官民連携で、医療費の適正化と現場の負担軽減を両立する。

福祉・医療

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LGWANを活用した医療費適正化支援

生活保護受給者の医療費適正化を推進する名古屋市では、レセプト（診療報酬明細書）の点検や重複受診、多剤処方などの課題に官民連携で対処。現在は医療や薬学、データ分析といった関連領域の知見を結集し、福祉現場に活かそうとしている。

※下記はジチタイワークスVol.32（2024年6月発行）から抜粋し、記事は取材時のものです。
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レセプト点検にリスト作成・分析など、現場では手がまわらない作業を委託。

16の行政区に約230万人の人口を抱える同市。市内の受給者約4万6,000人に対する生活保護費は、約半分を医療扶助費が占め、生活保護制度の原則にもとづく医療費の適正化は必須となっている。

まずはレセプト点検体制の強化のため、同市では平成24年度から「メディブレーン」をパートナーとして官民連携を開始。「請求内容に対する不備のチェックでは、費用対効果が十分に得られています。重複受診・処方のチェックなど、徐々に委託範囲を拡大してきました」と徳川さん。

同社は医療費適正化事業に30年以上取り組んでおり、自治体をはじめとする保険者の支援を長年行ってきた。同市との事業では、生活保護受給者情報との照合により、生活保護以外の制度を活用できそうな対象者や、保健指導が必要な受給者のリストなども作成。「福祉事務所ごとにリスト化してもらえるので、各事務所の職員はすぐに活用することができます」。さらに令和5年度からは、年齢層や疾患、地域、世帯構成など、複数の属性を想定したデータ分析も依頼しているという。

LGWANを活用したデータ送信で、毎月発生する作業を効率化。

また、現場にとって、柔道整復・あん摩・マッサージ・鍼灸などの施術要否の判断は特に迷うポイントだと話す。「施術が適正なのか判断しにくいと、福祉事務所職員からの問い合わせが多かったのです。そのため、同社から適宜助言を受けられる体制をつくっています」。さらに、施術をテーマとした職員向け研修を開催し、同社スタッフに講師として登壇してもらった。「任意参加にもかかわらず、新人からベテランまで多数の職員が受講し、80人収容の会議室が満員になりました。質問も活発で、日頃の疑問を解消する好機になったのではないでしょうか」と手応えを語る。

一方で、毎月のデータ授受は、職員の手作業に頼る状態が続いていた。「各福祉事務所や支払基金から送付された紙やデータを取りまとめ、CD-Rに保存。運送会社のセキュリティ便を使っていましたが、物理メディアの配送には個人情報漏えいの懸念もありました」。

そんなときに同社から提案されたのが「Medi-Cloud（メディクラウド）」の活用だった。LGWANと同社の内部ネットワークを専用回線でつなぐ仕組みで、同市のデジタル改革推進課とも調整して導入。「従来は丸一日かかっていた作業が、フォルダの移動だけで完了します。かなりラクになる上、漏えいリスクも軽減でき、安心感が増しました」。

地域や年齢・性別・疾患別など、詳細なデータを施策に活かす。

令和6年度の委託内容には、国が推進する“多剤処方のチェック”も盛り込んだという。「医療扶助は100%公費で自己負担がないため、医療行為に歯止めがかかりにくい傾向があります。私も現場で家庭訪問に行った際、処方薬が大量に余っているのをよく見かけました」。この業務では、同社で“薬剤師によるチェック”も行うことになっている。「件数の多さや薬の専門知識がネックとなり、現場での対応が難しく、同社に相談しました。例えばある受給者への投薬が増えた場合に、妥当性を検証してもらえるわけです。常に具体案を出してくれる協力姿勢や、専門人材による手厚いフォローがありがたいですね」。

今後上がってくる予定の“令和5年度のデータ分析結果”にも期待をしていると徳川さん。「地域によって様々な傾向があるのですが、これまでは職員が肌感覚で捉えていたため、具体的な施策への落とし込みが難しかったのです」。忙しい現場職員に分析の負担までかけたくないと同社に依頼。数字で可視化されることで、新たな課題を発掘したいと意気込む。「正直、生活保護分野でここまで分析している自治体は少ないと思います。課題は盛りだくさんでしょうが、全国の先駆けとなるような、当市オリジナルの施策につなげていきたいですね」と結んでくれた。