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公開日:2022-08-26

文章力をアップさせるための極意とは?

学び
読了まで:7分
文章力をアップさせるための極意とは?

「文章を書くことに対して苦手意識がある」「資料をつくっても、伝えたいことが伝わらない」......。
公文書、報告書、予算要求資料など、文章を書くことが多い自治体で働く中で、こういった悩みを持つ人は少なくないのではないだろうか。

本企画では、国・都・区、3つのステージでキャリアを積み、職員採用試験・管理職試験にも携わる工藤勝己さんに、「公務員の文章力アップ」について執筆していただく。

第1回のテーマは「文章との付き合い方」基礎編。
工藤さんは「『文章の怖さ』を肝に銘じて、正しく伝わる分かりやすい文章を書く必要があります」と述べている。どういうことなのか、早速詳しく見ていこう。

文章の怖さを知ろう

文章とうまく付き合っていくためには、まず「文章の怖さ」を知ることが大切だと思います。

皆さんは、文章が怖いものだという認識をお持ちでしょうか?

文章は生き物なので、書き手のもとを離れると勝手に自己主張を始めてしまいます。そして一旦、外部に発信してしまうと、書き手であっても自由にコントロールすることができません。

 

昨今、大型台風やゲリラ豪雨が各地に甚大な被害をもたらしており、避難情報が発令されることも多くなっています。

発令に伴い、被害の状況を住民に周知するために、「A町とB町の一部が浸水しています」という文をホームページに載せたとします。これはとても短くてシンプルな文なのですが、読んだ人は理解に苦しむことになってしまいます。

なぜなら、この文から得られる確実な情報は、「B町の一部が浸水している」ということのみだからです。A町は全域が浸水しているのか、一部の浸水にとどまっているのかが不明であり、読み手は勝手な解釈をすることになります。

住民の行動を制限するために発信したこのようなメッセージの解釈がブレてしまうと、誤解やトラブルを誘発するだけでなく、命にも関わる重大な問題に発展しかねないのです。これが「文章の怖さ」です。

 

それでは、どのように表現すればよかったのでしょうか?

「A町と、B町の一部が浸水しています」と、読点を1つ打つだけでも解釈のブレはなくなりますが、「A町の全域とB町の一部が浸水しています」と丁寧に書けば、さらに読み手本位の文になります。

私たち公務員は、住民の生命と財産を守るという重い使命を負っています。だからこそ、「文章の怖さ」を肝に銘じて、正しく伝わる分かりやすい文章を書く必要があります。

 

書く目的を見失わない

公務員の仕事は、「文書に始まり文書に終わる」と言われています。

これは、公文書等の管理に関する法律(公文書管理法)の第4条が定めている「文書主義の原則」にもとづいています。この原則を忠実に守り、私たち公務員は様々な文書を作成し、保存しています。

これらの文書には、それぞれ作成する目的がありますが、その目的を見失ったまま作成すると、理解できない「悪文」や結論がよく分からない「難文」になってしまいます。

そして、最後まで読む価値がないと判断され、多くの読み手は途中で読むのをやめてしまいます。

 

目的意識を持つことの大切さを説いた寓話をご紹介したいと思います。

旅人があるまちを訪れると、道の脇で難しい顔をしてレンガを積んでいる男がいました。旅人が「何をしているのですか?」と尋ねると、男はこう答えます。「親方の命令で朝から晩までレンガ積みだよ。腰は痛くなるし、本当にまいったよ」。レンガ職人は、次から次へと愚痴をこぼします。

旅人がさらに歩いていくと、汗をかきながら愚直にレンガを積んでいる男がいました。旅人が「何をしているの?」と問いかけると、男は次のように答えます。「強くて大きな壁をつくっているんだ。この仕事のおかげで俺は家族を養うことができる」。

旅人が再び歩き出すと、また別の男が生き生きとした表情で手際よくレンガを積んでいました。旅人が「ここで何をしているの?」と尋ねると、男はまっすぐな瞳で力強く語りました。「後世に残すために偉大なる大聖堂をつくっているんだ。こんなに光栄な仕事はほかにないよ」と。

旅人はこの男の強い信念にふれ、感銘を受けます。

 

同じ作業をしていた3人のレンガ職人ですが、旅人の問いかけに三者三様の答えを返します。

1人目の男は目的もなく、ただ親方の命令に従ってレンガを積んでいるだけです。

2人目の男はといえば、「家族を養うために金を稼ぐ」という目的を持って強くて大きな壁をつくっています。しかし、完成した大聖堂をイメージするまでには至っていません。

さらに3人目の男は、「偉大なる大聖堂を後世に残す」という明確な目的を掲げて、完成した大聖堂を訪れる人々を思い浮かべながらレンガを積んでおり、旅人の心を動かすことになります。

 

皆さんもお気づきだと思いますが、レンガを積んで大聖堂をつくるプロセスは、言葉を紡いで文章を完成させることに似ています。

言葉というピースを1つずつ組み合わせて文章は形作られていきますが、その目的は「納得」「説得」「共感」「承認」の4つに集約されます。

例えば、日常業務で新たな課題が顕在化してくると、新規事業を立ち上げることになります。企画書を作成して上司を「納得」させ、財政担当者を「説得」して、議会で「共感」を得ることで、次年度の予算が「承認」されることになります。

こうして考えてみると、読み手の「心を動かす」ために文章を書いているのだと気づかされます。

たった1ミリでもいいので相手の心を動かせるような文章を書くために、書く目的を見失わないようにしたいものです。

 

読み手の顔を思い浮かべる

漠然とした読み手を想定して文章を書くと、総花的でインパクトに欠ける内容になりがちです。これでは、読み手の心を動かすことができません。

そこでお勧めしたいのが、「ペルソナ」を設定するということです。「ターゲット」と混同されがちですが、ペルソナはターゲットよりも深く絞り込んだ詳細な人物像となります。

 

この連載記事の執筆にあたって私が設定したペルソナをご紹介しましょう。

「岡本さやかさん・35歳・女性・既婚・九州在住・市役所勤務・事務職・主任3年目・文章を書くのが苦手」。

たった1人の理想の読み手であるペルソナをこのように設定したことで、たちまち想像力が働いて、美しすぎる岡本さやかさんのお姿が私の頭にぽっかりと浮かんできます。

そして、「あれも書こう」「これも書かなきゃ」と記事にしたい内容がおのずと決まってくるから不思議です。

係長に昇任するための準備期間を大切に過ごしている彼女の、文章に対する苦手意識を克服できるような内容に特化して、「1対1」の関係で筆を走らせていけばよいことになります。

慣れるまではペルソナの設定で苦労するかもしれませんが、ペルソナは実在する人物でも構いません。こんな人に読んでほしいという「理想の読み手」を思い浮かべる癖をつければ、スルーされずに最後まで読んでもらえる文章を書けるようになるはずです。
 

助詞力(じょしりょく)をアップさせよう

良い文章は、引っかかりがなく、スラスラとテンポよく読むことができます。

一方で、魚の小骨がのどに引っかかったような違和感を覚え、ストンと腹に落ちていかない文章に出合うこともあります。そんな文章の何が良くないのかと考えてみると、助詞(てにをは)の使い方が不適切なケースがほとんどです。

これは極端な例ですが、「係長と主任が意見が隔たりがあり、さらに調整が必要な状況がある」という文を読んでいただくと、読み進んでいくリズムを不適切な助詞が阻害していることに気づかされるはずです。

この文には助詞の「が」が5回も使われているため、理解しづらいばかりか稚拙な印象をも与えてしまいます。

 

さほど問題意識を持つこともなく、何気なく使うことが多い助詞ですが、読み手の理解を助けるためにとても重要な役割を担っているのです。

その役割とは、名詞と動詞、名詞と形容詞、さらには名詞と名詞の関係をあらわし、解釈を安定させることです。

「係長と主任には意見の隔たりがあり、さらに調整が必要な状況である」と書けば、助詞の「が」は2回の使用で済むことになり、テンポよく読めます。

正しく伝わる分かりやすい文章を書くために、まずは「助詞力アップ」から始めてみてください。

 


もっと読みたい

【連載】公務員の文章力をアップさせる極意を学ぶ

「文章を書くことに対して苦手意識がある」「資料をつくっても、伝えたいことが伝わらない」......。
公文書、報告書、予算要求資料など、文章を書くことが多い自治体で働く中で、こういった悩みを持つ人は少なくないのではないだろうか。

本企画では、国・都・区、3つのステージでキャリアを積み、職員採用試験・管理職試験にも携わっておられる工藤勝己さんに、公務員の文章力をアップさせるポイントを教えていただく。
 


プロフィール

工藤 勝己(くどう かつみ)さん
葛飾区 総合庁舎整備担当部長

1985年運輸省(現 国土交通省)入省、港湾施設の地震防災に関する研究に従事。その後、1989年葛飾区役所入庁。東京都庁派遣、特別区人事委員会事務局試験研究室主査、区画整理課長、道路建設課長、立石・鉄道立体担当課長、立石駅北街づくり担当課長、都市整備部参事を経て、2022年4月より現職。道路及び下水道施設の設計、橋梁の架替え、土地区画整理事業、都市計画道路事業、連続立体交差事業、市街地再開発事業に携わる。

特別区職員採用試験及び特別区管理職試験の問題作成・採点・面接委員、昇任試験の論文採点を務める。

また、都政新報の連載記事「文は人なり」の執筆、実務研修「文章の磨き方」の講師を務める。著書に『公務員の伝わる文章教室』(学陽書房)がある。技術士(建設部門)、技術士(総合技術監理部門)、土地区画整理士。

著書

一発OK! 誰もが納得! 公務員の伝わる文章教室 | 工藤 勝己 |本 | 通販 | Amazon『公務員の伝わる文章教室』(学陽書房)

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