公開日:
既存ツールを活用して市民が自分で申告できる新たな環境をつくる

市民が自分で税申告できる環境づくり
確定申告の時期は行列ができ、混雑が当たり前だった大府市。従来の前提を見直し、既存ツールを活用しながら、市民が自分で申告できる環境づくりを進めている。取り組みの背景や、進め方の工夫を聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.46(2026年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

大府市
総務部 税務課
係長 大島 透(おおしま とおる)さん

大府市
総務部 税務課
主査 木村 美孔(きむら みよし)さん
確定申告の長蛇の列を解消するため既存ツールでオンライン化に着手。
確定申告の混雑は、多くの自治体にとって課題だろう。同市でも、その時期になると早朝から番号札を取るために人が並び、混雑時には数時間待つこともあったという。また、所得がなく確定申告が不要の場合でも、市・県民税については0円申告のために来庁手続きが必要だった。「職員は窓口で長蛇の列などを直接見ているため、市民のストレスを肌で感じていました。まずは市民目線で、より便利な手続きや申告の仕組みをつくることが急務でした」と大島さんは振り返る。
また、当時は税務に関する業務のほとんどが紙ベースで行われており、それが当たり前の状況だった。しかし、大島さんはどの業務もオンライン化で効率化できると考えていたという。「当市では、市民に優しいデジタル行政を目指し、デジタル戦略や基本方針を掲げ、全庁的に業務のデジタル化に取り組んでいます。そのため当課でも、まずは市民がすぐに効果を感じられそうなものから、少しずつ着手していくことにしました」。しかし、新システムを導入するとなると、時間や労力、コスト面での問題がある。「すでに庁内で利用しているRPAや国が用意したオンライン申告サービスなど、既存のものをうまく組み合わせて利便性を向上できないか、検討を重ねました」。
職員同士が意見を出し合う組織風土で課題を共有しながら改善を進める。
まず、令和3年度に確定申告のオンライン予約を導入。これにより、市民が早朝から並ぶストレスが緩和された。そして令和4年度には、0円申告のためだけに来庁する負担を減らすことを目的に、市・県民税申告に国のオンライン申告サービスを取り入れた。以前から導入されていたものの利用していなかったが、利便性の向上が見込めることから活用に踏み切った。また、多くの市民に利用してもらうための周知にも工夫している。「他課が市民に何か通知を送る際、オンライン申告ができる二次元コードを同封してもらうなど、協力を依頼しています」と木村さん。
さらに令和7年度には、スマホ申告コーナーを設置。確定申告を市民が自らのスマートフォンで行えるよう職員が案内する場だ。手取り足取り全てを代行するのではなく、自分でできるようにサポートしている。
施策を支えているのは、職員が意見を出し合いながら改善を積み重ねる組織風土だ。定期的にミーティングを開き、課題や改善案を共有しながら、チームで同じ方向に進むことを大切にしている。「リーダーが全てを担うのではなく、案件ごとに主担当を決めて権限を委ね、業務の手順や実践の中での反省点をしっかりと記録に残しています。そうすることで、異動があってもスムーズに引き継げる仕組みになっています」と大島さん。木村さんも「失敗してもいいから、まずやってみようという雰囲気が、挑戦への後押しになっていると思います。また、職員一人ひとりが主体性をもっており、システムに詳しい職員が関連する実務を担うなど、得意分野を活かして互いに補い合っていますね」と話す。スマホ申告コーナーの案内や広報紙などで市民へ情報を伝える際には言葉を平易に言い換え、“申告してみよう”など親しみやすい表現を用いている。こうした工夫も話し合いの中から生まれたアイデアだという。


市民と職員の負担軽減のために失敗を恐れず挑んでいく。
確定申告の予約制を導入した結果、朝の長蛇の列が解消された。この取り組みは初年度から市民の好評を得ただけでなく、職員側は時間帯ごとの来庁予定人数を事前に把握できるので、最適な人員配置ができるようにもなった。こうした利便性の高さから予約件数も順調に伸びており、令和3年度の733件から、令和7年度には1,352件へと増加している。また市・県民税申告に関しても、毎年約2,000件ある申告のうち、令和7年度には約160件がオンライン申告となったという。
「今後も、既存ツールを活用しながら、人を介さない事務処理を拡大していく考えです。マイナポータルのデータ連携を活用した、確定申告の事前準備に関する講座も市民向けに開催していきたいですね。“確定申告は難しい”という市民の抵抗感を軽減し、申告そのものをさらに身近なものにしていきたいと思っています。また、よいやり方があれば自治体同士で共有していきたいです」と大島さん。木村さんは「今後さらにデジタル化の大きな波がやってきても、職員同士でノウハウを継承し、改善を続けられる体制を保っていきたいです」と笑顔で締めくくった。トライアンドエラーで市民の税申告の形を少しずつ変えてきた同市。市民の“自分でできる”を優しく後押ししながら、今後も行政サービスの当たり前をアップデートしていくという。

















