がり、10m×10m程度の大型シートに盤面を描き、そのシートの上でプレイヤーが大きなサイコロを振る姿を思い描き、具体化に向けた検討を進めました。

令和2年2月17日、当市消防防災センター大会議室のフロアに、養生テープや三角コーンなどあり合わせの資材で盤面(12m×10m)の描き、プロジェクターで画像を順次投影して、人間すごろく版の「空き家問題体験すごろく」を実現させました。折が悪く、前月に新型コロナウイルス感染症の国内初感染例が確認されたことから、関係者限定のお披露目に留まりましたが、市長はじめ6人のプレイヤー自身が駒となり、子どものようにゲームを楽しんでくれました。
 

幸いにも、この催しは、マスコミから予想以上の評価を得ることができ、「空き家問題体験すごろく」だけでなく、空き家問題に対する市民の関心を高めるうえで高い効果を発揮したと考えています。また、住宅金融支援機構の支店網を通じて、各地で「空き家問題体験すごろく」が紹介され、活用されているとのことであり、想定外の喜びです。

 

 ⑶改定版リリース

令和3年9月、当市では、先述のとおり、住宅金融支援機構の【フラット35】と連携した「空家取得・リフォーム支援事業費補助金」をスタートさせました。これに伴い、すごろくの内容を一部改め、令和3年11月19日に「空き家問題体験すごろく(改訂版)」としてリリースしました。

この改訂については、当市の空き家の利・活用メニュー、住宅金融支援機構のメニュー、「被相続人居住用家屋の譲渡所得の特例」などの記載を増やしたもので、空き家の利・活用に重心を移した構成としました。

今後、特定空家等の所有者を対象としたバージョン、空き家の利・活用に特化したバージョンなども考えてみたいと考えています。 

 

 ⑷活用形態

標準的には、すごろくとして楽しんでいただいた後に、職員がすごろく裏面を用いて解説を加えるという形態を想定しています。

改訂版では、「あがり」までにサイコロを振る回数は最短で4回、平均的には7回程度です。

仮に5人で楽しむのであれば、サイコロを35回程度振ることになり、ゲームに要する時間は25分から30分程度で、これに、ゲーム終了後の解説を15分程度行うとすれば、45分程度の時間を要すると見込まれます。

また、持ち時間が30分未満の啓発講座などでは、すごろくの盤面にそって空き家問題を語るということも可能です。

 

 ⑸提供方法

当市ホームページでPDF版を公開しており、家庭、職場、地域活動などで自由にご活用いただけることを願っています。A3判で設定していますが、駒の大きさや人数次第でA4判でも利用可能です。

なお、市町村名を書き換える等、手を加えて活用したいというご意向があれば、Word版を提供いたしますので、当市までお気軽にお申し付けください。

 

取り組みを進めていくなかでの課題・問題点(苦労した点)

「空き家・空き地対策連携協力推進会議」は、四国中央市の非権力的な空き家対策の司令本部として機能することを期待するものですが、各専門分野の知識をもつ士業の皆さまの知恵をうまく空き家対策に活かすためには、具体的な事業を通じて関係者がともに汗を流す必要があると考えています。

今後、推進会議の開催を通じて、より具体的な取り組みを検討していく必要性を感じています。

特徴(独自性・新規性・工夫した点)

【独自性・新規性】

1.    官民連携による空き家問題の解消に向け、金融機関や地元士業との連携を重視している。
2.    「すごろく」というなじみ深いゲームを啓発ツールとして用いた。
3.    「空き家問題体験すごろく」は無料頒布しており、どなたでも自由に使用可能。

 

【工夫した点】

金融面からの空き家問題に対する支援、助言に向け、金融機関との連携関係を築いています。「空き家問題体験すごろく」の作成においても大いに助言いただき、結果として実態に即した良いものができたと考えています。それを無料頒布することで、当市のみならず、県下、ひいては全国において空き家問題の解消に向けた機運が高まることを目指しました。

また、官民連携の深化に向けて、基本協定を経て、連携協力を円滑に推進するための「空き家・空き地対策連携協力推進会議」を設立しました。

 

効果・費用

【効果】

「空き家問題体験すごろく」については、報道機関に取り上げていただいたこともあり、多くの方の目に留まったと考えられます。このことは従来、空き家問題に関心がなかった層に対しても一定の訴求を及ぼしたと考えられます。また、研修啓発ツールとしても利用できるため、今後も活用が期待されます。

官民連携については、「空き家・空き地対策連携協力推進会議」を設立したことで、地域における関係団体と連携して活動を進めていくことができ、参加団体やそこに所属する個人が有するノウハウなど、様々な地域の資源をつないで有効に活用していくことが可能になります。

地域の課題や目標を知識や経験を有する人々が共有し、その課題を解決するために、集い、知恵を出し合い、地道な活動を積み重ねることで、深く強固な協働が実現することが期待されます。

【費用】

「空き家の3R」印刷製本費 28万円

※すごろくは自前制作につき特段の予算執行なし
 

今後の予定・構想

空き家問題の解決には、まず地域の現状を客観的に知る必要があります。今年度実施予定の第2期空家等対策計画の策定に向け、空家等推計調査を実施予定です。この推計調査で得られた当市の空き家を取り巻く現状を踏まえて、第2期空家等計画の策定に取り組むとともに、「空き家・空き地対策連携協力推進会議」の意見をしっかりと聞きながら、より実効性の高い計画として取りまとめていく予定です。

 

他団体へのアドバイス

空き家問題については、公共の福祉の実現と私権の制限という角度で語られることが多いものです。しかし、それは単に対処の問題でしかなく、空き家問題の本質的な解決にはつながりません。

空き家が増え続けば、市内各地でゴーストタウンが出現し、都市経営が立ち行かなくなるという認識を高めるとともに、当事者だけの問題ではないという理解を広げていくことが課題です。

また、近時の事案対応をみても、作為的に空き家を放置している例は稀で、空き家を片付けようとしても、様々な事情から片付けられない事案がほとんどです。これらの事案については、当事者からは手厚い公的支援が要求されがちですが、一般論としては公私分担という視点から、公的支援には慎重にならざるを得ません。

このことから、空き家問題を俯瞰的にとらえ、空き家問題の発生過程と解決策を示すこと、年々増加する空き家の発生を効果的に抑制すること、行政としてはこの2点に重点的に取り組むべきと考えられます。

こうしたなか、官民協働による「空き家問題体験すごろく」の取り組みは、「空き家を放置するとこういうことになる」という問題点を広く理解していただくためのツールとして、また、「空き家問題」そのものを知るための入口として、非常に有効だったと考えています。

当市の空き家問題に係る官民連携の取り組みは、まだ始まったばかりですが、今後も他市の事例等を参考にしながら、専門家の知見を取り入れて、一歩一歩進めていきたいと考えています。
 

 

【行革甲子園】全国の自治体の創意工夫あふれる取り組みを紹介! 記事一覧

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